ジグザグ8
土曜日の朝はキスで始まる。ケイコは酔ってふざけた振りをする。朝からワインを飲みながら、あたしの作ったビーフシチューを一緒に食べた。買ってきた四角いテーブルはそれなりに役にたっている。ケイコの唇が濡れている。少し火照った顔はあたしが見ても色っぽく感じた。ケイコは「暑い」と胸元を大きく開けた。決して大きくはないけど、形のいい胸の谷間が覗く。
あたしは食べ終わった食器を片付けた。ケイコはシャワーを浴びている。ドライヤーで髪を乾かす音。音が止んだら歯ブラシを口に入れるのかな。
ケイコが戻って来る前にあたしはベッドに潜り込む。シャワーから帰ってきたケイコはスレンダーな体に下着とオーバーサイズのTシャツだけを付けてあたしの隣に滑り込んだ。ケイコの脚が絡み、腕が回る。肩口にキス。吐息がちょっとくすぐったい。やがて直ぐに静かな寝息をたてる。きれいな寝顔。一時間。
あたしはケイコを起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
「よりを戻す気はないの?」
「向こうから頭を下げてきても嫌」
「だからバーテンダーなんてやめとけって言ったじゃない」
「ケイコだって、バーテンダーでしょ?」
「私だって似たようなもんよ。今は、まだね」
パスタを茹でて出来あいのソースを絡めただけの簡単なご飯を済ませて、ケイコは戦闘服に着替える。
「きれい。あたしが男だったらほっとかないのに」
「何言ってるの。馬鹿ね」
ケイコは嗤う。ホントだよ?
男だったら楽だったのに。きっともっと簡単に生きれたんだ。きっと多分ね。