パーフェクト・スノー・ホワイト -8
クシロが落ち着いた後、僕らは円を描くように体育館の床に座って、新しい脚本について議論を始めた。白雪姫ではなく、母に憧れていたことを自覚したクシロは、もはや『毒リンゴを食べて倒れるシーン』への執着を捨てていた。ただ、子どもたちを演技で怖がらせたくない、という意思は手放さないようだっだった。クシロの母はいつも子どもの視点に立っていたのだという。
「子どもたちが終始わくわくできる劇がしたいの。一人として泣かせたくはないわ」
というクシロの意思を僕らは尊重した。ユヤマが、
「でも、王子様のキスで目覚めるシーンはほしいやんなあ」
とぼやいた。
「そうなれば、眠りにつくのは必須だな」
ハギワラさんがいう。
「ただ眠っているだけの白雪姫を、小人たちが死んでしまったと勘違いしたというのなら笑い話だね」
僕はこの会長の案を借りることにした。
「白雪姫は九人の小人たちと暮らしている間、自分を入れて十人分の料理を作って、洗濯して、食器洗いして、家じゅう掃除してたんですよね。小人たちが外出の間、りんごを食べてしまう訳ですが、りんごが無くても家事でぐったり疲れて眠ってしまってもおかしくないですよ」
「息をしているのに死んだと勘違いするのもおかしな話じゃないか?」
ハギワラさんが反論した。
「それに、魔女役の人の出番がなくなっちゃうかも……」
クシロも付け足す。
「確かに。そのへんも踏まえて、物語を作ってみます。雑なところもあるかもしれないけど、ちょっと聞いてください」
みんなが頷いて、僕を見る、僕は即興の『白雪姫』のアレンジを話した。
「女王、つまり白雪姫の継母であり、魔女は、白雪姫を妬んでいたんだよね。でもいざ白雪姫が逃げて遠くに行ってしまうと、義理の娘が恋しくなってしまったんだ。そして、『魔法の鏡』に白雪姫の様子を映し出す。そうすると家事に追われて寝不足の白雪姫が見える。女王はすっかり同情して、しっかり眠れるように『眠り薬』を塗ったりんごを届けに行こうと思いつくが、白雪姫を一度殺そうとした手前、気まずいので老婆に変身し、白雪姫にりんごを届けに行く。作戦は成功して、白雪姫はぐっすり眠った。そこに小人たちが帰ってくる。女王は陰から様子を見守っている。で、小人たちが家に入ると、そこには倒れた白雪姫がいる。
小人の一人が女王を見つけて言う、『白雪姫に何をしたんだ!』動揺した魔女は、『一度は殺そうとしたが、反省してこうして戻ってきたのよ、そしたら』
最後まで話を聞かない小人が言う。『殺しただって!』
小人たちは怒り狂い、魔女は話を聞かれないまま追い出される。小人たちは白雪姫が死んだと早とちりして棺桶に入れてしまう。葬式が執り行われようとしたその時、通りがかりの王子様が、異変に気づいて小人たちに事情を聞く。で、白雪姫を一緒に弔うため、その顔を覗き込み、あまりの美しさにキスをする。白雪姫は目覚めてハッピーエンドだ」
「すっごくいい!」
クシロがぱっと僕の手を掴んだ。これで、クシロはユヤマ特製毒リンゴを実食しなくて済む。僕は心からほっとした。
問題は、演劇にかかわる全ての生徒が脚本の変更を受け入れるのか、ということだが、これについては杞憂だった。演劇部の方でも子ども向けの劇だから終始笑って見ていられるものがいい、という意見で一致したことと、何より最も『白雪姫』に熱意のあるクシロ自身が提案したということ。そんな理由で、新脚本はすんなりと受け入れられた。




