ジグザグ9
ブルーマンデイ。
身体も気持ちも重苦しいけど、それでもスーツに身を包む。鏡の前に立って身だしなみをチェックする。しばらくぶりにちゃんと化粧をした。髪をまとめて後ろでお団子にする。口紅を薄く引いた。物欲しそうにならないように。だって皆あざといんだから。
ケイコの寝顔に別れを告げたら、あたしはそっと部屋を出る。まだちょっと不細工なあたしの右手首は念のために包帯姿。無理しなければ、いつも通りの窓口業務はこなせるけど、気が重いのは人間関係だけね。だっていつだってゴシップに餓えてる人たちだから。
ゴウゴウゴウ。シートの隙間に身体を忍ばせ電車に揺られる。混雑の中の人いきれ。雑然とした静寂。あたしは瞼を瞑り、浅くも深くもない夢を見る。今日は会社でどう過ごそう。独りの夜は何をしよう。
駅を下り立つと高いビルディングが幾つもならんで背比べをしていた。お日様の光を反射してキラキラしているガラス窓。銀杏並木が遮って、歩道に飛び飛びの光のレールを作っている。スーツ姿の人びとが四角いおばけに食べられる。ぞくぞく、ぞくぞくと。生活って形のない魔物が襲ってくる毎日で、何時も怯えながら過ごしている。あたしが向かう先に待ち構える四角いおばけは見上げるほど大きくて、抗えないほど不確かで。それでも中に入ってしまえば、あたしの居場所があるんだ。自分の価値観が少しだけ試されて少しだけ認められる場所が。