テニスコート
注意!
昔本当に起こった事を、ちょっとフィクションにしました。
@短編その68
お盆になると、ちょっと感傷的になる。
随分前の話だが・・
姉が看護師をしていた。
寮で暮らしていて、同部屋が私と同い年の後輩だそうだ。
妹と同い年ということで、結構可愛がっていた。
実の妹とは買い物さえ行かないのに、買い物や食事に行ったり、映画を見たりしている。
そっちの方が妹じゃん?
なんて思うが、仕方がない。
まず休みが合わない。私は土日が休みの仕事ではないのだから。
それに、姉とはあまり仲が良いとは言えないのだし?
食べ物、趣味、服、etc.・・・好みが何もかも違うのだからね。
ここ数年は、この同じ部屋の子の方が断然一緒に過ごしている。
やきもちなんて、ガキくさい事を思う事は殆ど無いというのが正直な所だ。
その姉が、この同室の『妹』を連れて帰郷した。
おお、なんか・・・胸、おっきいな!たゆんたゆんだ。
少々ぽちゃっとして、我が家はみな160オーバーの高身長だから、彼女のような150センチの子は可愛く見えた。
父は照れ屋なのか、一緒には食事をせずリビングで酒とアテで一杯やっている。
姉はそれはもう、彼女のご機嫌をとっていて微笑ましい。
姉が男だったらいいのに〜なんてしれっと言ったのを聞いて、私は苦笑した。
そうなんだよな。
我が姉妹は165に169の高身長、そしてショートカットでボーイッシュだ。
姉はまだ女らしい部分があるが、私は女に告られることが多かった。
小学生では高飛びで、中学生では体操で、高校では剣道でそれぞれ県大会まで行くほどのスポーツ派、今も腹が割れているし、バク転だって出来るのだ。
「あれ?妹さんって聞いたけど、弟さんなの?」
彼女は私を見て挨拶を省いてこう言ったのだ。で、笑ったのだが、今思い出すが・・私の笑い方は、男前で『ははは』なのだ。
まあ話が横道から逸れたが、姉とはそういう関係ではなさそうだからほっとした。
でもなんだか・・ちらちらと私を見ている気がする。
まあ私がもしも男だったら・・・彼女にするかと言えば・・・しないな、そう思った。そういうこった。
今回帰郷したのは、近所のスポーツ施設のテニスコートが借りられたからで、車を出すのを頼まれた。
ついでにやって行けというから、いい運動になると思い加わることにした。
で。
なにやってんだよ・・・
二人とも下手くそだった。
せめてサーブは入れろ・・・
私はなんたってスポーツ派だからね。オールマイティーさ。なんでもこいって奴。
バスケもスリーポイントも一発で入れられるし、バレーだって男子とゲーム出来ちゃうし。
テニスも軟式公式何方も来いや!ですわ。
なんて自慢してしまったが、サーブからダメではゲームも始まらない。
なので姉と彼女にまずサーブの打ち方から教える事にした。
姉は2、3回打てば弱いながらもサーブが打てるようになったのだけど、彼女は『運チ』だった。
運動音痴ここに極まれり。
それでも私は根気よく教え、ようやく打てるようになったのはレンタル時間終了30分前。
「ガットを面として、ボールに当てる」
ぽこん
ボールは綺麗な弧を描いて反対側のコートに入った。
「やったぁ!」
・・・やったぁ、じゃねーよ。でも私はなるたけ笑顔で褒めた。
「今のは綺麗に入りましたね」
彼女はなんか顔が赤い。
暑いもんね、今日は。姉が飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとー!あんたがいてくれて助かった」
「ねえちゃん、もう少し出来ると思ったんだけど、だめじゃん。スクールに入会推奨」
「あはは!ほら、ご飯奢るから」
予定時間も来て終了。
シャワールームで汗を流し、着替えを済ませて外に出るともう夕暮れだ。
晩ご飯を近くのファミリーレストランで食べ、帰宅したらごろりとベッドに寝転がったら・・眠気が来てそのまま眠った。
「!」
「あ。目を覚ましましたか」
なんと薄暗い部屋の中、彼女がベッドそばに座って、私を見ていたのだ。
背中がざわっとして、鳥肌が全身を覆う。彼女は平然としているのが更に不気味だ。
「今日は楽しかったです。ありがとうございます」
「あ、うん」
「かっこよかったです。先輩も素敵だけど、妹くんすごくかっこいい」
「そう?楽しめてよかったね」
いつから居た?
寝ていたからわからないけど・・随分いたのだろう。
そっと壁を見ると、壁掛け時計には夜光塗料が付いているので、時間が分かる仕様だ。
12時22分。
私がベッドに寝転んだのは、9時半ごろだ。
財布や通帳は、戸棚だ。昔泥棒が入ってから、番号合わせで開ける錠を付けている。うん、錠は大丈夫。
「で、こんな夜中に何かな」
「先輩じゃちょっと話しにくくて・・相談なんだけど」
「ねえちゃんじゃ、なんでダメなん?」
「知ってる人だから」
「なる」
これは恋愛相談か?
妙な雰囲気で、かなり警戒しちゃった。でも警戒されても仕方がないよね?
夜中にこんなところにいるんだし。普通ビビるよね?
相談は想像通り恋愛相談だった。
なんでも10くらい年上の男性が、付き合いたいって言ってきたんだとさ。
それくらいの年齢だと、遊びではない、お嫁さんにしたいという人が多いと思う。
だから真剣に考えるべき、まだ遊びたいならお断りをするべき、正直・・よした方ががいい。
私はそう答えた。
この地方では有名企業に勤務していて、お金も持っていそうなんだそうだ。
彼女とデートの時は、バッグも服もぽんぽん買ってくれるし、美味しいものも食べに連れて行ってくれるんだと。
・・なんだ。もう答え決まっているじゃないの。自慢かな?惚気かな?
でもなんか・・やばい気がした。
「やっぱりやめた方がいいかな?妹君はどう思う?」
上目使いで聞いてきた。
本当、可愛いね、君。女の私でも思うよ。
でも私はそういう性癖じゃないからね。
止めてもらいたいのかな?
止めたら、何か言ってくるかな?
不意に、頭の中に変なセリフが浮かんだ。
『止めるから妹君、私と付き合って』
頭がぐらっとして眩んだ。そしてまた鳥肌が粟立った。
だめだ、拙い!!
「友達として、様子をみたらどうかな」
「・・・そっかぁ。ありがとう」
そして彼女は部屋を出て行った。
私は脱力して、ベッドに崩れるように倒れた。
心臓がバクバクしている・・・
私は夜の真っ暗な道だって怖いと思ったことがないのに、今は心底怖かった。
なんだ、あの子は。
ナニカガガツイテル
変な・・・何て表現したらいいんだろう?雰囲気?
とにかく長く居たいとは思わなかった。
翌日、姉と一緒に彼女は帰って行った。
彼女が行方不明になったのは、それから1ヶ月後だった。
姉が私に連絡をしてきたので知ったのだが、どうやら年上の男性と付き合いだしたようで。
「なんで私に聞くんだよ。行き先なんか知らないよ」
「あの子、あんたを気に入ってたみたいだから、もしかしたらと思っただけ」
おい、ねえちゃん。私は女だよ。でも手がかりがあるならと、連絡する気持ちはわかるけど関わりあいたくないな、あの子には。彼女の周りの人間はそれはもう必死で探したようだ。
彼女の実家は県外で、遠く離れているから寮に住んでいた。
休みの日に出掛けて、連絡一つも入れずにそれっきり。
真面目な子で、連絡をしないなんてしたことがなかったから、周りは大騒ぎとなった。
数日後に発見されたが、最悪の結果となった。
なんと、当時の週刊誌に事件が記事になって載った。
犯行現場となった、ラブホテルの一室が撮影されていて、事件当時の部屋の様子が写っていた。
白黒だったけど、この黒い水のようなモノは血だろう?
大人のおもちゃという名の玩具が転がっていて、梱包用テープもあった。
彼女は酷い有様で殺されていたのだ。体にはナイフの切り傷が10数箇所、そしてとどめの絞殺。
犯人は変態だったが、そんな残酷な事をしでかすような男ではない、周りの皆がそう証言した。
あの夜の彼女の雰囲気に飲まれたのかもしれない。
男も『なぜそこまでしたのか分からない。気が付いたら彼女は死んでいた』と言っていたそうだ。
あの時、もし『付き合って』と言われ、いいよと言っていたら・・・
殺したのは私だったかもしれない。
うん、多分殺していた。
あの妙な雰囲気は、もう体験したくないね。
夏になるとテニスコートで笑っている彼女を思い出すけれど、鮮明さは薄れていくばかりだ。
今はぼんやりとしか思い出せない彼女にお悔やみを。
お話の後書き、的な・・・
@どこが本当か(前に書いた文を削除しました)
主人公はわし。マジ当時は鬼畜眼鏡風の顔。
自分の身長。姉がいて、看護師だった。そして同部屋の子の年。
遊びに来た事。
テニスコートレンタル。
事件が記事になった。
@創作の部分
玄関で男と思われた事。「男っぽい!」とは言われた。
父は夜勤でいなかった。思い出したら確か夜勤だったなと。
ファミレスで食事はしなかった。
相談は本当だったが、夜中ではなかった。
ただ、変な雰囲気は本当。
以上。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。