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魔術師たちのカナデアイ~交錯する想いと戦い~  作者: 衣月美優
第一部 魔法学校の日常
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第六話 クラスメイトの協力


「抜き打ちテストをする」

 実践魔術学担当のユリシーズ・ボイデル先生の言葉に、カキたちが悲鳴をあげた。

 彼は三十代前半で、厳しい先生だ。かなりの生徒が恐がって近寄らない。

 そんなユリシーズはよく抜き打ちテストをする。

「静かにしろ。今日のテストは光を生み出す魔術だ。これができなければ、暗闇で活動できない。失敗したやつは放課後、再テストだ」

 ユリシーズはそう言った。

 カキたちはいつものことなので、抵抗することを諦めた。

「それでは、一番から順に私のもとへ来い」

 その言葉で、抜き打ちテストは開始された。

 カキは早い段階で順番がまわってきてしまうので、少し焦っていた。

 今までの抜き打ちテストは、だいたいイタズラでやったことのあるものだったので失敗しなかったが、今回のは違う。

 この魔術はイタズラにしにくいからやったことがないし、何より苦手だからやらなかった。

 光を生み出す魔術というのは、光を魔術で出すというわけではなく、魔力を光に変えるというものだ。

 そのため、魔力を手のひらなど一ヶ所に集める必要がある。

 カキはその段階ですでにあやしいのだ。

 今回のテストはダメだろう、とカキが思っていたところで順番がまわってきた。

 カキはとにかく自分の全力を出そうと、テストに臨んだ。

「それじゃ、いきます」

 カキはそう言って、手のひらに魔力を溜めた。

 が、やはりちゃんと溜められず、光に変えることもできなかった。

「放課後、再テストだぞ」

 ユリシーズにそう言われ、やっぱり、と肩を落としてみんなのもとに戻っていった。


 放課後、カキと数名の生徒の前にユリシーズがやって来て、再テストが開始された。

 数名の生徒は二、三回やると成功し、帰っていったが、カキは何度やってもできない。

 いつまでたっても成功しそうにないカキに、ユリシーズは大きなため息をついて

「カキ、もういい。明日の放課後、もう一度見てやる。それまでに完璧にマスターしろ」

 と、言った。

 カキは、明日の放課後までじゃとてもできない、と思いながら家へと帰った。




「昨日結局できなくてさ。今日の放課後にもう一回見せろって。完璧にして」

「うわ、おつかれじゃん」

 休み時間、机にうなだれているカキにビトはそう言った。

「練習、協力しようか?」

 シーラは疲れ気味のカキにそう訊いた。

 カキはバッと体を起こして

「いいのか!?」

 と、興奮気味に言った。

「もちろん。ほら、ビトも協力してよ」

 シーラの言葉に、ビトはめんどくさそうに

「はぁ?何で俺まで・・・」

 と、ブツブツ言っていた。

「わ、私も協力するよ、カキくん」

 シーラの影からマリアンが顔を出し、そう言った。

「サンキュー、マリアン」

 カキは協力者が増えたことに喜んでた。

「ほら、ビトもブツブツ言ってないで協力して」

 シーラの言葉に、ビトはため息をついて

「わかったよ。ったく、めんどくせぇな」

 と、答えた。

 そうして、さっそく練習をはじめた。

「カキは魔力を集めて溜めるのが苦手なんだよね?じゃあ、たくさんじゃなくて少しだけ溜めようって考えてやってみて」

 シーラの言葉に、カキは頷いて実践してみた。

「少しだけ、少しだけ・・・」

 カキは言葉に出しながら、少し溜めて光に変えてみた。

 すると、魔力が少なかったので一瞬だったが淡く光った。

「で、できた。一瞬だったけどできた」

 カキははじめて成功したことに感動した。

「けど、それじゃあユリシーズ先生は合格にしてくれないだろうな」

 感動しているカキに、ビトはそう言った。

「だ、大丈夫だよ。放課後までまだ時間あるし・・・次はもっと魔力を溜めてやってみよう?」

 マリアンはカキに気を遣って言った。

 だが、その休み時間はそれ以上進展しなかった。


 放課後、カキはユリシーズのもとへ行った。

 今日は結局、みんなと同じくらい長く光を生み出すことはできなかった。

 シーラたちにせっかく協力してもらったのに悪いな、と思いながらカキはユリシーズの再再テストを受けた。

 今日の休み時間のことを思い出しながら、手のひらに魔力を溜めていく。

 そして、溜められた、と思ったときに光に変えてみた。

 光を生み出すことができた時間は十秒。

 みんなから比べればとても短いが、カキの中では最長記録だった。

 これも、シーラやマリアン、ビトの協力のおかげだ。

 でも、きっと不合格だろう。みんなよりずっと、短い時間しか光を生み出すことができなかったのだから。

 そう思っていたときだった。

 ユリシーズはため息ともつかない息をはいて

「まぁ、今回は合格にしてやろう」

 と、言ってきた。

 思いもしない言葉だったので、カキは幻聴かと思った。

「今日、お前がシーラ、マリアン、ビトの協力のもと、必死に頑張っているのを見た」

 見られていたのか、とカキは驚きを隠せなかった。

「クラスメイトと共に頑張るのはとてもいいことだ。お前のこれからに期待して、今回は合格にしておく」

 ユリシーズの話に少しついていけなかったが、とりあえず『合格』という言葉にカキはとても喜んだ。

「よっしゃあ!先生、ありがとう!」

 そう言って、すぐに

「先生ってもっと恐いイメージがあったけど、本当は優しいんだな」

 と、言った。

 ユリシーズは照れたようで、カキから目を逸らして

「何だそれは。失礼なやつだ」

 と、言った。

 その後、カキはシーラたちに合格を知らせ、一緒に喜んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう先生こそ教育者の鏡ですね。魔法の技術だけでなく。生徒同士の協力を尊重するあたりが。
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