初代魔王?
小屋に戻ったププはそそくさとエプロンを身に付けスグに台所に立つ。
もうすぐ昼なので、アキトの為に料理をするのだ。
ププはアキトの身の回りの世話を、ほぼほぼ全てやっている。
料理の素材は先程のカニ、プラチナクラブである。
『頬がとろけるほどの美味。』古文書にはそうある。
幻の超高級食材。
しかし、誰もこの辺ぴな土地に来てしかも死ぬ思いをしてまでプラチナクラブを食べたいとは思わない。
帝クラスが3人束になって戦えば、ぎりぎり勝てるかどうかのカニ。
余程のバカじゃない限り、そんな真似はしない。
幻と言われても納得できる。
「アキト様。昼食が出来上がりました。」
「ああ。ありがとな。」
出来上がった料理は、カニカレーとカニスープである。
プラチナクラブも死んだ後でまさか自分がカレーになるとは夢にも思わなかっただろう。
アキトは本を閉じながら、何故かいぶかし目に料理を見る。
「安心して下さい。超甘口にしております。」
「さすがププ。気が利くな。」
アキトは甘口の様で辛い物は苦手な様子。
見た目はとても美味しそうなカレー。早速、スプーンを持って口に運んだ。
「あーん。アチッ!」
「。。。デジャブ」
ププは慌てた様子で額に汗を浮かべながらスグに台所で水を準備する。
「気が利くってのは取り消しだ。俺はさっき猫舌って言ったよな?」
アキトは青筋を立てながらププを睨む。
その身にはこの世の者とは思えぬほど禍々しい魔力が立ち上り、ドス黒い殺気がこの小さな小屋に充満する。
「ア、ア、アキト様。お、落ち着いて、カ、カレーはフーフーして食べてください。」
ププはぶるぶる震える手で水を差し出す。
「俺は幼児じゃねー!!!」
バコッ!!!!!ドガッーン!!!
ププは小屋を突き破りはるか遠くまで飛んでいった。
ププもとっさに全力の魔力で身体強化をし、ブラックシールドを展開したが、それを突き破りアキトの右ストレートはププ顔面を捕らえた。
「まったく。俺の猫舌を甘く見んじゃねーよ。」
意味の分からない事をボヤきながら、フーフーしてカレーを食べ始めたアキト。
甘口で猫舌。気に食わない事があれば暴力。なんら我儘の幼児と変わらない。と砂漠の上で倒れたププは思った。
しばらくして回復魔法でなんとか復活を果たしたププは、壊れた小屋を板を使ってカナヅチと釘で治していた。
それが終わるといつの間にか椅子の上でうたた寝をするアキトを起こす事に。
「アキト様。アキト様。お約束のお時間ですよ。」
大きな鼻フーセンを膨らませて寝ている。
マンガか?とププは心の中で思った。
パチンッ
鼻フーセンが割れ、アキトは目を覚ます。
「あれ?もーそんな時間か?」
まだ眠そーな目を擦りながらププに問いかける。
「ええ。サーンも傾きかけておりますので、準備の方を。」
「分かった。今日はあっちに泊まるから何も夜の準備はしなくていいぞ。」
「はい。かしこまりました。」
ププは毎日アキトの好きな風呂を準備しなくてはならない。木製の五右衛門風呂で、火加減がむずかしくアキトに何度もぶっ飛ばされた。
現在はアキトの湯加減をマスターしたので、殴られる事はないが。
転移。
そこは赤の大地でありながら吹雪が吹き荒れている。ピンク色をした雪が大地に降り注ぎ幻想的な風景だ。
まるで、地球の日本にある桜吹雪を彷彿させる光景だ。
赤の大地の北側にはハマラヤ山と言うこの世界で最も大きな山脈がある。標高は1万メートル。
その山の中服、黒く大きな城がそびえ立つ。
魔王城。いや、初代魔王が3000年前に建てたと言われる魔王城である。
現在の魔王は別の場所に城を建てているので、旧魔王城とでも言おうか。
城の周りには数え切れないほどの薔薇が咲き乱れている。
血のように赤く刺々しい薔薇はグリムローズ。年中雪の降るこの地でも枯れることの無い『地獄の薔薇』とも呼ばれている。
その旧魔王城の前にアキトは転移してきたのだ。
アキトの身の丈ほどある階段を数十段登ると、大きな2本の石柱が現れる。
城の中に直接転移しても良いのだが、魔王城に張ってある巨大な結界をぶち抜く事になるので、わざわざ城の外側に転移した来たのだ。
アキトは門の前に立つと何か呟いた。
「戻ったぞ」
吹雪が吹き荒れる中、小声で言った言葉なはずだが旧魔王城の巨大な門はゴゴゴゴーと音を立てながら開いた。
初代魔王はアキトの祖父である。