パーフェクト・スノー・ホワイト -終
月曜日。僕はやはり早い時間のスクールシップに乗っていた。そして、転落防止の柵に背中を預け、朝の潮風を浴びて眠気を覚ましていた。そうしながら、なんとなくヒラノの姿を探していた。今のところ甲板にヒラノの姿は無い。
しばらくして、階段からヒラノが上がってきた。僕が声をかけるまでも無く、ヒラノの方から僕を見つけるなり駆け寄ってきた。
「おはよう、ミナミ」
「おはよう」
挨拶のあと、ヒラノは目を泳がせて、えーと、なんて言いながら言いにくそうに言葉を紡いだ。
「勝手に記事にしてごめん、将来の夢のこと……許可を取るのを忘れてたし、君の連絡先も知らなかった。でも、どうしても記事にしたくなっちゃったんだ」
「いや、いいよ。隠してる訳じゃないし」
僕は記事にするなとも、内緒だとも言っていない。ヒラノは、「うん、ありがとう」と言った後、
「あともう一つ……」
とまた申し訳なさそうに続ける。
「昨日、君のクラスのクシロさんから連絡があって、演劇のこと聞いたんだ。すごく助かったから、記事にしてくれって。僕もあまり時間がなかったし、他のトピックもあったからコラムなんだけど、君と生徒会がクシロさんを助けたことを書いた」
「そ、そうなんだ」
他のトピックがあってよかった。連日記事にされてしまうと、校内で目立ってしまいそうだった。コラムに書かれたことは気にならないが、僕は他の疑問があった。
「休日使ってまで書いたの? そんなに急ぎだった?」
「え、だって……」
ヒラノは僕の質問が意外だったようで、目を丸くした。
「今日は投票だろう? 君が副生徒会長になるかどうか……それまでに支持率上げておいたほうがいいかと思って」
僕は投票のことをすっかり忘れていた。ヒラノは昨日のうちに記事を書き、早くから学校に行って、投票の前に記事を掲示するつもりだったのだ。
「そうだね……助かったよ」
さすがに忘れていたとは言えず、礼を言った。僕の支持率のためにクシロはヒラノに連絡し、ヒラノは休日返上で記事を書いた。なんて心強いサポーターだろうか。そして僕はなんて自覚の無い候補者だろうか。二人には頭があがらない。
投票の日ということで、僕は始業前に教室に来るクラスメイト達に冷やかしの一言でも貰うような気がしていたが、みんないつも通りで、僕と目があえば平常通りおはよう、とだけ言った。クシロも変わらず、朝礼まで他愛ない会話をした。本当に今日が投票だったかと疑いさえした。
朝礼の時間。担任が僕らに告げた。
「えー、生徒会から連絡があります。今日、副生徒会長承認に関する投票がありますので、本日放課後までには投票するようにとのことです。投票は校内SNSの生徒会ページからアクセスできるらしいです。ということで……みなさん、協力しましょう」
自分に関する話題が出て、僕はその場にいるのが恥ずかしかったが、クラスメイトは平然とした感じで話を聞いていた。
ただ、さすがに生徒会はそわそわとしていた。
「いよいよ投票やなあ」
昼休みの生徒会室。ユヤマがサンドイッチ片手に、にやにやしながら言った。
「お、落ち着いて、きっと大丈夫だ。安心してミナミ」
「僕何も言ってませんけど……」
僕は会長持参のイチゴショートをつつきながら言った。会長はなぜか緊張しているようだった。
「こいつ、自分の生徒会長選の時は投票の日程忘れてたのにな」
ハギワラさんの言葉にぎくりとする。僕も同じだ。
「まあ、新聞にも良い感じで書かれてたし、大丈夫やろ」
ユヤマは学校新聞を読んだようだ。僕も生徒会室に来る前、食堂に寄って記事を読んでみた。コラムには、副生徒会長候補・ミナミが演劇部部員の気持ちを汲み取った脚本を提案し、成功につなげた、などということが書かれていた。照れくさくて、詳細に記事を読むことはできなかった。
翌日の学校新聞の一面に、スクールシップの看板に背を預け、かろうじて口角を上げて不器用に笑う僕の写真が掲載された。見出しはこうだ。
――『副生徒会長就任。賛成票9割』。




