ジグザグ10
「何、別れちゃったの?」
「はい」
「どうしてよお」
「まあ、振ったと言うか。振られたと言うか」
「浮気?」
あたしは曖昧に笑う。まあ、バレるのも時間の問題だ。けどそれはまだ直ぐじゃなくていい。
「合コンしよっか。営業課の子達に声かけてさ」
同僚がはしゃぐ。お昼の社食はそれなりに混んでいるから、それなりの視線を感じる。あたしは曖昧に返事を濁して、なんてことない話題に頷いたり笑ったり。知った顔がいないか周りを気にしながら自意識過剰になっている嫌な自分に気付く。ふと口から溢れそうになった溜め息を飲み込んだ。
会社からの帰り道。同期の男の子から声を掛けられた。ちょっと飲みに行こうなんて月曜日なのに。何かを期待しているような目。あのときの会話を聞かれたのかな。なんだか急に胸の辺りがモヤモヤしだして、あたしは手首の怪我を理由に誘いを断った。
足早に駅へと急ぐ。今すぐ帰れば、まだケイコに会えるかも知れないから。
夕方の駅のホームはまだ明るい。中央線の下りのホームの自販機で、季節遅れのコーンポタージュ。蓋を開けずに胸に押し当てる。胸のモヤモヤが少しだけ和らぐようで。次の電車まで後二分。ベンチに腰掛けたら、思わず溜め息が溢れた。