ジグザグ15
しばらくぶりの一人暮らしは、身体は軽く心はちょっと曇り空。またあの嫌なモヤモヤが首をもたげてくるようで。部屋に帰ると独り、退屈な日常に追い回されて寝るだけの毎日。食べて寝て起きて着替えて仕事に行く。新しい服は見せる相手もいない。
あれからしばらくして、アイツから何度もメールが来た。あたしは読まずにブロックした。未練はもうさらさらない。ケイコと一緒にいた時間があたしの身体をきれいにしてくれたみたいだから。
金曜の夜。
職場の同僚と飲んだ帰り。
オールの誘いを断って、あたしは終電間際の下り電車に飛び乗った。扉が閉まる。手すりに掴まり弾んだ息を整える。スーツ姿の酔客で賑わう車内。ゴウゴウゴウ、車窓を流れる光の粒子。ゴウゴウゴウ、車内を反射する窓にじゃれあう二人。ゴウゴウゴウ、ゴウゴウゴウ。溜め息はアルコールの臭いがした。
吉祥寺の街は終わりが見えないくらいに輝いてた。
キラキラのネオン。はしゃぐ集団。客引きのオニイサン。居酒屋の呼び込み。ラーメン屋さん。溢れかえる、人。ヒト。ひと。あたしは結んだ髪をほどいて胸元のボタンをひとつ外した。たったこれだけのことで退屈な日常を忘れることが出来るから。
信号待ちで声を掛けられた。青になって歩き出す。背中に舌打ち。あたしは髪を掻き上げる。一瞬、胸に沸き上がったモヤモヤは人波をかき分けて行くうちに消えていった。
ヨドバシ裏。繁華街。追い掛けてくるいつもの視線。あたしも何だか慣れたものだ。裏通り。雑居ビルの、店内の見えない鉄扉。
あたしはゆっくり扉を開いた。