ご都合主義怖い
とある居酒屋の一角にて見た目30程の男性2人が酒を酌み交わしている。1人はへべれけに酔った黒髪の優しい顔立ちのイケメンで、1人は口調のしっかりした─酔っていない訳ではない─金髪の少し怖い印象のイケメンだ。一見同窓生に見えるこの2人、実はこの世界では有名な元勇者と元魔王である。
もう10数年程前だろうか。彼らは大いなる悪を討ち滅ぼし、世界を見事救ってくれた。もちろん争いが全て無くなった訳ではなく、人々のいざこざや戦争をしている国は残念ながら存在する。しかしそれらは彼らの偉大な力を頼るほどのものでない。故に世界は比較的平和と言えるだろう。
そんな偉大な2人は大変仲がよい。それぞれ奥さんと子供がおり仲むつまじく暮らしている。また家族ぐるみの付き合いもあり、それぞれの奥さん同士の仲もよい。
だが本日は野郎共だけが集まって呑んでいる。へべれけ元勇者は饒舌に語り始めた。
「怖いんだよぉ」
「急にどうしたんだ」
「だから、怖いんだって!」
「お前、酒回って変に酔いやがったなコンチキショウ」
「ねぇ、怖いんだよぉ」
「ああ、仕方ない、仕方なく聞いてやるから話してみろ。あと絡むな、うっとおしい煩わしい酒臭い!」
「エヘヘ、ありがとうまおーやっさしー!」
「ええい、絡むなと言っただろう!」
「いいじゃん別にこのくらい!」
「よくねえわ!ってかお前もオレも嫁さんいるだろうが!少しは自重せい!」
「ぶー、男同士なら浮気じゃないって!」
「そんな醜態を晒すなといっているんだ!勘違いさせる発言はよせ!」
「巷では俺たちの薄い本が出回ってるらしいよ?」
「………」
「照れちゃった?」
「呆れてるんだ!」
「あはははは!」
「はあ…おい、ところでさっきは何を恐れてたんだ!」
「ああ、そうだった!怖いんだよ!自分の幸せな人生が!」
「お前そんな事言ったら刺されるぞ?」
「だって怖いんだもの!」
「…どうして怖いんだ?」
「ちょっと長くなるが聞いておくれよ。俺は十八までごくごく普通の生活をしていたんだ。しかしなにやら召還だとかでこの世界に呼び出され、勇者さま!世界を救ってください!と言われたんだ。その頃の俺はバカだから調子のったね。ワーイ異世界召還だ!と。聖剣だとかを掴まされ、振るったんだ。剣なんて初めてだったのに振り方がわかったんだ。俺天才!って思ってたよ。いや、実際そうだった。そして仲間を連れて、魔王を倒しに旅に出たんだ」
「何が怖いのか分からないな」
「まだ続くから聞いとくれ。魔王を倒しに出たはいいが、道中魔物がたくさんだった。中には強いのもいて、俺らは死ぬような目にあった。でもそんな時に限っていいアイデアが浮かんだり、新しい力が目覚めたりしたんだ。そして、順調に魔王までたどり着いた」
「いいことじゃないか」
「いいことなんだけど違う!チョット口閉じて最後まで聞いてて!」
「ア、ハイ。すみません」
「えっと…あ、そうだ。魔王に着いたんだ。そしたらね。魔王さ、メチャメチャいい奴じゃん!それでナンダカンダ協力して、邪神とかいうの倒して世界を救えたんだ。そしてね。その後ね。惚れてた王女様に告白して、上手くいって、結婚して、子どもまで出来たんだ!ってかレミア可愛すぎてもう一生かかっても惚れきれない気がする!」
「最後ノロケブッコミやがったな。で、結局何が怖いんだ?」
「聞いてて怖くなかったかのか!?オレに都合が良すぎたんだよ!もうご都合主義が俺だよね、寧ろ、俺がご都合主義だよね!ああ、絶対来世はミジンコとか、ボルボックスだわ……」
「ミジンコもボルボックスも知らんがだいぶ酒回ってるだろ…後、お前はいい奴だったから大丈夫だ」
「いい奴だった、って何!?何故過去形!?あと大丈夫って何が!?」
「いや、いい奴だよ、めっちゃいい奴だ。大丈夫っつーのは、何というか、うーん……」
「うへへー、俺いい奴!」
「ああうっとうしいコノ酔っ払い。チョット黙ってろ!」
「はいっ!」
「…お前、結局怖いのは自分の幸せな人生じゃなくて、それが御都合主義の上にあることだろ?」
「…………」
「返事しろや!」
「黙ってろって言ったから」
「メンドウくせえなこいつ!わかった、話していいから、オレの質問に答えろ」
「はいっ!さっきまおーが言った通りです!」
「それならお前は間違っている!」
「?」
「何も全部が全部お前に良いことだった訳じゃあない。お前はちゃんと、自分自身で努力してその幸せを掴んでる。掴まされてるんじゃあない。だからお前は自分の幸せな人生を恐れる必要なんて無い!」
「まおーっ!!!」
「よせやい、照れるじゃねえか」
「まおーっ!!!まおーっ!!!まおーっ!!!」
「がっはっは!よしよし、もっと酒呑め酒呑め!」
「大将!もっとお酒持って来てえ!」
「おう!酒だ酒!がっはっは!」
翌日、元勇者と元魔王は重なるように寝ていたのを目撃され噂された。べろんべろんだったため、記憶があやふや。婦女子の方々の都合よく解釈されたという。
ありがとうございました。
これは自身の作品を加筆修正したものです。