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7話 密談する者

ハエ回です。

 目が覚めたら昼過ぎだった。

 自然な目覚めでは無い、腹を空かせたドラ吉に叩き起こされたのだ。

 てか、もっと加減しろよドラ吉。普通の人間なら首が吹っ飛んでるぞコラ。宿の人が何事かと見に来ちまったじゃないか。


 昼飯を食いに外へ出る。宿でも食えるのだが味が物足りないし、何より食べ歩きがしたいのだ。

 などと思いつつも結局屋台でお茶を濁す。ドラ(ペット)同伴可の店を探すのが、めんどくさいのである。

 で、結局お昼は、焼き鳥とポテトフライ。

 焼き鳥屋では焼酎も一杯ひっかけたのだが、毒無効スキルをオフにするのを忘れてたので酔えなかった。

 アルコールは毒物じゃないよ百薬の長だよと抗議したいです、ハイ。


 屋台で買った大袋のポテトフライをドラ吉と一緒にツマミながら歩いていると、ふいにドラ吉が何かに反応した。

「ぴゅ?」

 首を傾げながら見ているのは、頑丈そうな塀で囲まれたなにやらでかい建物だ。食べ物の店じゃ無いのに、なして反応した?

 門の看板に『エゴキン商会』と書かれた看板……エゴキン商会?……あぁ、エチゴヤさんか。

 思い出すのに時間の掛かった俺に、ドラ吉が呆れた風なジト目を向けている。イヤ、タメ息まで吐かんでも……つーかひょっとして文字も読めるんですか? ドラ吉さんてば賢い……。


 眺めるのに立ち止まっていたら、すぐ手前に居た古着の露天商にチラ見された。邪魔だったかな?

 古着には興味が無いので、そそくさと前を通り過ぎたのだが……なんか妙だな、勘だけど。

 あ、そういや俺、直感スキル持ちだったっけ。てコトは、あの人なんかあるのか?


 なんとなく通り過ぎたが気になったので、ついついその辺を飛んでいるハエを捕まえて『従魔化』し見張らせてしまった。


 てか、ハエも従魔化できるんだね、やってみるまで知らんかったよ。

 一匹じゃ不安なので、もう一匹捕まえて追加しとこう。


 さて、王都見物に戻るか。


 この辺は大きめの商店が多いな、薬屋さんがあったので突入する。品揃えが気になるもので。

 ざっと見て特に珍しいものも無いなー、値段が少し高いくらいかな。

 品質にバラつきがあるということは、自作ではなく仕入してるんだね。


 あ、俺の作ったポーションがある、が……賢者作になってる……おい、それは詐欺でないかい?

 たぶんノバ村の道具屋のおばちゃんが犯人だろうが……今更めんどくさいな、放っておこうっと。

 今度ノバ村で売る時は絶対むしり取ってやるが。


 ほう、育毛剤がある、この世界のは効果あるのかな? ウチの師匠群は誰も作っていないはずだ、黄師匠ハゲだし……ポリシーとかじゃ無いよな?

 成分が気になるので、2000ゴルダも払ってお買い上げしとく……イヤ、自分のじゃないから。

 おい、店主とドラ吉、俺の頭から視線を外せ。ぬ……抜け毛は細くなってきたけど、まだ大丈夫なんだからね!


 とりあえず店主の視線から逃げようと店を出た……おや? 何やら騒がしいな。

 なんか商人っぽい人が、土下座してる。

 相手は強面の……獣人さんだな。犬っぽいけど、狼かもしんない。

 う~ん、実はこの世界に来てから男の獣人しか見て無いんだよなー、女の獣人をまだ見て無い……つまらん……そういや子供の獣人も見て無いな……つまらん。

 そっちの属性は無いんだけど、一度はもふもふしてみたいよね、できれば猫系の女の子がいいなー。


 などとアホなコトを考えながら見てたら、土下座してた商人らしき人が蹴られた。

 邪魔系でなく痛い系の蹴りだなアレ。それだけで暴力に慣れてる相手だという事がわかる。

「お願いします!どうか、どうかあと3日!後3日待っていただければ必ずお支払いできますので、どうか!」

 借金の取り立てだなー、テンプレだと娘か店が借金のカタになるんだけども。


「待てねぇなぁ! 証文にゃ昨日までに借金全額返すと書いてあんぞ! 金払う約束が守れねえ奴は、商人なんぞ辞めちまいな! 向いてねぇんだよ!」

 うん、やっぱり商人だった。

「あと3日あれば、必ずお返しできますので! どうか差し押さえはお待ちください! どうかお願いいたします!」

 にしてもこんな往来で取り立てるかねー、評判が悪くなるだけだと思うんだが。


「おい、本当に3日で払えるようになるんだろうな、この俺を騙す気じゃあねぇだろうな」

「そんな! めっそうもございません! 必ず3日後にはお支払い致しますので、どうか!」

 取り立て屋の犬(狼?)獣人が、考えている風な顔をしてる。見慣れて無いので、獣人の表情って良く判らんのだが。


「よし、そこまで言うなら後3日だけ待ってやる、だが……」

「もちろんでございます! 必ず3日後にはお支払い致します!」

 食い気味に商人が被せてくる。

「よし! じゃあ4日後にまた来てやろう。ただし、逃げねぇように見張りは付けさせてもらうぜ」

 と言うと後ろに目配せして手下らしきチンピラに命令した。

「おいチャガ! お前こいつの店に4日の間世話になれや、店の品、特に塩から絶対目を離すんじゃねぇぞ!」

 チャガと呼ばれた男は『へい』と短く返事をして、商人の背後に回る。


「往来で何をやっている」

 野太い男の声がこの場の空気をぶった斬った。

「何もやってやせんぜ、ノンデオスの旦那。王都警備隊の世話になるような事は、何もね」

 王都警備隊は王都の警察みたいなモノなんだが、余裕だなこの取り立て屋。慣れてるのかね。


「本当か? 何なら苦情だけでも引っ張れるぞ」

 商人に促すが。

「いえ、何もございません。大丈夫でございます、本当に何もございません」

 取り立て屋がニヤニヤ眺めている。


「だ、そうですよ隊長さん。もういいですかい? 俺の用事はもう終わっちまったんでね」

 隊長さんなんだ……なんか苦虫を噛み潰した顔をしてるなー。強引に引っ張らないところを見ると、まじめな人なんだろう。頑張れー。

「用が無いのなら、もう行きやすぜ隊長さん。それじゃあ行くぞ、お前ら」


 ありがとうございますと何度も頭を下げる商人に背を向け、2人のチンピラを引き連れた取り立て屋は去っていった。去っていくときの顔がニヤけている。

 いいんですか? と部下に問われた隊長さんが苦々しげに、仕方あるまいとイラついている。

 ああいう奴はいつか必ず隙を見せるそれまで待て、だそうだ。


 隙ねぇ、手伝ってあげたいけど……。

 ちょうどハエが目の前を飛んでいたので捕まえて従魔化、取り立て屋を追わせる。ハエ大活躍だね。

 観光気分が削がれたので、早めの晩飯にして宿屋へ戻りましょ。

 ちなみに晩飯はカレーライス……しまった、カツのトッピングができたのか! 食べ終える前に何故気付かない、俺!

 直感スキル、仕事しろ!


 ………………


 宿屋に帰った俺は、早速情報収集に勤しむ。まずはエチゴヤさん家の前にいた古着屋さんだ。

 従魔とはある程度同調できるので、視覚と聴覚を同調させる。視界がボヤけて何か見えにくいし、音も聞きとりにくい。

 虫と同調するのは、やっぱり無理があったかなー。

 虫は複眼の数がデジカメの画素数とか、そんなんだっけ? 我ながら知識が半端だなー。


 宿とおぼしき部屋には7人の男がいて、なにやらお話し中のようだ。

「で、何とかなりそうか」

 中心人物と思しき男が、古着屋さんに聞く。

 この声どっかで……。

「やっぱり外からは無理です、やっぱり中に入らないと正確な位置は……」

 古着屋さんが答える。


「どうする、こっちの人数だと確実に居場所を掴んでおかないと、確実に『やれん』ぞ」

「ああ、迅速に確実に『やらない』と、この間のように邪魔が入ってしまうからな』

「だな。シロウカ、肩の具合はどうだ」

「もう大丈夫だ、襲撃には何の問題も無い。ちゃんと役には立てる」

「そりゃ役に立ってもらわなきゃ困る、お前の肩を治すのにはかなりのポーション代が掛かったんだからな」

 どっと笑いが起こるけども……あれ、この人たちひょっとして馬車襲ってた人達? あと『やる=殺る』だよねたぶん。

「それにしても、まさかエゴキン商会の前で奴に出くわすとは……奴が雇われているとしたら、厄介だな」

「いや、そんな感じじゃなかった。ただ通りす……」


 古着屋さんのお話中に急にハエとの同調が切れた。もう一匹いるからそっちに……あれ? こっちもできない、なして?

 別にスキルの調子が悪いワケじゃなさそうだし……。

 ふと自室の窓を見て気が付いた、窓枠に付いてるのは虫よけの魔道具……そうか、それで死んだか。うっかりしてたなー。


 虫よけの魔道具には、虫の嫌いな音で追い払うモノと殺虫効果で近付けなくするモノがある。

 ほとんどの宿には虫よけの魔道具があるが、同調したハエの聴覚には会話以外の音を感知できなかったので、たぶん殺虫効果の魔道具。

 それでハエは死んだ……ハエよ、お前たちは良くやった。


 あ、そうなると取り立て屋に放ったハエも……。

「4日後が楽しみですねぇ」

 良かった、まだ生きてた……ん?こっちの声も聞き覚えが……。

「ええ、まさか金策のあてまでこっちの仕掛けとは思ってもいねぇようでしたよ」


「で、あちらは終わったのですか?」

「へい、騙し盗った金は全部回収しときやした、あとはあのバカに捕まってもらうだけでさぁ。あ、もちろんこちらの事がバレるようなヘマはしてやせんよ」

「信用はしてますが、あなた時々仕事が雑ですからねぇ」

「ですが失敗したことはねぇでしょう? ご安心くだせぇ。で、今度のバカもまたダマしに使うんで?」


「もちろん、使えそうでしたら使いますよ。再利用できるゴミは使いませんともったいありませんからねぇ」

「騙したバカを追いこんで騙しに使う、使ったやつから金だけくすねて手配犯にして逃がす。捕まってもこっちに繋がる証拠は無し、よくこんな事考え付きやすねぇ」


 そこへコンコンとノックの音

「ウォルバーです」

「どうぞ、お入りなさい」

 ウォルバーと名乗った男はエチゴヤに頭を下げると、犬獣人を冷めた目つきで一瞥する


「聞こえてましたよ、あなたの頭ではエゴキン様のような策など考えつかないでしょうね。というか考えるだけ無駄ですよ、あなたはおとなしく使いっばしりをしていればいいんです」

「使いっぱしりだとてめえぇ!」

「おやめなさいガジ、ウォルバーも。 ウォルバー、ガジはあなたが苦手な事を良くやってくれているのですよ。敬えと言いませんが、少しは感謝なさい。ガジもすぐ頭に血が上る癖を、もう少しなんとかなさい」

「はっ」

「へい」

 あの獣人ガジって言うのか。

「それでウォルバー、塩の買い占めは順調……」


 またハエとの同調が切れた……ハエよ安らかに眠れ……。

 あの取り立て屋、エチゴヤの手下だったのか。で、商人を騙して金を奪い、ついでに塩を買い占めていると。

 なるほど、なかなか立派なエチゴヤさんなコトで。

 ほいであっちの襲撃者さんたちは、エチゴヤ被害者の会ってトコかな? 話の内容からしてエチゴヤの居場所を確定して襲撃したいと……忠臣蔵かよ。


 どうすっかなー、手をかしてやりたい気もするけど関わるとめんどくさそうな気も……。

 建物の絵図面でも作ってやろうか? 夜は観光しないし。ハエ使えばそんなに苦労しないし。

 えーと、確か毒耐性の魔道具の材料はまだあったよな……。


 そんなワケで俺は寝る前に、殺虫効果の虫よけ対策に毒耐性の足輪(ハエ用)を大量生産したのだった。

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