冷めたスープ
「少し待ってろ。」
「え?う、うん。」
ミャーの母親の治療を終えたアキトは1度スラム街をでた。
近くの市場へ赴き食料をありったけ買い込む。
それから、再度スラム街へ。
ミャーのボロボロな家に到着し、ドアを開ける。
ギギギー
「あっ!お、おじさん!」
大量の荷物を持って現れたアキトは、おもむろに小さな流し台に行く。
手馴れた手付きで食材を刻み、素早く火を付け、料理を始める。
いきなりどこかへ行ったかと思うと、帰ってきて無言で勝手に料理を作り始めたアキトに、唖然とする幼女。
「あ、あの。何を作っているんにゃ?」
「あー。お前のかーちゃんは病気で栄養失調だ。少しでも栄養のある物食べさせて置かないと、また病気になるからな。」
「そ、そんな事までして貰って困るにゃ!ボス達から助けてもらって、お金まで貸してくれて、、、お母さんの病気を治して貰った上に料理までしてくれるにゃんて、、、これ以上、これ以上!恩を受ける訳にはいかないにゃ!!」
「見かけによらず難しい言葉知ってるな?恩を売るなんてしないよ。ミャーは歳はいつくだ?」
「こう見えても5歳にゃ。普通より小さいけど、、、自分達の事は何でも出来るにゃ。。。」
だんだんと声の小さくなるミャー。
自分が子供扱いされているのは分かる。自分の意見はほとんど無視され聞き流されている。
しかし、今日が初対面のアキトにここまでして貰う義理は無いと感じているのだ。
アキトをこの家に連れて来て、少しでもお礼をしようと考えていたミャー。しかし、逆に母親の不治の病と言われる病気までアキトに治して貰ったのだ。その上食材を買い出しに行き、料理まで振る舞おうとしてくれているアキト。
自分がアキトにしてやれたのは、不味い飲み物と焦げたクッキーを振舞ったぐらいである。
黙々と料理を作るアキトをボーゼンと見ながら自分の不甲斐なさを感じるのである。
人が良いを通り越して、アキトが神に見える。
アキトはそんな事はお構いも無く思う。
ミャーは5歳にしては小さい。
あまり良い物を食べて育ってないのだろう。
テキパキ料理を作りながら考える。
「ミャーも食べるか?味は保証出来んが栄養はあると思うぞ。」
「。。。ごくっ。い、いや大丈夫にゃ。。。」
薄暗い部屋にはとても良い香りが漂う。
ぐぅー。ミャーの腹の虫がなる。
「ははっ。身体は正直だな。たくさん作ったからお前も食べろ。」
「何でそこまでしてくれるにゃ。。。も、申し訳ないにゃ。。。」
「子供が気を使うな。大人の親切は素直に受け取っておけ。ほら、もうすぐ出来るから座われ。」
素早く火を止め、皿に野菜や肉の入ったスープをいれる。その横に柔そうなパンを添え、先ずはミャーに出す。
「ほらよ。かーちゃんも起して呼んでこい。多分、立ち上がれるまでになってるはずだ。」
「は、はいにゃ!」
バタバタと奥の部屋に行くミャー。
しばらくして、母親の手を引いてやって来る。
母親は自分が歩ける事に驚いた様子である。
身体は痩せこけてフラついてはいるが、顔に赤みが差し体調も良くなっているのだろう。
「あ、あ、貴方様がもしかして、わ、私を治してくださったのでしょうか?」
「ああ。それよりも先ずはそこにある物を食べてくれ。」
「お母さん。座ろう。このおじさんが作ってくれたにゃ。」
「おい。ミャー。俺はおじさんじゃねー。アキトって名前だ。まーどーでも良いけど早く食べてくれ。折角のスープが冷えてしまう。」
「ほ、ほ、本当にありがとうございます!ありがとうございます!何と!何とお礼を言えば良いか!!本当にありがとうございます!この子が!この子が1人になると思うと、死ぬに死ねなくて!」
床に頭を擦り付けんとばかりに頭を下げるミャーの母親。目を赤くしボロボロと泣きながら震えている。
「ああ。分かったから。それは良いから。頭を上げてくれ。もう良いから食べてくれ。」
ミャーの母親の背中を擦り優しく声をかけるアキト。
それでも母親は、何度も何度もありがとうございますと頭を下げる。
「アキト様!本当に!本当に!ありがとうございます。」
「頼む。料理を食べてくれ。」
「アキト様!本当にありがとうにゃ!感謝しても感謝しても足りないにゃ!」
母親の横で床に頭を叩きつけるミャー。その額が赤くなっている。
「それは、分かったから。頼むから料理食べてくれ。。。」
その後やっとの事で落ち着いた親子が、冷めたスープを食べたのは言うまでもない。
アキトはミャー親子と色んな事を話した後、スラム街を出た。
アキトが神級魔法を使用した事は、この親子には内緒にしてもらった。
ミャー親子は「この御恩は必ずお返しします!」と言ってまた土下座していた。
アキトは再三断ったがしつこく親子が迫ってきたので、取り敢えず「分かったよ。」と言って逃げ出して来た。
スラムの事情やら病気の事やら色んな事を獣人族の親子と話したので日は既に傾いている。
アキトは1人街を歩きながら燃えるようなオレンジ色の夕焼け空を眺めた。




