2-1
「さて、ここがあの女のハウスね!!」
「…?あの女?いえ、ワカナさん、ここはXクラスの教室ですが…?」
懇親のボケに真面目に返された。
…ナルハちゃんにはさっきからマジレスされてばかりである。
やっぱりこっちではこういうネタ通じないの?それともナルハちゃんが真面目可愛いの?
いやどっちでもいいけど。ナルハちゃん可愛いから。
審査とクラス分け、それと入学式を終えた私達は、クラスの違うリアスと別れた。
B棟へと向かう彼女へ手を振ったが、リアスはとっても不機嫌で振り返してくれなかった
決められたクラスは仕方がないよ!悲しまないで!
というのは言ったらぶん殴られそうなので心の内に秘めておく
そして、ナルハちゃんとこれから共に学ぶことになるXクラスの教室前に来ていた。
先程の待合室と同じ形をした教室は、やはりデカイ。来るときに見たけど、他の教室も同じ感じだった。
全体的に生徒数が多いのかもしれない…
「失礼しまーす…うわっ、広…」
「50人ぐらい入っても平気そうですね…」
横にスライドする形の扉は、少し軋んだ音を立てながら空いた。
少し古い教室なのだろうか?
教室の中には黒板代わりであろう大きなプラスティック板と、机椅子が4個。
それらも使い込まれたような傷がちらほらあり、それ以外は何もない少し寂しい教室だった。
机椅子の二つは私とナルハちゃんの机だろうけど、あと二つは…
と、考えていた時
「よく来たなああああ!新入生いいいいい!!!!!!!」
「うわああああっ!?!?」
いきなり背後から大きな声が聞こえて心臓が跳ね上がる。
すぐに後ろを振り返えった
「「ようこそ、Xクラスへ!」」
そこには二人の少女がドヤ顔で立っていた。
一人は青髪。赤いハチマキを巻いている活発そうな女性。
もう一人は赤髪。長い髪を三つ編みにしてベレー帽を被っている。
…ていうかいつの間に?さっき見たときはいなかったのに…
「さっき見たときはいなかったのに…って顔してるな!ふふふ、そりゃあ今現れたからな!!」
青髪がふふん、とふんぞり返る。
「いやいやエルカ、さっきまで二人で天井に張り付いていたじゃん?」
すかさず、赤髪がツッコミを入れる。
「おいレイ!ばらすんじゃねぇ!!」
エルカと呼ばれた青髪の少女が怒鳴りつけるが、レイと呼ばれた赤髪の少女はくすくすと笑っている。
笑う赤髪を少し小突いて、青髪は咳払いをしこちらに向きなおした。
「…えー、ごほん。改めまして、Xクラスにようこそ!アタシはエルカ・F・カナリア。ここの三年で、お前らの先輩だ!」
と、勢い良く胸を叩く。
さっきからこの人…エルカさん?は声量がデカイ。凄く響いてる。
「うるさっ…。はいはい、うちはレイ・ベレル。一応学級委員長だよ~。この煩い馬鹿には務まらないからね~」
余裕をかますこの人がレイさんか。学級委員長、らしくはない飄々とした態度だ
そっかぁ、人数少ないんなら三学年一緒になるよね…。
なんか怖そうだなぁ…大丈夫かなぁ…
二つ上なだけで大きく見えるよ……
「あ、あの、えっと、ナルハ・ユミィ、です…。よ、よろしくお願いします…」
すかさず自己紹介に移るナルハちゃん、えらい
でも、とてもビクビクしてる…。
「ナルハか。ちっちゃいな~お前。」
「ふえ、」
「可愛いね~いいねぇ~」
「ふ、ふえぇぇ………」
あぁ、囲まれてる…。
こう比べると余計に分かる、ナルハちゃんの小ささよ……。
「ん、まあ、生意気よりはいいか。ところでそこの茶色いモサモサ、お前も新入生か?」
「モ、モサモサ……」
割と気にしている癖っ毛を指摘されて、ひるんでしまった。完全なる遺伝……親も弟も癖っ毛……
同級生のナルハちゃんが迷わず自己紹介をしているというのに、私がしないわけにはいかない。このクラスが縦割りでこの二人が先輩だというならば、上下関係はしっかりしておかなければ……
「あ、えっと……。ワカナ・リビットです」
私の名前を口にした瞬間、空気が凍ったのが分かった。
あまりにも冷たさが肌を刺激するので、その『凍った』が比喩的表現ではない事に気がつく。
本当に、空気が凍っていた。
「……………ワカナ、だと?お前が?」
その原因は、エルカさんにあった。彼女の声のトーンが途端に下がる。それは私がナルハちゃんに名乗ったときと同じ反応だ。
ということは…元の私のことを知っている?
「……何故、お前がここにいる」
「ちょ、ちょっとエル……」
レイさんがエルカさんをなだめようとする。
しかしエルカさんからは何やら水色の気が溢れ出て止まる様子はない。
こ、これって魔法…?
もしかして私……攻撃されようとしてる?格闘技の様な構えを取っているし、戦う気万端のようだ。
「なんだよ、レイ」
「…いや、うちらが知ってるワカナっていったらあのワカナだけどさぁ…これがそうには見えないよ?よく似た別人じゃね?」
あのワカナ、は恐らくこの世界の私だろう。やはり容姿はそっくりなのか…
でも今決闘はやばい、ただの人間だから死んじゃう!
「あ、ああああの!……私、実は記憶喪失になってて、自分のことがよくわからないんです……」
ごめんなさい、また使いますね記憶喪失ネタ!
なぜか皆納得してくれるから便利なんだよ!
結構自分では苦しいと思うけど……でも、エルカさんから出ていた水色のもやもやは私の言葉でスッと消えた
「…記憶喪失?それは本当か?」
「てことは、本人だけど本人じゃない…ってことだね、エル」
「…むぅ」
エルカさんは明らかに拗ねた。
でも、どうしてエルカさんは魔法を……?
この世界の私に何か因縁でもあったのだろうか?
「あの、このせかっ……いえ、昔の私って一体どんな…?」
そう問うとエルカさんは、俯いて何かを考え始めた。
そして顔をあげると、
「ワカナは、英雄だ」
と一言だけ、発言した。
再び黙ってしまったエルカさんの代わりに、レイさんがワカナについての解説を始める。
「ワカナ・リビットはね……この世界で一番の有名人だよ。彼女の事を英雄とかヒーローとかって呼ぶ人もいれば、悪党だって非難する人もいる。沢山の人間が彼女に心を動かされているんだ。……まあ、ワカナを崇拝する軍団が宗教作ったり、彼女の英雄活動に反対する人が暴動おこしたり、色々あったけどねぇ」
「や、やば……」
綴られた言葉の規模が大きすぎて、思わず本音が漏れる。
もはや指名手配犯である。
思わず冷や汗を書き後ずさる。そんな私を、レイさんとナルハちゃんが心配して見ている。
相変わらずエルカさんは静かだ。
……そんな空間に、パンッと手を叩く音が響いた。
「はいは~い。お楽しみのとこ悪いけど、一旦席についてね~?」
おの音は、セツナ先生が手を叩いた音だった。
そういえば、担任だったな…
先程まではキチッとしたスーツだったが、今はラフなワンピースの上にカーディガンを羽織っている。
「おお、セッちゃん!仕事終わったんだな!」
「エルカさん、セッちゃんは辞めましょうと何回言ったかは覚えてますか?」
「全く!」
エルカさんが、さっきまでが嘘だったかのようにまた声量を上げ騒ぎ出す。
……なんか先生ってたまに口調が変わる?
もしかしたらこっちが素なのかもしれない……
「…まあいいです。では皆さん、改めて自己紹介をお願いしますね~」
その言葉で、先生を含めた5人が向き合う。
「学級委員長で三年のレイ・レベルです!属性は絵。無属性の傘下なのでこのクラスにいます~。よろしく!」
レイさんが、笑顔で手を上げる。
「同じく三年のエルカ・F・カナリアだ!属性は氷。ご察しの通り水属性の傘下になるのだが、私が完璧過ぎて魔力量やばいからXクラスだ!よろしくな!」
エルカさんが、ふんぞり返りながら言う
「あ、え、えっと…。ナルハ・ユミィ、です。属性は花で、草属性の傘下なんですけど…その、魔力量が異常値を示しまして、Xクラスになりました。よろしくお願いします…」
ナルハちゃんが俯き、怯えながらに言う。
「ワカナ・リィビットです。属性は……無、で…。魔力量は…0です。それでXクラスです。よろしくお願いします…。」
私も続くが、言葉が上手く出なくて自信なさ気になってしまった。
「は~い、みんなよろしくね~。私はセツナ・サルパス。このクラスの担当で光属性です~。よろしくね~」
この四人、そしてリアスがこれから共に過ごす仲間たち
怖いし、煩いし、よくわからないけど…
大丈夫、きっと。そう自分に言い聞かせた
「ティーア・ドゥ・フラウ…」
そうつぶやくと、教室の床一面に花が広がる
よくアニメとかで見る花畑のようだ
咲いている花はコスモスや菜の花などの可愛らしい花ではなく、ラフレシアのような形の人食い花だが。
Xクラスに入って一週間。
私達1年生二人は、いよいよ本格的な特訓を始めた
ナルハちゃんは魔力を抑える特訓。
私は、エルカさんに体術を教えてもらってる。
魔法は使えないが、せめて護身術だけでも…この学園にいる限りは戦闘は避けられないらしいから、怖い。
今はセツナ先生のはった術式の中で、ナルハちゃんの特訓を見守っている。
魔力量の調整はとても難しいらしく、今も人食い花に術式を壊されそうになっている
驚いたよ。人って本当にピンチになったらこんなにも冷静になれるんだね
「ナルハさん!そこで自分に弱体魔法を!」
セツナ先生が叫ぶ。
本来相手にかける弱体魔法だが、それを自分にかけることで抑えることができるらしい
「っはい!リプフェーブ!!」
そう叫ぶと、教室中に広がっていた人食い花は一瞬にして消えてしまった
うまくいけば自分の一定範囲内だけに花を咲かせる事ができ、自由に操れるようになるという。
「…うーん。やはり難しいみたいだな。一つ一つの呪文の力が強すぎる。」
「フェーブの一段階弱いリプフェーブでも全部消えちゃうもんね…。」
エルカさんとレイさんは冷静に分析しているようだが、私にはさっぱりだ。
「…今日はここまでにしましょうか~。ナルハさん、ゆっくり休んで?明日までに何か解決策を考えておくわ~」
「…はぁ、はぁ……す、すみません…。」
一つ一つの魔力量は強いとやはり魔力の消耗が早いみたいで、ナルハちゃんは疲れ果てている。
といっても今日はこういう感じの特訓を少なくとも10回以上はした。
普通の魔道士ならば3回繰り返せば魔力が空になるレベルらしい。
***
「ナルハちゃん、大丈夫?」
「はい、ソワンルームでしばらく休んでいましたから。お部屋で眠れば明日には元通りです。」
ソワンルームっていうのは、保健室みたいなもの。個室化された部屋それぞれにシャワーが取り付けられており、それからでる水に含まれた治癒の力で通報する消費した魔力を回復する…らしい。
私はきっと、使う機会はないだろうけどね!
授業を終えた私達は寮へと向かう。
この学園は寮制で、三学年ごとに宿舎が分けられている。
5クラス+2人(もちろん私とナルハちゃんのことである)の生徒を、先生方が三人ずつに分けてくれ、同室になった三人で三年間を過ごすことになる
私の同室、まず一人はナルハちゃん。
クラスメイトがそれぞれ一人ずつしかいない私達を、セツナ先生が気を使って同じ部屋にしてくれたのだ。
そしてもうひとりは…
「ただいまー」
「ただいま戻りました…」
扉を開けると同時に挨拶すると、部屋の奥から声が帰ってくる。
金髪と青いリボンが揺れるのが見えた。
「おう、おかえりなのだ」
そう、リアスである。
審査の時に三人で行動していたのをセツナ先生は見ていてくれていたらしい。いい先生すぎて泣けてくる。
「今日も遅くまでか?Xクラスは大変そうだな。」
「は、はい…というよりは、 ボクが未熟なだけで…」
「大丈夫だよナルハちゃん!元気出して!」
「煩いぞワカナ」
「えっ酷くない!?」
いつも通りの扱いで流石に慣れてきた
会話をしながらも、リアスは机に向かったままだ。
なにやら書き込んでいるようだが…多分宿題であろう。
うちのクラスは割と実践が多いが、他の普通クラスは筆記授業が主らしい。
「リアスのクラスは今なんの授業なの?」
そう問うと、リアスは上半身だけをこちらに向ける。
その顔には「めんどくさいのだぁ」とはっきり書かれていた。
「…昨日までは魔法の起源。ぶっちゃけ4日も使う内容じゃないのだ。そして今は…水属性魔法の原理。…これも一週間かけてやるらしいのだ…。」
それはそれは深い溜息を吐きながら再び机に向かう。
先祖代々水属性だったリアスは、ある程度の常識は知っているらしい。
なんでもおばあちゃんに繰り返し言い聞かされたとか…。
確かに、気まぐれで予習した授業ほど面倒臭いものはないもんね!
「でも、そろそろ使い魔召喚なのだ。それが始まれば少しは退屈もなくなるのだろうな」
「そっかぁ。…ところで使い魔とは?」
先生!新しく聞く単語です!
いかにも厨二っぽいワードでワタクシ反応してしまいます!
「そんなこともしらないのか………ああ、そうか。忘れているのだったな。魔道士はな、必ず一人の使い魔と契約を結ばなければ行けないんだ。最初の試験、という感じだな」
「私達もその内やると思いますよ…!」
リアスとナルハちゃんからこってり説明を受けたのでまとめると、使い魔とは自分の魔法をサポートしてくれる良く言えば相棒、悪く言えば下僕らしい。
たとえば自分が攻撃の魔法を使っている時に防御の魔法陣をはってくれたり、相手に弱体魔法をかけているときに自分に強化魔法をかけてくれたりしてくれる、そんな存在だ。
ほかにも色々教えてくれたけどほとんど右から左へと聞き流してしまった。ごめんね?
「使い魔かぁ…。いいねえ、かっこいいねえ……!」
私にはどんな子が付いてくれるのかな?
全然想像つかないけど。世界を破滅させたドラゴンの末裔とかだったらどうしよ?
「で、でも、ワカナさん…?」
一人心を踊らせていると、ナルハちゃんに妄想を断ち切られた。
申し訳なさそうな彼女に告げられた言葉は、私を現実に引き戻すには充分だった
「使い魔の召喚には、魔力を使いますよ…………?」




