3-1
「ふええ、疲れたよぅ。もうおうち帰りたいよぅ…」
「ご主人様、大丈夫かい?」
入学してから何日たっただろうか
毎日の厳しすぎる特訓にも負けず、幾分とこの環境にもなれて…はいなかった
相変わらず、私は魔力を持たない。
なのにどうして、この学園生活を続けることができるのか?
答えは、魔力に代わるものを見つけたからである。
それは、『体力』
魔力というものは、基本的な仕組みは一般的な体力と似ている
私が使い魔を召喚できたのは、魔力の代わりに体力を使用していたからだ。
つまり私の特訓は一つ、体力づくりのみ
ランニングや筋トレ、あとは使い魔に体力増強の魔法をかけてもらいながらの瞑想である
正直、一番最後がきつい。他のより数倍効果がある分すごく疲れる。
「大丈夫だよ、多分。しかし、私もだいぶ強くなったんじゃない?」
「そうだネ、まだまだ戦闘はムリかもだけド、護衛程度ならご主人様でも大丈夫ダヨ!」
「ははっ、まだ護衛レベル…先は長いなぁ…」
慣れてきたのか、厳しくなった使い魔の言葉に思いっきりうなだれる。
こんだけ厳しい修行して護衛レベルなら、空飛ぶのなんて、想像しただけでも…
「ワカナさん、調子はどうかしら?」
後ろからふと声をかけられる。
振り向くと、ニコニコしたセツナ先生が居た。
「セツナ先生!まあ、ぼちぼちです…」
「そうなの~。キョウタ君、そろそろ…アレ、いいんじゃないかしら~?」
「アレか…。ウィ、そろそろいいかもネ!」
ア、アレ…とは?
ぼかした言い方をされると不安になる……。
まさかまた手を切る……?あれはもはやトラウマになっている。
「それじゃ、アレしますか~。ご主人様、ちょっと待っててネ?」
キョウタはそういうと、カラフルな髪を揺らしながら回転した。
そしてそのまま元の世界へと戻った。
「ご主人様~。マタセタナ!デス!」
すぐに元気よく戻ってきたキョウタ。
高々と掲げる右手に握っているものは…
「……なにそれ、木の…棒?」
よく公園とかで見る、木の棒だった。
「ノンノン!ただの枝じゃないヨ!シンハに頼んで出してもらった…いうなれば、魔法の杖みたいな感ジ!ちょっとビジュアルは悪いけどネ。」
ちょっとどころか、まんま枝である。
先の方に赤色のジュエルがついているものの、ちょっと外で折ってきました!って紹介しても通じると思う。
小学生の時よくチャンバラで使ったなぁ、当時は太いの持っただけで最強の気分になったけど……今見ると、弱そう……。
「でも、魔法の杖……ってことは武器!?」
「そんな感じだヨ。でもこれプラスご主人様だけだったら、某スライムも退治できないけどネ」
やん、キョウタったら辛辣…
でも言う通りだと思う。少し鍛えて棒持っただけで世界救えるなんてそんな楽なものないよね?
人生ってハードモード!
「そこで、ミーの出番ってわけサ!今からその杖に、魔法をかけてみせまショウ!」
魔法って…ものすごくロマンチックな響きだね
…まあこっちではもっと狩猟的なものなんだろうけど
「説明しても理解できないだろうからやってみヨ!ご主人様、杖を構えて強化魔法をかけてみテ?」
強化魔法…?た、たしか、フォートだったかな…?
杖を強く握り、念じるように呪文を唱える。
すると、淡く光りはじめた。
他から見たらわからないレベルの本当に小さな光だが、確かに杖へと自分の力が伝わっていく感覚がある。
「おお、できた…!」
「うん、OK!そしてミーが…『フォート・ウィズ・フレイム』!」
キョウタが杖に手をかざし、呪文を唱えると…
「う、うわああああ!?ちょ、ちょ燃えてる!?」
なんということでしょう!
持っていた杖が、あっという間に燃え出したではありませんか!
しかし、焼け落ちる様子はなく、それどころか少しも熱くない。
魔法だからなのだろうか。
「ミーが今唱えたのは強化魔法の火属性バージョンだヨ!」
そっか、キョウタは火属性だったっけ。
すごいなぁ。これなら強いかも!
しかし、炎が燃え盛っていたのは一瞬。
すぐに小さくなっていき、やがて火は消えてしまった。
光もなくなっていて元の木の枝に元通りだ。
「ちょっと、まって、つ、疲れた……」
原因は私である。
さきほど厳しい修行を受けたせいか、すでに体力の限界が地下近かった。
半引きこもり生活を送っていたのもあり体力は通常の人より少ない、そんな長く使えるわけないか…
うーん、でもこれ、コツ掴めばいい感じになりそう!
「ご主人様、大丈夫かい?とりあえず、今日はここまでにしておこうカ。」
「……ぜぇ、はぁ、はい、そうしま、ショウ………」
息切れしながらも、見えてきた希望に小さくガッツポーズをした。
***
「ふあぁ、今日は疲れたぁ……今日ほどソワンルームの素晴らしさを実感した日はないよ~」
使う機会なんてないと思ってた!
なんというか、素晴らしかった………
心が浄化されて、生まれ変わる感じがした………
「そうですね。ボクは…もうちょっと頑張らないと、はぁ。」
ちょっと手ごたえのあった私の隣を歩きながら、うなだれるナルハちゃん
どうやら、シンハちゃんとの連携がうまくいかないらしい。
喋ってくれないから、意思がなかなか伝わりにくいんだとか……
二人が会話してるのを想像すると、ちょっと和む気もするけど。
いつもどおりの他愛もない会話をしながら、自室へと向かう廊下を歩く。
そして、寮室の扉を開けると
「あれれ~!!絶好調のワカナちゃんと魔力の高いナルハちゃんだ~!!お疲れ様で~す~なのだ~!!」
………また、リアスが死んでいた
正しくは、床でゴロゴロしながら唸っていた。
「……リアス、どうしたの?ここ最近、部屋に入るたびにその調子だけど…」
「帰りたくて仕方ないのだ。ホームシックってやつなのだ。…なんであんな奴と契約になっちゃったのかなぁ…このやろー……ちくしょー……」
ああ、やっぱりマオちゃんか………
「ええと、きっと大丈夫ですよ?最初は駄目でも、いつか連携できるときが……来るはず……来ると思います………来るといいですね…?」
最後疑問形になっちゃったよナルハちゃん…
まあ、やっぱりいきなり出会った相手と相棒になれー!っていうのもなかなか厳しいのね…
私がキョウタだったのはラッキーだったのかな?
もしかして私って結構幸運?
いや幸運体質だったらこんなとこ来ないでしょー!
…と、自分でツッコミを入れ、少し寂しくなった
『……こちら隊員No.5。ターゲットを発見、どうするか。』
『こちら隊員No.6だ。むやみに手を出すだ、No.5。ターゲットに傷をつけたら…どうなるかわかるだろう』
『こちら隊員No.3。ターゲットが部屋に入っていきました。同級生らしき奴といますが…』
『……なんだか頭の悪そうな奴だな。しかし騒ぎを起こされては困る。ターゲットが一人の時を狙うのだ』
『こちら隊員No.4。あの茶髪は無害そうですが、もう一人の金髪は気を付けた方がいいかと。』
『こちら隊員No.2。了解した。…隊長、今日のところはいったん引きあげますか?』
「………うむ、そうだな。作戦実行は明日だ。皆、気を引き締めろ」
了解という機械越しの声をきき、無線を切断する。
隊長、と呼ばれた男は、ため息をつきながら椅子にもたれかかる。
目線は、寮の様子を写したモニターから、机に置いてある写真へと移る
「………待っていろナルハ。すぐに連れ戻す」
他に誰もいない部屋で、男の怒りに満ちた声はすぐに消えていった




