底無し
アキトは死んだと思っていた。
心臓を剣で貫かれたのだから。。。
暗闇の中、ただ呆然と宙に浮いている。
これが、死というものか。
自分の左手は無く、右足も無くなっている。
片目は開いているが、何も見えない聞こえない暗闇。
身体に痛みは無い。
声も出せない。死後の世界はただの暗闇。
地獄でも天国でも無い。暗闇のみ。
(ここは、死後の世界ではない。)
誰だ?俺に話かける奴は?
死後の世界じゃなけりゃ、何なんだよ。
(お前の精神世界だ。)
だから、誰なんだよ。
俺は殺されたんだ。強い奴に。ここが死んだ奴の行き先だろ?
(お前は死んでいない。)
何言ってんだ?
心臓を貫かれたたんだ。死ぬに決まってんだろ。
(お前の力はそんなものでは無い。精神が死んだと思いこんでいるだけだ。)
じゃあどうすりゃいいんだ?
こんな身体でどう戦うんだ?心臓に穴空いてんだぜ?
(お前には3つの血が流れている。魔族、エルフ、人間。その血に身を委ねよ。)
身を委ねよって言われてもな~。
血も流し過ぎて貧血状態だったしな~。
(ただ、その血を認めれば良いのだ。何も恐れる事は無い。)
恐れるって?あの砂漠の王って奴か?
あんなのに勝てるわけないだろ?恐れて当然だ。
(お前は死んでいない。一時的に眠った状態だ。お前に流れる血を、その意思を感じとれ。)
だから、誰なんだよ。
意思ってなんなんだよ。わけわかんねーよ。
(お前自身の血を飲んでみろ。そうすれば分かる。)
最初からそう言えよ。回りくでーな。
アキトは何とか口に力を入れ、唇を嚙み切る。
ゴクッ
うーん。鉄の味。自分の血を飲むって何なんだよ。
そう思うと同時に今まで自分では気が付かなかった事に気付く。
あっ?
底の見えない闇。自分の中に眠る漆黒の闇。
しかし、嫌な物ではない。闇ではあるが、何故かあたたかい温もりさえ感じる。
なんだ?
辛うじて動く右腕を胸に当ててみた。
ドクンドクン
『ありえん!ありえん!こんな事があってなるものか!』
アキトの底無しの魔力が吹き荒れ、砂漠の王の魔力を消し去る。
「だよな。俺もそう思うぜ。」
アキトは右手を上に掲げた。
吸いこまれる様に『タロウ』がその手に収まる。
今分かった。ようやく理解した。全て納得がいった。
「相棒。さっきは助かった。ありがとな。」
さっきの夢で話し掛けてくれたのはこの相棒。
妖刀『タロウ』だったのだ。
『くっ!くそ!余は幾千年待ち侘びたのだぞ!
これしきで諦めてなるものか!!!』
ファラ王は黄金の剣に最大級の魔力を込めた。
アキトの底無しの魔力に対抗するには、本体を殺るしかない。
『くらいよれ!』
ズバッ
途端、ファラ王の首が飛んだ。
宙を舞う砂漠の王の首。
視界が反転しながらファラ王は思考が追いつかなかった。
ファラ王が立っていた横にいつの間にかアキトが刀を振り抜いて立っているのだ。
呆気ない幕切れ。コンマ何秒と言う一瞬。
動いた気配すら感じ取れなかった。
自分の技を放つ方が早かったはずなのに、無防備だったアキトの方が早かったのだ。
ドスッ
砂漠の王の首が床に転がった。
ファラ王は目を見開いて驚いた表情である。
「ぁ、ぁ、な、な、なぜだ、」
良く首だけで話せるもんだとアキト思う。
さすが10000年以上も生きて来た化け物。
「わかんねーな。ただ、強過ぎたアンタが俺の真の力を引き出してくれたのは確かだ。」
「し、真の力だと?く、ククッ。笑えぬ冗談だ、、、」
アキトはファラ王の首に近づきその表情を見た。
すでに、その顔から覇気は消えその命はロウソクの灯火の様である。
「最後に言い残す事はあるか?」
数分前までは圧倒的強者であったファラ王がアキトを見下していた。
今は、逆にアキトがファラ王を見下し最後の言葉を待っている。
『よ、余は永く生き過ぎたのかもしれん。。。し、しかしこの世界に魔王以外で余に適う者が居ようとはの、、、』
「それが、最後の言葉か?」
『ほ、誇るが良い。こ、この砂漠の王に勝ったのだ。これからは名乗るが良いぞ。新たなる砂漠の王として、、、』
「誰に自慢すんだよ。こんな辺ぴな所で。そもそもアンタの事も誰も知らねーだろ。」
『そ、それもそうじゃの、、、クッホッホ。さあ、殺せ。もう、思い残す事は無い。地獄でのんびりしようぞ、、、』
アキトはファラ王の首に妖刀を向けた。
ドスッ
ファラ王の眉間に深く『タロウ』が突き刺さり血が流れる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
途端、地面が揺れバリバリと天井や壁に亀裂が走る。
砂漠の王が死んだ事でこのピラミッドもその役割を終えたのだろう。
ガラガラと落ちてくる天井や壁。それはスグにサラサラとした砂に変わり跡形も無くなっていく。
「やっべーな。なんかぜんぜん力が入らねー。ダメだこりゃ。」
人間の様に元の姿に戻ったアキトであったが、魔力も口渇した状態となった。
更には、身体の至る所が軋み膝を地面に着いたまま身動きが取れない。思考も回らない。
このままだと、ピラミッドの崩壊した砂に埋もれて生き埋めになってしまう。
「くっ、くそ!砂漠の王と一緒にあの世なんて最悪な結末だよ!」
アキトの頭の上にサラサラと砂が落ちてくる。
アキトは疲労でボヤけた目で砂に埋まっていく自分の身体を見るのだった。




