第十五話 サバイバル合宿
実技合宿の三日目から五日目まではちょっとしたサバイバル合宿のようなものだった。
国が災害や争いで普通に生活できなくなったときを想定した訓練といったところだろうか。
ペアとの生活だが、ほかのペアと協力してもいいというルールだ。
とにかくペアと共に三日間、何もない状況からいかに生き延びるかが肝となる。
生徒たちはみんな学校を出て、近くの森へと行かされた。
昨日のニコラスとならきっと何とかなるのだろうが、昨日は昨日、今日は今日だ。
今日のニコラスはいつもと変わりなく、今日も朝から言い争いをした。本当につまらないことで。
「オレの足を引っ張るなよ」
ニコラスはカキにそう言った。
「・・・昨日の優しさはもうないのか?」
「あれは優しさじゃない。棄権されたらつまらないから戻っただけだ」
カキの言葉にニコラスは落ち着いた口調で言った。
カキは、あっそ、とそっぽを向いたが、やっぱりあれはニコラスの優しさだと思った。
────もう昔のオレには戻れないんだよ
前にニコラスはそう言っていた。
だけどそれは戻れないんじゃなくて、ニコラスが戻るのを拒んでいるだけだとカキは思った。
だって、昨日のニコラスの行動は昔のニコラスを思い出させた。カキのことをよく見て、よく知っているところなんかを。
カキはニコラスが一番カキのことをわかっていると思っているし、ニコラスのことを一番わかっているのもカキだと思っている。
あくまでそう思っていたいというだけのことなのだが。
何にせよ昨日のニコラスの行動で、サバイバル合宿もうまくいくのではないか、という自信が湧いてきた。
このときのカキは、サバイバル合宿がどれほど過酷なものかを知る由もなかった。
サバイバル合宿ということは、寝泊まりできる場所を確保し、食料も自分たちで探して調理しなければならない。
とはいえ、今まで学んできた魔術を使えば何とかなるものだ。
ニコラスは黙々と寝泊まりできるようにちょっとした小屋造りをしている。もちろん、魔術も使いながら。
カキはというと、ニコラスに邪魔物扱いをされて食料探しへと行かされていた。
「ニコラスのやつ、オレを邪魔者扱いしやがって。オレだってやるときはやるんだからな!」
カキはそう言いながら食料探しをしているが、全然食料を採ることができない。
やるときはやる、と言っても食料探しも満足にできない。そんな自分に対してムカつきながらも、カキは諦めずに食料探しを続ける。
食料を採って帰らなければ、ニコラスにさらに邪魔者扱いをされてしまうということも考えると、諦めるわけにもいかないのだ。
「カキ」
半ばイライラしながら食料探しをしていたカキを呼ぶ声がした。
「ビト!」
カキは声のする方を振り返り、その人物の名を呼んだ。
「お前も食料探しか?」
ビトはカキに近づきながら訊いてきた。
「お前もってことは、ビトも?」
カキがそう言うと、ビトは頷いた。
「ま、だいたい採り終えたけどな」
「うそだろ!?」
ビトが採ってきた食料を見せて言ったので、カキは思わず声をあげた。
「どこで?どうやって?」
カキは焦ってそう訊いた。
「あっちの方に少しあったぞ」
ビトはそう言って、指さした。
「あと、魔術でも探せるだろ?物を見つける魔術で」
さらにビトはそう言った。
「あぁ、なるほどな。じゃあ、とりあえずあっちを見てきて魔術使うわ」
「あ、でも────・・・」
ビトが何か言おうとしていたが、そんなこと聞きもせずにカキは走っていってしまった。
ビトは走り去ったカキの背中を呆気にとられながら見て、ぽつりと呟いた。
「カキには難しい魔術なんじゃないかって言おうとしたんだけど・・・人の話は最後まで聞けよなぁ」
カキはビトに言われたとおりの場所で少しだが食料を確保した。
だが、問題は物を見つける魔術だ。カキにはちっともできない。
「なんだ、物を見つける魔術って!使えねぇじゃんか!」
カキは魔術を使えない苛立ちから叫んだ。
「はぁー・・・戻るか」
カキはニコラスに文句を言われることを覚悟して、ニコラスが造っている小屋のようなものを目指した。