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最強とは?それは特に重要では無い。  作者: くぅ
第1章 世界が変わる時
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茶番

「いたわね。」


「ああ。」


短い言葉で確認しあう2人。

その目線の先。50mほど先の木の影に隠れた巨体が動いている。

ビリベアーは黄色い毛並みで体長5mほどの大きな熊。目立つ事この上ない。

あの巨体でウォーウルフ以上のスピードがあると言うのだからにわかに信じがたい。


「何か獲物を食べているようね。大きな動きはないわ。アキトはビリベアーの背後から魔法を放ってちょうだい。それを合図に私が接近して斬りつけるわ。」


「了解。俺の所にビリベアー来ないかな?」


「大丈夫よ。接近した私が主に戦うから。魔法を放ったらスグに離れて見てて。」


「了解。じゃあアッチに回り込むぜ。」


アキトはビリベアーの背後の木の影に隠れる。

20mぐらいの相手に気付かれないギリギリの距離だ。


メアルはビリベアーの前方の木の影。

アキトに念話を送ってきた。


(アキト聞こえる?貴方の魔力通して念話してるの。)


(あ、ああ。聞こえる。もう攻撃して良いか?)


(良いわよ。コッチも準備出来てるわ。)


(了解。水魔法でヤツの雷属性の魔力を地面に流すから切り込んでくれ。)


念話は上級者なら誰でも出来る。

確認もせずアキトに念話を送ってきたメアルは当たり前の様な顔をしている。


アキトは詠唱を始める。

無詠唱だとアキトの正体がメアルに怪しまれる危険性があるからだ。


水中級魔法「スリーウォーターランス」


水魔法で形成した2mほどの3つの槍は木々の間を抜け、食事をしていたであろうビリベアーに直撃する。


ドカッドカッドガッ!

「グガッアアアアァァァ!」


3つの槍は命中。いきなりの攻撃で悲鳴を上げるビリベアー。

その周辺は地面と木々に自らの雷電が放電し、白い煙を上げている。


グルッと後ろを振り返り辺りを見回すビリベアー。

アキトの放った魔法はあまり効いていないようだ。


スバッ!


「ギャアアアアアアアアァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


メアルは瞬時にビリベアーの背後に飛び込みその巨体の背中をロングソードで切り付けた。


目を血走らせ怒り狂い、グワングワンと両腕を振り回し周辺の木々をなぎ倒すビリベアー。


「意外と硬いわね。」


かなりの力で切り付けたはずであるが、ビリベアーの背中の体毛に阻まれ浅傷しか与えられなかった事を感じたメアル。

暴れ回るビリベアーから距離をとり再度切りかかる隙を伺う。


ビリベアーは新たに雷属性の電流を纏いメアルを敵と認識した。

その巨体には先程よりも大きな電流が放電している。


バチバチバチ!


電光石火!巨体は猛スピードでメアルに突進その獰猛な牙を剥き出しに襲いかかる。


(早い!しかし、単調よ!)


バキバキバキ!

メアルの背後にあった巨木がビリベアーの突進でへし折れる。

メアルはビリベアーの頭上の宙を飛び背後に降りる瞬間にまたもや先程切り付けた背中を切る。


ズバッ!

全く同じ箇所。全く同じ剣筋。

今度は深手を負わせた。その肉を切り裂き、骨まで達したはずだ。手にはその感触がある。

同じ箇所を切るのは難易度がかなり高い。

しかしメアルはそれを簡単にやってのけたのだ。


ビリビリ!

ビリベアーに纏わる電流がロングソードを伝ってメアルの身体を駆け抜ける。


「くっ!」


少しの間メアルは動く事が出来なくなった。

(まずい。致命傷じゃない。)


ビリベアーはブワッと立ち上がり振り向きざま大きな右腕を振りかぶった。


「グワッワワワワァアア!」


スドッ!

立ち上がって手をかざしたままメアルの前で止まるビリベアー。

何が起こった?コイツ死んでる?


ビリベアーの開いた目には生気が感じられない。

纏う電流もスっと消えている。


「ふぅー。ヤバかったな。コイツむちゃくちゃだ。」


アキトだ。アキトがビリベアーにとどめを刺した。


ドスンとメアルの前に倒れたビリベアーの背中にはアキトが放ったであろう『ウォーターランス』が刺さっていた。

メアルが切り裂いた背中の同じ箇所にその水属性の槍は深々と刺さっているのだ。


「助かったわ。危うく殺られるところだった。」


「いや。メアルが切り裂いた背中が無かったらコイツは倒せなかったよ。」


「ふふっ。でも、驚いたわ。アナタに助けられるなんて。」


「いや。たまたまだろ。運が良かっただけだ。立てるか?」


片膝を着いたメアルに右手を差し出すアキト。

握り返されたメアルの手は先程、豪剣を振るったSランクのギルド員とは思えない程、細く柔らかで温かい。


「ありがとう。アキト。」

「いや。。。」


僅かに頬を染めたアキトは誤魔化す様にポリポリと頭をかいた。

そのまま、手を握ったままの2人。


「ふふっ。アキト手を離して貰っていいかしら?ビリベアーの素材を持ち帰らなくちゃ行けないから。」


「あっ。ご、ごめん。」


アキトは真っ赤になり素早くその手を離した。

オロオロとビリベアーをどうしようと思っているとメアルが自らの太ももに差したナイフを取り出し、慣れた手付きでビリベアーを解体しはじめた。

その巨体から血を抜き皮を剥ぐ作業。結構時間のかかる作業だ。


お互い隠した実力で茶番を演じていた。

この2人の本来の実力なら、目をつむっていてもビリベアーぐらい一瞬で塵に変えることすら出来る。

メアルはそんな茶番を演じながらも「一般ギルドも捨てたもんじゃないわね」と細く微笑む。


アキトもそんな嬉しそうなメアルを見て安心する。

作業を手伝いながら美しいメアルをチラチラ観察するのだった。

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