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パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
パーフェクト・スノー・ホワイト
10/24

パーフェクト・スノー・ホワイト -5

翌日の昼、生徒会室の扉を開けたら、目の前にユヤマが立っていた。手に紙コップを持っている。


「午前の授業お疲れ様です。よければお茶をどうぞ」


 丁寧に紙コップを差し出すユヤマ。さすがに、どうもありがとうと言って飲むわけにはいかない。


「怪しすぎる……」

「ええから、ほらおいしいお茶をどうぞ」


ユヤマは僕にコップを押し付けてきた。僕は飲むつもりはないが、一応コップを受け取った。中を見ると、暗い茶色の液体が入っていた。お茶にしてはどす黒すぎる。僕は鼻を近づけて、匂いを嗅いで見る。


「くっっさ!?」

「あはは! せやろ?」


ユヤマは高い声でケラケラ笑う。後ろで座っていたハギワラさんが、


「間違っても飲むなよ」


と忠告してくれた。飲むわけがない。


「ユヤマ特製シロップなんだ」


会長が付け加えた。


「まだ試作品ですけどね」


言いながら、ユヤマは席に着いた。僕も席に着いて、ドブの入った紙コップをできるだけ自分の遠くに置いた。僕の机には紙皿に載ったチョコレートケーキとフォークが置かれていた。さすがに、毎日モンブランという訳には行かないようだ。


「チョコケーキ、うちのロングセラーなんだ」

「そうですか……ありがたくいただきます」


言わずもがな、僕はチョコレートケーキは苦手だ。まだ、鼻の奥に先ほどの匂いがヘドロのようにこびりついている。僕は息を吸ってチョコレートの匂いを嗅いでから、ケーキを少しすくって食べ始めた。そして例の紙コップを忌々しい気持ちで見つめた。


「なんなんですか、あれは……」

「俺なりの解決方法やねん」


ユヤマが答える。


「どういうこと?」

「クシロは、子どもたちに嘘ついて倒れる演技するのが嫌だって言ってたやんか。やから、いっそリンゴに激マズのコーティングして、本当に気を失ったらええんちゃうかなって」

「力技すぎるよ……それに、本当に気を失う保証もないし」

「気を失うところまで行かなくとも、気分が悪くなってまえば、『気分が悪くなって横になった』ってことで嘘をついたことにはならないんちゃう?」

「そういう問題かなあ」


仮にそれでクシロが良かったとして、本当に気分が悪くなって続きの劇が出来なくなったら本末転倒もいいところだ。


「そういえば、シロップには何をいれたんだい?」


 会長が聞いた。僕は聞かないほうが良い気がした。ハギワラさんも苦虫を噛んだような顔をしている。僕と同じ気持ちらしい。


「えっと、黒蜜がベースで大さじ二杯、塩胡椒、めんつゆ、グレープフルーツジュースに、あとタバスコと重曹」

「すごい、基本五味を制覇してるね」

「いやもはや毒だろ」


会長は感心しているが、ハギワラさんの言う通り、本物の毒リンゴになってしまいそうだった。


「でも、今のところユヤマの案しか出てないことは事実だ」


会長が言った。これにハギワラさんはいや、まあ、と言葉を濁らせる。とんでもないことだ。


「いやいや、クシロに毒リンゴ食べさせる気ですか」

「ええやん、白雪姫なりたいんやろ?」

「そういう問題じゃなくて」


僕はユヤマの言葉をはねのけ、頭をフル回転させた。とにかく、ユヤマの案を通してはならない。


「とりあえず、案を考える時間をもう少しください。昨日の今日ですし、僕もまだアイデアがなくて」

「うーん、でも今日の放課後でクシロさんと演劇部にアポイントメント取っちゃったんだよね」

「えっ、なんでですか」

「だってユヤマからアイデアを思いついたって、放課後のあとすぐ連絡があったんだ。善は急げって言うし、私もすぐにクシロさんにアポイントメントを取ったよ」

「アイデアの内容聞かなかったのか」


ハギワラさんの問いはもっともだ。会長は肩をすくめた。


「まあね。私はユヤマの案、嫌いじゃないよ。どんなアイデアでも試す価値はあるし、ユヤマはいつも面白い案をもっている。君もそう思うだろう?」


会長の言葉に、ハギワラさんは肯定も否定もせず、ただ嘆息した。

困ったことになった。クシロは主演だから、練習で忙しいはずだ。練習時間を返上し、部内で調整の上時間を作ったのなら、今更キャンセルするのは躊躇われる。


「悪いけど、スケジュール変更はしたくないんだ。さすがに生徒会の信用にかかわるからね。今回は、君の支持率を上げるという目的もあるし」


会長の言葉に、僕は今あなたの気まぐれのせいで追い詰められているんですよ、と言いたくなるのをぐっと飲み込んだ。会長は続ける。


「とりあえず、今日の放課後みんなでアイデアを出し合おう。いろいろ試してみて、一番いいアイデアを採用すればいい。みんな、放課後までに案を考えておいてね」


とてもじゃないが、午後の授業には集中できなさそうだ。


「俺はもう案出したし頭使わくていいよねー」


ユヤマが間延びした声で言う。僕は甘ったるいチョコレートケーキをかきこみ、考え事をするため早々に生徒会室を出たのだった。


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