第2話 異形襲来
初めての戦闘回だぜぇい!(主人公が戦うとは言っていない)
「今日は面談あって3時間授業だから時間の余裕あるし、放課後久々にゲーセン行ってみるか。新しいヤツとかも出てきてたみたいだしやってみようと思ってたんだよな。」
二時間目の休憩時間、三録学園の一階ホールで柳田は放課後久々に行くゲームセンターで何をするかをスマホをいじりつつ考えていた。
「へー、昆虫皇帝ムシカイザーなんてまだ続いていたのか・・・おっ、クレーンゲームのデカぬいぐるみラインナップにソード・アーツ・アンラインのヤツ出てんな。絶対取らなきゃ。」
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所変わってとある会社のオフィス。
パソコンのキーボードを打つ音、上司の人間が指示を飛ばす声が響いている。
「おいお前ら!今週から注文多く入るから忙しくなるぞ!しっかり働けよ!」
「はい、課長。そういえば最近凄井さん来ていませんね?病気でしょうか?」
「あんなヤツどうでもいいからほっとけ。別に来なくてもいいしその方が仕事が捗る。」
ゴウン・・・・
エレベーターの一階のランプが点灯し、二階、三階へと灯りが移り、凄井の職場である4階で止まり点滅する。
「あ、エレベーターのランプが点灯していますね。凄井さんが来たんでしょうか?」
「ケッ、来なくていいと前から言ってんのによ・・・」
課長と呼ばれた男は面倒臭そうに湯気の出ているコーヒーをすする。
「課長!おはようこざいます~!」
到着を知らせる電子音と共にエレベーターの扉が開き、凄井が現れた。
今の彼の顔には、前みたいに覇気がなくどんよりとしていた雰囲気はどこにもなく、曇りない活気に満ち溢れた笑顔であった。
「おい、凄井。昨日言っただろ。もう来なくて良いってよ。お前の机とか取っ払ったからもう帰れ。」
「いえいえ~、課長。私は今日はお仕事しに来たわけではないんですよ。」
凄井が満面の笑顔で課長の方に寄る。
いつものあいつ(凄井)ならか細い声で返事をして去っていくと思っていた課長は予想外の事態に少したじろぎ後ろへ一歩下がる。
「今まで私のことを、私の努力をコケにしやがったクズ野郎の貴方に私が今まで受けた分以上の苦しみを味あわせてやる為に来たんです。」
「ハッ!何を訳のわかんねーこと言ってやがんだ!やれるモンならやってみろや!」
課長は「お前みてーなヤツが何をできるっていうんだ」と小バカにした態度で返す。
「そうですか、それでは遠慮なくやらせて頂きますね~」
凄井はそう言うと手の形を人差し指を指す形にして前に突き出す。
ビギュンッ!
ドガンッ!
凄井の指先からバスケットボール大の緑色の光のエネルギー弾が放たれ課長の机に直撃し、それを木っ端微塵に粉砕した。
「・・・・。えっ?」
爆発音に驚いたその場にいた社員達が振り返り、課長は何が起きたのか分からず困惑する。
「やれやれ、まだ分からないんですか?仕方ないですねぇ~、威力のでかいヤツにして分からせてあげますよ!」
チィィィィィン・・・
凄井は指先に先程よりも多くのエネルギーを集中させる。
チュドンッ!
ドガアアアアアンッ!
先程よりも多くのエネルギーを蓄えられ、バランスボール大になった光弾はオフィスの壁へと飛んでゆき、凄まじい破壊音を立てて大穴を開けた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
あまりにも尋常でない出来事に遭遇した課長が恐怖で尻餅をつき、パニックを起こした社員達が蜘蛛の子を散らすように一斉にエレベーターや非常用階段へと殺到する。
「おーっとォ!逃げられると思ってんじゃねぇよ!」
開いたエレベーターと、非常階段の出口から刀身に青白い電流が流れている刀形のスタンガンで武装し、サングラスを掛け、「クソ食らえ」「ブッ殺す」「気に入らねぇ」等と乱暴な言葉が乱暴に書かれたTシャツを着た男たちが逃げ道を塞ぐ。
「クックックック・・・・流石はこの会社に今までコキ使われていた連中だ。いい具合に暴れてくれるなァ。」
凄井はその場から動けなくなっている課長に歩み寄る。
「ま、待ってくれ!凄井!俺が悪かった!今までのことは謝るよ!」
課長は両手を会わせ、ひざまづき懇願する。
「・・・・・。」
「たっ、頼む!凄井!殺さないでくれ
!」
ザリッ
凄井は課長に向かって一歩足を踏み出した。
「ひっ!」
「殺すなんてとんでもない。貴方にはか・な・り酷い仕打ちを受け続けてきたのでただ殺すだけではもったいないんですよ。それに、先程言ったでしょう。私が今まで受けた分以上の苦しみを与えてやるとね・・・・」
凄井は口角を上げ、残虐な笑みを浮かべた。
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デンデデンデュウンッ♪デデデデンデデンデデデンッ♪
「よっ、っとっ、せっ!」
ビギュウンッ!ビギュウンッ!
グレェェェイトォッ!
エクセェレェントォッ!
「すげぇ・・・あの兄ちゃんメッチャむずい譜面でも超ハードモードでミス無しだぞ・・・」
「音ゲーの神降臨かよ!」
柳田はリズムゲーム「ダンシングエボリューション」をプレイしていた。
このゲームは画面に表示される譜面や記号に合わせてそれに対応する記号が描かれた足元のパネルを踏んだり、ポーズをとったりするものなのだが、テンポが早すぎるため一番簡単な難易度のEASYでも疲れてバテてしまう者が多い。
だが、逆にそのハードさが話題となり人気に火が付き、全国のゲームセンターの稼ぎ頭の一つとなっている。
柳田はそんなハードすぎる内容のシロモノを最上級の難易度「VERYHARD」で一度もミスすることなくプレイしている。
デデュウンッ!
フィニィーーーシュ!
コンゴラッチョッレイションッ!
ニューレコォードッ!
「おおっ・・・!」
「VERYHARDのハイスコアを更新しやがった・・・」
「しかもアイツ全く疲れてなさそうじゃねぇか!」
柳田は画面に華々しく表示された自分のスコアを見て呟く。
「ま、久しぶりにやったらこんなもんだな。さぁて・・・次はデスハザードでもやりに行くか。」
柳田の足は床のパネルを離れ、シューティングゲームのコーナーへと進んでいった。
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一方その頃、ゲームセンターの外では騒ぎが起きていた。
「何あれ・・・?」
「なんだ・・・こいつら?」
騒ぎはどうやらゲームセンターの前にある道の右の奥のほうから来ているようだ。
「オラオラァ~!退け退けぇ~い!苦労王様のお通りだぁ~!」
男の怒鳴り声がした方には、ボロボロのみすぼらしい服を身に付けた男女たちに担がれている神輿があった。
神輿を支えている人々の中には凄井の上司の課長や同僚達もいる。
神輿は王座のような形をしており、そこには頭には豪華な王冠を被り、裸にトランクス一丁の上に重厚なガウンを羽織り、リンゴをかじりながらふてぶてしく座っている凄井がいた。
その周囲を、凄井に命令され彼の会社をスタンガンで武装して襲撃した元社員の暴徒達が護衛している。
あまりにも異様な光景に周囲の人々は呆気に取られていた。
「オイ、そこのテメー!」
「えっ?」
暴徒の一人が近くにいた男性に因縁を付けた。
「苦労王様が通るってのが聞こえなかったのかコラァ!とっとと退きやがれ!」
ジャキン!バチバチバチィッ!
「ひいっ!す、すいませんっ!」
「苦労王様はなァ!テメェらより何倍も苦しい思いして生きてきたんだよォ!」
「そうだァ!苦労した人間は敬われ、尊ばれるのが当たり前だ!」
「だから何の苦労もしたこともねぇテメェらは苦労人様に道を譲るべきなんだよ!」
三人の男にバチバチと青白い電撃を放つスタンガンをつきつけられた男性は怯えてへたりこみ、そこから這いずる姿勢で道の端へゆき道を譲る。
「オラオラオラ!退けってのが聞こえねぇーのかクソボケ共!」
暴徒達はスタンガンを振り回して周りの人々を追い散らして行く。
「ママ、この前幼稚園の給食でね、みゆの嫌いなピーマン出たけどちゃんと食べれたよ!」
「うん、偉いね。何かご褒美あげようか。」
この時、間の悪いことに暴徒達が行進している前に幼い少女と若い母親の親子連れが現れてしまった。
「みゆねー、ご褒美もうもらっているからいらないの!」
「あら、どうして?」
「だってママのおいしいお料理がずっと食べられることがみゆにとってのご褒美だもん!」
「うふふふふ。そんなこと言われるなんてママ嬉しいわ。」
親子の距離が暴徒達と縮まっていく
だが、近くにいた群衆は暴徒に追い散らされて我先にと逃げ出しており、遠くの群衆は珍妙な集団をスマホなどの端末で撮影するのに夢中で誰も気づいていない。
「お家帰ったら何が食べたい?」
「えーっとね・・・・」
ドンッ!
「きゃあっ!」
「オイ!ドコ見てんだ!クソアマ!」
母親が暴徒の一人にぶつかってしまった。
「つーかさっきからガキと楽しそうに話しやがってよ~!ふざけんじゃねぇ!苦労王様はなぁ!テメェみてぇに幸せそうにしてやがるヤツらが嫌いなんだよ!」
「そうだそうだァ!苦労王様の目の前で幸せそうな姿を見せつけるなんていい度胸してるじゃねぇーか!」
前の方にいた暴徒二人が、母親に詰め寄る。
「やめて!ママをいじめないで!」
少女が母親を庇うように暴徒の前に出た。
やはり幼い少女にとって自分よりも遥かに体の大きい成人男性二人に睨まれるのは怖いのか足が震えている。
「あんだとこんのガキィ!」
「おもしれぇ!親子仲良く電撃をご馳走してやらァッ!」
青白い尾を引く閃光をまとった暴力の一振りがか弱き少女とその母親に降り下ろされる!
「危ないっ!」
バッ!
一人の少年が群衆を掻き分け暴徒と母娘の元へと走り出す。
彼は暴徒がスタンガンよりも降り下ろすよりも早くその間へと割り込み、母娘を脇に抱え、二人を着地の衝撃から庇うために地面に背中から飛び込んで受け身をとる。
ズザアアアアアアアアアッ!
バチィィィィィンッ!
振り下ろされたスタンガンの一撃は母娘に当たることはなく、地面に直撃し、電撃音の混じった乾いた音を立てた。
「なッ・・・・!?」
スタンガンを降り下ろした暴徒は辺りを見渡していると、少年が仕留め損ねた母娘をそれぞれ両脇に抱えて仰向けに倒れているのを見つける。
「・・・・ッ!・・・・怪我は無いですか?」
「い、いえ・・・大丈夫です。ありがとうございます・・・」
「お兄さん、ありがとう。別にどこも怪我してないよ。」
間一髪の所で二人を抱き抱えて助けたのは柳田だった。
子供の頃から両親に「困っている人がいたら助けてあげなさい」と言われて育てられたため正義感の強い彼は、ゲーセンからの帰り道についている最中に母娘が暴徒に因縁をつけられているのを発見し、ゲームセンターで遊び疲れた体に鞭を打ち、間一髪の所に飛び込んで二人を救出したのだ。
「今のうちに早く・・・逃げてください!」
「はい!」
母娘は柳田の腕から抜け出すと、その場から一目散に逃げ出した。
後ろにいた暴徒たちは二人を捕まえようとしたが、彼らが気づいて動いた頃には遠くの人混みへ行って紛れてしまった。
「野郎ッ!邪魔しやがってぇっ!あのクソ親子に代わってテメェをコイツの餌食にしてやらぁ!」
「死ねぇぇぇぇぇいっ!」
暴徒たちは仕留め損ねた母娘の代わりに柳田を始末しようと再びスタンガンを振り下ろそうとする。
「させるかよ!」
バシィンッ!
ドグァッ!
「ぎゃあっ!?」
「あべしぃっ!?」
突如、迅い打撃音と共に二人の暴徒がスタンガンと共に宙を舞った。
ドシャアッ!
「全く、ウサ晴らしも大概にしとけよ。社畜野郎共。」
「だっ、誰が社畜だゴルァッ!」
「なんだぁ~!テメェ~!」
暴徒の前に現れたのは犬のドーベルマンを思わせるゴム質のボディスーツを身に付けた人間だった。
顔はモチーフとなったドーベルマンの頭部を模したマスクに覆われており、素顔は分からないものの、体のラインと声から若い女性と分かる。
「テメェだってコスプレ女だろうがよォ~!」
暴徒達が一斉に女性に突撃していく。
「どいつもこいつも感情任せに突撃か。そんなにストレス発散したきゃアタシが相手になってやるよ!」
女性は怒号を上げて突撃する暴徒達を一人、また一人と殴り倒していく。
束になって掛かってきた者もいたが、やはり彼女の敵ではなくまとめて吹き飛ばされていった。
「おい・・・・一体どうなっているんだ・・・」
自らの進路を塞ぐ群衆をスタンガンで追い散らす謎の暴徒集団に続き、さらに特撮ヒーローに出てくるような衣装を身に付けた女性が彼らを凪ぎ払うという、あまりにも非現実的すぎる光景を目の当たり柳田は今起きている事態が呑み込めずに混乱してその場から動けなかった。
「・・・・、もういい!止めろ!テメェらみてぇなクソザコがいくらかかったって意味ねぇんだよ!」
凄井は女性に襲い掛かろうている暴徒達を一喝して引き下がらせた。
「フン!この役立たず共めが!ここは俺様が直々に相手してくれるわ!おい!奴隷共!玉座を落としたら承知しねぇからな!」
ヒュウンッ!ズダァンッ!
凄井は下の奴隷に向かって怒鳴り散らすと玉座の座面の上に立ち上がり、そこから跳躍し、女性の前に着地して見せた。
「おっ、派手に登場してくれるねぇ、苦労王様さんよ?」
「うるせぇ!俺様はなぁ!そんじょそこらのウスラバカ共より散々苦労してきたんだよ!だからそいつらより偉いんだ!偉いんだから何してもいいんだよ!」
凄井は発狂に近い形でヒステリックに喚き散らす。
「だから俺を今までコキ使ってきたクソ上司とそれを見て見ぬフリして無視してきやがった同期を奴隷にしようが、街中でパレードをしようが、派手に登場しようが俺様の勝手だろうがよォ!」
それを聞いた女性はしばらく沈黙していたが、やがて大声で笑い出した。
「ククク・・・ハーッハッハッハ!」
「テ、テメェ!何が可笑しい!」
「ハハハハ・・・悪いな、お前の言い草があまりにも馬鹿馬鹿しすぎてつい笑っちまったよ!」
「な、何ぃぃィイぃいぃッ!?」
女性に小馬鹿にされて神経を逆撫でされた凄井は怒りのあまり耳障りな奇声を上げる。
「確かにお前が今まですげー苦労してきたことと、そんな自分を偉いって褒めてやるのはまだ分かるんだが、だからと言って周りの人間に横暴かますのは御門違いなんじゃねーのか?」
「・・・・・ッ!」
「あ~、ひょっとして苦労しすぎたせいで脳みそイカれて腐れちまったか~?」
「んだとォゴルゥァァ~~~ッッ!」
凄井は目を血走らせて怒りの叫びを女性に放った。
だが、女性は怯むことなく目の前の凄井を冷ややかに見つめていた。
「面白ぇ~!テメェの冥土の土産に見せてやらぁ!力を得た俺様の真の姿をなぁ~!ぬぐぉぁぁぁぁ~ッ!」
凄井の体からただならぬ気が溢れ、さっきまで面白がって端末で動画を撮っていた群衆と残りの暴徒達、凄井の乗っていた神輿を担いでいた奴隷達は御神輿を放り出して一目散に逃げ出してしまった。
「・・・・!」
柳田はいまだに目の前で起きている状況が理解できずその場から動けずにいた。否、未だかつて遭遇したこのない未知数の出来事に一種の恐怖を覚えて動けなかった。
「ぬぅぅぅぉぉぉぉ・・・・」
凄井の体がメキメキと音を立てて大きくなってゆき、震動で頭から王冠が落ち、ガウンは膨張する肉体により引き裂かれ、緑色の光が彼全体を包んでゆく。
「グェェェェ・・・・」
光が消える頃にはそこには凄井はおらず、「凄井であった」異形がいた。
それは、メタリックな質感の二足歩行のカエルといった風貌で、胸にはコンピューターの回路のような紋様が浮かび、立ち上がっている時の高さは5m程といったところだ。
「どうだぁ・・・!これが俺様の真の姿だぁ・・・!この力を手に入れたからには、世界を支配することなど夢ではない・・・!もはや俺様を見込んで力を下さったくれたあのお方、ドクター・マンドリル様、いやマンドリルのヤツですら俺様の足元にすら及ばんだろう!」
「図体がでかくなっただけで勝った気になるなんざつくづくおめでたい野郎だな!」
「グェヘヘヘヘヘ!粋がるなよコスプレ女ァ!テメェなんざこの俺、凄井九郎改めアシッド・フロゲロス様がひねり潰してやるぜぇ!」
凄井、もといフロゲロスは女性に向かって蛍光色の黄緑色の液体を吐く。
ジジュウゥゥゥゥッ!
液体の発射速度よりも速く女性は身を翻しこれを避ける。
液体が直撃した部分は煙を上げ、小さなクレーターを作り出した。
「強酸か・・・、一撃でも当たったらマズいな。でも攻撃パターンは適当で雑だ!余裕で避けられる!」
「ほれほれ~!余所見してんじゃねぇよォ~!」
ゲェッ!ゲェッ!ゲェッ!
「へっ!こんなヘナチョコ攻撃当たっかよ!バーカ!」
タンタンタンタンッ!
ジュウッ!ジュウッ!ジュウッ!
女性は次々と吐き出される酸攻撃をかい潜り、右手の肉食獣の手のような手甲から三本の赤色のエネルギーの爪を作り出し、フロゲロスの懐に一撃を撃ち込む。
ズギャアンッ!
「グェェェェッ!」
フロゲロスは急所を攻撃された苦痛に苦悶の声を上げる。
女性はその隙をついてフロゲロスの後ろに回りこんで挑発して見せる。
「へへっ!何やってんだよウスノロ!アタシはこっちだよ!」
「ぬぅぅぅぅ!ナメたマネしやがってぇっ!」
フロゲロスは後ろに回りこんだ女性に向かって指先から緑色の光弾を乱射した。
ドギュンッ!ドギュンッ!ドギュンッ!
「攻撃の種類変えてもヘタクソすぎて当たらねーことには変わりねぇんだよ!」
女性は光弾を酸攻撃と同じ要領でかわし、手の甲から赤いエネルギーの矢をフロゲロスの脚に向けて連射した。
ビシュンッ!ビシィッ!ビシュンッ!
「ぎゃあっ!」
脚を攻撃されたフロゲロスは怯んでよろめいた。
「ゲェッ!お、おのれぇ~!何処へ行きやがったコスプレ女・・・・ん?」
間の悪いことに、フロゲロスは自分よを少し離れた場所で呆然と立ち尽くしている柳田を見つけてしまった。
「あっ・・・・」
「グェッ!丁度良い!ヤツの動きを鈍らせるなら、ただ攻撃するよりも人質をとった方が早いぜ!」
ビュルルルルンッ!
バシィンッ!
「うわあぁあぁぁぁぁっ!」
柳田はフロゲロスの伸ばした舌に絡めとられてしまった。気味の悪い冷たい感覚が柳田の体にまとわりつく。
「ケケケケケ、見ろォ!これ以上近づくんじゃねぇ!こっちには人質がいるんだァ!」
フロゲロスは人質を取ったことで形勢逆転といわんばかりに勝ち誇る。
だが、そんなものはぬか喜びに過ぎなかった。
「これ以上近づくんじねぇッ!でねぇとこいつを真っ二つに引きさ・・・・」
女性はフロゲロスの「近づくな」という言葉など耳に入っていないかのように正面から全速力で突撃する。
「どらぁっ!」
ザシュン!
「グゲェッ!?」
エネルギーの赤い爪が柳田を捕らえているフロゲロスの舌を切り裂いた。
フロゲロスはもんどおりうって後ろに倒れ、柳田に巻き付いていた舌先は力なくほどけ、彼本人も地面に落下していく。
タッ!
ガシィッ!
女性が落ちていく柳田を空中でお姫様抱っこの姿勢で受け止めた。
「大丈夫か?」
「え、はい・・・一応なんとか・・・」
「グゲゲゲ・・・」
苦しそうにフロゲロスが起き上がる。
「おっ、おい・・・お前!コスプレ女ァ!ひ、人質がいるってのが聞こえなかったのかよ!?」
「そんなもん聞こえてたに決まってんだろ!ただそんなモン取ったところでアタシに対する抑制にはならねーんだよ!それに・・・・ちょっと下がってな。」
女性は柳田を自分の後ろに下がらせると、左手の手甲から赤い爪を伸ばし、アスファルトの地面を強く蹴りあげ、フロゲロスに飛び掛かる。
「アタシはコスプレ女じゃねぇ!」
ザグン!ザギン!ザシュン!
フロゲロスの顔を乱暴に斬りつける!
「ゲィェッ!?」
フロゲロスの顔に赤い蛍光色の切り傷が次々と浮かび上がっていく。
顔面の痛みに怯んだフロゲロスは再び姿勢を崩した。
「アタシには、ブラッド・ドーベルってコードネームがあるんだコノヤロォォォォォーーーッ!」
「ブラッド・ドーベル」と名乗った女性は姿勢が崩れたフロゲロスの腹にエネルギー出力を全開にした爪の一撃を叩き込んだ。
デップリと出た腹に三対の大きな爪痕が刻まれ、そこから緑色のエネルギーが溢れ出す。
「グゲゲゲゲィェーーーーーッ!」
腹の爪痕からエネルギーの放出が止まると、フロゲロスの目から鈍く輝く金色の光が失われてゆき、目の輝きが完全に消えると、フロゲロスの巨体は地面にうつ伏せになって倒れ伏した。
ブラッド・ドーベルはフロゲロスが完全に動かなくなったのを確認すると手甲の爪を収め、前腕の装甲をケータイのように開き、下にある端末機関を操作しどこかへと繋ぎ、何者かと対話する。
「・・・はい、ブラッド・ドーベルです。ターゲットの沈黙を確認・・・分かりました・・・・今すぐ・・・」
ブラッド・ドーベルは一通り話終えると通話を切り、装甲を閉じた。
「すいません、先程はどうもありがとうございました。」
柳田はブラッド・ドーベルが完全に話し終わったタイミングを見計らい、感謝の言葉を述べる。
「良いってとこよ。」
ブラッド・ドーベルは柳田の方を向き、彼の顔を見るや少し考えこんだような神妙な顔つきになる。
「・・・・お前、柳田桂久だな?」
「えっ、どうして俺の名前を!?」
「そりゃ初対面の見ず知らずの人間にいきなり名前言われれば驚いちまうか。単刀直入に用件を言おう。アタシと一緒にある場所に来てもらう。そこでお前に会いたがっている人物がいるんでな。」
「え、ちょ、待ってくださいよ!?来てもらうって強制っすか!?」
「あぁ、そうだ。」
「いや~、ウチ門限とかあるんで遅くなってしまったら困るんでまた今度・・・」
ブラッド・ドーベルはやんわりと断って帰ろうとする柳田に向けて手甲から赤色のリングを放った。
バシィンッ!
赤色のリングは柳田の腕と胴体を合わせて拘束した。
「それは分かるが時間がないんだ。悪いがお前に拒否件は無い。」
ブラッド・ドーベルは拘束された柳田を俵抱えにすると足からエネルギーを出して宙に浮き、周辺のビルよりも高い高度になると、猛スピードで空中を駆け抜けた。
「ぁぁぁぁーーー!速ーーーーい!速ーーーい!俺絶叫マシンとかダメだからやめて~~~~!っていうか俺一体どうなっちゃうの~~~~~!?」
「安心しろ、死にはしないのは確かだ。」
「そういう問題じゃないっすよ~~~~~~~!」
柳田の悲鳴が東京の空にこだました。
謎のコスプレ女性ことブラッド・ドーベルに俵抱えされて空の彼方へ消えて行った柳田!彼の明日はどっちだぁ!?
キャラ紹介
凄井九朗
年齢:36歳
性別:男
身長:174cm
体重:53kg
出身国:日本
好きなモノ・趣味:人に自分の苦労話を聞かせること、他人の不幸話
大切なモノ:自分のプライド
嫌いなモノ:会社及び会社の人間、自分より幸せなヤツ
苦手なモノ:サービス残業
ブラック企業に勤めるサラリーマン。
幼少から今に至るまで苦労をしまくった割には報われない人生を送っていたため性根がねじ曲がっている。
周りの人間が幸せにしているのと自分を虐げている会社が許せず、怒りを募らせていたところ、謎の男にそそのかされてハイクリーチャー「アシッド・フロゲロス」に改造される。
アシッド・フロゲロス
変身者:凄井九朗
身長:5.0m
体重:4.0t
スペック パワー:1 攻撃力:3 防御力:2 敏捷性:7 スタミナ:3 知力:4 勇気:4
特殊能力・武器:口から吐く強酸、強靭な舌
凄井が変身するアマガエル型ハイクリーチャー。
カエルの敏捷性と口から吐く強酸を武器としており、人間態で裏サイトで募った暴徒を引き連れ改造前にかつて自分が勤めていた会社を襲撃し、社内の人間を全員奴隷にして街中で好き放題暴れていたが柳田とドーベルに邪魔をされる。
自分より遥かに小さなドーベルをナメてかかるが、予想以上の猛攻に遭い、近くにいた柳田を人質にとるが結局問答無用でドーベルに腹にツメの一撃を喰らい敗北する。
倒された後はどこかの施設へと回収されていった。