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パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
ハグ・ウィズ・ミー
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ハグ・ウィズ・ミー -4

 ハリネズミは繊細で、あまり違う環境に置くのはよくないと言うことで、ササベは帰っていった。


「ほんまに親子関係やと思います?」


出し抜けに、ユヤマが言った。


「どういうことだ?」

「だって、『アイコイ』ってベタベタの恋愛ドラマなんですよ。あのハグシーンを見て、モモちゃんとハグしたいって思うんやったら……それって恋愛感情ちゃうかなって、思うんですけど。『娘』って呼んでるのは照れ隠しで」


ユヤマの意見は分からなくもない。『一番愛している』とササベは言った。モモと恋愛ドラマのようなことがしてみたいが、実現できないことに切なさを覚えるのは、親子愛というよりは、恋に近いと思う。


「ユヤマの言うこと、一理あるかも」


僕の言葉にユヤマは、そうやろ、とコクコク頷く。


「そうなのか……?」


ハギワラさんは腑に落ちていないようだ。


「そのへんはどっちでもいいんじゃないかな?」


会長が肩をすくめる。


「親子にしろ、恋愛感情にしろ、ササベさんが『一番愛している』と言ったことも、モモにとってはササベさんが世界の殆どを占めていることは確かだ。二人の気持ちを確かめる方法は無いし、いちいち確かめるまでもないよ。とにかく、私たちは二人が『アイコイ』のハグシーンのように、愛とか幸せを感じあう時間を与えてあげればいいだけだ」

「そうですね」

「でも、どうすればええんやろ」


一同は数秒の間、押し黙った。それぞれ考えを巡らせたが、やがてハギワラさんが、


「ハグは難しいよな」


とこぼした。


「そうとも言いきれないよ」


会長はいつでも前向きだ。僕たちは会長の方を見る。


「ミナミ君、生徒会には魔法使いがいるんだよ」

「魔法使い?」

「そう……魔法使いの名は、タダさんだ」


ああ、と僕はその名前を思い出した。たしか、『meyasu』アプリを今の形にバージョンアップをした人だ。学校には通わず、オンラインで授業を受けているが、一応生徒会のメンバーだとか。


「いや……さすがに難しいんちゃいますか? 技術と魔法は別物ですよ」

「からきし技術の無い私からすれば同じようなものだけどね。相談してみる価値はあると思うのだけど」

「まぁ、ダメ元で話してみるか。いつも忙しそうにしてるから、都合がつくか分からんけどな」

「タダさんは学校に来ずに何してるんですか?」

『忙しい』という単語に引っ掛かって聞いた。

「タダさんは、アプリ開発の仕事をしているんだよ。学校の授業を受けながら働いているんだ」

「へぇ! すごいですね」


会長の答えを聞いた僕は感心した。学校に行く足が重くて登校していない訳ではないのだ。高校生の内から仕事をするなんて、活動的だし、自立している。

会長が後日タダさんにオンライン会議のアポイントメントを取ると言うことで、放課後の活動はお開きになった。



生徒会室を皆で出るころには、夕日が窓から見える空や木の葉をオレンジ色に染め初めていた。いつも放課後は各々のタイミングでバラバラに下校するから、全員で一緒に下校するのは久しぶりのことだった。自然と、前に会長とハギワラさん、後ろにユヤマと僕がついていく形で、ゆっくり船場へ歩いて行った。

僕とユヤマは漫画の話をしていた。僕は流行りもののアクション漫画くらいしか読まないが、ユヤマは漫画に詳しかった。僕が呼んでいる漫画の作者のデビュー作についてユヤマが語っている時、不意にハギワラさんが振り返った。


「おい、ミナミ」

「あ、はい」


僕が答えて、ユヤマはマシンガントークをしばし中断した。ハギワラさんは少し歩く速度を緩めて、僕の方に寄った。


「昼休みの後、何話してた?」

「え」

「一年生と話してただろ」


僕はぎくりとした。生徒会室の廊下側には窓があるから、昼休みに僕が声をかけられているところがハギワラさんに見えていてもおかしくはない。しかし、話の内容を聞かれていただろうか。ハギワラさんの聞き方に威圧的なところはなかったが、僕はハギワラさんはもう答えを知っているという気がした。


「えっと、それは……生徒会の噂話を聞いたらしくて、本当かどうか、僕に確かめたかったみたいです」

「俺のことか?」


ハギワラさんが言う。やはり話の内容はばれているようだ。


「はい、そうなんです」


僕はおそるおそる頷いた。


「ハギワラさんが会長にお熱ってやつ?」


ユヤマが単刀直入に言うのでぎょっとした。


「あはは、またかあ」

「はぁ……全く笑えない」


会長が笑い、ハギワラさんがため息をついた。


「知ってるんですか、噂のこと」

「まあな。去年あたりから言われるようになってな……正直、困っている」

「そうでしたか……」


こうもおおっぴらに話題にするところを見ると、噂は真実ではないようだ。


「どうしてそんな噂が?」

「正確には分からない。ただ、新聞部に生徒会がインタビューされたことがあった。そこで全員、生徒会に入った理由を聞かれたから、俺は正直に答えた。それが誤解を生んだらしい」

「なんて答えたんですか?」


ハギワラさんが生徒会に入った理由は僕も気になるところだったので、食いついて質問した。ハギワラさんは「いや……」とどもって目を逸らす。


「何をためらうんだ! 教えてあげてよ」


会長がなぜか上機嫌だ。ハギワラさんは深く息を吸ってから答えた。


「ヒダカに憧れたからだ」

「えっ、そうなんですか」


僕は目を丸くした。


「まあ、私が誘ったのがきっかけではあるけどね」


会長がそう付け足す。ハギワラさんは肩をすくめる。開き直ったのか、その後は言い淀まずに、自分から説明を続けた。


「そうだ。正直に答えた。当然、恋愛感情じゃない。ただこいつは俺に無いものを持ってることは認めるし信用している。だから誘いに乗ったんだ。それだけの話が、記事を見たどっかの誰かが内容を歪んで伝えたか知らないが……そういう噂に変わって伝わった」

「俺も他の人に何回か聞かれたで。噂がほんまかどうか」

「へぇ……大変ですね」


噂は一度広まると収集が着かない。それに、内容がセンセーショナルなほど、本人が否定しても鎮火しにくいものだ。僕はハギワラさんに同情した。


「どいつもこいつも……そんなに良いものか、恋愛ってものは」


うんざりした調子で言って、ハギワラさんは足を早めて僕から離れた。そうしてこの話題は終わり、僕はまたユヤマと漫画の話を再開した。僕は最後のハギワラさんの呟きが心に引っ掛かっていた。怒りというよりも、やりきれなさのような悲哀があったのだ。ハギワラさんが呟いたその横顔が、僕の心に不思議な切なさを覚えさせた。

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