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NON-ATTRIBUTE  作者: mikuru
始まり
1/11

プロローグ

幼い私は、よく夢を見ていた。

夢というのは将来の目標や野望という夢ではなく、睡眠中に見る幻覚の方。


深海に潜り古代の遺跡を探検したり、背中から翼が生えて空を自由に羽ばたいたり、時にはゾンビに襲われて、ボロボロになりながら逃げ回ったり。

非現実な内容が多かったが、まるで本当にその世界を生きたかのような感覚になることが多かった。


そんな私の幻想の中に、よく登場していた人物がいた。

ここではその人を『私』と表現する。

というのも、見た目は今現在語り手である私にそっくりなのだ。

癖のある茶色の長髪をなびかせて、赤く燃える剣を振り回す姿が未来の私であることを強く願っていた。

いつか自分もそんな女性になりたい、そんなことを考えながら剣を持てば捕まるこの現実世界を生きてきた。



その日も『私』の夢を見た

舞台は静かな森の中で、登場人物は三人だけ。

『私』と、白髪の女性と、金髪の女性。

白髪の女性は苦しんでいて。

金髪の女性は泣き喚いていて。

『私』は笑っていた。


白髪の女性をよそに、金髪と『私』が何やら言い合っている。

喧嘩なんていう陳腐なものではなく、深刻な空気があった。



「―――」


『私』は腕を大きく広げた。全てを受け止めるとでも言うかのように胸を張り、曇りのない笑顔を見せる。

その瞬間、爆発音が響く。森は瞬く間に炎に包まれて、ゴウゴウという音と共に空を真っ赤に染め上げた。

金髪の女性が零した涙すら、すぐに蒸発させてしまうほどの熱だ。



「ごめん、ごめん……」


顔を大きく歪ませた金髪の彼女は、『私』へと銃を向ける。

そして、ゆっくりと引き金を引いた。



――――目が覚めた時、妙に息が上がっていた

外はまだ暗くて、時計は見ていないが大体4時前後だっただろう

寝汗がひどく、パジャマの背中は湿っていた


そしてなにより、両手が焼けたように熱かった

怖くて怖くて、その日は弟のベットでもぐりこんで忘れようと必死に目を瞑った

弟はとっても嫌そうな顔をしていたが、泣きじゃくる私を見てか拒絶はしなかった

冷えた弟の手を握っても、熱が覚めることはなかった



その夜から、六年が過ぎた



『私』の夢は、それ以来見ていない

夢を見ても、すぐに忘れてしまうような内容ばかりだ

そして、心霊番組を見た後弟の布団に潜ったら流石に追い出された



私……本村若菜は、今年で18歳である

8/1




「……ねーちゃん…………おきろー……」


誰かが私を呼んでいる

はっきりしない意識の端っこでカーテンを開ける音が聞こえて、ああもう起きる時間かと悟った

目を閉じていても差し込んでくる太陽の光が眩しくて、窓に背を向けるように寝返りをする


「…あと…じっぷん…」

「……ねーちゃん起きろ!もう昼だぞっ」


その言葉と同時に布団を剥ぎ取られ、一気に涼しい空気が私にまとわりついた

昨日は寝ずに頑張ろうと思っていたのだが、どうやら途中で寝落ちしたようだ。夏なのに寒さで震えたのは扇風機がつけっぱなしになっていたからだ。

風邪引くし電気代がどうたらっていつも弟に言われてたのに、やっちゃったなー……


「……………え、昼って」


なんと、今は健康的な起床時間ではなく昼だという。

昼、正午、12時過ぎ……つまり、今日はもう既に半分過ぎているという事だ


「ええっ!?どうしてもっと早くに起こしてくれなかったの叶矢ちゃんっ」

「ちゃん付けすんなっ!起こすの何回目だと思ってるのさ……」


全く、弟として情けないよ……とブツブツ文句を垂れる彼は弟の叶矢(かなや)

こんな時間までぐっすりな姉をわざわざ起こしてくれるあたり、結構優しい奴である

……って感心してる場合じゃあない!お昼に起きるなんて、結構大きな失態だ!


「トーナメントエントリー受付12時からなのにぃぃ!出遅れたぁ……」

「はぁ!?……ったく、起きて速攻ゲームかよ、いくら夏休みだからって怠けちゃダメだぞ」

「 怠けてないー!ゲームは私の立派な仕事でもあるのー!その為の夏休みなのよっ」


私は、自他共に認める格闘ゲームオタクだ

トーナメント受付、というのも私が愛してやまない格ゲー「ストレートファイヤー」のイベントのことである

私が参加するサーバー内や地元の大会なんかではかなりの有名人だったりするのだ

ランキングも結構上位、必殺コマンドなんかは全部頭に入っていてかなりの兵じゃない限りは絶対に負けない

ちなみに一番の使い手は、ラフな服装でヒラヒラと舞いながら戦う茶髪美女だ。かっこいい!


「はぁ……。俺、出かけてくるから。昼飯は作ってリビングに置いてある」


そう言われると、確かに叶矢はショルダーバックを持っていた。

服装もいつものTシャツだけではなく、その上にパーカーを羽織っている。

まさかデートか?とも思ったがそれは無いだろう。

叶矢ってば私より身長低いし母似の女の子顔だから……モテるどころか嫉妬の対象だ


………えっ私?彼氏どころか友達も少ないですが?


「……その目、デートじゃねぇよ友達の家だよ!」


ひぇぇ、心読まれた。

こいついつの間に読心術を……!?

…まぁそれは冗談として、こいつも高校生になるんだから色恋沙汰の1つや2つ起こしてもいいと思うんだ……。


「つまんなーいなー。まぁいいや、いってらっしゃーい」

「…いってきます。…ったく…。」


叶矢は深いため息をついて、私の部屋を後にした


弟の事も気にはなるけど今はゲームだ。

叶矢と会話しながらも私は既にストファイを起動しており、トーナメント登録を終わらせていた。

初期の方に登録するとシード枠に入る抽選に参加できたのだが……まぁいい、通常でも勝ち進めば良い話だ

オンラインで行われる試合は明日から、今日はゆっくりしようか


「そだ、お昼食べたらもう一眠りしよっかなー」

「させない。貴様には買い物という使命を与える」

「叶矢ちゃんまだ出かけてなかったの!?」


……どうやら今日はゆっくり出来なさそうだ


「………あっとぅーい…なんでこんなに暑いの…。」


現在、世の中の学生たちは夏休み。

部活動に務める生徒もいれば、アルバイトに励む生徒もいる


そんな中、帰宅部でNOアルバイトつまり無職である高校三年生の私は、ゆったりまったり半引きこもりライフを満喫していた。


あの後はとりあえず昼飯を食べた。

リビングには叶矢の言う通り、チャーハンが置いてあった。ちゃんとラップもついてた。

冷凍なのにあの美味しさは反則だよ、もう料理しなくていいじゃん?


そんなことを考えながら、今は弟に手渡された夕飯の買い物をするため商店街を歩いていた。



「えーと、ひき肉に…玉ねぎ…あとソースか…」


この材料からすると、今日の夕飯はハンバーグかな?

ほんとに私の弟は良く出来ていて、奴の作る料理は半端なく美味い。

特にハンバーグと肉じゃが。嫁に行けるレベルで美味しい。行かせないけど


家事は基本的に私の役目なのだが、料理だけは全て叶矢が担当している

たまには手伝おうとも思うのだが、叶矢が風邪を引いた日にお粥を作ってあげてから台所出入り禁止例を頂いてしまったので不可能なのである


美味しいご飯。

これは私が生きる上での数少ない楽しみの一つ。

学校は特に楽しくない、さっきも言ったけど友達は少ない……というか一人しかいない。

アニメも漫画も、気になったのは見るけど特にはのめり込んだりしない。

平々凡々な遺伝子で外見的な特徴といえばこのウザったい癖っ毛のみ

格ゲーは凄く楽しい。



(なーんか、つまんないんだよなぁ……)


この世界に「本村若菜」として生まれてきて18年

物心ついたときには、もう私は「つまらない人生」を歩んでいた気がする

趣味はゲーム、特技はなし。資格は漢検5級のみ。


もちろん、将来やりたいことなんてものは無い。

卒業後は……まぁ適当に就職しようかと

と言っても、こんな糞みたいなスペックで雇ってくれるような心の大きい会社様など見つかりそうにもないのだが

そんなことを進路調査票に書いて出したら、担任に「もっと目指すものはないのか?」って言われたっけ……。

そんなの、目指すものがあったら今頃我武者羅に頑張ってるでしょ



(何か面白いこと……ないかなぁ……)


例えば、宝くじで三億当選とか!

……まぁ、買ってもいないのにあたるわけないけど


それか、隕石が日本に接近して来たり!

……でも、何もできずに死ぬだけだよなぁ


あ、魔法が使えたり!!

……いやいや、さすがに非現実すぎる……



「まーいいや。さっさと帰って寝ーようっと」


グダグダ考えながらも買い物は既に終了していたのである

いつもならばゲームセンターにでも寄って、アーケード型の格闘ゲームで数回遊んでから買えるのだが、残念ながら手持ちがない。

すっからかんの財布には、学生証ぐらいしか入っていない。



家に帰ったら、とりあえず寝よう。

もし途中で目が覚めたら、ゲームでもしてよう。

そしたら夕方になって叶矢が帰ってきてくれる。

文句言いながらもいつものおいしいハンバーグを作ってくれる。

そんで、一緒に食べながらくだらない話でもしていよう


なんだ、私十分幸せなんじゃない?


そんなくだらないことを考えながらも、帰り路を少し早歩きで進む。

商店街は、お昼時とあって賑わっている。

どこを見ても人、人、人で、なんだか寄ってしまいそうなほどだ


そんな中、ふと視界の隅に異様な物体を写った

それはとにかく真っ黒。妖怪の類かと思ったが、よく見れば二つの赤い瞳があるのがわかった


「なんだろ、あれ……。犬?いや体格的には……猫?でも、猫ちゃんにしては大きいような……」


物体の正体は分からないが、一番形的に近いのは”狐”かもしれない

ジッと観察していると、黒い狐が路地裏へと入っていくのが見えた。


普段ならば無視して帰宅するのだが、今日はタイミングが少しばかり悪かった。

先ほどまで、面白い事を探していたのだ。

好奇心には勝てない……私は、その物体を追って路地裏へと向かっていった。


「確か、こっちに曲がった……はず?」


路地裏には、夜間しか営業のしていないスナックやら居酒屋やらそういう店やらの看板が並んでいた。

全ての店が営業時間外で、とても寂しく感じた


……まるで、自分だけ先ほどまでの世界から切り離されたような違和感。



「こっちかー!……いない。逆方向かなぁ……」



右にすすんで…左にすすんで…たまに戻って…まだ右へ…

そうして進んでいくうちに、どんどん静けさを増していく。

色とりどりの看板さえ少なくなっている



……ちょーっと、さすがにまずくない?これ


「や、やっぱ戻ろう……。………………でも、」



ここ、どこだろう

狐の事しか頭になかったので、どの道を来たかなんて覚えているはずがない。

えー、18にもなってまさかの迷子……?

とりあえず、スマホでマップを表示しよう……


危機的状況に陥ると、人間とは意外と冷静になるものである

持っていた買い物袋の中にほうりこんだスマホを取り出し、電源ボタンを押す

……が、びくりとも動かない


「え!?うっそ、まさかの電池切れっすか……?」


そういえば、昨日の夜、充電コードを刺した記憶がない

どうしてこんな時に限って……?

私の馬鹿!大馬鹿!ポンコツ!クズ!くせっ毛!!!




一人で大騒ぎしながら、とりあえず適当に進んでいく

というか、騒いでいないと心がおかしくなってしまいそうだった。

こういう狭いところは、孤独を感じるからあまり好きではない


しかし、進めば進むほど閉塞感は増していく。

もう怖くて仕方がなかった。

だんだんと、足も動かなくなってくる


「ちょ、なんで…?どうして、戻れないの……?」


壁に手をついて、休憩を取ろうとした、その時。


触れた壁に、違和感を覚えた

少し凸凹している。

よく見ると、それは文字のようだった。



「な、なにこれ……英語?ええっと……ヘルプ?」





《Help!!!


Help me Wakana!!!!!!!


Our woeld very need you !


If you don’t come, our world be broken…


I beg you! Read this!


    ”I open the door to the world of Satan”


from XXX 》


私、若菜はすこぶる頭が悪かった。

英語は中学生までで習った単語しかわからない

そして、英文は音読して読む派だった


そう、それがまずかったのだ。


私に理解できた単語はhelp、それと、readだけだった。

つまり、他の単語を読まず、意味も分からず、指示に従ってしまったのだ



「read……読む。この下に書いてあるのを読めばいいのかな?」






”I open the door to the world of Satan”



「あい、おーぷん、ざ、どーあ、とぅ、ざ、わーるど、おふ、さたん…?」








その言葉を口にし終えたのと、あたりが真っ白な光に包まれたのは、ほぼ同時だった



《助けて!!!


私達を助けて、若菜!!!!!!!


私達の世界は、あなたをとても必要としているの!


もしあなたが来れないのなら, この世界は壊れてしまう…


お願い!さあ、これを読んで!


    ”私は、魔界への扉を開ける”


 XXX より 》


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