決戦の結末③
シルフィードのお膳立ては完璧だった。
強要をしないで、妹のミルフィーユに本当の思いを告げさせた。
考えさせられる者も多くいたであろう。
次は、アキトだ。この状況をつくった張本人。
アキトは決心して総帝を抱えたまま、自らの漆黒の翼を広げ高く舞い上がった。
「皆。聞いてくれ。もう一度言うが、俺はアキト・グラデウス。初代魔王ゼノストラ・グラデウスの孫であり、2代目魔王ジルフォード・グラデウスの息子でもある。魔族の血が流れ、エルフの血、そして、人族の血を引いている。」
アキトは、世界連合軍と魔王軍を見渡した。
静まり返る草原。
皆、次の言葉を待っているようである。
「この決戦を止めようとしたのは、他でもない。皆の命が犠牲になるのが、これ以上見て居られなかったからだ。そして、力で抑える事がどれだけ無意味なものか理解して欲しかった。力と力でぶつかり合い、命を投げ打って戦い、仮に勝利したとしても、その先にあるものは、何であるのか?」
アキトは、総帝を優しい眼差しで見た。
彼女のおかげだ。
「長い歴史の中で、魔族は強い力を持つが為に、他種族から忌み嫌われ『悪魔』や『鬼』などと恐れられた。そして、それを根絶やしにしようと、人族やエルフ族、獣人族、ドワーフ族が『勇者』を異世界から召喚し、魔王討伐の為に北の大地に送り込んだ。」
世界の歴史では、それは当然のように正当化されている。
「歴史では真実のように書かれているが、実は真実とはかけ離れたものが1つある。それは、魔族は、他種族と同じ様にただ、普通に生活をしていると言う事。『悪魔』でも無ければ『鬼』でもない。心はあるし、家族だっている。」
世界連合軍の者達は、ざわめきが起こっている。
それも、そのはずである。
魔族は、戦闘を好み、他種族を虫けらの様に殺す『悪魔』だと思っていたのだから。
「北の大地は、皆も知っているように、こちらとは違う強い魔物や魔獣が徘徊する場所だ。そんな大地で生き抜く為に、魔族は強くなった。強くあらねばならなかった。家族を守る為に、子孫を守る為に。ただ、それだけなんだ。」
アキトは、もう一度皆を見渡した。
世界連合軍は唖然とした表情の者達が多く、魔王軍は悔しさを滲ませ泣いている者さえいる。
「魔族は、他種族から忌み嫌われ、一方的に迫害にあってきた。その誇りは傷付き、家族さえ失ってしまった者もいる。そして、復讐の為に、誇りを守る為に、家族を守る為に、恨みを晴らすべく他種族へ攻撃を仕掛けた。」
アキトは、深呼吸して言葉を繋ぐ。
「ただ、復讐は復讐を生むだけだ。魔族が復讐に走った事で、更なる惨劇を生んだ。世界連合軍、魔王軍ともに傷付き、血が流れ、家族や親族、友人や家や家畜、多くのものが失われた。そう、ただ守ろうとした両者の『正義』が、更なる惨劇を生み、憎しみを増加させ、また、この決戦で被害を拡大しようとしたんだ。」
アキトの声に熱がこもる。
「決戦で仮にどちらかが勝利しても、この憎しみの連鎖は止まらない!力で抑えても、憎しみが増すだけなんだ!!」
「ここに1人傷付き気を失っている総帝は、自分の命を投げ出してでも!世界連合軍の皆を守ろうとした!!どんなに強い力だろうが!勝てないのは目に見えていようが!命をかえりみず足掻き、対抗しようとしたんだ!!!
大切なものを守ろうとする想いは、力では抑えられない!!!力で抑えつけても、憎しみを増し!惨劇が繰り返される!!!」
怒りの草原は、静まり返り、風さえも止んでいる。
「これ以上、もう何も!失う事はない!!!憎しみを増加させる事もない!!!1つの歴史の間違いで、殺し合ってどうする!!?また、惨劇を繰り返したいのか!!?俺は、俺は、皆を守りたい!!!世界連合軍も魔王軍も、そして、皆の帰りを待つ民達もだ!!!」
アキトは、眠れる美女に口づけをした。




