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「ちょっと、説明長かったかな?」
「何の話でしょうか?」
この物語の主人公アキトは物思いにふけっていた。
二杯目の甘いコーヒーに手をつける。
ズズっ
「アチッ!ちょっと熱いぞププ!」
「すいません。火魔法の微妙な調整がむずかしくて、加熱しすぎたのかもしれません。」
「以後、気をつける様に。俺は猫舌なんだから。」
「はい。かしこまりました。」
アキトはコーヒーを冷すためカップをテーブルに置いた。
この2人の関係はどういうものであろうか?
執事と主人の関係なのは分かるが、何故こんな辺ぴな土地に住んでいるのか?と突然。
ドドドドドドド
地面から振動が伝わり小さな木製小屋がギシギシ音をたてる。
地震だろうか?
「あーあ。コーヒー、テーブルにこぼれちゃったじゃん。服に着いたらどうしてくれんだっての。」
よくある事なのか?軽くアキトは言う。
「またレッドワームが迷い込んだのでしょうね。」
「くそったれ。人が読書してんのに、邪魔しやがって。ちょっと行ってくるわ。ププは家が崩れない様に結界張っといてくれ。」
そう言うとアキトは持っている本をたたみ、まるで散歩でも出かけるように小屋から出ていく。
「行ってらっしゃいませ。」
ププは主人が出ていくとスグに詠唱を始めた。
「我が指定する空間を守れ。ダークシールド。」
属性は闇。上位の魔法。ダークシールド。帝級魔法である。
帝級魔法とは、その名の通り帝クラスSSランクが使える魔法である。
黒い闇の壁が砂漠の地表面から立ち上がり、ドーム状に小屋を包む。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドッ! ガバッ!
小屋から数百メートルさきに、砂漠の砂を撒き散らし現れた真っ赤な巨体。レッドワーム。SSSランクの魔物である。
SSSランクの魔物ともなれば、帝ランク以上のSSランクが3人以上必要な討伐である。
全長は地中に埋まって分からないが、頭部を出した部分だけでも30mはあるから100m以上はあるかもしれない。
通常のワームと言う魔物は全長10m。Bランク。個体によっても変わるがこのレッドワームの大きさは10倍以上ある事になる。
頭部には、円を描いたような口がありその内部は鋭利な剣を思わせる歯が無数に生えている。
地中を移動するのに必要なのか?獲物を捕らえて捕食するためなのか?
どちらとも正解だろう。
目や鼻、耳の様なものは無い。大きく開かれた口だけがあるのみだ。
身体は大樹のように太く、針の様な毛が至る所に生えている。
この針には神経毒があり、軽く掠るだけでも身動きが出来なくなる。
マダラな模様の赤の巨体は死を予感させる不気味さだ。
この生物(魔物)は魔力を探知して餌となる物を捕らえる。
もちろん、今回探知された獲物はアキトだ。
ギシャーーーーーー!!!
レッドワームは大きく口を開き我よりはるかに小さな目の前の生物に威嚇をしたのだ。
普段は捕食するだけの強者である魔物が。
アキトの魔力を感知し地上に出てみれば小さな生物。だが、アキトを目の前にして危険を感じたのだ。
死の危険を。
「うっせーな。最近のんびり過してたのによ。」
アキトが小さく呟いたと思った瞬間。
バシュッ
突然レッドワームの頭が吹っ飛んだ。
ドドドドドドーン
大きな砂ぼこりを立てながら赤い巨体は砂漠の地にあっけなく沈んだ。
何が起こったのか?
アキトは何をしたのか?
いや、アキトは何かした素振りは無かった。
左の手を漆黒のローブのポケットに突っ込み、右手は耳の穴をほじくる仕草をしただけだった。
SSSランクの魔物が突然頭部を吹き飛ばして倒れてしまったのだ。
自爆?否、そんな筈はない。
アキトが殺ったのだ。
砂ぼこりが止み、レッドワームの死体の頭部から見た目に反して緑色の血液が止めどなく流れている。
その血液はこの赤い砂漠に吸いこまれていく。。。