第四話 カキとニコラス
カキとニコラスはクラス内では知らない人がいないほどの犬猿の仲である。
普段は冷静沈着でクールなタイプのニコラスもカキといるときは少々感情的になる。
だが、この二人の言い争いは実にくだらないものばかりである。
たとえば授業中。ニコラスは天才と噂されるだけあって、基本的に何でもすぐにうまくこなす。
カキはそんなニコラスをあまりよく思っていないようだ。それはカキがニコラスと対照的だからだろう。
カキはどちらかといえば落ちこぼれているほうだ。何をやらせても、できるようになるまでものすごく時間がかかる。
〈神の子〉〈救世主〉と呼ばれるような存在であるにも関わらず、そのような落ちこぼれであることにカキは少なからずコンプレックスを抱いている。
カキが〈神の子〉〈救世主〉であるというのは周知の事実である。それだけにカキは自分の実力に思うところがあるのだろう。
カキがニコラスに対して抱いているのは、あんな風に何でもできるようになりたい、という憧れと、あいつに比べてオレは・・・という劣等感だ。
だからカキはニコラスに対してすごく敏感なんだろうと思う。
だけど、ニコラスがカキになぜそこまでつっかかるのかは誰もわからない。
べつに放っておけばいいのに。言わせるだけ言わせていたって、ニコラスはなんてことないだろうに。
今日はカキはイタズラはせず学校を出て、誰もいない広い場所で飛行魔法学の練習をしていた。
何度も何度も失敗して、それでも何度も何度もチャレンジした。
「はぁー、くそ。何でできねぇんだ」
小言を言いながらも頑張っていた。
そして、やっと五分間浮かぶことができた。
「よっしゃ!」
と思ったのもつかの間、あっという間に地面に叩きつけられた。
「うわぁ!」
気を抜いたらすぐに落ちてしまう。トラヴィスの言うとおりだ。
今度は気を抜かないように、ともう一度チャレンジした。
そして、今度は五分を越えても落ちることはなかった。
カキは少し飛んだまま移動してみようと試みた。
慎重に、慎重に、集中しながら少しずつ進んでいった。
そうしてさらに十分ほど経ってから、また落ちてしまった。
「くそー、またはじめからか」
そう思ったとき、少し向こうにニコラスがいるのが見えた。
どうやらニコラスも飛行魔法学の練習をしているようだった。
(あいつもまだできていないのか・・・?)
カキは意外だと思った。
あの天才と噂されるニコラスがこんな風にできないものがあって練習しているなんて、カキにとっては衝撃だった。
しばらく様子を見ていたカキだが、突然ニコラスが消えた。
「え?」
そして、うしろに気配を感じたが、足を引っかけれて派手に転んだ。
「うおっ!?」
「何コソコソ見てんだ」
ニコラスが瞬間移動でカキの背後にやって来たようだった。
カキは起き上がって
「べつにコソコソなんか見てねぇよ!」
と、言った。
「誰にも言うなよ」
ニコラスの言葉に、カキは頭にはてなマークが浮かんだ。
それを感じ取ったのか、ニコラスはカキのほうを見ずに答えた。
「オレが飛行魔法学の練習をしてたことだよ」
カキにはわけがわからなかった。
「は?何で?」
ニコラスは相変わらずカキのほうを見ずに
「オレがこんな風に練習してるなんて知られたらカッコ悪いだろ」
と、言ってきた。
「何でだよ?お前、できる魔術だってよく練習してるだろ?」
カキのこの言葉にニコラスは目を丸くして、カキのほうを振り返った。
「は?何でお前がそんなこと知ってんだよ」
「え、だって、たまに見かけたし」
ニコラスは唖然としていた。
カキはカキでニコラスの反応にタジタジだった。
しばらくの沈黙のあと
「そんなことよりさ、オレと競争しねぇか?そのほうが上達するような気がするんだけど」
と、カキが沈黙を断ち切るために言った。
ニコラスはしばらく考えたあと、少しだけだぞ、と言ってカキに付き合うことにした。