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番外編:花と巡り合う魔法使いの話 03



 * *




 マーリンが次に見たのは知らない天井だった。いや、天井というものを久しぶりに見た、というのが正しい。カラムの民はゲルで暮らしていたので、マーリンが天井を見るのは前世振りだ。


「……っ!?」

「ああ、おきたのね。おはよう」


 事態が全く読み込めず、マーリンが固まっていると、天井だけが広がっていた視界に、空色の目と稲穂の髪が入ってきた。

 咄嗟に距離を取ろうとして、勢いよく起き上がる。途端、体がビキリと固まり、鈍痛が頭に響いた。

「痛っ……!」

「だめよ。あなた3日もねていたのよ」


 頭を抱えたマーリンの背を、幼い少女がさする。自分の半分くらいだろうか。まだ声が舌足らずに聞こえる。そしてその舌足らずは聞き覚えがあった。


「あんた、まさか路地裏の……?」

「まあ、おぼえていたのね。わたくしはヴィヴィアン。あなたを拾ったものよ」

「お付きの人が、止めとけって言ってたろ」

「きこえてたのね。ごめんなさい。でも、わたくしはあなたをほおっておけなかったの」


 マーリンはその言葉に内心舌打ちをした。助かったのは事実だが、施しを受けたことは正直受け入れがたかった。お付きの人がいたり、今自分が寝かされているベッドなどの調度品を見れば、平民でないのは明らかである。



「なあ、お前……ヴィヴィアン、俺の髪と目、何色に見える」

「ルビーね! 目はエメラルド! わたくし、宝石はエメラルドがいちばん好きよ!」

「……最悪だ」


 マーリンは苦虫をかみつぶした顔をした。意識が飛んでいて、魔法がかかる訳がない。このヴィヴィアンとかいう幼子はともかく、この子の親はこの髪と目の意味を知っているだろう。しかも貴族階級。これを恩義に何を請求されるかわかったものではない。


「さいあく……あなたまだぐあいわるいの? じゃあ寝てなきゃだめよ。あなたとてもきたなくてね、だからぐあいに悪いとわかっていたけど、お風呂に入れたそうなの。きっと、それがよくなかったのよ」

「ああ、そうじゃない。もう具合は大丈夫だ。ほっといてくれ」

「だめよ、あなたはわたくしが拾ったんだもの。ちゃんと元気になるまで、めんどうをみるわ」

「犬猫じゃないんだぞ」

「わたし、いぬやねこが話せないの知っているわ」


 ばかになさらないで、とむくれる幼子に、マーリンは思わずため息を吐いた。


「こんなに良くしてもらっても、何も返せないから、ほっといてくれ」

「おかしいわ。わたくしがしたいことが、たまたまできただけ。それが愛だと、神様はおっしゃっていたもの」

「……愛」

「そうよ、愛!」


 マーリンは思わず目の前の幼女をみる。空色の目に金糸の髪。目は少しツリ目で、キツめな印象を受けるが、幼くても美少女だ。そんな美少女がさも当然だという顔でこちらをじっと見ている。


 彼女は今自分が言ったことをちゃんと理解できているんだろうか。どれだけの人間がそんな無償の愛などという施しを、見返り求めずにできるのだろうか。


 微動だにしないマーリンに痺れを切らしたのだろう、ヴィヴィアンは睨めっこに飽きたのか、もう!と声を荒げた。


「そんなにお返ししたいのなら、愛をくださいな!」

「は?」

「そうよ、とってもいいかんがえだわ! 同じものをかえせば、おあいこじゃない!」

「――愛って、なに?」

「愛は、愛よ! きめたわ、それいがいならお返しはいりません!」


 先ほど同様に頬を膨らませて、ヴィヴィアンはプイと横を向いた。その仕草はとても子供らしいが、要求されたものは大人顔負けだ。

 代わりに愛をくださいな、なんて吟遊詩人の詩にありそうだなと、マーリンは思わず苦笑を浮かべた。


 結局その愛とやらを踏み倒そうとした神罰なのか、マーリンはベッドをそのまま抜け出そうとして足を踏み外し、倒れ込んでしまった。そしてヴィヴィアンによって呼ばれたメイドによって、強制的にベッドに再度括り付けられたのだった。







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