41話 争いの爪痕
ここから戦争地域に入りますので、若干お話が殺伐とします。
スコーシァン神の土地は、他の神の土地に比べて広い。
その人口と比較して、無駄に広いと言える。
そのせいなのか最近まで4つの国に分かれていた。
最近まで、というのは土地の中心部にあるルボッチ帝国が、勇者を将軍に据えて他国への侵略を始めた事により、国が一つ滅亡してしまったからだ。
滅亡した国の名はセビャニ王国といい、土地の北西部に位置していた。
ルボッチ帝国は残り二つの国――ソーミャット王国とボラケン王国――にも侵攻をし続けている。
……とまぁ、こんな現状のところに俺たちは向かっております。
テキトーに眺めたらすぐに立ち去る予定。
だって落ち着いて楽しめないもん。
王都グルジンベを出て東へ、砂漠を超えてさらに東へと進むと、スコーシァン神の土地だ。
当然ながらそこは国境でもあり、出国はともかく入国は関所を通るコトになる。
そして戦争中の国に入るとなると……これがまた面倒くさいのだ。
諜報員や工作員なんかが入り込むのを防止するため、当然ながら検査の類はやたら厳しい。
ましてや難民として脱出する人が多いのに、わざわざそんなトコにやってくるヤツなんて怪しいにも程があるので、俺たちはものすごーく足止めされて調べられた。
逮捕収監されないだけマシなのかもしれないけど、牢破りというのもちょっとやってみたかった気もする。
おっさん心というのも複雑なのだよ、うむ。
正直ドラ吉と俺だけだと、けっこう無茶してもどうにでもなるのでついつい何かしたくなる。
自重、自重だぞ俺。
そう、俺はちゃんと自重して行動している。
これまでの道中だって、我ながら大人しいモンだ。
せいぜい関所で長々と入国審査をしやがった兵士に、嫌がらせで新開発のウイルスを仕込んだ程度だ。
この新種のウイルスは起きているときには活動せず、睡眠時に活動を始めてものすごーく深く長い睡眠を導くという快眠ウイルスなのだ。
ちなみに女神様との夜のお話で睡眠不足になった時に、短い時間で快眠スッキリを目指して試行錯誤した時の副産物である。
ふふふふ……関所の兵士め、せいぜい寝過ごして上司に怒られるが良い!
…………
そんなこんなの道中を進み、ようやく国境近くの街までたどり着くところとなった。
「やっと街だなー」
「ぴゅい」
ドラ吉も久しぶりの俺の左肩が、ようやく慣れてきたようだ。
ここんトコずっとネルシャの左肩が定位置だったので、俺の肩が広くてなんか落ち着かなかったらしい。
街に入るにも当然門で調べられるのだが……。
「あそこがたぶん門なんだよな?」
「ぴゅー?」
道なりにあるはずの門はすっかり建築物としての門では無くなっており、大きく崩れた防壁の崩れた部分に人が配置されているだけの存在となっている。
はっきり言って、崩れた防壁のどこからでも街への出入りができそうなので、門での出入りの確認とかあんまし意味が無いような気がするのだが……。
でも俺はちゃんと門から入るよ。だってほら、俺って真面目で普通な一般市民だしー。
捕まって脱獄してみたいとか、全然考えて無いからねー。
…………
「まだかかりそう?」
「ぴゅぴ?」
「まだだ」
まだかかりそうだな。
「出すのはいいけど、ちゃんと仕舞ってくれよ」
「ぴーぴゅー」
「うるさい」
仕舞ってくれなさそうだ。
「何だったら牢にでも入れて拘束する?」
「ぴゅ?」
「しねぇよ」
牢破りはできなさそうだ。
てか、それならいいかげん通してくれよー。
何回荷物チェックすりゃ気が済むんだよ、まったく。
「よし、いいだろう。解っているとは思うが、街中で妙な真似はするなよ。そんな事をしたら、見つけ次第切り捨てるからな」
「へーい」
普通はココで『〇〇の街へようこそ』などと定番のセリフがくるはずなのだが、それも無さそうだ。
ここに居るのもつまらんので、さっさと中に入るべ。
「モソーハソの街よ、こんにちはー」
「ぴゅいー」
ようこそと言われなかったので、自分で挨拶してみた。
返事は帰ってこない。
むなしい……。
モソーハソの街は、つい最近までソーミャット王国の街であった。今は戦争により、ルボッチ帝国の領土である。
グルジンベに並んでいた難民たちは、元はここの住民だ。
占領されたばかりなので、街中が少々殺気立っているように感じられる。
街並みには争いの爪痕が残されているが、道行く人々はうなだれもせず日々の営みを続けていた。
さて、門番のおかげで昼をとっくに過ぎてしまったので、とりあえず腹ごしらえだ。
「ぴぴゅー」
「屋台か、良さげなのか?」
「ぴゅい」
「んじゃ、あれにするかー」
門のすぐ近くの大通という絶好の立地なのに、出ている屋台は三台しかない。
そのうちの一番隅っこにある鉄板焼きの屋台に座る、客は他にはいない。
「らっしゃい。何にしやす?」
どう見てもカタギには見えないガッシリした体躯の碧眼のおやじが、開いてる右目を光らせ野太い声で注文を聞いてくる。左目には時代劇で見るような刀傷があった。
「おすすめを適当に頼む、あとここいらの名物とかあるならそれも」
「ぴゅい」
強面のおやじだが、ドラ吉チョイスだから味は確かだろう。
「そう言われると正直助かる。この街は御覧の通りの有様でな、仕入れが思い通りにゃいかねぇんだ」
そう言うとおやじは、肉とキノコ中心の野菜を焼き始めた。
焼きあがったモノを早速口にする。
「これ、ぷりぷりしてるけど、何の肉?」
鳥系の肉みたいなかんじだけど……。
「痺れ沼ガエルの肉だ、扱いは難しいがこの辺じゃけっこう獲れるんだよ」
「へー、んじゃコレがここいらの名物ってコトか」
まぁ確かに美味いな。
「いいや、ここいらの……」
言いかけたところに、若い男がコソコソと屋台に近寄ってきた。
「すまんヤイカゲさん、匿ってくれ」
男はそう小声で屋台の親父に言い、布で見えなくなっている屋台の下へと潜り込んだ。
ドタドタドタと足音を立てて、間を置かず兵と思しき男たちが三人やってきた。
「おい! 若い男がこっちに来なかったか!」
あぁ、こいつらに追われていたんだね。
「さて、俺はこちらのお客に料理を作るのに忙しかったんでね」
と屋台の親父……嘘つけ、さっきの男は思いっきりあんたに話しかけてたじゃないか。
にしてもこの親父、兵士に詰問されても顔色一つ変えない。やっぱ人相どおりカタギじゃ無さそうだ。
「こいつだ、良く見ろ! 本当に見ていないのか! お前はどうだ! 見ていないか!」
今度は兵士の一人が似顔絵を出して、俺にも聞いてきた。
さてどうしようかなと思ったが、ここの兵士には今のトコ良い印象は持っていない。
「あー、悪いんだけどさ、俺はたった今この街に来たばっかりなんで……」
「ぴゅいー」
「見てないか……くそっ! 奴めどこへ行った!」
俺は嘘は言ってないよ、見たとも見てないとも言ってないし。
「他に行ったとすれば向こうか」
兵士たちは路地の向こう側に行ってしまった。
「助かりました、ヤイカゲさん」
「礼ならこのお客さんに言うんだな」
「確かに」
若い男はこちらを向き、頭を下げる。
「ありがとうございます。助かりました」
「屋台の下から剣で脅されてなけりゃ、素直に礼も受けられたんだけどなー」
「それはその……申し訳ありません。味方になって頂けるか確証が持てませんでしたので」
お前の味方をしたワケじゃないけどな、メシの続きを楽しみたかっただけだ。
「ガハーワ、お前はもう行け」
ガハーワと呼ばれた若者は素直に立ち去った。
「巻き込んじまってすまねぇなお客人、こいつは詫びとして奢らせてもらうよ」
二つのカップに注がれて出てきたのは珈琲……その香りは旅の疲れを和らげてくれた。
「こいつはいい……なぁ、この豆ってどこのだ?」
そう聞くと、屋台の親父はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「ここのさ。コーヒー豆が、ここいらの名物だよ」
なるほど、納得だ。
「手に入るかな?」
「山ほどあるぞ。商人の行き来が無くなって、売り先が無くなっちまったからな」
「だったらそれ欲しいなー。商人が来てないなら、代金は物々交換でのほうがいいかな? 兵士に見つからないように持ち込んだモノが山ほどあるんだ」
食料はたくさんある、雑貨だって材料はあるから作ってやるぞ。
あ、ひょっとして武器防具の類が欲しかったりとかするかな?
でも戦争に首突っ込んじゃうのはちょっと……。
まぁ、少しならいいか。
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屋台の親父の仲介で、商人たちと主に食料品とコーヒー豆を交換したのだが、隣のマキツユリ村にも行ってくれと言われたので現在お邪魔している。
マキツユリ村はソーミャット王国の村なのだが、生活物資をモソーハソの街に依存せざるを得ない衛星村であり、孤立してしまった現在は物資が滞っていた。
主な産物が鉄鉱石とミスリル鉱石という鉱山村なので、食料が運ばれるコトが無ければ当然飢える。
村に入る時には屋台の親父――ヤイカゲさん――が一筆書いてくれたので、嘘みたいに村にすんなり入るコトができた。あの親父さん、本当に何者なんだ?
食料と鉄鉱石・ミスリル鉱石を交換し、ついでに魔物の討伐依頼も適当に受けた。
人の移動がとにかく少なくなり、腕に覚えのある連中が兵士として戦争に参加してしまったので、魔物の討伐は俺のような流れ者の冒険者に依頼するしか無かったらしい。
まぁ俺とドラ吉が本気出せば、近隣の魔物の討伐くらい簡単なモノだ。
気を付けるのは近隣全域を焦土にしないようにするコトくらいである。
…………
「イヤ、そう言われてもなー……悪いけど長居する気は無いんだよね」
魔物の討伐で大活躍してしまったので、しばらく村にとどまってくれないか? と村長さん直々に頼まれてしまった。しかし俺たちは、正直この物騒な地域は軽く巡って立ち去るつもりなのだ。
なので、断らせてもらう。
不安な気持ちも解るんだけどさ、そこまで面倒は見てられん。
がっかりされてもなー。
待てよ、鉄鉱石とかまだたくさんあるんだから……。
村長さんとちょっと取引のお話。
北東にあるムキキン山の廃坑の採掘権と交換で、鉄を使ったゴーレムを一体作ってあげるコトにした。
勇者並の強さとまでは言わないが、そこらの魔物くらいなら蹴散らせる強さのゴーレムである。
見た目ゴツいゴーレムだが、こいつは速いし空まで飛べる代物だ。
もちろん防サビ加工も万全。
実は俺としては、このゴーレムでAIの実験をしようと考えている。
自己進化型の試作AIを搭載して、自分の意志で行動できるゴーレムのデータを取ろうというのだ。
俺が作ったAIではどうも上手く動いてくれなかったので、自己進化させてみようという試みである。
データは自分が作る予定の水陸両用のゴーレムに流用するつもりだ。
普通に自己進化させると進化し過ぎて何か別な厄介な存在になりそうなので自粛していたのだが、どうにも上手く行かないのでこの際やってしまおう。
一応、進化の度合いはかなり弱めてあるから大丈夫だとは思う……たぶん。
通信機能も付けてあるので、ヤバい進化を受信したらすぐに壊せる予定だ。
ちなみにちょっとした故障程度なら問題ないように、微妙な自己修復機能も一応付けてある。
いいデータが取れるといいな。
…………
名物や特産品を食べて無かったコトに気が付いたので、ドラ吉の勘を頼りに食べ物屋へ。
ドラ吉の食べ物に対する嗅覚は俺すら敵わない、ついでに言うとなんでこんな能力が身に着いたのかは不明だ。
鉱山だんご、というのが名物らしいので甘味処へ入る。
頼んでみたら、出てきたのは肉まんくらいの大きさのだんご……でかいな。
イメージ的に串に三つくらい刺さった串団子を考えていたので、ちょっとびっくり。
フォークで切って開いてみたら、だんごの中にビー玉のようなゼリー状の丸いモノが入っていた。
食べてみると、団子自体は求肥っぽいかんじでほのかに甘い。
そしてゼリー状のモノが醤油系のあまじょっばい味で、舌の温度で口の中で溶ける。
飽きない系の美味しさだね。
ドラ吉のヤツがだんごからゼリー状のヤツだけ穿り出して食べている。
イヤ、その食べ方はどうよ……と思ったが、だんごはだんごで食べる様だ。
別食いかよ。
鉱山だんごというネーミングは、だんごの中のゼリーを土中の鉱石に見立てているのと、鉱山の中で働く鉱員のおやつとして考えられたというのが理由なのだそうだ。
だんごが乗っていた皿にそう書いてあったので、間違いはあるまい。
俺は食べ終わったがドラ吉がまだだったので、茶をすすって和む。
すると知った顔が店に入ってきた。
モソーハソの街の屋台に隠れに来た若い男、確かガハーワだったっけ?
そいつはもう一人、ボーイッシュなおばちゃんを連れて来ていた。
隅のテーブルに対面で座ると、チラッと俺の方を見てからガワーハが話し始めた。
ひそひそと話してるけど、俺の盗聴スキルが勝手に仕事してるので全部聞こえてしまっている。
「軍の大半はもう街にはいない、今なら街を取り戻せる」
なるほど、あいつは街に偵察に来ていたのか。
「取り戻した後の事は考えているのかい? またすぐ帝国軍に取られちまうんじゃ街の人はたまったもんじゃないよ。それに王国はもう腰が引けてる、軍を出してくれるとは思えないね」
ほうほう。
「マキツユリ村とモソーハソの街の住民だけでできるとは、さすがに俺も思ってないさ」
「じゃあどうするのさ?」
「ゲリラ連中に手を貸してもらう」
ボーイッシュなおばちゃんが、目を見開いて驚く。
へぇへぇ。
「セビャニ王国軍の生き残りかい!?」
「ああそうだ、もうあっち側の奴とは連絡は取れた。補給物資の都合さえつけてくれれば協力してもいいと言っている」
「具体的には何が欲しいって?」
「食料と、あと武器と防具に使いたいから鉄が欲しいと言っていた」
「なるほど、鉄が欲しくて近づいて来たのかい。問題は食料だね」
「そういう事だ」
ふむふむ。
「ある程度は確保できるけど、大量には難しいねぇ……」
「それで十分だ。残りは後で渡すとか言ってとりあえず引き込む、あとは成り行きだ」
「それじゃ詐欺だよ」
「詐欺にならないよう努力はする」
「まぁいいさ、鉄と食料の件はまかしときな」
「頼む。連中だって大軍を動かせば国力は疲弊するんだ、ゲリラと呼応して動けば帝国の国力を削れる。軍事力じゃ敵わないが国そのものを疲弊させれば……」
「勇者はどうするんだい?」
ひ……駄目だ『ひ』を使った相槌が思い浮かばん……。
「逃げる……他に手はない」
「やっぱりそれしか無いか」
「大軍と勇者からは逃げるしか手はない。そしてそれ以外をゲリラ戦術で叩いて国力を削る」
「上手く行けばいいんだけどね」
「行かせるんだよ! 俺たちが絶対に上手く行かせるんだ!」
「しっ! 大声出すんじゃないよ、他にも客はいるんだから」
二人が俺の方を見る。
はいはい……はい?
あ、目が合っちゃった。
「あの人なら大丈夫だ。モソーハソの街で隠れるのを助けてもらった」
「そうなのかい?」
「ヤイカゲさんの屋台にいた人だ、大丈夫だろう」
「あぁ、あのヤイカゲさんの……」
ヤイカゲさん? あー、屋台の親父か……だからあの人は何モノなんだってばよ。
あと、別にお前を助けたワケでは無いぞ。
「とにかく物資の事は任せた、俺は一度アジトに戻る」
そうボーイッシュなおばちゃんに言い残すと、ガワーハは俺に向かって軽く一礼をして店を出て行った。
話していた相手のおばちゃんも、会計をした後に俺を一瞥して店を出ていく。
さて、ドラ吉もだんごを食べ終わったコトだし、俺も店を出るとするか。
物騒な話を聞いた気もするが、忘れてあげようっと。
…………
俺の1kmほど先を、ガワーハが歩いている。
何故か……イヤ、知らんがな。
俺はムキキン山の廃坑の採掘権を村長との取引で手に入れたので、以前にもやったように残った鉱物を根こそぎ魔法で採掘しようと向かっているだけである。
そういやあいつ、アジトに戻るとか言ってたなー。
というコトは、あっち方面にアジトがあるワケか……もう嫌な予感しかせんぞ。
延々と歩いて行く、ガワーハはまだ前方にいる。
山が近づいて来た、ガワーハはまだ前方にいる。
そろそろ廃坑だが、ガワーハはまだ前方にいる。
このままずっと前方にいたらホラー展開っぽくなるな、などと思っていたらガワーハが廃坑に入って行く気配がした。
やっぱりか、そんな気はしたんだ……。
この廃坑があいつらのアジトかよ。
…………
廃坑入口に到着、こっちが家主みたいなモノなんだから遠慮する気は無い。
ゲリラども そこのけそこのけ 大家が通る
まぁ採掘の権利を持っているだけだから大家とは違うのだが、そこはさらっと流してほしい。
あいつらが勝手にアジトにしているだけなので、こっちは遠慮なく魔法で採掘するだけだ。
鉱石を感知して魔法で掘り起こし、魔法で熱して不純物を取り除く。
最終的に地金にして、収納にどんどん放り込む。
いやー、やっぱりこの魔法採掘っておいしいわー。
鉄鉱石が採れていた廃坑だが、それ以外の金属も意外と手に入るんだなコレが。
根こそぎ♪ 根こそぎ♪ 大儲け~♪
いかん、ネルシャの影響で変な鼻歌を歌うクセがついちまってるなー。
根こそぎ魔法採掘を続けて居たら、たくさん人がいる場所に辿り着いた。たぶんゲリラのアジト。
「誰だきさま!」
「何者だ!」
「スパイか!」
大声で叫ぶなよ、坑道内は音が響くんだからうるさいだろうが。
「待て、お前たち」
おや、ガワーハくんが出てきたぞ。
「やぁ、ガワーハくんこんちは。早速だけど立ち退きお願いできる?」
「ぴゅぴぴー」
「立ち退き? なんであなたが……」
混乱してるね。ここはちゃんと説明してあげよう、うむ。
「村長さんからここの採掘権買い取ったもんでさ。ほい、これ権利書」
「ぴゅい」
権利書を広げて見せてあげたが、出ていきたくは無いらしい。
「採掘の邪魔はしませんから、ここを引き続き使わせて貰えませんか?」
「いいけど、根こそぎ鉱石を掘り出しちゃうから、スカスカになって落盤するかもしれないぞ」
「ぴゅぴゅー」
というか、たぶんする。
「急ぎますか?」
暫く思案したガワーハくんが聞いてきた。
「あと1時間以内にはスカスカ」
「ぴゅ」
ごめんねー。
「こんな奴の言う事なんか聞く必要無いですよ!」
「そうですよガワーハさん!」
「帝国の回し者かもしれません!」
んなワケあるかい。
「いいかげんにしろ。この人は正規の権利を持ってここに採掘しに来た人なんだ、迷惑をかける訳にはいかないだろう」
良くぞ言った。その言葉に免じて、立ち退き交渉をしてあげよう。
本当は力ずくで叩きだしても良かったんだぞ、感謝しろよ。
「じゃあ俺が適当なアジトを用意してやるよ。街から少し遠くなるけど、山のもう少し上の方でいいか? あと引っ越しも手伝ってやろう」
「ぴゅいー」
「それは助かるが……いつ完成する?」
「すぐだよ。空間だけなら5分もかからん」
と言ったらみんな沈黙してしまった……なして?
「とりあえず引っ越し準備して外に出てくれ、荷物はこの中にな」
予備の次元収納を取り出し、その中に荷物をどんどんぶち込ませる。
ようやく片付いたところで採掘開始、見ていた連中呆然。
さっさと外へたたき出して根こそぎ採掘を再開、そして終了。
外へ出て山を少し登り、周囲に隠れる場所が多い適当なトコに当たりをつける。
穴を開けて中身をくりぬき、ただっ広い空間を確保した。
入り口を偽装して……ほい、アジト完成~。
「よし、完成したぞ……どうした? 早く荷物を持ち込め。終わったら、その収納はちゃんと返せよ」
「あの、あなたは一体……」
「通りすがりの旅人だよ。あ、言っておくけどゲリラに協力する気は無いから」
そういうと初めてガワーハくんが反論した。
「僕たちはゲリラではありません、レジスタンスです!」
「お、おう」
レジスタンスかー……うむ、字余りになってしまうな。
さて、レジスタンス活動に協力する気も無いし、サヨナラするか。
イヤ、でも待てよ……。
「なぁ、そういや食料が必要なんだっけか?」
「まさか、あの時聞いていたんですか?」
「たまたま聞こえたんだよ。種類を問わないなら、少しは安く売ってやれるぞ」
「量は?」
「いくらでも」
ガワーハくんが前のめりになった。
よし! これで海王龍の魚肉素材がさばけるぞ!
乾燥珍味としての加工処理をすれば、保存食としても問題あるまい。
ふふふふ……さぁ、商談といこうか……。
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あんまし売れなかった……。
協力してくれるゲリラったって、3000人しかいないんだもん。
しかも金が無いとか言って、30トン――1人当たり10キロしか買ってくれなかった。
まぁ『爆裂魔法玉もあるよ』とか、関係ないモノまで売り込んじまった俺も悪いんだけどさ。
10億トンの海王龍の魚肉の在庫は、いつになったらはけるのだろう?
で、モソーハソの街へと、くっそ面倒くさい検査を我慢してまた入る。
改めて街並みを眺めると、やはりあちこち壊されているのが目立つ。
壊されているのは、だいたい頑丈そうな建物だ。
おそらく守備をしていた兵士が、立てこもったせいであろう。
先日はあまり見かけなかった住人も、ちらほら通りに出てきている。
回復魔法が行き届いていないのか、怪我人も見られる。
争いの爪痕は深い……。
「さて、昼メシにするかー」
「ぴゅい」
「またあの屋台にでもするか……持ち込みで焼いたりしてくれるかな?」
「ぴゅー?」
通りを進み、隅っこの屋台に座る。ヤイカゲの親父さんの屋台だ。
「らっしゃい。また来てくれたのかい? ありがとよ」
相変わらずの野太い声での接客である。
「美味かったからねー」
持ち込みでもいいか? と尋ねようと思って親父さんの顔を見たら、頬に布が当てられていた。
「どしたの? それ」
「あぁ、こいつか、こいつは……その、な」
言いにくそうだけど、逃がす気は無いぞ。
じーっと見ていると、親父さんが折れた。
「実は女房に稼ぎが少ないって言われて、喧嘩になっちまってよ」
「ほうほう」
「で、その、こんな状況なんだからしょうがねーだろ! うるせぇ!って怒鳴ったら、引っかかれちまった」
「なるほど」
こんなトコにも争いの爪痕が……。
親父さんは照れ臭そうに苦笑いしている。
片方しか無い目が、笑ってんぞ。半分は惚気みたいなモンじゃねーか。
くそーこっちは独り身だというのに……。
リア充親父め、屋台に爆裂魔法玉を仕掛けてやろうか。




