第十二話 競争
実技合宿の二日目はペアといろいろな魔術の実力や言われた通りの大きさ、強さにできるかなどの競争だ。
エベラルドがそれぞれ見てまわって、点数をつけていく。
「それじゃ、次は火を生み出す魔術。ろうそくの明かりみたいに小さなもの」
エベラルドの指示で、みんなそれぞれ魔術を繰り出す。
あの二人はあいかわらず
「・・・それ本気か?お前の小さいはその程度なのか?普通サイズじゃねぇか」
「う、うるさい!これ以上小さくできねぇんだからしょーがねぇだろ」
この様子で。言い争いはとまらない。
言い争ったところで、勝つのはニコラスと決まっているのだが。
もちろん、カキもまったく成長していないというわけではないが、それでもやはりトップのニコラスには到底及ばない。当然といえば当然の話だ。
「だーっ!くっそ!お前ホントむかつく」
カキはずっと叫びまくっていたが、ニコラスは全然気にしていないようだ。相手にする気もさらさらないのだろうが。
カキは結局、昼休みまで全戦全敗を飾ることとなってしまった。
「昼からは負けないからな!」
カキはそうニコラスに宣言したが、ニコラスは涼しい顔をして
「昼からもお前の負けだよ、バカ」
と告げて、食堂へと一人で向かっていった。
ニコラスに対し、闘志を燃やしながら昼食を食べていたカキのところに、シーラとマリアンがやって来た。
「おつかれ、カキ。ニコラスとはどう?」
シーラの問いに、カキはガツガツとご飯を口に運びながら
「疲れる。バカにしてくる。最悪」
と、思いつくだけ言葉を並べた。
シーラは、あはは、と笑ってカキの言葉を流した。
「で、でも、今日の内容はマシだよね、昨日より」
マリアンがおずおずと言ってきた。
カキは少し考えて
「────・・・そうだな。昨日はボロボロにされたしな。けど!今日は今日で最悪だ。全戦全敗だぞ!」
と、今日のことも振り返って言った。
それから少し間をおいてから、今度はカキの方が質問した。
「そういえば、二人はどうなんだ?今日の競争の結果」
「私が六つ勝って、マリアンが四つ勝ったよー」
と、シーラは答えた。
「ふーん。じゃあ、だいたい同じくらいのレベルってことか。いいよなー、そのほうが。絶対楽しいだろ」
カキは羨ましそうに言った。
そんなカキにシーラは
「しょうがないよ。ニコラスは学年トップだもん。誰がやっても負けちゃうよ」
と、慰めるように言った。
でも、すぐにこうも言った。
「だけどさ、負けることは悪いことじゃないと思うよ。大事なのは一生懸命やることだよ。そうやっていれば、この合宿の意味もあるんじゃない?」
笑顔で言うシーラの言葉は、とても信用できる、説得力のあるものだった。
だからカキは、そうだな、と笑顔で返した。
「今日最後の競争は、飛行魔術だ」
学校を出てすぐのところにある、所々林のようになっている広い公園のようなところで、エベラルドはそう告げた。
この競争は全クラスでやるらしく、生徒たちがざわざわと集まっている。
「今回の競争のために、赤いコーンを立ててある。それがコースとなっているから、それを辿ってここに戻ってくるんだ。コース上のいたるところに先生が立っていてくれている。何かあれば言うように」
その後、ルール説明がされた。
まず、五分ごとに一組ずつどんどんレースが始まる。順番はくじで決めるそうだ。
コース上を辿ることが絶対で、コースを外れると魔術で感知されるようになっている。
また、これは相手より早くゴールにたどり着くことが重要だが、途中で杖から落ちたりすると減点になるらしい。
つまり、早くゴールしても途中で地面に足がつけば減点されて負けるかもしれない、ということだ。
これも魔術によって感知されるようになっているらしい。
なんとも大がかりなレースだが、要はどれだけ魔力のコントロールをできるのか、という勝負だ。
またまたカキには難しい勝負となりそうだが、やる気は十分だ。
「この間は負けたけど、今度は勝つからな!」
ニコラスにそう宣言した。
ニコラスは、ふんっ、と鼻で笑い
「何度も言わせるな。お前が負けるんだよ」
と、言った。
二人は火花が飛び散りそうなほど睨み合っていた。