第九話 コース調査
「今配ったのは四年生からのコース調査票だ。みんなそれぞれ、自分が将来やりたい仕事にあったコースを選択するように。今週中に保護者の方と話し合って、サインをもらってくるように」
エベラルドはカキたちにそう伝えた。
コースは様々あり、選んだコースによって卒業後に就ける仕事が大きく変わってくる。
とはいえ、五、六年生では自分で授業を選んでカスタマイズすることができるので、他のコースの授業を受けることもできる。
だから、そのコースが絶対というわけでもない。
あくまでコースに分かれるのは、ある程度同じ目標を持つ者と授業を受ける、ということをして生徒の士気を上げるためのものだ。
「カキは何のコースにするんだ?」
ビトがカキに訊いてきた。
教育、医療・薬学、調理、経理、文学などあるなか、カキが選ぶのは当然────・・・
「戦闘コース、だな!」
カキは鼻息を荒くしながら言った。
戦闘コースはその名の通り、戦闘魔術師を目指す者たちが入るコースだ。
「あー、お前んとこの両親、戦闘魔術師だもんな」
ビトはそのコース選択は当然かというように言った。
「うん。母さんはもう辞めてるけど」
「うちもそうだよ。っていうか、大体の女の戦闘魔術師は結婚して子供持ったら辞めてるぜ?」
カキは、ふーん、と答えてビトも戦闘コースなのか訊ねてみた。
ビトはそうだとは答えたが、半分気が進まないようだった。
「父ちゃんも母ちゃんも戦闘魔術師なもんだから、お前も戦闘魔術師目指せって母ちゃんがうるせぇんだよ」
子供の意見なんか聞く耳持たない母親だよ、とビトはブツブツ言っていた。
たしかにビトの母親は怒らせると恐い人だ。
カキも両親とビトの母親が同期で、特に母親同士が仲がいいので何度か会ったことがあるが、そんな印象を抱いている。
「まぁ、母ちゃんは戦闘魔術師辞めてるけど頭脳明晰だって言われて、今でも戦場に行くチームの作戦を立てたりしてるからな。だから誇りを持ってるんだろうぜ、戦闘魔術師に」
ビトは文句を言いながらも、母親のそういう面を知っているから反抗したりしないのだろう。まぁ、母親が恐い、というのも多少はあるのだろうが。
「へー、ビトの母さんってすごいのな。オレの母さんは土日だけだけど薬局で働いてるよ。戦闘コースの卒業だけど薬学系の授業も受けてたみたいで」
ビトが母親のことを話したので、カキもカタリナのことを話した。
「そういうのもあるよな。授業を何受けるかによって他の職業も選べるからな」
ビトはそう返した。
「ねぇねぇ、カキとビトも戦闘コースにするの?」
カキとビトが話していると、シーラも会話に加わってきた。
「うん。も、ってことはシーラも?」
カキがそう訊くとシーラは、そうだよー、と答えた。
「マリアンも戦闘コースなんだよね?」
シーラが訊くと、うしろに隠れていたマリアンが、うん、と頷いた。
「お父さんもお母さんも戦闘魔術師だし、シーラちゃんもいるし・・・」
マリアンはもじもじしながらそう言った。
「じゃあ、勉強合宿のメンバーはみんな戦闘コースなんだな」
カキは何気なくそう言った。
「あ、じゃあやっぱり、ニコラスも戦闘コースなんだ」
シーラはカキの言葉にそう言った。
カキは、うん、と頷いた。
ニコラスは常に上を目指している。それは戦闘コースに入っても同じだろう。
戦闘コースはさらなる魔力のコントロールや難しい魔術を必要とする。
だからこそニコラスは予習、復習を怠らない。努力を惜しまない。
自分のやるべきことのために。果たさなければならないと背負っているもののために。
それがカキにとってはおもしろくない。
「それじゃ、来年からも同じクラスだな、オレたち。戦闘コースは一クラスしかないし。昔はもっと多かったらしいけど」
ビトがそう言ってきた。
たしかに、戦闘コースを選択する生徒数は年々減っているらしい。
だけど、いろいろな場所で紛争が起こっていたり、命を狙われる偉い人がいたりする。
そうすると戦闘魔術師が必要で、でも戦闘魔術師の数が減っていて・・・と、どこの国も少なからず困っている。
もちろん、ジアッシュ国も例外ではない。
だから最近は、戦闘コースを先生たちがすごく勧めてきたりする。
何にせよ、カキたちのように戦闘魔術師を目指している生徒がいることは、先生たちにとっても国にとっても嬉しいことなのだ。
「じゃ、来年からもよろしくな!」
「えー、またお前の面倒見るのかよ」
カキの言葉にビトがめんどくさそうにそう言った。
「なんだよ、面倒って!」
「まぁまぁ、二人とも」
シーラが二人の仲裁に入った。
「これからも今までどおり友達だよ」
シーラは笑顔でそう言った。
マリアンも、私も・・・と、遠慮がちに言った。