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魔術師たちのカナデアイ~交錯する想いと戦い~  作者: 衣月美優
第一部 魔法学校の日常
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第十四話 勝負の行方


 レースの三分の二を越えたところで、カキに思わぬアクシデントが起きた。

「痛っ!」

 またもや杖から落ちてしまったのだが、そのときに足首を捻ったらしい。

 いや、捻ったなんてかわいいものではないだろう。ゴキッという嫌な音が鳴ったから。

 なんにせよ、けっこう痛く、支えがないと立つのも辛いくらいだった。

 しかし、ついさっき先生のいるところを通ってきたばかりだから、この先しばらくは先生もいないだろう。

 杖で支えれば立てるが、それでは杖に乗れない。

 カキは途方に暮れた。

 何しろ、ニコラスはもう見えない位置にいるのだから。カキには成す術がない。

「はぁー・・・あとちょっとだと思うんだけどなぁ」

 カキは座り込み、空を見上げながら半ば諦めぎみに呟いた。

 少し前までの強い意思はどうした、と思われるようなまでのボーッとした様子だった。

 そうしていた時間は数分だと思うが、すごく長い時間に感じた。

 カキは一番最後のペアだったから、さっき通りすぎたところにいた先生が後ろからやって来るだろう。

 カキはそう思っていたが、カキが思っていたのとは真逆、つまり、前の方から声がした。

「カキ!」

 このレースが始まるときにエベラルドは言っていた。

 地面に足がつけば魔術で感知されるようになっている、と。

 だから、前から誰か先生がやって来るのも考えなかったわけではない。

 前から声がかかったことに対してはそこまで驚きはしなかった。

 でも、声をかけてきたのはニコラスだった。杖にのって飛んでいるニコラスだった。

 驚きのあまり、カキは口を大きくポカーンとあけていた。

「何してるんだ?」

 ニコラスの質問に、カキはフリーズしてしまった頭を何とか動かして

「は・・・え・・・?いや、それはこっちのセリフ」

 と、何とか答えた。

「お前があまりにも遅いから様子を見に来たんだ」

「はぁ?」

 ニコラスの言葉に、カキは意味がわからないという風に首をかしげた。

「お前が?わざわざ?ゴールすればいいだろ。それからでも別に遅くない」

 カキはニコラスにそう言った。

「お前に何かあってそれで勝つなんて嫌だからだよ」

 ニコラスはカキが怪我をしたらしいことを知ったようだった。

 カキのそばまでやって来て、地面に足をつけた。

「おい!何も降りてこなくったって・・・」

 減点なんて、ニコラスは嫌がるんじゃないかとカキはそう言ったが、ニコラスは複雑そうな顔をして

「別に。一回足をつけたくらいでお前なんかに負けねぇよ」

 と、言ってきた。

 そして、カキを腕をとって立たせた。

 カキを杖に乗せると、すぐにニコラスも杖に乗り

「まだ勝負は終わってないからな。もう落ちるなよ。ゴールまですぐなんだから、もう助けないぞ」

 と言って、飛んでいってしまった。

 カキはそれをしばらく呆然と眺めたあと我に返り、ゴールを目指した。




 勝負に勝ったのはもちろんニコラスだが、今回はカキも素直に負けを認められた。

 ゴールもせずにわざわざカキのところまでニコラスは来てくれたのだ。

 しかも、カキのために減点を食らった。

 こんなの完敗に決まってる。

 だけど────・・・

「絶対、いつか勝ってやるからな!」

 カキはニコラスに、そして自分自身に宣言した。

「いつか、な。・・・勝手に頑張っとけよ。オレはずっと負けないから」

 ニコラスはそんな日は来ないとでも言いたげな笑みを浮かべて、そう言った。

 その後、去っていったニコラスの背中を強い意思を宿した瞳でカキは見つめた。


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