第4話 元引きこもりはチート(?)を無駄遣いする
継続は力なり。
なにごともとにかくやり続ければいつかはあなたの力になりますよ。
ってことを示したことわざだ(ったはず)。私はこの言葉が大好きだ。
例えばネトゲ。
とにかく同じこと(周回プレイ)をし続ければ、自ずと結果がついてくるからだ。
(ただしスコアを競うものは例外)
例えばスポーツ。
才能の有無もあるだろうけど、練習すればするだけ上達するからね。
ちなみに私、三雲茉莉は忍耐力が強い方だと自負している。
なぜか昔から同じことを永遠と繰り返すことだけは得意なんだよね。
最近私は英雄補正の素晴らしさに気がついたんだ。
その英雄補正を使って、どんどん体力や魔力保有量を上げたいと思ってる。
今回はそんな私の休日を書いていこうと思うんだ。
退屈かもしれないけど、我慢してくれると私は嬉しいな。
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「ふわぁ〜〜〜〜」
体内時計が5時になったことに気づいた私は、意識を無理やり覚醒させ、布団から起き出す。
今日は休日。友達は未だにいないし、一人で遊ぶなんて悲しすぎるし、毎日のトレーニングで午前中は埋めるつもりだ。
早いとこ友達を作らなきゃこっちでもぼっちになっちゃう……。
あんまり気にしてないんだけどね。
さーて、朝ご飯を作りますかぁ……。
私は料理や洗濯、掃除が得意なので、日本の一人暮らしのおじさんが食べるコンビニ弁当のような質素なものはあまり食べたことがない。
今日のメニューはご飯とお味噌汁は当たり前として、他にサラダと卵焼きを作った。
コンビニ《弁当屋》で買うより手作りしたほうが安上がりで、食べやすい。
ちなみに今日のメニューがちょっと少ないのは、2日前からのトレーニングで疲れた体が回復しきってないからだ。
何故回復しきって無いのかと言うと、私の体は、いくら回復速度が早くとも、終盤になるにつれて、どうしても速度が下がってしまうからである。
まぁこれは私だけでなく、みんなそうなのだとか。
私が今日しようとしている枯渇再生ループは、何回か試した結果、ある程度――だいたい8割くらい――回復していないと意味がないことがわかったんだ。
さて、朝ご版も食べ終わったし、走り込みからやりますかねぇ……。
リュックに水晶、水筒、お弁当を入れて私は寮を出た。
頑張るかぁ……。
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徒歩10分でいつもの河川敷についた。
リュックを木下に置いて私は日本人なら誰でも知っている『ラジオ体操』を行った(もちろん音楽は無い)。
「いち、に、さん、しっ」
声に出す意味は特に無いんだけど、なんとなく声を出してみる。
アキレス腱を切ったりしたら悲惨だもんね……念入りにやっておこう。
もし切れちゃってもここは剣と魔法のファンタジー世界。回復魔法で直してもらえると思うからあんまり心配は要らないかもだけどね。
でも怪我はしないほうがいいもんね。
そんなことを考えていたら、ラジオ体操はあっという間に終わった。
よし、体操も終わったし走ろうかな。
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二時間後。
流石にダッシュで二時間走り続けるのはきついよ……。
でも誰も私が元引きこもりだなんて、1ミクロンも思わなさそうだなぁ。
英雄補正ホント最高!一種のチートじゃん!
この調子で頑張り続ければ日本に帰れる日も近いんだろうなぁ……。
――いやいや茉莉よ、自惚れるのは良くない。
日本にいたときもそれが原因で、同じ女子から大量の嫉妬の感情を買い占めたじゃないか。
傲慢になるのは良くないよ。
よし決めた。
これから先どんなに強大な力を手に入れても調子に乗らないようにしよう!
……あ、できる範囲でね……。
早く力がほしいな〜……。
そんな物騒なことを考えているうちに疲れたからだが回復してきた。
本当は体を休めてるときに魔力を無駄づか――ゴホンッ!
魔力を効率よく使っていこうと思ってたのに……。
まぁいっか、うん。
悔やんでも仕方ないもんね。
たしかこういうときに『後悔先に立たず』っていうことわざが使えるんだっけ?
そんなことを考えながら、私は水晶を取り出した。
サッカーボールほどの大きさがあり、それでいてガラスのよう。
しかし、落としても割れることはなく、きれいな空色で、中は透き通っている。
見ているだけで心が洗われそうなほどに美しい。
……いや洗われるような汚い心は持ち合わせてないんだけどね。
異論は認めません。認めないったら認めない!
私は水晶に手をかざすと、日本に住んでいたときに好きだったものを思い浮かべた。
その瞬間、私の体から魔力がごっそり抜け落ちていく感覚がする。
もともと私の魔力は無に等しいから、ちょっと減っただけでもすぐにわかるんだよね。
魔力が抜け落ちていく感覚を合図に、私はユニークスキル【智慧者】を発動させる。
途端に魔力の消費速度が大幅に上昇したが、これでいい。
――私はトレーニングをしているだけ、私はトレーニングをしているだけ、私は――。
自分に言いきかせるように呟きながら私は魔力の無駄遣い――トレーニング――を続ける。
実はこれ、集中力が無いとすぐに途切れてしまい効率が悪くなってしまうのだ。
その点私は、『継続は力なり』『塵も積もれば山となる』などの言葉をモットーとしているだけあり集中力は一般人の数百倍はあると信じている。
つまりこの技は、ユニークスキル【智慧者】と、私の桁外れな集中力が生み出した、“技”なのである。
【智慧者】は、使用者の思考を100000倍にまで加速でき、その能力で一秒が途轍もなく長く感じられるのだ。
だがしかし欠点はある。
いくら【智慧者】を使っても早くなるのは思考だけなんだよね。
つまり身体能力はもちろん、体力や魔力の回復時間の短縮は上がらないんだ。
でも、思考加速能力だけでも十分にチートと言えるし、私は特に文句はないんだけどね。
永遠とも言えるような長い時間を耐えきった私は、強い倦怠感に襲われる。
実際には10秒も経っていないのだが、【智慧者】を使うのと使わないのでは大きな差が出る。
大して魔力を持ってないくせに……などと思われるだろうけど、魔力保有量の少ない人間は、多い人間に比べ、使用効率が悪いのだとか……。
簡単に説明すると、魔力が多い人は、魔力を放出させやすく、その逆で魔力が少ない人は、魔力をうまく使えず、なかなか魔力を放出できないということだ。
ごめんね、説明下手で……わかってくれるといいんだけど。
10分ほど休憩し私はまた走り出す。
体力は走っているうちに気づいたら多くなっていた。
ダッシュで何時間も走り続けるのは流石に無理だけど、ジョギングくらいならいつまでも走っていられる気がする。
マラソン選手になれそう。
日本にいた頃とは比べ物にならないくらいに早く、強くなっている。
我慢強さもあがった、体も強くなったし、もともと良かった頭も更に良くなった。
今の私は何でもできそう。
――その時、強い光に視界を一瞬奪われた。
――さらに、私の周りの時間が止まった気がした。
【ユニークスキル、忍耐力を獲得しました】
【続いて、ユニークスキル、持続力を獲得しました】
――――え?
思わず思考が停止した。
「あのときの……こえ……?」
はっきりと聞こえた。
スキルを獲得したと。
聞き間違いじゃない……鮮明に頭の中に響いてきた。
スキルを獲得した……?
しかもユニーク《オリジナル》スキルだって……?
でもオリジナルって英雄召喚術で召喚されるときにしか獲得できないんじゃ――。
どういうこと……?
情報がほしい。
そうだ、学園の大図書館に行こう。そこになら私の望む情報があるはずだ。
私は荷物をリュックに詰め込み、回復した体力を使い、走って大図書館に向かった――。
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茉莉がユニークスキルを手にする直前、空が一瞬強く光った。
それと同時に茉莉に続く、新たな英雄が召喚された。
そう、あの強い光は聖教教会の宮廷魔術師たちによる、英雄召喚術の際に発生するものだ。
キースは小さく呟いた。
「やったぞ」
と。
小さな声だったのにもかかわらず、宮廷魔術師たちはしっかり声を拾っており、
「今度こそ成功だ!!」
と茉莉が召喚されたときのように皆それぞれ喜びを表現している。
――しかし、そう上手く英雄召喚術を成功できるはずがない。
クリフはハンスに英雄の能力を確認させた。
「ハンス、頼む」
クリフが短く伝える。
ハンスが英雄によっていき、魔法を使用する。
茉莉に使ったのと同じ魔法だ。
調べ終わったのか、ハンスが神妙な面持ちでクリフのもとに戻ってくる。
いつの間にか宮廷魔術師たちの顔から笑顔が消えている。
彼らも何か察したようだ。
「どうだった」
「だめだった」
そんな短いやり取りに宮廷魔術師達は崩れ落ちた。
無理もない。
これで二回目の失敗なのだから。
むしろこのペースで英雄召喚術を使えている方が異常なのだ。
「身体能力、魔力抵抗値、魔力保有量すべてが異常なんだが、なぜかユニークスキルを持っていない」
ハンスの言葉にクリフは目を丸くする。
英雄が今までユニークスキルを持っていなかったことは過去に一度を除いて一度も無かったのだから。
(また失敗か……)
今までに何度も、英雄召喚術を使用しているにもかかわらず、成功したことは一度としてない。
何を持って成功とするのかと言うと、『身体能力の高さ』、『魔力保有量の多さ』、『魔力抵抗値の高さ』。そして『ユニークスキルの有無』の4つである。
これまでに、惜しいものは何人かいたものの、みな、何かしら必ず欠けていたのだ。
人間を異世界《地球》から無理やり連れてこれる方が異常なのだ。
失敗するたびに修正を加えることも怠っていない。
魔力を注ぐときにも出し惜しみはしていない。
それなのに、英雄召喚は成功しないのである。
これでは無闇矢鱈に、片っ端から英雄召喚されている人間が可哀想だ。と。
しかしクリフには『止まる』という選択肢は無かった。
否、クリフは止まれない、引き返せないのだ。
彼は引き際を誤ってしまった。
いつ引こう、いつ引こうなどとのろのろ考えているうちに、タイミングを逃してしまったのだ。
「――随分と弱くなったものだ」
彼の声が漆黒の闇へと消えていった……