32話 二つの派閥
寝不足である。
ここんトコ毎晩、女神様のお相手を務めているせいだ。
もうね、女神さまが寝かせてくれないのですよ…。
……愚痴で。
相当溜まってたのであろうストレスを、愚痴という形で俺に向かってさんざん吐き出しているのだが、まだまだ足りないらしい。毎日来てもいいから1日2時間程度にしてくれ……という願いは、女神さまは叶えてくれる気が無いようだ。
まぁ見た目きれいな女性なので、愚痴は適当に聞き流し、その姿を眺めて楽しんでいるのだけれどね。
「ししょー。眠そうだけど、夜に何してんの?」
「んー……ちょっと神様に願い事をな」
頼むから1日2時間にしてくれって頼んでます。
言っておくが如何わしいコトはしとらんぞ、ネルシャよ。
「あたしも願い事手伝ってあげようか?」
「イヤ、俺だけでいいよ」
愚痴の犠牲者は俺だけで十分だ。
「なんのお願い事?」
「それは秘密」
毎晩女神様が姿を現してるとか、秘密にしないとさすがにマズかろう。
「えぇー! けちー!」
「ケチとか言うなよ。ほれ、そろそろ焼けたぞ」
俺たちの目の前には、こんがりと焼かれたアユ……のようなものが、串に刺された状態で焚き火の周囲に並べられている。ちなみにお昼ご飯。
確かホキーという名前の魚なのだが、見た目完全にアユだ。生態も同じような感じ。
この魚の何がアユと違うかと言われると、何故か小骨が美味い。小骨に微妙な酸味と辛みと香ばしさが感じられるのだ。
コレ絶対に誰か品種改良してるだろ……。
そしてここは一体どこかというと……王都グルジンベに繋がるナトカ川、そのかなり上流にあるチゼント村近くの河川敷だ。
ちなみにホキーはこの川では、この辺から上流にしか生息していない。
本来なら水深が浅くてボートのような小舟がせいぜいなのだが、俺の船(名前はまだ無い)なら何の問題も無い。つか、普通に河川敷という名の陸地に船を停めてしまっている。
色々と有名になりつつあるし、次元収納持っているのもバラしちゃってるから、こんくらいいいよね?
そんな説明をしているうちにホキーが次々と平らげられている。
「あ、コラ、ドラ吉。一人三本までって言ったろうが、お前それ四本目だろ」
「びー」
「ネルシャ、取り上げろ」
「承知!」
ドラ吉はネルシャが相手だと素直に言うコトを聞く、ゴブ太相手だと圧をかけるくせに……。
「びゅー」
名残惜しそうにホキーの串焼きをドラ吉が見ていたので、きりたんぽに味噌塗って焚き火の周りに刺してやった。これで我慢しろー。
「ところでししょー、マレージュ草の採取ってどこでするの? ダイクエの山は立ち入り禁止だよ?」
マレージュ草とはある種の皮膚を元気にする効能があり、主に育毛剤などの材料となっている。使ったコトの無い素材なので、実験の為に多めに確保しておく予定だ。
ダイクエの山はチゼント村のすぐ近く、というよりチゼント村がダイクエの山の麓にあると言うのが正しい表現だろう。
そして今、ダイクエの山では軍の演習が行われており、立ち入り禁止区域となっていた。
俺たちは現在、そのせいで滞ったマレージュ草の採取依頼を受けている。
そう、滞って困っている依頼をこなしてあげるのは、勇者パーティーとしてはなすべき事なのだ!
決してホキーを食べたかったからチゼント村に来たとか、育毛剤の材料に興味があったからマレージュ草の採取依頼を受けたとかでは絶対に無いのだ!……ましてや自分で使おうなどとは考えても……。
話しを戻そう。
「どこで採取するって、もちろんダイクエの山で採るぞ。なに、見つからなければ問題ない」
「もし見つかったら?」
ネルシャは納得いかないようだ。
「逃げ切れば問題ない」
「逃げ切れなかったら?」
まだ納得いかないようだ。
「ぶちのめして記憶を消せば問題ない」
「……それって、本当に問題無いの?」
うむ、ここはきちんと説明せねばなるまい。
「ネルシャ、軍事訓練で山を立ち入り禁止にするのは良いコトか? 悪いコトか?」
「う~んと……軍事訓練は国民を守るためにすることだから、良いこと?」
ネルシャがちょっと疑問形で答える。
「でも山を立ち入り禁止にしたコトで、困っている人がいるよな? これも良いコトなのか?」
「そっか……じぁあ悪い事? なんか良く解んなくなっちゃった」
まぁ、そうだろう。
「良いコトであり悪いコトでもある、というのが正解だな。じゃあ何で悪いコトでもあるのに誰もそれを止めようとしないんだろうね?」
「え~と……良い事のほうが大事だから?」
「違うよ」
「じゃあ……怖くて誰も逆らえないとか?」
「それはちょっとあるかな? 実際はそれをダメっていう法が無いからだね」
「法?」
「そう、法。どんなに悪いコトでも、それをダメっていう法が無ければ犯罪じゃないから、誰も止められない。逆に止めたほうが犯罪になるコトもある」
権力者の為の法に良くあるパターンだよね。
「悪い事と犯罪って違うの?」
「違うよ。悪いコトっていうのは……人によって基準は違うけど、まぁ悪いコトだな。犯罪っていうのは法に違反するコトだね」
「ん? ん?」
さかんに首を傾げるネルシャ。
「例えば、掛かるとすぐに死んじゃう病気があって、それが流行ってきたからその病気に掛かった人は、他の人に感染さないようにみんな殺して燃やさなければならない。という法ができたとする」
「生きてる人を殺すの?」
ネルシャが本当に嫌そうな顔をする。
「そうだよ。そのままにしておくと、他の人たちにも感染って何十倍もの人たちが死んじゃう病気だ……っていう設定ね」
「あっ、設定か」
ちょっと安心した顔になった。
「その法だと、もし病気になった人たち全員を治療して助けたとしても、法に違反したから犯罪になる」
「でもみんな助かるんだよね、そんなのおかしいよ」
プンスカするネルシャ。
「そうだね。良いコトをしたのに犯罪になる……でもこの法が無いと、助けようとしたけどちゃんと全員を助けられなかったら、その助けられなかった人たちから他の人たちに病気が広がってしまうかもしれない。絶対確実に病気になった人全員を治療できる保証が無い限り、この法は病気と無関係な人たちには正しいだろうね」
「う~ん……」
納得いってないな。
「でも良い事とは言えないよね、助かるかもしれない人を殺して燃やしちゃうんだから」
「うん、絶対そうだよ。絶対に良い事じゃないよ」
コクコクと頷くネルシャ。
「そう、つまり法というのは良いコトの為にあるワケじゃ無いんだよ」
「じゃあ何のためにあるの?」
「基本的に法というのは、国や国民の為に"必要"だからあるんだよ。だから法という物が、良いコトのためだけに有るのではないというコトなんだ」
まだ解りにくいかな?
「ん~……なんとなく解った」
あんまし上手な説明では無かったけど、解ってくれたのか……。
「じゃあさー、悪い事と犯罪も違うんだよね?」
「もちろん違うぞ、こっちはもっと解りやすい。悪いコトをしても、それを取り締まる法が無ければ犯罪じゃない。あと当然ながら悪いコトをしたという証拠が無ければ、たとえ法があっても犯罪じゃない」
「法があっても?」
「証拠の無い法の違反は、犯罪じゃない」
「なんか嫌だなぁ」
ネルシャは憮然としている……真っ直ぐな子だからね。
「そうだね、だけど覚えておいたほうがいい。悪い事をするヤツは『逃げる』『嘘をつく』『証拠を無くす』『法を使って悪いコトでは無くする』とまぁ、色々やってくるから、ネルシャも勇者をやるなら全てに対応できるように頭も鍛えなきゃいけないよって話なのだよ」
「なんか面倒くさーい」
「で、話を元に戻す。おまえの師匠はマレージュ草を採取しに、立ち入り禁止のダイクエの山に入りまーす♪ もちろん証拠は残しません! ネルシャも来るか?」
「これであたしも犯罪者かー……」
「別に来なくてもいいぞ、経験値の足しにもならないだろうし」
「行かなくてもいいの?」
「うーむ……あのな、良いとか悪いとかやるとかやらないとかは、全部自分で決めていいんだぞ。子供なんだから大人の言うコト聞けとか言うつもりは無いからな。俺とネルシャの考えが違ったときは、俺の考えをネルシャに説明する。逆にネルシャも俺に説明してくれ。それで意見が合わなかったり納得できなかったら、別行動すればいいだけの話だから」
「それでいいのかなー」
急にカジャ婆とは教育方針が変わったからなー、困惑するのも無理ないか。慣れろ。
「いいんだよ。俺は俺、ネルシャはネルシャだもの。ぶっちゃけ俺も周りの人からたまに『非常識だ』って言われてるから、完コピするとお前も非常識人になるかもだぞ」
「ぴゅいー」
ドラ吉め、こんなトコだけ腕組みして相槌打ちやがって……。
「で、どうするネルシャ」
短い腕で腕組みして悩んでいるな。
「う~ん……じゃあ止めとく」
「ん、それで良し。さぁ、ダイクエの山に採取にいくぞー」
「ぴゅい」「おー」
「なんか誤魔化された気がするなー」
ネルシャが首を傾げている。
うん、寝不足の頭でテキトーな話したからな。落ち着いて考えれば、たぶん論破できるぞ。
…………
ダイクエ山に張られたロープの前にたどり着く。何やらロープに張り紙が……。
「我がコト成れり!」
「ぴゅ?」
「どしたの?」
ドラ吉とネルシャが何事かと聞いてくる、ゴブ太はぽかーんとしていた。
「このロープに張られた注意書きを見よ!」
そこにはこのような文が赤々とした文字で書かれていた。
【ここから先、何人も立ち入る事を禁止する グリマント王国将軍 トボルス・ナヒマミラ】
「何人も立ち入りを禁止する……人はダメ! つまり従魔は立ち入りし放題! これは勝ったも同然!」
「じゃあししょーは、入らなくてもいいんじゃ……」
「何を言う、こんなに堂々とこそこそ動き回るスキルを使う機会はなかなかないぞ」
「堂々なのかこそこそなのか良く解んないんだけど」
「とにかくやりたいからやるのさー」
「ししょーって、自由な人なんだね……」
「フリーダーム!」
うむ、寝不足のテンションだ。
…………
各種スキルや魔法を駆使して姿と気配を隠し、山に侵入~。
ドラ吉とゴブ太と一緒にマレージュ草を採りに立ち入り禁止区域へ。
それぞれ分かれて山の奥へ入っていったのだが……軍がどんな演習をしていたのか知らんが、山が荒れてるなー。全く迷惑な。
それでもマレージュ草はちょくちょくあったので、採取しながらもっと奥へ。
「おっ、群生地あるじゃん」
これだけあれば自分が実験する分もあるなー、などと考えながらせっせと採取していたら、何やら左手の方角が騒がしいな。
ガサガサガサっというあの音の方向に……あれ? ゴブ太の気配?
ゴブ太の気配が移動しているのだが、その後ろから何人かの人の気配がする。
見つかりやがったかな? ゴブ太のヤツ。
仕方ないので、ゴブ太を逃がすか……。
見つかりにくいように、体を屈めて地上を這うように進むゴブ太。素早いのだがどうしても音がしてしまう。その音を頼りに重装備の兵士たちがけっこうな勢いで追いかけて行く……なるほど、これが山での演習の成果というヤツか。
音を頼りに追いかけているんだから、音でかく乱すればいいか。
音は空気の振動なので、風魔法を使ってゴブ太の移動する音波の振動を打ち消しながら、全く関係ない方向のいくつかでゴブ太の移動音と同じ音波を風魔法で再現する。
ほい、一丁上がり。
マレージュ草も十分採取できたので、ゴブ太と合流して立ち入り禁止区域の外へ。
ドラ吉にも帰ってこいと合図を送って、待っているネルシャのところへ向かう。
「はっ! ほっ! えい!」
ネルシャは一人で短剣の訓練をしていた、武器ゴーレム作って渡しておけば良かったか……。
「ただいまー」
「ただいまですー」
「おかえりー、ドラ吉はー?」
軽く汗をかきながらネルシャがドラ吉を探してキョロキョロする。
「合図送ったから、そのうち返ってくるだろ」
「マレージュ草は取れた?」
「おう、群生地を見つけたからな」
収納から採取した、けっこうな量のマレージュ草を出して見せてやった。
「僕はこれだけですー、途中兵隊さんに気付かれちゃって。でも見られてはいないですよ」
ゴブ太の採取量は十本の束が三つ。依頼されたのは五束なので、ゴブ太の分にちょっと足せば足りる。
「こんなにたくさん採ってどうするの?」
明らかに依頼よりもはるかに多い採取量が、ネルシャには疑問なようだ。
「もちろん自分で使うぞ」
「主様は、薬も作れるんですよー」
「そうなんだー」
感心したネルシャが、俺の生え際を見る……残念、俺の薄毛は頭頂部から……じゃない、まだ大丈夫なんだからね! これは説明せねば!
「別に俺に使うワケじゃないぞ、実験に使うだけだ」
「ふ~ん……」
ネルシャさん、その怪訝そうな眼はどういう意味かなー。あと生え際から視線を外せ。
「ぴゅぴー」
ドラ吉が帰ってきた。
「おかえりなさーい」
「ドラ吉先輩おかえりですー」
「おかえりー、収穫は?」
「ぴゅ」
収納から出てきたのは、俺と同じくらいの分量のマレージュ草。
「凄いな、俺が採ったのと同じくらいあるぞ」
「ぴゅぴ」
ドラ吉が得意げだ。
「ドラ吉は採取も得意なんだね」
ネルシャが感心している。
「ぴゅい」
「ドラ吉は旅のヒマ潰しにずっと採取してたからな」
「ししょーはその時なにしてたの?」
「採取した薬草でポーション作りかな?」
旅の最初の頃は、小銭稼ぎたかったからなー。
「ししょーは、色んな薬作れるんだね」
「つーか、大概のモノは作れるぞ」
「剣とか鎧とかも?」
「作れるぞ、ゴブ太の装備一式は俺の作だ」
「本当!? じゃあ、あたしのも作って! ゴブ太みたいなカッコいいやつ!」
あの装備をカッコいいと言うか……。
「作ってもいいけど、普通装備な。ゴブ太風装備は却下だ」
「えぇー、ゴブ太みたいのがいいー」
「却下」
その後もあーだこーだと押し問答をしているうちに、なんかゾロゾロと人がやってきた。
「おい! そこのお前ら! ここで何をやっている!」
出てくるなり高圧的な質問をぶつけてきたのは、何やら中間管理職らしき兵隊さんだった。
「何、と言われても、マレージュ草の採取なんだが」
「今この山は立ち入り禁止だ! そこの張り紙が読めんのか! 馬鹿め!」
馬鹿とか言われたしー。
「読めるよ。だからこのロープの外側で探してる。問題無いよね?」
「駄目だ! ロープの外だろうが、軍が演習している近辺でウロチョロするな!」
わーい、なんて横暴。
「分かった分かった、すぐに立ち去るよ。ほんじゃ、さいなら~」
こっちの用事も済んだコトだし、とっとと立ち去りますよー。
と立ち去ろうとすると、兵隊さんたちの後ろからガサガサと音がして、偉そうで立派な鎧を着けたおっさんが前に出てきて……。
「待て」
今度は重厚な声に引き留められた。まったくもう……軍隊の人たちって自己中だよなー。
「待たない。だって俺たち追い払われたんだしー」
さっさと山を下りるべ。
「先程のこの馬鹿の発言は謝罪する。少し私の話を聞いてはくれまいか……"探索王"殿」
ほう、この俺を探索王と呼びますか……でもその呼ばれ方嫌いだから。
「嫌だ。さよならー」
「あっ! 待ってくれ」
ネルシャはまだ逃げ足が遅いので俺が小脇に抱え、ダッシュでその場を逃走。無事麓へ到着した。
「なんか気持ち悪いー」
小脇に抱えられ運ばれたせいで、揺さぶられたネルシャが気持ち悪くなったようだ。
「あー、悪い悪い。晩飯は好きなもの作ってやるから、勘弁してくれ」
ウチの子たちは、だいたい食べ物で誤魔化されてくれる。
「じゃあ、ラーメンがいい」
「解った、ラーメンだな」
うむ、ラーメン派への洗脳は順調だ。
「まだ陽も高いから、俺はしばらく作り物でもするコトにするから。お前らは適当に遊んどけー」
「御意、ゴブ太訓練しよー」
「はいー」
「ドラ吉は回復お願いねー」
「ぴゅいー」
あれ? 遊んどけと言ったはずなのだが……子供らしい遊びとか教えた方がいいのだろうか?
気を取り直して作り物をしよう。
やはりネルシャが飛べないというのは不便だ。なので、ネルシャ用の装備……防具を作ろうと思う。
着ぐるみ装備は却下だ。
海王龍素材が大量に余っているので、コレをメインに炎竜素材と各種金属を組み合わせて全身鎧と兜を作ろう。
飛べてー、潜れてー、耐性つけてー、便利機能つけてー、あんまし強力過ぎるのも……ま、いいか。
色はネルシャの髪が赤毛だから、赤にしよう。赤備えだ!……赤備えって実際は朱色だっけか?
もうついでだから兜に六文銭つけちゃえ!
うむ、鎧というより甲冑寄りになっちまったな……いいか、カッコいいし。
いいかげん完成して一息ついていたら、さっきの立派な鎧のおっさんが一人でこっちに歩いてきた。
雰囲気からして、こっちの作業が終わるのを待ってたな……ふむ、職人に対する最低限の礼儀はわきまえてるようだ。
「失礼する。探索王どの、話をしてもよろしいか」
「仕方ない、手短に頼む」
逃げても絶対どこかで接触してきやがるだろうしな。権力のあるストーカーって、始末に悪いよね。
「ならば単刀直入に言わせてもらうが、毒無効の魔道具を探してほしい」
「あんたもかい!」
思わず声に出してしまった……。
「も、という事は他にも同じ依頼をした人物がいたという事だな?……ふむ……そうか、ドルッポ宰相だな?」
俺が勇者の育成をしているからなー、人脈を思い出せばすぐにたどり着く名前だろう。
「なるほど、第一王子派も毒無効の魔道具を欲していたか……ふん! 我ら第二王子派がそんな卑怯な手を使うとでも思ったか! 見下されたものだ!」
ほう、第一王子派とか第二王子派とか言ってますな……うむ、たぶん王位継承の争いとかだな。
うわー! 関わりたくねー!
「えーと……一応あっちが先約だから、二つ見つけたらそっちにも渡すってコトで良い? あと見つかるかどうかも保証は出来ないからね」
「そこは仕方あるまい、その条件で構わん。よろしく頼む」
変なモメ事にはなるべく関わりたく無いよなー……適当なの二つ作って渡して、早めに縁切ろうっと。
「そう言えばまだ名を名乗っていなかったな、トボルス・ナヒマミラだ。グリマント王国で将軍を任されている」
「ナミタローだ」
「できればナミタロー殿にも第二王子派に入ってほしいところだが、ドルッポの知人となればさすがに無理かな?」
「俺は中立なんで、その辺よろしく」
本当は中立とは言わず、無関係になりたい。
「まぁ無理にとは言わんが……あの軟弱で優柔不断なナギアン様よりも、闊達で果断なドラーサン様が王に相応しいのは確実。未だ王太子の指名がされておらんのは解せぬが、どうせドルッポの古狸が陛下に何事か吹き込んで妨害しているのだろう。くそっ! いまいましい……」
王子二人は確か17歳で半年違いだったか、王太子の指名って遅いのかな……ま、それはともかく。
「あのー……できれば別な場所で愚痴ってもらえます?」
愚痴は女神様で十分に間に合っておりますのですよ。
「あぁ、済まなかった。つい、奴の常に人を見下したような面を思い出してしまってな」
あー、それ思い当たる記憶があるわー。あの人自分以外の人を無能と思ってるフシがあるからなー。
「ま、とにかく探し物は請け負ったってコトで」
もう解放してくれい。
「頼む。こちらはやらんが、あちらはやりかねんからな」
そう言って、トボルス将軍は堂々と去っていった。
王位継承の派閥争いか……頼むから俺に関係ないトコでやってね。
…………
「うわーい! 新しい装備だー!」
「これでネルシャも空を飛べるぞ」
主にその為に作ったからな。
「本当?! 早く飛んでみたいなー。それにこれ、赤くてかっこいい!」
「そうだろう。しかもその装備は敏捷を3倍にするんだぞー」
「すごーい! 3倍なんだー」
うむ、やっぱ赤いからな。
「まぁ着けてみろ」
「うん!」
うんしょ、うんしょとネルシャが防具を装備。サイズ調整機能付きなので、もちろんピッタリだ。
言っておくが、着替えの時はちゃんと後ろ向いてたぞ。
「ほれ、見てみろ」
反射障壁は光も反射するので、鏡代わりにしてネルシャに見せてやる。
「おぉー! やっぱりかっこいい」
「うむ、似合うぞネルシャ」
「ぴゅい」
「カッコいいですー」
「それじゃあネルシャも飛べるようになったコトだし、まずは鬼ごっこだな」
「うん! 鬼ごっこだね!」
新装備の動きに慣れるには、まず鬼ごっこに限る。
「まずはゴブ太と、慣れてきたらドラ吉も混ざっていいぞー」
「わかりましたー」
「ぴゅー」
…………
「ふえ~……お腹へった~」
ネルシャが体力の限界になってしまったので、鬼ごっこもおしまい。
「んじゃ、そろそろメシにするか。ラーメンで良かったんだよな」
「うん! 楽しみだなー、ラーメン!」
「ぴゅい!」
「何ラーメンですかー?」
「そうだな……こないだ塩ラーメンだったから、今日は味噌だな」
ここで思いもよらぬ問題が発生した。
「えぇー! 醬油ラーメンがいいー」
「イヤ、いいだろう味噌で」
正直俺はもう味噌ラーメンの気分なのだ。
「でもししょーは、今日はあたしの食べたいの食べさせてくれるって言ったよ」
「だからラーメンに決めただろ、味噌でもいいじゃないか」
これは想定外だな……。
「あたしは味噌より醤油派だもん」
「ぴゅい」
ドラ吉のヤツめ、醤油派につきやがった!
「そうか……だが、俺は醤油より味噌派だ。そして作るのは俺だ」
「僕も味噌がいいですー」
香辛料大好きのゴブ太が味噌派についた!
睨み合いは続く……。
それにしても、まさか我々が醤油派と味噌派の二派に分裂していたとは……。
…………
この案件は、最終的に醤油と味噌のブレンドにしてみるコトで、一応の解決を見た。
そしてブレンドラーメンは、思いのほか……というより新たな発見であり、全員が満足したのである。
こうして醤油と味噌のブレンドラーメンは、我がパーティーにおいて暫くの間一大ブームとなったのであった。
美味ければそれで良し。




