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パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
ハグ・ウィズ・ミー
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ハグ・ウィズ・ミー -2

僕は生徒会室に入る時、必ず引き戸に隙間が無いかチェックする。そして、隙間があれば上を見て、ドアと壁の間に何も挟まっていないか確認する。もちろん、これはユヤマがいたずらを仕掛けていないかのチェックだ。しかし、ユヤマはいたずらの王道ともいえる『黒板消しをドアに挟む』という手法を取ったことはない。一昨日、僕は教科書を生徒会室に忘れた。忘れたことに気づいた僕が慌てて生徒会室に戻ってドアを開けた瞬間、教科書が頭に降ってきた。いたずらが成功したら、ユヤマはケラケラひとしきり笑う。会長やハギワラさんは知らんぷりで特に反応しない。いたずらを止めてくれたらいいのに、と思う。ユヤマより早く生徒会室に着きたいが、僕のクラスの後者が一番離れているので、必然的に来るのが遅くなってしまう。

この日はというと、生徒会室にユヤマの姿が見えなかった。


「あれ、ユヤマ居ないんですか?」


僕が聞くと、会長があぁ、と顔を上げた。


「風邪で欠席らしいよ」

「え、そうなんですか」


なんとなく、ユヤマが風邪をひいて寝込んでいるというイメージが出来なかった。むしろ少々体調を崩しても学校へ来て、いつもどおり生徒会室でよく喋っていそうだった。


「悪いんですか?」


さすがに心配になって聞くと、会長は首をひねった。


「うーん……」


その時、突然背中を両肩をぽんっと叩かれた。


「えっなに」


僕は反射的に振り返る。ユヤマが居た。


「じゃーん、元気でーす」


ユヤマがにやにやしている。欠席は嘘だ。おおかた会長に話を合わせるように言って、カーテンにでも身を潜めていたのだろう。


「なんだ、心配して損したよ」

「あはは、意外と騙されやすいんやなあ」

「もーうるさいなあ」


僕は呆れながら、自分の席に座った。ユヤマもいつも通り向かいに座る。


「なんでいつも何かしら仕掛けてくるの?」

「ええやん、おもろいやろ?」


ユヤマは適当にあしらうが、僕にとっては本気で不思議だった。いつか理由を真剣に聞いてみたいが、なかなかその機会はない。

そして、僕の席には当たり前のように紙皿の上にショートケーキが置かれていた。ここ最近、ショートケーキが続いていて、正直飽きてきた。でもここで弱音を吐いてしまうと、会長が気分を損ねてもうケーキを持ってきてくれなくなりそうなので黙っている。正直なところ、昼食の食費が浮くのは僕にとっても家族にとってもありがたいことだ。僕の家はあまり裕福とは言えない。『もらえるものは貰っておく』が父のモットーで、僕もそれを引き継いでいる。


「……いただきます」


僕は手を合わせてから、プラスチックフォークでショートケーキと向かい合った。


「さてさて、全員揃ったことだし、今日は『meyasu』でも見てみようか」


そう切り出した会長は、もうすでに弁当を食べきって、巾着を脇に置いていた。会長が端末を取り出し、操作する。


「げ、暇のままでえんやけど」

「何を言う。我が生徒会の主たる活動だよ」


渋るユヤマを、会長がたしなめた。

生徒会の仕事は、学校のご意見箱アプリである『meyasu』を通じた便利屋の仕事だけではない。次の学年集会の予定合わせだとか、各部予算会議の調整とか、最近では、僕が副生徒会長になったことのお知らせ文を、校内SNSに掲示するという小さなタスクがあったが、それも終わり、今の生徒会は手持無沙汰だった。生徒会が『meyasu』を開くのは、前回のクシロの件以来、約一週間ぶりのことだった。

会長は端末の画面が皆に見えるように、机の中央に置いた。皆の視線が画面に注がれる。アプリケーションが起動し、メニュー画面が開いた。


「えいっ」


会長が『目安箱を引く』のボタンをタップする。箱がくるくる回るアニメーションの後、依頼内容が表示された。途端、ユヤマが


「えぇ?」


と怪訝そうな声を出した。会長が読み上げる。


「愛する娘とハグをさせてください。一年、ササベ」

「娘ですか?」


僕も依頼を聞いて驚いた。高校生で娘がいる人がいるというのだろうか。全くありえないことではないが、居るとしたら驚きだ。学校に通いながら子育ては難しいと思う。


「引き直すか?」


言ったのはハギワラさんだ。


「冷やかしとは言いきらないが……本気だとして、親子の問題に手を出せるほど、俺たちは偉くない」

「でも、ササベさんが私たちを必要としてる。だから投稿したんだろう」


僕もハギワラさんと同意見だが、会長はこの依頼を引き受けるつもりのようだ。会長はこう見えて強情だから、意見を変えないだろうと思う。


「まぁ、判断は会長に任せますけど」


ユヤマはどっちでもいい、といった風だ。ハギワラさんが嘆息する。


「他に仕事もないしな。どうせ引き受けるんだろう」

「もちろんだよ」


こうして、生徒会の主活動が再び動きはじめた。『親子関係』という重い議題に不安を感じてしまう。この気分屋ぞろいの生徒会の介入が、裏目に出なければいいのだが。




昼食を終えて、僕は早めに生徒会室を出た。次の授業は少し離れた棟で行われるからだった。しかし、僕はクラブを出ようとしたところで、初対面の生徒に声をかけられた。


「生徒会の……ミナミさん、ですよね」


僕に敬語を使うところを見るに、一年生らしかった。


「うん、そうだけど」

「あのちょっと、聞きたいことがあるんですけど」

「うーん、僕転校してきたばかりだけど、答えられるかな」

「大丈夫です」


生徒はこくこくと頷いた。


「あの、私は友達に訊くように頼まれただけで、つまり……匿名で質問したかったということだと思うんですけど、生徒会の皆さん全員には聞かれたくない質問というか……大丈夫ですかね?」


言いにくいのか、なかなか本題に触れない。内容を聞いてないので、大丈夫かと聞かれても分からないが、僕は内容が気になったので、


「大丈夫だよ」


と答えた。


「ありがとうございます。あの……」


そういって、僕に一歩近づく。僕も耳を寄せた。聞こえたのは思いも寄らない言葉だった。


「ハギワラさんがヒダカさんのこと好きって、ほんとですか?」

「えっ」


僕は驚いて生徒の顔を見た。俯いたその顔は見えないが、耳がみるみる赤く染まる。


「すみません、こんなこと聞いて……でも噂で聞いてしまって、気になって、失礼だとは思うんですけど、もし何か知ってたら……」


あれこれ言葉を紡いだあと、丸い目が僕を見上げた。


「いや……心当たりはない、かな。ごめん」

「そうですか……」


落胆とも、安堵とも取れる感じで、小さく息をつく。


「あ! 足止めしてしまってすみません」

「ううん、大丈夫」

「では、ありがとうございます」


小さく会釈をした後、小走りで行ってしまった。呆けてその背中を見送っていると予鈴が鳴った。今、生徒会室から出てくる皆と顔を合わせるのは気まずいし、なにより授業に遅れてしまう。僕は慌ててその場から離れるように、足早に階段を降りたのだった。

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