34話 呪われた遺跡
久しぶりの遺跡回です。
『バラバリ遺跡への立ち入りを許可する』
と書かれた国王の印が押してある紙を広げているのは、トボルス将軍だ。
つか、将軍がわざわざこんな紙切れ一枚のために来るとか……そこらの兵隊さんでいいじゃね?
「探索王というからには、遺跡の立ち入り許可なら喜んでくれるだろう……との陛下のご配慮だ。謹んで受け取るように」
遺跡かー、前に入ったのが『オタク文化の遺跡』だったからなー。
「この遺跡は一年ほど前に見つかったんだが……奥にある扉が、どうやっても開かんのだ。探索王のお前なら開けられるのではないか、と国王陛下もドルッポも考えているようだぞ。もちろん俺もな」
「なんだ、それでか。俺はまた遺跡の立ち入り許可と引き換えに、何か無理難題でも押し付ける気なのかと思ったよ」
遺跡の扉開ける程度なら、別に構わんよー。
「あともう一つ『逃げるなよ』との陛下からの伝言だ。本当に特例恩赦刑をやるつもりなのか?」
「やるけど、人目に付かない場所にしといたほうがいいよ。逃げ切っちゃうから」
「まったく大した自信だな……その許可証を持っていれば遺跡にはいつでも入る事ができる、扉が開くのを楽しみにしてるぞ」
そこまで言って、トボルス将軍は去っていった。
「遺跡に行けるの!?」
ネルシャが早速食いついてきたが……。
「なぁ、お前遺跡ってどんな場所か知ってるのか?」
たぶんしょーもないぞ。
「うん! 珍しいものがたくさんあるんでしょ!」
確かにこの世界の人には珍しいか、まぁそこは否定はせんが。
「たぶんあるとは思うが……あんまり期待はするなよ」
「うん!」
その返事は絶対期待してるだろ。
「いっせきっだ♪ いっせきっだ♪ はっけんだー♪」
楽しそうだな……でもたぶん、遺跡はしょーもないぞ。
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そしてここはバラバリ遺跡。
こんもりとした小さな山が削れていて、中腹の穴から下へ通路が伸びているようだ。
「へぇー、ここは地下遺跡なんだな」
パターンとしては地下街とか地下鉄かな? デパ地下ってのもあるか。
「ししょー、おやつは50ゴルダぴったりにしました!」
「僕もしましたー」
「ぴぴゅー」
遠足か! あとドラ吉よ、お前のは絶対に嘘だろ。
「よし、それじゃあ遺跡にはいるぞー」
「はーい」
「はいー」
「ぴゅいー」
なんかすっかり引率の先生。
立ち入り許可証を見せると、ちょっとこの場で待つように言われた。
あれ? フリーパスじゃないの?
しばらく待っていると、中年手前に見えるひょろりとした男性がやってきた。
「やぁやぁ、良く来てくれました。探索王さんですよね! バラバリ遺跡へようこそ!」
「探索王は止めて下さい。ナミタローでよろしく」
「いやぁ、すいません。じゃあナミタローさんと呼びますね。私は遺跡研究員のモジアルと申します、皆様の案内と遺跡の解説役を致しますので、よろしくお願いしますね」
…………
モジアルさんの案内で遺跡の中へ。
下へ向かう遺跡の通路は、階段ではなくスロープだった。
延々と続く緩やかな下り。
「これってどのくらい続くんですか?」
俺の質問にモジアルさんが答えてくれる。
「まだまだ続きますよ。途中何度も曲がりますが、こんな感じの通路がずっと続きます」
地下鉄とか鉄道の地下トンネルの搬送通路とかかな……。
「何にもないねー」
「そうですねー」
「ぴゅい」
確かに通路だけだもんなー。
「枝道とかは無いの?」
「途中にはありませんね。でも、下まで行けば道がたくさん分かれてますよ」
何かの施設には間違いないよなー。
「魔物とかはいないの?」
ネルシャはだんだん退屈してきたようだ。
「この遺跡では、魔物は発生しないんですよ。せいぜいたまにオークが紛れ込むくらいですかねぇ」
「そっかー、いないんだー」
やがて通路が左へと直角に曲がり、さらに下へと向かう。
「こんな感じで曲がりながら下へ進むんですか?」
「そうなんですよ、この石で出来た四角い通路がずーっと続くんです。そうだ、隠し通路とか隠し部屋とか見つけたりしてませんか? 我々も散々探したんですが、何にも見つからないんですよ」
「そんな気配はありません、本当にただの通路でしかないようですね」
「そうですか……探索王のナミタローさんがそのように言われるなら、やっぱりただの何もない通路なんでしょうね」
お役に立てず、すんません。
あまりにも何にもないので、下の様子でも聞いとくか。
「下にはどんな物があるんです?」
そう聞くとモジアルさんが顔を曇らせた。
「それがその……部屋らしき場所はたくさんあるのですが、扉が全く開かずお手上げなんです。あとは石碑と思しき物がありますが、これがまた刻んである文字らしきものが全く解読できず、しかもその材質が実は石ではなく、何で作られているかもさっぱりというありさまで……」
石碑の文字は日本語なんだろーなー、たぶんまた造物主から俺への私信だ。材質が何で作られているかは、俺にもさっぱり判らん。
「なるほど、それで俺なら扉を開けられるんじゃないかと、ここに入る許可が出たワケか」
「そういう事です。どうでしょう? 開けられますかね?」
「さすがに現物を見てみないとちょっと……」
どうせロクでもないモノが入っているんだろうなぁ……でも何があるかは気になるんだよね。
「やっぱりそうですよね、見てみないと判りませんよね」
モジアルさんが苦笑いだ。
「まぁそういうコトです」
ネルシャたちは既におやつの時間に突入している様だ、さっきから後ろでボリボリと煎餅を齧る音が聞こえている。香りからして醤油煎餅だな……。
「そうだ……扉の中の物に関してなんですが、ひょっとしたら危険な物の可能性もあります」
「ほう、なんでです?」
「たくさんあるうちの2つの扉の近くだけなんですが、ずっとその扉を調べていた研究員が全員倒れてしまったんです」
ほう、そんなコトが……。
「病気とかですか?」
「我々もそう思って病気治癒の魔法を使ってみたのですが、一向に回復せずに何人かは助かりませんでした。助かった他の研究員も、未だ体調不良が続いています」
おいおい危ねーな、俺はそんな場所にネルシャを連れて行くトコだったのか?
「だからと言うべきなのか……中には『呪いなのではないか』という研究者もおりましてね」
「呪いですか?」
「いや、一応解呪の魔法も使ってみましたよ。何の効果もありませんでしたけど」
モジアルさんの顔を見るに、本当に困り果てているらしい。
「とにかく調べても調べても、何が原因で倒れてしまったのかさっぱり判らないもので……解呪の効かない何か特殊な呪いなのではないか、と皆が言い始めているんですよ」
「なるほど……『呪われた遺跡』というワケですか」
「一応まだ、呪いと確定した訳ではありませんがね」
呪われた遺跡か……扉を開けたらミイラが安置してあったりするのかな?
でもそれならピラミッドとか墳墓的なタイプだよなー、この遺跡はそんな感じには見えんのだが?
「ししょー、呪いなのかなー?」
あぁ、子供には刺激が強かったか。
すまんなネルシャ、怖がらせてしまって……って、おい! なしてそんなキラキラ目をしてる?
「どんな呪いなのかなー。ししょー、呪いって解ける?」
さっきまでつまらなそうにしてたクセに、完全にわくわくモードに入っちまったぞ。
ネルシャは呪いとか好き系の女の子だったのか……呪い女子……。
「話聞いてたろ? 呪いだと決まったワケじゃないそうだぞー」
「のろい♪ のろい♪ の・ろ・いー♪」
聞いちゃいねー。変な歌まで歌いだすし……。
「あははは。まぁ、2つの扉の前に何十日も続けて居なければ問題ありませんから。心配ありませんよ」
俺の困った顔を見たモジアルさんが、面白そうにそう言ってくれた。
…………
「しっかし長いですねー、この通路」
俺たちは直角に何度も左折する通路を、延々と下りていた。
「もうそろそろ下へ到着しますよ。次の角を曲がればすぐです」
やっとか……体感だと既に地下500~600mにはなるはずだ。
次の角を曲り少し下るとすぐにスロープが終わり、ようやく傾斜の無い平らな床となった。
そこから真っ直ぐに進む通路には3つの十字路と、突き当りのT字路が見えている。
「とりあえず、一番近くの扉へ行ってみましょうか」
そう言うモジアルさんについて行くと、そこには3m四方の大きな四角い扉。
そしてその扉の真ん中には、見覚えのあるマークが直径1mほどの大きさで描かれていた……。
そうかー、今度はそうきたかー……。
描かれていたのは放射線のハザードマーク。そうなると遺跡の構造を考えるに、何やら思い出される施設の記憶がある。
……扉、開けない方がいいんだろうなー。
「あの、ナミタローさん。どうかなされましたか?」
「どしたの? ししょー?」
「ぴゅ?」
「主様?」
頭を抱えた俺を、みんなが何事かと見ている。
もうアレだ、確認と答え合わせをしてしまおう。
「石碑を見せて頂いても、よろしいですか?」
「はい、もちろん。こちらです、付いて来て下さい」
たどり着いたそこには薄ぼんやりと光る石碑。
その石碑には、やはり日本語で次のように書かれていた。
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やぁ! ナミタローくん、異世界生活を満喫してるかな?
ここにたどり着くという事は、ひょっとして遺跡をけっこう楽しみにしてくれてるとか?
もうお判りかと思いますが、ここは『高レベル放射性廃棄物の最終処分場が、遺跡として後の世界に残ったら』というコンセプトでーす♪
扉の中には本当に高レベル放射性廃棄物が入っているので、一応は注意してね。
まぁナミタローくんなら、問題ないとは思うけど。
何かに使いたかったら、使ってもいいよ♪
造物主より
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やっぱりかよ! そうだと思ったよ!
つーか、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の遺跡とか……なんか本当に未来にありそうで怖えーよ!
あと使ってもいいよとか言われても、こんなもん一体何に使えと!?……まぁ暗殺なんかには使えそうだけど……イヤ、そうじゃなく! また厄介なモノを遺跡に……。
どうしたもんかなーと考えていたら、もう役目が終わったとばかりに石碑が半透明になって…やっぱり消えてしまった。
当然ながら、俺の後ろで研究者の人たちが大騒ぎ。
「一体何が!?」
「石碑が……石碑が消えた!」
「うおおおぉぉぉぉ!」
後ろが煩いなー……確か2か所の扉の前で人が倒れたと言ってたな……。
思いついてしまったので、その場で魔道具をちょいちょいっと制作してみた。
「がいがーかうんたー!」
てれてれっててー♪
「おおー!」
「何だ?」
「ナミタローさん、それは?」
あ、つい後先考えずに作ってしまった……まぁいいか。
「えーとですね、これはガイガーカウンターという魔道具でして……うーんと……特殊な毒の呪いを検知できる魔道具なのです」
放射線とか説明するの面倒なので、もう毒の呪いでもにしちゃえ!
「おおー、なんかししょー凄い!」
「ナミタローさん! まっ……まさかそれは石碑を解読して作ったのでは!?」
「そうか! それで役割を終えた石碑が消滅を……」
「なんと書いてあったのですか! 石碑には!」
あれ? カオスに油を注いでしまったか?
よし! 勘違いだけどその流れに乗ってしまおう。
「皆さん落ち着いてください。石碑の文字が読めたワケではありません、ですが石碑からイメージが伝わってきたのです。そのイメージから作ったのがこの魔道具なのです」
おおー、とざわめく一同。
「石碑から伝わったイメージは他にもあります。この遺跡は特殊な毒の呪いを封じ込めた、いわば封印のようなモノなのだそうです。毒の呪いは恐ろしい物で、広まれば大陸中が死の病に侵されるらしいです」
あと放射性廃棄物の説明って、何かあったっけ?
「そんな恐ろしいものが……」
「やっぱり呪いだったんだ……」
「神よ、我らをお守りください……」
守ってはくれないと思うぞー。愚痴女神様はただの管理運営さんだし、造物主さんはその毒の呪い物質と遺跡を作った張本人だしな。
「というワケで、毒の呪いが漏れ出している場所をこの魔道具で探してみましょう」
…………
ガイガーカウンターは音の大きさで放射線の有無が判る、昔ながらのタイプだ。
ガガ……ガガガガ
「ここも僅かですが漏れてますね」
ずいぶんあっちこっちガタがきてるぞ……遺跡だからってこんなポンコツにしなくてもいいのに。
「毒の呪いが漏れてるところはどうすれば?」
研究員の人に聞かれたが、俺もあんまし良く解らん。
「とりあえず壁の厚みを増やすしか対処法は無さそうだけど、材質に何を使うのがいいのか……」
「石碑は教えてくれなかったのですか?」
うむ、もっともな質問だ。
「えーとですね、その……その前に石碑が消えてしまったので……」
「なるほど……では壁の材質を研究しなければなりませんね」
その一言がきっかけで、研究者たちが今度は壁の材質議論で盛り上がっていく。
みんな研究バカだよねー。
まぁ俺もあんまし他人のコトは言えんけど……。
…………
遺跡見物も終わり、もうするコトも無いので俺たちは帰路についた。
結局のところ、遺跡はドラ吉やゴブ太にとっては退屈な場所であり、ネルシャにとっては師匠の俺を見直す場所になったようだ。
さっきから毒とか呪いとか魔道具の話ばかり聞いてくるネルシャ……興味を持ったらしい。
子供は飽きるのも早いから、興味を失う前になるべく教えたほうがいいかな?
遺跡でのすったもんだは、俺の名声を高めてしまった。
石碑の知識を感知してあの遺跡にあるモノが『毒の呪い』だと判明させたり、毒の呪いを検知する『ガイガーカウンター』の魔道具を作成してみたりと、何の進展も無かった遺跡の研究を一気に進めてしまったからだ。
ぶっちゃけもう名声とか要らんてば。
俺は面白楽しく旅ができれば、それでいいんだからさー。
なんでこんなコトに……って、あの遺跡のせいだよな。
ちくしょー。
あんなクソ遺跡なんか、呪ってやるー!
【驚愕の新事実! 呪われた遺跡の正体とは!】をお送りしました。




