第二話 魔力のコントロール
飛行練習場という名のグラウンドに、カキのクラスは集まっていた。
「まずはじめに、なぜ三年生になってから飛行魔法学を習うのかというと、一、二年生の間に魔力のコントロールをある程度できるようになってからでないととても難しいからだ。一年生からいきなり始めても、そう簡単には乗れない」
そう話し始めたのは飛行魔法学担当の上級魔術師、トラヴィス・ワイアット先生だ。
彼は五十歳のベテラン教師だ。カキたちの親世代も教えていたそうだ。
「とにかく、飛行魔法学は魔力のコントロールがどれだけできるか、というのが重要だ。苦手な者は努力するんだぞ」
そして、飛行魔法学の授業が開始した。
みんなそれぞれトラヴィスから渡された杖を使って練習する。
その杖は自分専用のもので、高等魔術を使うときにもこの杖を使わなければならない。
つまり、これさえあれば空も飛べるし魔術も使える、一石二鳥のとても大切な道具だ。
「よっしゃ、やってやる!」
カキは意気込んで杖に跨がった。
杖に魔力を送り込み、だんだん浮き上がってきた。
が、次の瞬間、地面にべしゃりと落ちてしまった。
「大丈夫か、カキ」
ビトがカキの顔を覗き込みながら訊いた。あまり心配そうではない感じで。
カキは起き上がり、もう一度チャレンジした。
でも、やっぱり少し浮かぶ程度だった。
「くっそー、全然ダメだ」
カキは何度も何度もチャレンジした。
そこへ
「苦戦してる?」
と、シーラとマリアンがやって来た。
なんと、シーラは杖に乗って飛んでいるではないか。
「え!もう乗れたの?」
カキもビトも驚いた。
シーラは嬉しそうに、うん、と頷いた。
「どうやったの?」
カキは自分もはやく飛びたいので訊いてみた。
「うーん、何て言うのかな・・・魔力を均等に杖に送り込むって感じかな」
シーラはあまり意識してやっているわけではないらしく、言葉にするのが難しいという感じだった。
そこへトラヴィスがやって来て言った。
「ほぅ、シーラはもう飛べたのか。感心、感心。カキ、今のシーラの言葉は大正解だぞ」
そして、みんなにも聞こえるように言った。
「いいか、はじめにいったようにこれは魔力のコントロールが重要だ。魔力を均等に杖に送り込まなければ、すぐに落ちたりとんでもない飛び方をしてしまったりする」
たしかにその通りだった。
カキはすぐに落ちてしまったし、周りでは飛べたのはいいが本人の意思通りには飛んでいなかった。
「だが、なにもずっと送り込む必要はない。はじめの五分だけ均等に送り込めば、一時間は飛んでいられる。ずっと送り込んでいれば、飛ぶだけで魔力を激しく消耗してしまうからな。ただし、はじめのうちは気を抜けば落ちてしまうから、根気よくコントロールの練習をすることが重要だ」
つまり、最初さえうまくコントロールできればしばらくは飛んでいられる、とのことだった。
これは頑張るしかない。とにかく魔力を均等に送り込むことを課題としよう。
きっと、この場の飛べないものたちすべてがそう思っただろう。
だが────・・・
「そもそも魔力のコントロールってどうやったらうまくなるものなの?」
カキは疑問を口にした。
「とにかく、他の授業で習う魔術をうまくできるようにすることだな。魔術をたくさん使えば、その分魔力の扱いもうまくなるものだ」
トラヴィスはそうアドバイスした。
(魔術をうまく、たくさん使う?)
それなら・・・と、カキは考えた。
「イタズラもいい練習!・・・とか考えてんじゃねぇよな?」
「え!?」
ビトの鋭い指摘にカキは驚きを隠せなかった。
「な、何のことだよ」
あくまでも平静を保とうとするカキ。
シーラはクスクスと笑いだして
「考えてたんだ?」
と、言ってきた。
カキは顔を赤くしながら
「べつにいいだろ!」
と、言った。
「カ、カキくん・・・」
否定したほうがいいんじゃ?と言おうとしたようだが、気の弱いマリアンには言えなかった。
そんな感じで、笑いやら呆れやらで今日の飛行魔法学の授業は終わった。