第1話 少年の日常と不穏な影
本格的にドンパチやるのはまだ先じゃよ。
~2XXX年 東京 セントラル・ジャパン~
セントラルジャパン。東京に作られた大規模な経済都市。
機械の基板のような模様がある超高層ビルがそびえ立ち、色とりどりの派手な広告を付けた大きな店が並んでいる。
そして、中でも目を惹くのが広場の中央にある大型モニター。
普段は企業のコマーシャルの宣伝や、
ニュース速報、アイドルのライブの様子などが映し出される。
今、筋骨隆々の黒人男性が白い歯を輝かせた爽やかな笑顔でアメコミ調の赤い書体で「デカビンタ」と書かれたラベルが巻かれた質感は缶、形はペットボトルに似た容器を片手に掲げている。
「疲れた体に!デーカービーンーター♪・・・・・」
己の行き先へと足を進める多くの人々で行き交う交差点の中心、焦げ茶色の髪で学生服を身に付け、肩からダッフルバッグを下げている少年が走っている。
彼の名は柳田桂久。
セントラル・ジャパンにある三録学園に通う男子学生だ。
彼は朝寝坊して列車を逃してしまいそうというアニメや漫画にありがちな理由で焦ってこのように全力疾走いるのだ。
「ヤバイヤバいっ!遅刻しちゃう~っ!」
柳田は走る速度を上げ、普段通学しているバスの停留所との距離を詰めていく。
そして、ベンチの近くにある、地面から少し浮遊している平均的な成人男性の背丈程の大きさで長方形を縦にしたような形の物体、バスの時刻表に駆け寄る。
「頼むよ・・・!発車していないでくれよ・・・!」
柳田は時刻表の前に到達すると、発車時刻の欄を睨む。
「えーっと三録学園前・・・・8時50分発・・・・」
柳田は出発時刻を確認すると、右腕の腕時計に目をやる。
そこにはデジタル数字で「9時2分」と表示されていた。
柳田はバスがもう出発してしまっいることを確信すると、額に手を当てて落胆した。
「あちゃ~・・・また遅刻か・・・」
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三録学園。
日本で最も巨大な教育機関で、幼稚園から大学までの学部が揃っている。
その中で柳田が通っているのは高等部2年のC級クラス、中堅レベルの学力を持った学生が集うクラスだ。
「はぁ、はぁ・・・」
柳田は息を切らしながら三録学園の校門の前へと走っていく。
柳田が門のすぐ近くまで来ると、彼が来ることをあらかじめ予知していたかのように上には白いタンクトップ、下には赤いジャージを着た柳田より体格も良く、身長も高い男が現れた。
彼の名は生田活戒。
高等部の体育教師の一人で、生活指導も兼ねている。
「オイ!柳田!また遅刻か!これで何回目だと思っている!」
「すいません・・・」
「社会に出たらなぁ、時間なんて守って当たり前だ!そんなことも出来ねぇヤツは人間じゃねぇ!クズだ!てめぇみたいなクズなんて社会に要らねぇんだよ!分かったか!」
「はい・・・。」
走って疲れたことと、生田に頭ごなしに怒鳴り散らされたことで気力を削がれて力ない足取りで学園の玄関へと入っていく。
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放課後。ようやく長い授業時間から解放される学生にとって至福の時。
まっすぐ家に帰る者、アルバイトに行く者、塾に行き夜遅くまで勉強する者、様々な予定を持った学生たちは校門を再び潜る。
ごった返す生徒の波に混じり柳田は、ある場所へと足を運んだ。
「まったく本当に災難だったな!」
赤茶色の髪の小柄な少年が柳田の肩を励ますようにポンポンと叩く。
「遅刻した柳田くんにも非があるとはいえそれは無いと思うね。」
落ち着いた雰囲気の黒髪の少年がカフェオレの入ったコップを持ちながら言う。
「ありがとう。俺なんかの愚痴に付き合って貰って嬉しいよ。」
ここは三録学園の食堂。
三録学園にいる者の憩いの場となっており、主に朝は教員、昼は学生、夕方にはその両方で賑わう。
柳田はそこで自分の両脇に座る二人の友人たちと最近の愚痴を話しあっていた。
赤茶色の髪の少年は大山達連。
柳田の幼馴染で、高等部2年のF級クラスに所属し、勉強は苦手だが幼い頃から空手を習っていたため運動神経は抜群で、三録学園の空手部の主将を務めている。
黒髪の少年は今泉秋忠。
柳田の中学校時代の友人で、高等部2年のA級クラスに所属し、直感で行動する大山とは対照的に落ち着いて考えてから行動する冷静な性格の持ち主で、美術部の部長を務めている。
「俺もこの間あのゴリラに説教されたばっかりなんだよなぁ。だいたい理由と内容が理不尽すぎんだよ・・・」
大山はやれやれと気だるそうにため息をついた。
「あ、そうだ!今日は俺がメシおごるよ!バイトの金が入ったんだ!ほら、お前ら!今日は美味いもん食って景気よくいこうぜ!」
重い空気を晴らそうとするかのように大山はニッと笑い、バイト代の入った封筒を二人の前に見せびらかす。
「おう。悪いな。恩に着るぜ。」
「それじゃ、僕もお言葉に甘えようかな。」
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「ごちそうさまでした~」
柳田、大山、今泉の三人は満足そうに店を出た。
「あ~食った食った!」
「おい大山、お前、その体の割にはホントよくあれだけの量食えるよな~」
「うるせーな!その体では余計だっつーの!」
「ラーメン4杯にカレー3皿、カツ丼6杯なんてよくそんなに食べられるね。周りの人達驚いていたよ。」
「当たりめーだろ!体動かしたらその分エネルギー消費すんだから!」
「体だけじゃなくて頭にも回せねーのか?」
「ちょ、それ母ちゃんと姉ちゃんにも同じこと言われたんだけど!」
三人は他愛もない談笑をしながら歩き、しばらくするとそれぞれの帰路につき帰って行った。
だが、そんな三人の姿を見つめていた者がいた。
「チッ!全くどいつもこいつも、楽しそうにしやがって・・・!」
別れて去っていく三人に忌々しく舌打ちをしたのは、目に隈ができ、ヨレヨレのスーツを身に付けたサラリーマンの男だった。
彼の名は凄井九朗。
会社では入社当時からいくら沢山の仕事をこなし、苦労し、努力せどもその成果は一度も現れたことがなく、上司にはイビられ、同期にはバカにされ、後輩にナメられまくっている日々を送っていたため心が荒んでしまい、自分の周囲の幸せそうな人間を見ると怒りや妬みを覚えていた。
「クソッタレが・・・・!他の奴等は幸せそうにしていやがるのになんで俺だけがこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ・・・・!」
できれば今すぐにでも、惨めな自分を差し置いてのうのうと生きていやがるクソッタレ共に自分と同じ苦しみを味合わせてやりたい。
そんなドス黒い感情が凄井の心に渦巻いていた。
「ガハハハハ・・・・」
「あん?何だぁ?」
凄井が突如後ろからしたガラの悪い笑い声に気付き後ろを振り向くと、そこには、白衣を着た男がいた。
頭をモヒカンにし、逆三角形の形をした黒いレンズのサングラスをつけ、顎髭をボウボウと生やしたヒヒのような顔をした男がいた。
「おいそこのオメー。」
「なんだぁ?お前?喧嘩売ってやがんのか?」
「いやいや、とんでもねぇ!そんなことこれっぽっちも思ってねぇよ!1ミリも思ってねぇから!」
「ケッ、お前みてぇな頭のおかしいおめでたヤローに俺の苦労なんざ分かるわけねぇんだよ、クソがッ!」
「いや~、信じちゃくれねぇだろうけど、俺には痛いほど分かる気がするぜ~?」
「・・・・・。」
軽薄でウザったい態度の男に対して凄井は苛立ちを覚える。
「さぁて本題だ。おい、オメー、自分がひでぇ目に遭ってるのに他の連中が幸せにしているのが気に食わねぇんだろ?さっきからブツブツ呟いてんのが聞こえてたぜ?」
「あぁそうだゴラァ!ガキの頃からそうだったが、いくら努力しても苦労しても嘲笑われ、踏みにじられ、一度も報われたためしがねぇ!そんな俺の苦しみも知らねぇで能天気に生きていやがるクズ共をぶちのめしてやりてぇんだよ!」
「ガーッハッハッハッハーッ!いや~!分かるねぇ~!全く努力が報われねぇのは辛いよなぁ~!今までそんなクソみてーな状況に良く耐えてこられたなぁ!素晴らしいっ!グレートだぁ!俺ちゃん感心しちゃったぜぇー!ほんとオメーの言う通りだなァ!」
男は凄井の返答に満足したのか高笑いを上げた。
「なぁ、力が欲しいか?」
「あ?」
凄井は男の唐突な申し出に多少困惑する。
「今まで努力を踏みにじり、嘲笑ってきたクズ共とオメーの苦しみも知らねぇで能天気に生きているバカ共をオメーが言っていたようにぶちのめしてやれる力がな・・・」
男は肉食獣のように鋭くギラリと光る犬歯を見せて、不敵な笑みを浮かべる。
「イチかバチかだ・・・!お前が鬼でも悪魔でもいい・・・!その力をくれ・・・!」
「大丈夫!ノープロブレム!そんなに疑わなくてもいいっての!魂とか取ったりしねぇから!さぁて、改めて、お望み通りオメーに力を与えてやる。付いて来な。」
凄井は男に連れられ、何処かへと消えて行った・・・・。
次からドンパチシーン入りまぁ~す!
キャラ紹介
柳田桂久 [やなぎだ かつひさ]
年齢:17歳
性別:男
身長:172cm
体重:58kg
出身国:日本
好きなモノ・趣味:ゲーセンのゲーム、ゲーム、アニメ鑑賞
大切なモノ:クレーンゲームで取ったアニメキャラの限定フィギュア
嫌いなモノ:身勝手な人間
苦手なモノ:ワシャワシャ動く虫(特にゴキブリとゲジ)
超マンモス校、三録学園の高等部2年C級クラスに所属している男子学生。
ゲーム好きの(感覚が普通じゃない部分が幾つかあるが)ごく普通の少年。
勉強の成績はいたって平凡で、あとは体育の成績がほんの少しいいのと美術がメチャクチャ悪いことぐらい。
小学生の頃から鍛えたゲームの腕は廃神レベル。
大山達連[おおやま たつれん]
年齢:17歳
性別:男
身長:156cm
体重:45kg
出身国:日本
好きなモノ・趣味:肉料理、食べ歩き
大切なモノ:小学校時代の空手の師範から貰った黒帯
嫌いなモノ:弱い者イジメ、女扱いされること、チビ呼ばわりされること
苦手なこと:勉強
柳田の幼馴染でもあり親友。
三録学園の高等部2年のF級クラスに所属している少年。
勉強はからきしだが、運動神経抜群なので体育の成績はほぼ満点に近い。
親しみやすい兄貴分な性格のため交遊関係も多く、三録学園内外問わず顔が広い。
華奢なボーイッシュ少女のような見た目だが、幼い頃から空手を習っており、三録学園でも空手部の主将を務め、怪力持ちでケンカも滅法強く、高等部一年生の頃に生徒会主催の各格闘技部の腕自慢による腕相撲大会で優勝した経歴がある。
また、女装させるとめっちゃ可愛いのだが本人はかなり嫌がってやりたがらない。
今泉秋忠[いまいずみ あきただ]
年齢:17歳
性別:男
身長:176cm
体重:54kg
出身国:日本
好きなモノ・趣味:紅茶、絵を描くこと、読書
大切なモノ:妹から貰った粘土細工の兎(お守り代わり)
嫌いなモノ:暴力に訴える人間
苦手なモノ:特になし
柳田の中等部時代の友人。
三録学園の高等部2年のA級クラスに所属しており、勉強の成績は優秀。
性格は理性的で冷静と、感情的で活発な大山とは正反対の人間。
美術部の部長を務めており、包容力もありおおらかな性格のため後輩からも慕われている。
基本的には争い事は好まない性格で、問題事はなるべく話し合いで穏便に解決しようとするが、いざとなれば行動を起こすこともある。