第八話 王族
二学期が始まって数日経った頃。カキの家にある人物がやってきた。
「まぁ、ベルトラン様。どうされたんですか?突然家に来るなんて」
カタリナは突然の訪問者に驚きを隠せなかった。
「やぁ、カタリナ。別に用事というわけではない。ただ親族の顔を見に来ただけじゃ」
そう言ったのはジアッシュ国の国王、ベルトラン・ウィールドンだ。
ベルトランはカキの父方の祖父の従兄弟だ。
「ジョシュアはいるか?」
ベルトランはカタリナに訊ねた。
部屋にいると思います、とカタリナは答え、部屋まで案内した。
「ジョシュア、少し話でもせんか?」
ベルトランは部屋のドアを開け、ジョシュアにそう声をかけた。
「国王、わざわざ家へ来られたんですか?」
ジョシュアはベルトランを見るなりそう言った。
「そんな堅苦しい呼び方はいい。昔のように“おじさん”で構わん」
ベルトランはそう言ったが、そういうわけにはいかない、とジョシュアは拒否した。
「まったく・・・お前は昔から変なところで真面目というか、頭が堅いのぅ」
と、ベルトランは言った。
ベルトランはジョシュアの向かいに座り、カタリナは二人のためにお茶を淹れた。
「お前は仕事が多いから大変だろう。わしももっと減らしてやりたいとは思うんだが、お前は戦闘魔術師としてとても優秀だからついつい頼ってしまう」
ベルトランは申し訳なさそうにジョシュアに言った。
魔法界では国王が戦闘魔術師に対し、仕事を与える。
「べつに構いませんよ。それが俺の仕事ですから」
ジョシュアはそう答えた。
その後も二人は他愛のない話をしていた。
「いいんですか?いつまでもこんなところにいて」
不意に、ジョシュアが言った。
ベルトランがやって来て三十分経つ。
ベルトランは国王だから、やらなけらばいけないことがたくさんある。それをジョシュアは心配して言っているのだ。
「なに、構わん。それに、もうすぐカキが帰ってくるだろう?カキとも久しぶりに話をしようと思ってな」
ベルトランはそう答えた。
そうこう言っているうちに、カキが学校から帰ってきた。
「ただいま」
「おぉ、おかえり、カキ」
「え・・・ベルトランのじいちゃん!?」
カキはベルトランに迎えられて、とても驚いた。
「カキ!国王様だろ」
ジョシュアは部屋から出てすぐにそう言った。
居たのかよ、というようにカキはジョシュアを見た。
「べつに構わんと言ってるだろう、呼び方なんて」
ベルトランはそう言ったがジョシュアは聞く耳など持たず、 礼儀を教えなければならない、と言った。
ベルトランは何を言っても仕方がないと思ったのか、ジョシュアのことは無視をした。
「カキ、少し話でもしよう。学校のこととか何でも構わんから」
ベルトランはそう言って、カキと共に庭へと向かった。
「勉強合宿ホント死ぬかと思った。けど、今までで最高点を採れたからそれはけっこう満足だった!」
「そうか、それはよかったなぁ」
カキとベルトランは学校の話をしていた。
「カキ、お前も戦闘魔術師を目指しているのだろう?」
ベルトランはそうカキに訊ねた。
カキは笑顔で、うん、と頷いた。
「いつかみんなを守れるような強い戦闘魔術師になるんだ!」
カキは未来の自分を思い描いて、キラキラした目でそう言った。
「夢を持っていることはとてもいいことだ」
ベルトランは笑顔でそう言った。
「だがわしは、戦闘魔術師がいなくても平和な世界が来ることを願っているよ」
ベルトランはさらに続けた。
「わしは、ジアッシュ国の国民はもちろんのことだが、この魔法界すべての人々を家族のようなものだと思っとる。だから、繋がりを広げていけばいつか必ず、平和な世界が訪れるとわしは信じとる」
ベルトランの言葉に、カキは自分にそれができるだろうかと考えた。
「繋がりを広げるってどうやればいいの?」
カキはそう訊いた。
「そうだな・・・べつに難しく考える必要はない。学校で友達をつくるみたいな感覚でいろんな場所の人と仲良くなればいいんだ」
ベルトランは優しくそう言った。
「お前は誰かと仲良くなるのは得意だろう?カキならきっとできるよ。それに、これは一人でやるものじゃない。カキの友達が友達をとくって、さらにその友達が友達をつくる・・・それだけで、繋がりは広がるものだ」
ベルトランはさらにそう言った。
「うん!オレ、ベルトランのじいちゃんが目指す世界を目指すよ」
カキは笑顔でそう答えた。
最後にベルトランはカキの話をした。
「カキ、お前は〈神の子〉〈救世主〉であることを重く捉えてるかもしれん。だが、何も心配することはない。お前は〈神の子〉〈救世主〉と呼ばれる以前に、“カキ”という一人の魔術師なのだから」
ベルトランはカキのことを心配していた。〈神の子〉〈救世主〉と呼ばれる存在として生まれてきてしまったカキのことを。
だから、そのせいでカキがカキらしく振る舞えないようなことがないようにとベルトランなりにカキと接してきた。
少しでもカキにとって重荷と感じることがなくなることをベルトランはずっと願っている。
「うん。ありがとう、ベルトランのじいちゃん」
ベルトランの優しさを感じているカキは、笑顔でそう答えた。