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目が覚めた
脳はまだ動かなく、意識は朦朧としていた
もしかして私は夢を見ていたの?
しかし、何だか初めて感じる空気だった
とりあえずあたりを見渡してみることにする
仰向けになって寝ているので、まず視界に入るのは見慣れるグレーの天井
そこへ手を伸ばすと、体は動いた
どうやら灰色のスウェットを着ているらしい……こんなの、持ってたっけなぁ?趣味じゃない……
左へと顔を向けるが、そこは壁
壁紙が違ったが、他には何の収穫も得られそうにもなかったので逆側を向いてみる
そこには見慣れない部屋
家具が少なく殺風景
ゲームもない、ポスターもない
どうやら私の部屋では無いようだ
じゃあ、ここは何処?
それにしても、さっきから足音が聞こえてきてるような……
「ワカナ、いつまで寝てるのだ!」
「うわああああああっ!?」
と、思っていたら突然に扉が開けられた
大声で怒鳴りながらズカズカと部屋に入ってきたのは、女の子だった。
きっと足音の主は彼女だろう
「うるさっ!ったく、玄関で待っていたのに一向に出てこないからまさかとは思ったが……まだ寝てたとは思わなかったのだ!」
二つに纏めた金色の髪を揺らしながら、透き通る様な水色の瞳を吊り上げて怒る彼女
その度に、頭の上で大きな青いリボンがぴょこぴょこと動いている
透き通った綺麗な白い肌も、怒りから赤くなっている
日本人ではないと一目で分かるその風貌は、昔絵本で見た「アリス」のようだった
いや、というか………
「……ありす?」
そう、唯一の友人、ありすこと有栖川美虎だ
彼女はありすに瓜二つだった
ありすこそ純粋な日本人で黒髪ではあったが、常に二つ縛りだったし頭に大きな赤いリボンをつけていた
ちなみに「ありす」というあだ名は、「美虎」という名前が男らしくて嫌というありすのために皆で決めた名前だ
誰にでも優しく、明るく、運動神経もよく、頭も良い、皆の人気者のありす
人とうまくお話できない私にだって、気さくに話しかけてくれた
そんな、素敵な女の子だ
しかし私がありすと呼んだ少女は、その言葉を聞いて眉間にしわを寄せた
「ありすぅ?まだ寝ぼけているのか、お前は……」
そして、一度深いため息を吐いてこう答えた
「私の名前はリアスなのだ」
「り、あす?」
首をかしげながら問うと、リアスと名乗った少女はそうだ、と肩を落とす
リアス。それが、私の目の前に立つ金髪の少女の名前のようだ
確かにいくら夏休みだといっても、金髪に染めてブルーのカラコンもいれ……ってのは少しはしゃぎ過ぎかもしれない
それに、ありすはもうちょっと優しい口調で話す
「もう・・・。ほら、早く支度を済ませるのだ。遅刻するのだ」
それにしても、リアスは不思議な格好をしている。
まるでファンタジー漫画に出てくるような服装だ。胸元には青色の宝石があしらわれたブローチも付いている。
こんな語尾にのだのだ付けないし・・・
「…って、え?遅刻って?今は夏休み…」
唐突に告げられたその言葉に耳を疑った。
現在夏休みの学生、特にニートの私にとって、遅刻なんてのは無縁の言葉
それに最後にカレンダーを見た時、たしかに今日の日付は8月1日だった。
じゃないと、あんなにゆっくり寝てられない。
「なんだそれ、夢の話なのか?全く、自分から起こしにこいと頼んでおいてヒドいのだ!」
夢?
ああ、そうか。
まだ夢の世界なのか。
ありすが突然グレて、外人っぽくなっちゃった夢。
と、思い頬を引っ張ってみるが、たしかに痛みを感じた。
夢、じゃない?
…………現実?
「今日は魔道士育成学園の入学式なのだ」
「………………………え?」
いろいろと思考していた頭の中に、いきなり入ってきた聞き慣れない言葉の羅列に思わず情けない声を上げてしまった
私、何してるんだろう
なんでこんなとこにいるんだろう
ええと、たしか夕飯の材料の買い物をしてて……
終わったから、帰って寝ようーって思って……
そしたら、……あれ、どうだったっけ?
何かで迷子になったようなー……?
そのあとは、…………そのあと?
…………あれ?
私、何したんだっけ…………?




