プロローグ~神の子 救世主~
産声。それは、新たな命が元気に誕生した証。
今日、このジアッシュ国で誕生した新たな命は、特殊なものだった。
「この子は・・・!ついに現れた〈神の子〉が」
「あなた、それじゃあこの子がこの魔法界の〈救世主〉なの?」
子の両親はそんな会話をしていた。
この世界、魔法界には五百年に一度現れるという〈神の子〉〈救世主〉と呼ばれる者がいる。
その存在は、争いの絶えない魔法界に平和な日々をもたらすことができるかもしれない、という伝説的なものだ。
「間違いない。こんな光をまとって産まれるのは他にいない」
子の父はそう言った。
確かにこの男の子は神々しい光をまとっていた。
「そう、この子が・・・ギリッシュ家は王族だもの、そんな子が産まれるのは当然のことよね」
母は何やら暗くそう言った。
「〈神の子〉にふさわしい、立派な魔術師に育てることが、我らの使命だ。わかっているな、カタリナ」
「えぇ。わかっているわ、ジョシュア・・・」
子は『カキ』と名付けられ、すくすくと育っていった。
優しい性格、顔立ちなど母親に似ているところが多く、父親とにているところは茶髪なところだけだった。
カキを優秀な魔術師にするために父、ジョシュアはまだ2歳のカキに修行をつけはじめた。
しかし、カキは〈神の子〉や〈救世主〉と呼ばれるような存在にも関わらず特別な才能を持っていないらしかった。そのことにジョシュアは、期待はずれだ、と言っていた。
カタリナはそんなジョシュアに、学校で勉強すれば新しい刺激を感じて成長するはずよ、と言い、気長に待つように促した。
七歳を迎える年の四月。
今日は魔法学校の入学式だ。
「母さん、ここがこれから通う魔法学校なの?」
カキはワクワクした笑顔でカタリナに聞いた。
その右腕には真新しい王族の腕章が、まるできらめくようについていた。
「そうよ。ここでジアッシュ国の子どもたちがみんな魔法のお勉強をするの。父さんも母さんも子供のときにここに通ったのよ」
「へー」
カキは大きな学校を見上げながらこれからの学校生活に想いを馳せていた。
「そういえば、父さんは?」
カキはカタリナのほうを向いて訊いた。
カタリナははっとして
「あ、その、父さんは仕事だって・・・」
と、言った。
「そう・・・」
カキは肩を落として呟いた。
そんなカキを見ていられず、話題を変えるようにカタリナは言った。
「カキ、いい?学校でも周りの人たちには親切にするのよ?それから、いろいろなお友だちをつくりなさい。お友だちがいて、いろいろな刺激を受けることもできるのよ」
カタリナの言葉に、カキはまた笑顔になって
「うん、わかった!」
と、答えた。
「戦闘コースを卒業したら父さんや母さんみたいに妖精をもらえるんだよね?」
「えぇ、そうよ。卒業したら一人前の魔術師として認めてもらえるの。そして、戦闘コースの卒業生はその証として妖精を貰えるの」
卒業すれば仕事ができるのよ、とカタリナはさらに説明した。
「卒業して下級魔術師になったときにもらえるのはキツネのような形をしているけど、中級、上級となるうちにそれぞれ違う姿になるの」
カタリナは自分の妖精を手のひらにのせた。
ライオンのような形をしたそれは白銀色である。雪の加護を持つ妖精だ。
カキはその妖精を撫でながら、これから始まる新しい生活に期待を膨らませていた。
新しい場所。新しい友達。新しい学び。
ここがカキのスタート地点。