第七話 地獄の勉強合宿
夏休み、カキたち魔法学校の三年生は、勉強合宿として学校に来ていた。
期間は一週間。ひたすら魔術や魔法界に関する勉強をするというものだ。
ちなみに、冬休みには実技合宿もある。
これは三年生だけが行う恒例の合宿だ。
なぜ三年生だけなのかというと、四年生からはそれぞれの希望のコースに分かれるため、基礎となる知識、実力をしっかりとつけるためだ。
「もうムリだー!」
カキは叫んだ。
「うるさい、気が散る」
ニコラスが煩わしそうに言った。
「まだ初日だぞ、カキ」
ビトも続けて言う。
「しかもまだ昼だよ?まだ夜まであるんだから、今からそんなこと言ってたらもたないよー」
シーラもそう言う。
「そんなこと言うなよ、シーラ。余計に気が重くなったじゃんか」
カキはすでに疲れきった顔をして言った。
「だ、大丈夫だよ。みんなでやっていればすぐだよ、すぐ」
マリアンはカキのためにそう言った。
ニコラスがため息をついて
「ったく、何でオレがお前らと同じグループで勉強させられてんだ」
と、言った。
「しゃーねぇだろ。五人グループ作れって言われて、オレたちには一人足りなくてお前が余ってたから入れただけなんだから」
カキは机に寝そべりながらそう答えた。
ニコラスは毒づきながらもどんどんペンを走らせて問題を解いていく。
カキ以外のメンバーは喋りつつも問題を解いていくが、カキはペンが止まっている。
カキは魔術の実力だけでなく、勉強のほうも苦手だ。カキにとって合宿は地獄の日々なのだ。
やっと夜を迎えたカキたちに、とんでもない話がやってきた。
「朝言い忘れてたけど、最終日に合宿中の復習としてテストを行う。グループのメンバー全員が七十点以上とらなければ、連帯責任で合宿中のプリント十倍の宿題を渡す」
エベラルドがそう言った。
クラスはとてもざわつき、収拾がつかなくなるほどだった。
中でも荒れていたのがニコラスだ。荒れていたといっても静かにだが。
「おいバカ。お前、七十点も採れるのかよ?いつも半分ギリのお前が」
机に肘をつき、手に頭をのせながらニコラスは言った。
「無理に決まってんだろ」
カキは悪びれもなく言う。
「どうしてくれるんだよ。お前のせいでオレたちまで巻き込まれるんだぞ」
ニコラスはイラつきながら言う。
「お前、寝る間も惜しんで勉強しろ。オレが厳しく教えてやる」
ニコラスは立ち上がり、カキを睨みながら言った。
「マジかよ・・・」
カキは耐えられないという風に呟いた。
「ちょっと、助けてくれよ・・・死ぬんだけど」
二日後、カキが助けを求めてビトたちに言った。
すっかり目にクマをつくっていて、本当にしんどそうだ。
「いや、ムリだし。っていうか、それくらいやらないと本当にムリだぞ、お前に七十点以上なんて」
ビトは助ける気はさらさらないらしい。むしろ、もっとやってもいいと思っているだろう。
「まぁ、勉強見てもらってるんだからさ。がんばれ!」
シーラも笑ってエールを贈ってくれるだけだ。
「最終日までの辛抱だよ」
マリアンも、助けてはくれないらしい。
「お前ら薄情じゃね!?」
カキはそう言ったが、誰もその言葉を聞いてはくれなかった。
そんなこんなでなんとか最終日までニコラスの厳しい指導に耐えたカキに、やっとテストの時間がやってきた。
「それでは五十分間のテストをはじめる。問題用紙は三枚だ。ちゃんと手元にあるな。それでは、はじめ!」
エベラルドの合図でテストが開始された。
問題は多かったが、半分くらいはプリントと似たような問題で簡単だった。
残りの半分も応用問題ではあったが、ニコラスの厳しい指導に耐えたカキにとってはそれほど難しい問題ではなかった。
結果、数ヵ所の間違いはあったものの、カキは自分にとって最高記録の八十七点を採ることができた。
「すごいじゃないか、カキ。これからもこの調子で頑張れよ」
担任であり、基礎知識魔術学の担当教師であるエベラルドはカキを褒めた。
「やればできるじゃねぇか」
「がんばったね」
ビトやシーラ、マリアンもカキの頑張りを褒めてくれた。
ニコラスに関しては、オレが教えてやってるんだからそれくらい採ってもらわないと困る、と言っていたが、内心カキの点数に安堵していたようだ。
とにかくこれで、カキの地獄の勉強合宿は無事に終わったのだ。
カキはテストの点数と合宿が終わったことにとても喜びながら帰っていった。