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ジグザグげえむ  作者: MOJO
3/16

ジグザグ3

 今日の夜はなんだか蒸し暑い。五月の陽気は行ったり来たり。まるで今のあたしみたいだ。

 止まり木探して羽ばたいてる。土曜の夜の八時半。幾つかの視線に追い掛けられる繁華街。ケイコの働く店は一つ裏手の雑居ビルの中にある。

 オーセンティックて言うみたい。オースティンパワーズなら観たことがある。兎に角、お酒が飲めれば良いのだ。今なら居酒屋独りデビューもいけそうな感じ。まあ、そんなことには成らないだろうけど。

 店内の見えない覗き窓が付いた飾り気のない重々しい鉄扉。取手を握って慎重に開く。途端に耳を騒がすジャズと歓談の声。声だけが一瞬途切れて、皆があたしを振り返る。直ぐにまた会話が始まる。あたしはスルリと店内に滑り込み、入り口に近いカウンター席に腰を下ろした。

「ヘイ、バーテンダー」

 なんて気取って言ってみる。もちろん、とっても恥ずかしいから囁くような声になる。それでもケイコは気付いてカウンター越しに眉根を寄せながら嗤いかける。

「あんたね、今時そんな呼び方する客いないよ」

 隣のオジサンが笑う。あたしは精一杯、顔が火照るのに気付かない振りをする。だってホラ、ハリウッド映画とかでよく見るじゃない、そんなシーン。

「なに飲むの」

「うんと甘いヤツ。お任せで」

「強くていいよね?」ケイコは言った。分かってるじゃん。酔いたいんだから。

 ケイコはシェイカーによくわからないお酒と名前を忘れたリキュールと、あれやこれやを注いで氷を投げ入れた。あたしのためにシャカシャカをする。シャカシャカと言うよりはコンコンとかカンカンとかかな、実際は。高い音出してるのはシェイカーの上手い証拠なんだって。以前話してくれた。

 ケイコのシャカシャカは前に見た時よりずっと様になってた。逆三角形の可愛いグラスに注がれる赤ぁいカクテル。ほんのり浮いた氷の膜。隣のオジサンの視線。黙ってグラスに口付ける。ケイコがオジサンに話し掛ける。オジサンの視線が外れた。もう一口。今度は誰にも気がねしないで。

「美味しい」

 ケイコが微笑った。

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