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パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
ハグ・ウィズ・ミー
18/24

ハグ・ウィズ・ミー -1

 窓の外は曇り空だった。水平線から灰色の雲が波のように迫っている。ふと水滴が窓に張り付いて、雨が降り始めたことを知らせた。


 「なんだ、まだ出てないの」


パジャマ姿の父が二階から降りてきて、そう言いながらキッチンへ向かった。父の長い髪が寝ぐせでモップかと思うくらい膨らんで、キッチンカウンターの向こう側から盛りだしているように見えた。ピッとポットのボタンを押す音がした。


 「うーん、早く出ればよかったなあ」


父への返答半分、独り言半分でそうぼやいた。そういいながらも体が重く、僕はコーヒーの入ったマグカップを両手で持って手を温めた。

 僕はこの日、寝起きが悪かった。低血圧のせいだと考えれば、仕方ない。しかし雨が降る前に出れば良かったと後悔した。いつもはヒラノと登校したくて始発のスクールシップに乗るのだが、今日は間に合いそうになかった。



結局のところ、僕はいつもより二本遅れの船に乗った。始発の船はいつも空いていたが、この時間にもなれば生徒が多かった。さらに雨で甲板には上がれないので、皆船内の座席に座るか、端の方で手すりにつかまって立っていた。船の本数は十分多いので混雑しているほどでは無かったが、船内はそれなりに賑やかだった。僕は座席に座って、ぼんやりしていた。さすがに暇で、音楽でも聞こうかと思ったその時、僕の隣に誰か座った。


「よう」


ハギワラさんだった。僕は少し驚いて、


「えっ、おはようございます」


と早口で言った。ハギワラさんと二人で話すのは初めてのことで、少し緊張した。


「『えっ』てなんだよ」

「ちょっとびっくりしただけです」

「そっか。学校まで隣いいか?」

「どうぞ」

「どーも」


そこで、会話は途切れてしまった。同じ生徒会とはいえ、学年も違うので共通の話題も見つからない。僕は副生徒会長として正式に生徒会に入って一週間が立っていたが、ハギワラさんやユヤマについてほとんど何も知らなかった。そして多分、ハギワラさんとユヤマは、僕について何も知らないのだ。


「そういえば……」


ハギワラさんが口を開いて、僕は何か自分について聞かれると思った。しかし、予想とは違った。


「ミナミは、ヒダカを前から知ってるんだな」

「えぇ、まあ」


僕はそれだけ答えた。幼馴染です、とはあえて言わない。


「じゃあ、なんで『会長』って呼ぶんだ?」

「え?」

「ヒダカ、とかでいいだろ。前から『会長』なんて呼んでた訳じゃないだろうに」


何も知らない僕について最初に聞くことだろうか、と思ったが、質問に質問で返すのも悪いので、とりあえず答えることにした。


「あんまり仲良いと思われたくないというか……セットにされたくないと言うか」

「はぁ、なんだそりゃ」


ハギワラさんには僕の気持ちは分からない。


「今までお世話になってるので、高校ではちょっと距離置きたいんですよね」


これはウソではないが、わりと良いように言った。


「ふうん」


ハギワラさんは腑に落ちていないようだ。そして少し意外なことを言った。

「寂しいって言ってたぞ」

「え?」

「その……お前が『会長』って呼ぶのが」

「あー、そうなんですか?」

「ああ」


会長が、どんな風にハギワラさんにそう語ったかは分からない。冗談だったかもしれない。本気かもしれないが、多分、本気だったら僕に直接言うだろうと思う。


「まあ、名前で呼んでやったらいいんじゃないか?」

「うーん、考えておきます」

「そうか」


ハギワラさんはそれ以上、この件に関して何も言わなかった。正直なところ、僕は前向きには検討していなかった。会長と僕が昔馴染みであるという事がみんなに知れたら、やはり皆から『セット扱い』されると思う。僕が困っていたら、会長が僕を助けるのが当たり前だというような風潮がどこかで生まれてしまいそうだった。一方で、僕はハギワラさんが自分には関係がないこの件に関して、僕をわざわざ諭すということが気になった。ハギワラさんは、人より一歩引いていて、他人事には干渉しないタイプだと思っていたが思い違いだっただろうか。

それとも、ハギワラさんにとって会長と僕の関係の問題は例外で、他人事ではないというのだろうか。

同じ生徒会だから、波風を立てたくないのかもしれない。

……というか、なぜハギワラさんは生徒会に入ったのだろうか。聞くとしたら今だが、ハギワラさんの方から新しい話題を振ってくれたので、そのタイミングを失った。

その後は、今日はユヤマがどんないたずらをするだろうかとか、どんな本を読むかとか、他愛ない話を途切れ途切れに続けて、やっと到着間際のアナウンスが聞こえたのだった。

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