第十話 三年生最後の行事、実技合宿
ついにやってきた。カキにとってのもうひとつの地獄の日々が。
冬休みに入ってすぐの実技合宿。
それは、ただひたすらに魔術の力を磨く合宿だ。
とはいえ、基礎的なものばかりでそんなに難しいことばかりではない。日常で使えるものや、自分の身を守れる程度のものばかりだ。
全員が参加しなければならない行事だから、当然といえば当然だろう。
だから、戦闘コースを目指すカキはこんなことで地獄だと言ってはいけないのだ。戦闘コースはもっと難しい魔術もやるのだから。
所詮ここまでは、全員が身につけておかなければならない魔術程度なのだから。
だけど、苦手なものは苦手なので地獄なことにはかわりないので
「はぁぁぁー・・・一週間もやってられるかよ・・・」
と、ため息ばかりついている。
「もういっそ帰ってやろうかな」
まだ学校の門の前なので、そんなことを言っていた。
だけど
「おはよう、カキ」
「お、おはよう、カキくん」
シーラとマリアンがやって来て、帰ることは無理そうだった。
「ほら、早く行かないと遅刻だよ?」
シーラがそう言って、カキの手を引っ張っていった。
「わかった。行く、行くから、手離せ!」
無理矢理連れていかれるカキはそう言った。
シーラは言われたとおりに手を離し
「私たちがあとから来なかったら帰ろうとしてたんじゃないの?」
と、言ってきた。
三年間同じクラスで、カキの行動はお見通しのようだ。
「ぐっ・・・」
ずばり言い当てられたカキは何も言い返すことができなかった。
やっぱり、と言いたげなシーラと反対に、マリアンはたじろぎながらもカキに言った。
「だ、大丈夫だよ。夏の勉強合宿を乗り越えられたカキくんなら・・・」
カキが帰ろうとした、という事実は一切否定せずに。むしろ、それを肯定しながらのフォローのようだったが。
マリアンにとっても、三年間同じクラスのカキの性格はよくわかっているということだろう。
フォローになってないし、とぶつぶつ言うカキのことなどお構いなしだ。
「お前ら何してんだ?教室の前で」
いろいろ言い合いながらいつの間にか教室の前までやって来ていたカキたちに、あとからやって来たビトが言った。
「ビトー、シーラとマリアンがオレをいじめるー」
カキはそう言って、ビトにまとわりついた。
「やめろ、気色悪い!いじられてるの間違いだろ」
ビトはうっとうしそうにカキを自分から遠ざけた。
そのやりとりを見て、シーラとマリアンは思わず笑ってしまった。
四人が教室に入ると、クラスの三分の二くらいの生徒たちがすでに来ていた。
やがて時間になると、担任のエベラルドもやって来た。
「今日から一週間、実技を磨く合宿だ。これまでの復習だからしっかり取り組むように。特に、戦闘コースを選択している生徒はここでつまづくと大変だぞ」
エベラルドの言葉を聞いて、カキはさらに気が重くなる。
「それから、今回の合宿は二人一組でやってもらう。少し時間をやるから各自ペアを探すように」
そう言われてカキたちはペアを探すこととなった。
みんなそれぞれ友達に声をかけている。
「マリアン、一緒にやろう」
「うん、もちろんだよ、シーラちゃん」
シーラとマリアンはすぐにペアを組んだ。
それを見ていたビトがカキに声をかけてきた。
「お前はどうする?オレと組むか?」
カキはチラッと別の生徒を見て言った。
「いや、オレは他のやつと組むよ」
それを聞いてビトは
「そうか。ま、お前に足引っ張られても迷惑だしな」
と、言ってきた。
カキは、悪かったな、とムッとしながらも断ったのはこっちなので、とくに何も言わずにビトから離れた。
「オレと組もうぜ」
ビトから離れたカキは、ニコラスのもとへ行ってそう言った。
ニコラスは嫌そうな顔をしてカキのほうを見て言った。
「誰がお前なんかと・・・勉強合宿のときにとんでもなく迷惑をかけてきたお前なんかと」
ぶつぶつ言っているニコラスにカキは言った。
「でも、もうオレしか残ってないぞ?」
「は!?」
ほかのクラスメイトたちはすっかりペアを組んでしまっていた。
「お前が一人でいるからだぞ?もうオレしか残ってないんだから諦めろよ。勉強合宿でも同じ班だったよしみでさ」
カキは笑顔でそう言った。
ニコラスは信じられないというような表情をして言った。
「ふざけんなよ・・・?」