第十三話 気持ちだけは
「それでは、次、37番」
スタートを合図する先生が五分ごとにペアを呼んでいく。
次はシーラとマリアンのペアらしい。
二人はスタートの位置で杖にまたがっている。
そして、笛の合図で二人は同時に飛んでいった。
「次、オレなんだよなぁ」
気だるげにビトがカキに向かって言ってきた。
「頑張れよ」
そんなビトに、カキは適当に声をかける。
「お前は何番だ?」
ビトの問いに、百という数字が書かれた紙を見せて答えた。
「一番最後だよ」
カキの答えに、ビトはさらにだるそうな顔をして
「マジかよ・・・超だるいやつじゃん」
と、言ってきた。
カキはけろっとした様子で
「え、そうか?一番最後って注目されそうじゃん。オレ、注目されたほうがやる気出るんだよな」
と、言った。
「あ、そ。でも逆に注目されねぇかもしれないぞ。みんな自分の番が終わってどうでもいいって感じでさ」
ビトは呆れつつ、そう言った。
カキは、その考えはなかった、という風に目が点になっていた。
そんなカキに、ビトはすぐに思い出したように付け足した。
「あぁ、でも、お前の相手ニコラスだもんな。じゃ、注目されるかもな」
ついにカキたちの番となった。
「ニコラスくん、頑張れー!」
「負けるなー!」
など、一部女子が騒いでいた。
当の本人は全部無視をしていたが。女子たちはちっとも気にしない。
そんな中、カキを呼ぶ声がした。
シーラだ。
「カキも頑張ってね!」
そう言って、手を振ってきた。
「おう!」
と、カキは笑顔で言い、スタート位置へとついた。
ピーっという笛の音が鳴り、カキとニコラスが同時に飛んでいった。
正確にはニコラスのほうが少し早く飛んでいった。
二人からは絶対に負けないという強い意思が感じられた。
「うおっ!?」
スタートしてから五メートルくらいでカキは杖から落ちてしまった。
ニコラスは安定した飛び方で先を進んでいる。
「くっそー・・・やっぱ、前よりうまくなってやがる」
ニコラスはこの間とは比べ物にならないほど上達している。
もともと魔術の才能があるのだから、しばらく練習していれば飛行魔術だって簡単にできるようになるのだろう。
カキは魔術の腕が人並み以下だから、そう簡単にはいかない。
「おっと、こんなところで止まってる場合じゃない」
カキは慌てて立ち上がり、ニコラスを追いかけた。
かろうじて見える距離にニコラスはいるが、とても追い越せそうじゃない。
それでも、カキは諦めずに追いかける。
どんなに負かされたって、たとえ負けが決まっていたって、カキは諦めない。
だからカキはいつだって前を向いて進んでいられる。みんなより魔術の腕が劣っていたとしても。
「絶対、追いついてやる・・・!」
カキは自分自身にそう言った。
ニコラスにこれ以上差をつけられたくない、という想いのため、自分自身を奮い立たせるために────・・・