家族
玉座の前まで来たアキトは軽く右手を挙げ
「ただいま、じーちゃん達。」
軽く挨拶。
玉座に置かれてい豪華絢爛な椅子は4つ。そこの中央左に居るのは初代魔王、アキトの祖父。とさらに左その妻、アキトの祖母。右中央には2代目魔王。アキトの父。さらに右その妻。アキトの母親だ。
初代魔王はすでに立っている。
ブルブル震える身体でアキトを直視していた。
言っとくが老人だからでは無い。
「ア、ア、アキト!アキト!アキト!」
ブワッ!
突然初代魔王が王座から飛び降り襲いかかってきた!
カバッ!
いや、アキトに抱き着いて来たのだ。
アキトは初代魔王に抱きしめられ宙ずりになっている。
「会いたかったぞ~!会いたかった!アキト!じーじはアキト無しじゃ生きていけん!生きていけんのじゃ!」
野太い声で訳の分からない事を叫ぶ。
ブラックドラゴンをぶっ倒した初代魔王が言うセリフとは思えない。
「あらあら、アナタ。アキトが照れてるじゃありませんか。」
照れている訳ではない。初代魔王の胸に抱きしめられて喋れないだけだ。
初代魔王。
ゼノストラ・グラデウス。通称ゼノ。
閻魔王との異名を持つ3000年以上生きる魔族の化け物だ。
見た目は、3mの巨人。赤い肌。魔族特有の角。
髪と髭は真っ白(以前は真っ黒だった)。どこからが髪なのか髭なのか分からない。つり上がった目。極太の繋がった眉毛。
さらに極太の体躯に極太の腕。
アキトが宙ずりのまま抱きしめられ、声も出せずにいるのは致し方ない。
服装は何故か高校生が着るような長袖の緑色のジャージを着ている。胸のワッペンには閻という文字が刺繍してある。
その左横で、呆れて王妃の椅子に座っているのはアキトの祖母。
初代魔王の妻。
シルフィード・グラデウス。
身長は170cmぐらい。緑色のウェーブのかかった髪は腰まである。肌は透けるように白く、豊満であろう胸がドレスからこぼれそうなほど谷間をつくって強調している。目は切れ長であるがどこかアキトに似ている。否、アキトがシルフィードに似ているのだ。鼻は高く、微笑む口元は桃色で潤しい。
年齢は落ち着いた雰囲気もあって40代前半にみえる。
誰もが見とれる程の絶世の美女である。
だが、特徴的なものがある。耳だ。耳が長く先端が尖っている。
この世界にいる種族エルフ。
彼女はその中でも希少種、ハイエルフである。特徴的な緑色の髪がその証。
通常のエルフは水色や、桃色、オレンジ色などの髪色であるが、ハイエルフは緑色と古文書にも記載されている。
エルフと言えば人族と比べて長寿である。初代魔王もさる事ながらこのハイエルフの年齢は幾つであろう。
「アナタ。アキトと話も出来ないではないですか。早く離してあげないといけませんよ。」
「アキト~。愛しのアキト~。じーじの大好きなアキト~。」
アキトはゼノに頬ずりをされているが、髭がワサワサして気持ち悪いと思っていた。
ようやくじーじのスキンシップが終わり宙ずり状態から解放された。
アキトが以前この旧魔王城に住んでいた時は初代魔王にこれでもかってくらいにスキンシップをされていた。
5歳までこの城に住んでいたが、そのスキンシップで何度も死にかけた。背骨や肋骨は砕かれ、内蔵は破裂寸前。
度が過ぎる愛情に何度も生死をさまよったのだ。
アキトはちいさかったので覚えていないがこんな実話がある。
ある日、ゼノは古文書で調べた事を本気にした。
『孫は目に入れても痛くない。』
ただの比喩表現の文書である。
だが、何か勘違いをしたこの初代魔王はそれを実行した。
試しにアキトを目に入れようとしたのだ。
それを見た魔族の側近達はすぐさま初代魔王を止めた。しかし、側近達は床にめり込んだ。
何とか駆け付けたシルフィードが止めて事なきを得たが、当の本人は目から大量の血を出しながら、
「孫を目に入れても痛くない事が分かったぞ!」
と言いながらシルフィードにボコボコにされたそうだ。