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4話 聖なる竜

師匠達との修行の日々は、すっとばしました。

 こっちの世界に来て、早3ヶ月。

 俺は師匠達と、とても充実した修行の日々を送ってきた。

 いろんなコトがあったなぁ。


(以下テキトーな修行の回想シーンを、お好きなBGMで脳内保管して下さい)


 俺はもう一人前の魔道士と呼ばれるほどには、スキルを使いこなせるようになってきた。

 ステータスに振り回されるようなコトも無くなった。

 師匠達には感謝だな。


 そんな俺が今何をしてるかというと、近くのノバ村の道具屋にポーションを売りに来ている。

 師匠達も俺も霞を食って生きているワケではないので、魔道具やポーションを売って生活費と研究費を稼いでいるのだ。 師匠達の製品は、賢者品質なので当然ながらけっこうな金額を稼げる。

 なので俺は小遣いを貰って、おつかいという名の使いっ走りをしているのだ。


 ちなみにこの世界のおつかいは、けっこうハードだ。

 一番近くのこのノバ村でも普通に歩いて二日、主に森の中を移動で当然魔物も出る。

 小さな子供におつかいなんて、とても危なくてできませんて。 夜なんて灯りの一つも無いんだもの。


 俺は長距離転移で移動してるので一瞬だけど。


 お店に到着~。

「おねーさんこんちはー、今日はポーション持って来ました~」


「あら~、賢者さんとこのお弟子さんじゃないの~。 ちゃんと食べてる~? 賢者さんの修行は、やっぱり大変なんでしょ~? そうそう聞いた~?この間来たベンドって冒険者の人、魔物退治に失敗して亡くなったんだってよ~、奥さんと一緒にこの村に来たばっかりなのに。 可哀想よね~まだ若いのに。 そうだわ、あなた替わりに旦那になってあげたら? 確か独り身だったわよね、どう、どう? その気があるのなら、あたしが間に入ってあげてもいいのよ? 独りだと淋しいでしょう?夜とか。 えっ、修行が忙しいから断る? 残念だわ~。お似合いだと思ったのに。 そういえば鍛冶屋のミーガブさんが……」


 だいたいお解りかと思いますが、『おねーさん』ではなく『おばちゃん』です。

 おねーさんと言ったのは、もちろん社交辞令です。 若く見積もっても50代後半です。

 あと話長いです。


 なので右から左に聞き流しながら、カウンターにポーションを並べていくのが正解かと。

 けっこうな量がありますので。

 師匠に持たされた次元収納という魔道具から各種ポーションを取り出し、並べていく。

 この次元収納、たくさん入って重さゼロ。便利グッズなので後で自分用に作ろうっと。


「……ちょっとお弟子さん、聞いてる~?」

「聞いてますよー、ミーガブさんも大変ですよねー。 あ、ここからこっちは俺の作ったモノです」

「そうなのよー~。 あら、ずいぶん品質が良くなってるわね、もう師匠を超えちゃったんじゃないの?」

「いや~俺なんかまだまだですよ。でも品質が良いなら買い取りに色つけてくれると有難いなー」

「そうね~、品質としては申し分無いんだけど、お弟子さんだから8割というところね。それでいい?」

「充分ですよ。 さすがに賢者作並みの金額ってのはずうずうしいですからねー。 それでお願いします」

「ごめんなさいね~。 賢者様とお弟子さんじゃ、同じ品質でも売れ行きが違うのよ~。 じゃ確認して」


 じゃらじゃらと置かれたお金を積んで数える。

「はい、確かに」

 代金を師匠と自分の袋に分けて入れ、それをさらに次元収納へ仕舞う。


「そんなに稼いでどうするの~? 賢者様たちのお世話になってるんだから、そんなに使わないでしょ?」

 道具屋のおばちゃんが興味津々な顔で聞いてくる。 世間話のネタにする気だな。


「いやぁ、そろそろ修行を切り上げて、旅に出ようかと思っているんですよ」

「あらぁ、そうだったの。 お弟子さん旅に出るの。 残念だわぁ~せっかく仲良くなれたのに」

 ウソつけ。

「そうですよねぇ、俺も残念ですよ。 旅に出たらまたウチの師匠の誰かが来ますんで、またよろしくお願いしますねー」

 俺は別に残念ではない、つまり社交辞令だ。

「あたしとしては、若い人のほうが嬉しいんだけどねぇ~。 あ、これは内緒よ~」

 あいさつみたいな定型文の会話が返ってきやがったか。

「あはは、もちろん内緒にしておきますよ。 それじゃ、またー」


 おばちゃんがさらに追加で話しかけてこようとしたので、手を振って逃げる。

 それにしても、あのおばちゃん俺の名前覚えやがる気は絶対無いだろ。

 ……俺もおばちゃんの名前知らんけど。


 おつかいも終わったし、帰るべ。


「長距離転移!」

 無詠唱でも良いのだが、わざわざ日本語で叫ぶ。

 日本語で叫ぶと、こっちの世界の人にはなにやら新鮮な詠唱の言葉に聞こえるらしいので、現地人ウケを狙ってやっているのだ。 ちょっとしたサービスなのですよ。


 ………………


 瞬転、目の前に青い塔が現れる。

「ただいま帰りましたー」

 遠慮なくドアを開けて上に居るであろう青師匠に声をかける。 どうせ実験中だろ。

「おう、上がってこい」

「へーい」

 階段を上るのがめんどくさいので、浮遊して2階へ。 最近はすっかり習慣になっちまったなー。

 元の世界に戻ったら、やっていけるんだろーか? はっ! まさかコレは俺を元の世界に帰らせない為の、造物主の策略!


 アホなコトを考えてるうちに着いた。 やっぱ早いね、浮遊。


「師匠。コレ、ポーションの代金です」

 テーブルの上が実験器具でいっぱいなので、次元収納から出した金袋を直接手渡しする。

「うむ、御苦労」

 確認もせず自分の次元収納にしまう青師匠。

 そんなコトしてると、そのうちせこい弟子にちょろまかされるぞー。


「ところで、お前これから予定あるか?」

 助手に使うつもりだな、別にイヤではないんだが。

「ちょっとこれから自分の実験をやるつもりなんで、それが終わってからなら時間空いてますよ」

「そうか、だったらその後でいいから手伝ってくれ、ちょっとばかり手間がかかる実験なのだ」

 さすが実験バ……青師匠、実験の手を止めないのはもちろん、こっちを一瞥もせずに会話してる。

「わかりました、また後で来まーす」

「おう」


 さて、行くか。

 本当は窓から出たいところだが、実験室には窓が無いので大人しく下へ降りてドアから外へ。

 目的地は、レベル上げに使った森林の跡地。

 そう、跡地なのだ。 あの辺りはレベル上げに使った炎の魔法によって、一面焼け野原になっている。

 直径約2kmの焼け野原。 大規模森林火災にならなかったのは、ひとえに師匠達の消火活動のおかげです。

 お疲れ様したー。


 2kmと表記したが、この世界の単位はkm m mmなど長さの単位は同じ、1日は24時間 1年は365日 1か月の日数もあっちの世界と同じ、通貨の単位はゴルダで おおよそ1ゴルダ=10円程度、しかも全世界共通だそうだ。

 めちゃ便利だ。 便利過ぎて異世界感が薄くなってますよー、造物主さーん。


 とーうちゃーく。

 ほんとに浮遊で飛ぶのが習慣になっちまったなー、旅に出た時には、ちゃんと歩こう。

 俺は移動ではなく、旅がしたいのだ。


「さて、ここで良いかな」

 ここなら実験しても問題無いだろ。

 何の実験をするかなんだが『各種無効スキルのある俺だが、本当にダメージが通らないのか。 またダメージが通るのならば、どの程度か』という単純な実験だ。


 なのでまず全裸になる。

 イヤ、別にそういう癖があるワケじゃないから。 服や靴に耐性が無いのでダメにならないように体から避難させてるだけだから。 本当だからね!


 まず物理から始めるか。

 黄師匠から借りたチバラギウムの槍を、土魔法で地面に固定してっと……てかこのチバラギウムって鉱物の名前、何かにケンカ売ってるような気がしてならないのだが……うん、気にしたら負けだな。

 思いっきりジャンプしてからのー、浮遊!…………あぁ地球は青かった……。 あ、地球じゃなかったっけ。

 そして落下! さらに重力付与で加速! 衝撃波が出て音速を超える! まだまだ加速! 槍に向かって落下!


 ドズズウウゥゥゥゥン!!!………………


 結果:無傷

 焼け野原がクレーターになっただけで、生命力にもノーダメージでした。 自分の事ながらすごいわー。

 暴走する車の前に立ってみたくなるくらいだ。 こっちには車が無いので、今度馬車でやってみよう。

 チバラギウムの槍は無残にもへし折れていた。

 あ、一応なんだけど、この世界にもミスリルとかオリハルコンとかアダマンタイトのようなファンタジー金属も、ちゃんとあるから。

 ただチバラギウムとかアワジウムとかトカチウムなんてのが追加であるだけで……

 ……造物主さん、あの……ネーミングセンスが……。


 気を取り直して。 さて次は状態異常だなー、何から始めるか。


「何をしとるのじゃ! お前は!」

「音と揺れを抑えんかバカもの! おかげで実験がパァになるところだ!」

「しかも全裸だのぅ、何をしてたか気になるのぅ」

 おう、師匠たちいつの間に……。


 えーと……すんませんでした。 あと別に全裸でいかがわしい事をしていたワケではありませぬ。

 言い訳……もとい説明をしなければなるまい。


 ………………


「という実験をしていたところなんですよ」


「そうか、ならば手伝ってやろう。 ちょうど良さそうな状態異常薬が山ほどある。 使ってやろう」

 ……青師匠、それ在庫整理ですよね。 弟子なので知ってます。


「わしの魔道具にも使えそうなものがたくさんあるのじゃ、手伝ってやるのじゃ」

 ……黄師匠、それ魔道具の実用テストですよね。 弟子なので解ります。


「攻撃魔法はまかせるんじゃのぅ、弟子のためだのぅ」

 ……赤師匠、それ人に向かって魔法ぶっぱなしたいだけですよね。 弟子じゃなくても想像つきます。


 抵抗はムダだろう、仕方無い……手伝ってもらうか。


 ………………


 結果:無効スキルは絶対でした

 あと開けた森林が直径3kmに広がった。

 いやぁ、本当に無効なんだねー。 改めて自分のコトながら、呆れるくらいすごいわ。


 無効スキルの持ち主はなかなかいないので、師匠達はものすごーく張りきって検証していた。

 結果、師匠達も無効スキルの絶対さを再認識したらしい。


 最後に唯一無効ではなく、耐性(極)の聖属性だ。


「さぁ、覚悟するんだのぅ」赤師匠、楽しそうだなー。

「いつでもどうぞー」

聖属性光線(ホーリーレイ)! だのぅ!」

 来た! 当たった!………………なんかチリチリする。痛いというより痒い……。


「師匠、痒いです」

「なんとぉー! 渾身のホーリーレイが痒いだけなんだのぅ、がっくしだのぅ」

 赤師匠、そんなに落ち込まなくても。

「聖属性耐性(極)というのも、なかなかすごいものじゃな」

「ナミタローの生命力も並み外れているし、こんなもんだろう。感覚としてはどんなもんだ?」


「う~ん実感としては、熱い日光にジリジリ焼かれてる感じですかねー。生命力は微量に減るそばから回復してしまうのか、全く減ってません」

 生命力回復(極)、持っているしね。


「今度は自分でやってみますね、魔力を過剰にぶっこんでみます」

 そう言って俺は、頭上のかなり上から魔法を放つ準備をする。おかげさまでこんな芸当も出来るようになりましたよ、師匠さん達。

 光の円が大きく広がり……大き過ぎるな、収束収束っと。

 1mくらいに収束して魔法をぶっぱなす。

「聖属性光線!」ルビはふらない。

 強力な聖属性の光が、俺の生命力をカリカリと削っていく……あんまし減らないな。

 まぁ減ってはいるんだけど……そうだ!聖属性耐性(極)のスキルをオフにしてみよう。スキルは任意でオフにできるのだ……よし、聖属性耐性(極)オフ!


 ………………


 おぉ~、ガリガリ削れるよ。

 比較すると子供用の手動かき氷機と、業務用の電動かき氷機くらいの違い。すげー。

 ステータス画面で生命力の減りを確認しながらガリガリ削っていたら……。


「や、止めるんじゃのぅ!」

「いつまでやっとるんじゃ! バカモノ!」

「森が変わるじゃろが! アホ!」


 へ? 何がダメなの? 止めるけどさ。


「そんなに聖属性の魔力をぶちまけたら、この辺の森が聖なる地に変わってしまうじゃろが!」

「生態系が変わったら取れる素材も変わるだろうが、ここらには実験に有用な素材がたくさんあるのだぞ! それらが無くなったらどうするつもりだ!」

「魔物の強さや属性も変わってしまうんだのぅ、弱い魔物ばっかしになるとつまんないのぅ」


「あ、すんません」

 周囲を見回すと、確かに聖属性の魔力が充満してますな。

「いま、なんとかしますんで、ちょっと待って下さい」


 周囲の魔力を感知して操作し、聖属性の魔力を全て集める。

 やがて集まった魔力はバスケットボール大に……。


「ちょっと待て、せっかくだからその魔力の塊を採っておこう」

「そうじゃな、何か実験に使えるかもしれんじゃな」

「わしも欲しいのぅ」


「いいですよ、どうぞ」

 黄師匠のもっていた魔力を封じ込めるビンいっぱいに詰めてあげた。

 まだバレーボールくらい残ってるな。

 邪魔だなー、もっと小さく………し、ピンポン玉サイズになった。

 もっと小さくもっと小さくもっと……とやっていると、やがて丸めたハナクソ大に。


 親指と人差し指に丸められた、輝く聖なるハナクソ……丸めてピンっと。

 あ、ついはじいてしまった……い、いつものクセじゃないぞ、たまにしかやらないし!


 はじかれたハナク……もとい聖属性の魔力の塊は、小さな放物線を描いて……トカゲの上に落ちた。


 ズオオオォォォーーーン!!!


 重低音とともに大きく光り輝いたトカゲはどんどん巨大化し、やがてそこには……


 全長20mはあろう、巨大な銀色のドラゴンとなってその姿を現した。

 なしてこうなった?


 ………………


「グウオォォルル」

 その場にいる全員が固まっている中、ドラゴンがのどを鳴らして(?)ゆっくりと頭を俺に近付けてきた。

 つい反射的に頭をなでてやると、「グウゥゥルルル」と……たぶん喜んでいるようだ。

 ……なして俺に懐いてるのだおまえは。


 師匠達のフリーズも溶けたようだ。

「懐いてるのぅ」

「お主、確か使役のスキル持っておったのではないか? そのせいじゃろ」

「魔物創造というのも在ったな、これがその効果か」


 そんなスキル、すっかり忘れてましたってばさ。


「こいつ、どうしましょうかね……」


「飼えば良いのだのぅ」

「エサとかどうすればいいんですかね」

「たまにその辺のゴブリンでも食わせれば良いじゃろ」

「たまにで良いんですか?」

「ドラゴンは図体の割には小食だぞ」

「そうなんですか、知らなかったです」


 というか、飼うの決定なんでしょうか?

 イヤ、この人たちはきっと実験に使いたいだけだろう、師匠達はそういう人種だ。

 旅に出る予定なんだが、どうすっかな……


「どうせペットにするなら、もっと小さいのが良かったなぁ……」

「グオ?」

 誰に言ったのでもない独り言だったが、ドラゴンが反応した。こいつ言葉解るの?

 するとドラゴンが光り輝き始めた。

 やがて光は小さくなり、ポンッという音と煙と共にそれが現れた。


 猫サイズの小さなドラゴン。

 しかも全体的に可愛く仕上がってる。大きい時はかなりヤバそうな迫力だったのに。


「ほう、可愛いのぅ」

「なんと、ミニチュアドラゴンになったか」

「興味深い能力じゃな」

 師匠達が驚いてる。ちと確認しよう。


「おまえ、大きさ変えられるの?」

「ぴゅいー」

 できるらしい。

「じゃあ、もう一回大きくなって、また小さくなってみて」

「ぴゅーぴゅい」


 返事をすると、光と共に大きくなり元のドラゴンに戻る。そしてまた光と共に小さくなり、猫サイズに。

「ぴゅー」

 どうだと言わんばかりに宙を一回転してみせる。たぶんドヤ顔してやがるな、まぁ可愛いが。

 ふむ、これなら旅のお供にちょうど良いかもな。


「よし、お前を飼おう!」

「ぴゅいーぴゅーぴゅーぴゅいー」

 俺が高らかに宣言をすると、小さなドラゴンが大喜びでぐるぐると周りを飛び回る。

 よしよし、そんなにはしゃぐな。


「名前はどうするのじゃ?」


「そうですねー……」

 んー、さっきからぴゅいぴゅい鳴いてるから……『ぴゅい助』……はどこかから何か言われそうだな。

 えーと、ドラゴンのドラに和風なテイストをつけて『ドラ右衛……』これもなんかマズい気がする。


「よし、お前の名前は『ドラ(きち)』だ!』

「ぴゅいーぴゅいー」

 よしよし、喜んでるな。


 あれ? 師匠の皆さん、なぜそんな呆れたようなジト目を? というかなぜタメ息を? そのやれやれといったジェスチャーはいったい?……


 ともあれこうして俺は、旅のお供のペット『ドラ吉』をゲットしたのであった。

ドラ吉は♂です。

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