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28話 勇者の仲間

「ありがとうございました」×4


 助けた学生さんたちが、お礼を言って去っていった。

 見守りしていた冒険者たちも一緒だ。


 俺たちも特別何かしたいコトも無かったので、だらだら街へ戻る。

 途中大猪が出てきた…あとでオーク肉と味比べしてみよっと。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 キピリの街にはこれ以上特に用は無いので、俺たちは王都へ向かうコトにした。

 グリマント王国の首都は『王都グルジンベ』という。

 国土の北方やや西よりにあるこの王都は、すぐそばにナトカ川という大きな川があり流通の一角を担っている。

 ナトカ川は川幅の広さもさることながら深さもあり、中型の貨物船程度なら悠々と進入できるのだ。

 河川を使った流通は大量の物資の移動を可能とし、王都グルジンベの繁栄の源となっていた。


 …なんてコトが俺たちに関係あるかという話なのだが、海から山から船で物資が届くとなれば当然食も充実するはずなので関係はある。

『異世界生活体験型フリープラン観光』をしている俺としては、食はやはり重要な要素なのである。


「ぴゅ?」

「そう、でかい川があるんだ」

「見てみたいですー」

「川がでかいから、街から街へ船で移動したりするんだぞ」

「ぴゅぴゅー」

「そっか、そういや船旅ってしたコト無かったっけな…せっかくだから今度やってみっか」

「僕、乗れますかねー」

「そうか、ゴブ太が乗れるかってのがあったな…いっそ自分で船造っちまうかな?」

「ぴぴゅー!」

「おう! たりめーだ、イヤだと言っても手伝わす!」

「僕も手伝いますー」


 …とまぁいつものごとくテキトーな会話をしながら、道中を歩いていると…何やってんだ? あいつら。

 見ると二人組の中年のおっさん冒険者がオークの子供を木に吊るし…あ、腕切り落とした。


「ブァギャー!」

 腕を切り落とされ、泣き叫ぶオークの子供…。

「ほらほら、豚足焼いちゃうぞー。ぎゃははははは!」

 背の低いほうのおっさん冒険者が、切り落とした腕を火にくべた。

「ブギャヒー!」

「ブァブヒャ!」

 オークの親子がそれを見て泣き叫ぶ…特に親オークは固く縛ってあるロープで自らが傷つくのも厭わず、必死になって暴れていた。


「美味そうに焼けてるじゃねーか! いっそ生きたまま丸焼きにでもしちまうか? げはははは!」

 大柄なおっさん冒険者が、ふんぞり返った姿勢で笑いながら眺めている。

「ほーら、ガキの豚足が焼けたぞ? 美味そうだろ? 食うか? ぎゃははは!」

 小柄な冒険者が子オークの焼けた腕を、親オークの口元へ無理やり押し付けた。

「ガヒブー!」

 必死で拒否をする親オーク。

「うわー…お前ひでー…ガキの肉食わせようとか、お前ひでー…げははははは!」

 そう言いながら大柄なほうが、子オークの左足に剣を突き立てた。

「ブギャー!」

「俺は後ろ脚を焼いて…待てよ、やっぱりモツにすっかなー。腹を切り裂いてよ? げははは」


 オーク親子の子供のほうを、目の前で生きたまま切り刻み焼いて食うとか…なかなか下種なお二人ですな。

 マズいな…ドラ吉とゴブ太が、今にも飛び掛からんという構えだ。

 ま、落ち着けお前ら。


「あ゛? なんだてめー、文句でもあんのか?」

「ねーよな? 俺たちオークを駆除して食ってるだけだもんな? ぎゃはははは」


 なんだろ、下種な行動抜きにしてもイラつくわー…。

「まぁ、気をつけろよ」

「はぁ? 何を気をつけろって?」

「お前こそ後ろと夜道には気をつけろよー、冒険者に襲われるかもしんねーぞ? ぎゃははは」

「俺たちじゃねーけどなー、俺たちはほら…魔物を頑張って駆除する模範的な冒険者だしな。げははは」


 ウザいので素通りすっか…喧嘩売ってこないかなー。

 ゴブ太はずっと下を向いて歩いている。

「びゅびー」

「僕たちは黙って見ているしかできないんですよね…」

「びゅびゅびー」

「誰が根性なしだ、コラ」

「びゅーびゅー」

「お前らまさか、俺が何もせずに通り過ぎたとでも思ってるんじゃなかろーな?」

「ぴゅ?」

「何かしたんですか?」

「さてなー…ただあいつらは腹を壊して三日三晩苦しむコトになるだろーな」

 新種の寄生虫と新種の細菌をちょっとな…まぁ三日四日すれば回復する…予定だ…たぶん…イヤ、ほら新種だから実験というか…えーと…最悪下種な屑野郎たちだから、いいよね?


 ドラ吉とゴブ太が、心なしか元気になったように見える。

 まぁ俺たちもオークを虐殺してるのだが、いたぶって殺すあの連中とは違う…と考えるのは身勝手だろうか?


 ………


 王都グルジンベは、かなり遠くからその存在が確認できるほど大きかった。

 あの感じなら経済規模も大きく、人口も多いだろう…治安が悪化しているらしいが、ここからではその片鱗も見えない。


 街に近づくと、陸路からの門は意外にも空いているコトに気付いた。

 一応トラブル回避のために、ゴブ太を繭化しておこう。


「おーい、荷物の少ない人はこっちですよー」

 馬車の後ろに並ぼうとしたら、場所が違ったらしい。

 スカスカの場所へ向かう。

「あっちって、商人用?」

「商人用というか、大荷物用ですね。小荷物の人はこちらです…中身を見せて」

「ほーい」

 礼儀正しい感じの門番さんに、ダミー荷物の袋を開いて見せる。

 当然問題無し。


「この繭が従魔のゴブリンですね」

「ぴゅい」

「そうだよ。こいつ実体化してもよさそうな場所って、ある?」

「闘技場の近辺なら大丈夫ですよ」

「闘技場…って何の?」

「ぴゅ?」

「もちろん人とか従魔です」

 そんなのあるのか…知らんかった…。


「それって見たり出たりできる?」

「ぴぴゅ?」

「できますよ…って、出るんですか?」

「ぴゅい」

「相手によるかなー、力の差があり過ぎるとさすがにねー」

「そりゃそうですね。一方的にやられても、つまらないですもんね」

 イヤ、間違って殺しちゃいそうで…。


「つーか、俺よりも従魔の力試しができるかなーとか思ってさ」

「ぴゅいー」

「ひょっとして、このゴブリンをですか?」

「ついこないだゴブリン(キング)になったもんでさ」

「へぇ…すごいですね、そこまで育てたなんて」

「力試ししてみたい気持ち、解るでしょ?」

「えぇ、面白そうです。闘技場に出すときは教えて下さいよ、見に行きますから…私はバドントと言います」

「ぴゅいぴ」

「ナミタローだ。いつもここに?」

「仕事の時はだいたい…あぁそうだ、言い忘れるところでした…王都グルジンベへようこそ」

 そのテンプレ挨拶…要るか?


 あともの凄ーく闘技場に出る気まんまんのドラ吉よ、お前は出す気無いぞ。


 ………


 王都グルジンベは雑然としていた。

 大都市にありがちな混雑と混沌なのだが、それらを解消するシステムが追い付いていないという印象だ。

 都市計画知識チートとか好きな人が喜びそうな街だな…そんな人がいればだが。


 とりあえず屋台でカルボナーラっぽいパスタを…うむ、それなり…食べて腹ごしらえをしてから、適当な宿の場所を聞き出して再び街中へ。

 川底亭という宿に泊まるコトを決め、いざ本格観光へ…向かうはやっぱり闘技場。


 小冊子の観光マップを片手に、いざ闘技場へ。

 こっちだよね。

 闘技場が近くなると、地面に黄色い線が引いてあった…そう、ここから先は従魔OKなのだ。

「せーの…ほい」「ぴゅい」

 せーのも何も俺とドラ吉しかいないのだが、ついつい掛け声とともに黄色い線を越える。

 すいませんねー、お上りさんなもので。


 早速ゴブ太を呼び出そう。

「出でよ我が従魔ゴブ太よ」

「出てきましたー…あれ? いいんですか? 街の中ですけど…」

「この黄色い線からこっちは、従魔OKなんだとさ。だからあっちには出るなよ」

「はい、わかりましたー」


 適当にぶらつきながらあちこち見て回る…従魔OKの地域はそんなに広くないけど。

 へー…飲食店なんかも全部従魔OKなんだ…宿はこっちの辺りが良かったかな?

「なぁ…これ、あんたの従魔か?」

 声を掛けてきたのは、ガタイの良いひげ面のおっさんだ…身長181cmの俺が見上げちまったよ、2m超えは確実だな…。


「これって…こいつか?」

 たぶんゴブ太のコトだよな。

「そう、そいつだよ。なぁそれ、何の従魔なんだ? ワイバーンの小型種か?」

 あー…そういうコトか。

「違う違う。この見た目はただの装備、中身はゴブリンだよ」

 着ぐるみ装備だからなー。

「口の中、見てみ」


 着ぐるみ装備のワイバーンの口をのぞき込む、ひげのおっさん。

「おぉー、本当だ」

 目線が高いから、見えなかったんだな。

「こりゃ変わった装備だなぁ」

主様(あるじさま)が作ってくれましたー」

「へぇー、すげぇな」


 ふむ、人が良さげなおっさんだから…ガイドになってもらおっかな?

「ところで、闘技場に詳しかったりするか?」

「おう、詳しいぞ。俺は出場選手だしな」

「そうなのか?」

 こりゃ良いの見つけたかも…。


「案内してくれ、飯と酒で」

 あっけにとられるひげ面…のち破顔一笑。

「がはははは。おう、構わねーぞ」

「ナミタローだ…こいつはゴブ太で、こっちはドラ吉」

「ゴブ太ですー」

「ぴゅいー」

 手を差し伸べると、ガッチリ握手。

「俺はドアルだ…言っとくが、俺は食うぞー」

「俺の手料理でいいなら、海王龍(リヴァイアサン)の肉を死ぬほど食わせてやるぞ」

 持て余してるから、良ければ消費してくれ。


「まじかよ、ぜひ頼む! この間出回ったけど、食い損なったんだ」

 そうか…するともう出回ってないのか…少し売りさばくかな?


 ………


 ドアルの案内で闘技場見物。

 闘技場の試合には人部門と従魔部門があり、順位を競うランキングマッチと順位とは関係ないワンマッチで試合が行われていた。

 ランキングマッチに出場する選手は定期的に試合をする義務があるが、賞金・試合料が高く最高位には闘技王の称号が与えられる。

 ワンマッチには流れ者の冒険者などが主に出場する、腕試しと話のネタと小銭稼ぎには丁度良いのだそうだ…俺もそうだが、みんな考えるコトは一緒と思われる。


 従魔連れだと一般の座席には座れず、ボックス席での観戦となった…一区画20000ゴルダ。

 食べ飲み放題のサービス付きで五人まで座れるから、まぁ格闘技観戦と考えれば金額はこんなもんか…。

「どうだナミタロー、出てみるか?」

 駆け出し冒険者同士のワンマッチを見ながら、ドアルが聞いてきた。

 ちなみに試合の順番は、強者とそうでないものが交互に組まれている。


「俺は遠慮しとくよ。力試しにゴブ太を出そうと思ってる」

「ゴブリンをか?」

「ぴぴゅい?」

「まぁ、腕試しにね…ドラ吉、お前を出す気は無いぞ」

 前半はドアル、後半はドラ吉に言ったのだが…。

「びゅー!!」

 ドラ吉に猛抗議された。

「あのな、ここまでの試合観てきたろーが! どいつもこいつもお前と()ったら全部瞬殺しちまうレベルだろ、試合になんねーよ…諦めろ」

「びー」


「おいおい…そいつミニドラだろ? 瞬殺って…逆じゃねーのか?」

「び?」

 なんだとコラ? と睨むドラ吉。

「うーむ…なんなら後で()ってみるか? 手加減はちゃんとさせるぞ」

「ぴゅい」

「面白れぇ、手加減とか冗談にしても笑えねぇぞ。俺はランキング18位だぜ」

 うん、微妙だ。


 ………


 ― 街の外 -


「何なんだよこいつ! ミニドラの強さじゃねーぞ、おい!」

 ドラ吉にボコられ、回復と治療を済ませたドアルが興奮したのか怒鳴っている。

「まぁ、ミニチュアドラゴンの強さではないわな」

「ぴゅい」

 聖竜(セイントドラゴン)が化けてるだけだしなー。

「ランキング18位のこの俺が、こんな一方的に…」

 だから順位が微妙なんだってば。


「ついでにゴブ太とも()ってみっか? たぶんドアルが負けるぞ」

「なんだとぉ! いくらなんでもゴブリンなんかに負けるかよ! いいだろう勝負だ!」


 ………


「まぁ、そう気を落とすな」

「ゴブリンに…ゴブリンに負けた…」

 ドラ吉に頭ポンポンされながら、ドアルは落ち込んでいた。

「ゴブリンったって(キング)だし、装備で強さが底上げされてるからさ」

 すまん、ここまで実力差があるとは思わなんだ…強さの感覚がイマイチ掴めなくってさー。


「ゴブリンに…負けた…」


 元気出せ…海王龍(リヴァイアサン)の肉、飽きるまで食わせてやるから…。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一週間も同じ街で観光をしていれば、さすがにちょっと飽きる。

 ゴブ太の試合のマッチングは『テキトーなの頼む』とドアルに丸投げしてあるので決まるまでは待ちだ。

 なので今は、ぷらぷらと冒険者ギルドを覗きに来ている。


「やっぱここも王都だけあって、平和な依頼が多いなー」

「ぴゅい」

 案の定というか何というか…依頼の大半は『パーティー募集』ばっかし。

 パーティー募集…旅で人生経験を積ませパワーレベリングも同時に行う、富裕層や貴族の子弟の護衛。

 ぶっちゃけ面倒くさいからパスなんだけど…ひとつだけ興味深い依頼があった。


「勇者のパーティー募集なんてのがあったよ…」

「ぴゅー」

 そういや、ここいらの勇者ってまだ子供だったっけか…。

 だとしてもギルドの掲示板で勇者のパーティー募集ってのは、ちょっとどーなのよ。


 ベリッと依頼書が剥がされた。

 剥がしたヤツを見ると…まじかよ、街道でオークの親子をいたぶってた二人組かよ…。

 ちっ、生きてたか…かなり痩せてるけど…。


「なんだよ、先に剥がしたんだからこいつは俺たちの物だぜ」

「間抜け面してぼーっと眺めてるから取られちまうんだよ、バカだろお前」

「いやー、それにしてもラッキーだったな! これで俺たちも勇者パーティーのメンバーだぜ!」

「オークに(あた)って四日ものたうち回ったんだ、これくらいのラッキーが無いとやってらんねーよ」

「違えねぇや」


「ぎゃはは」「げははは」と相変わらず品の無い笑い声を上げて、下種二人は去っていった。

 無いわー…あいつらが勇者パーティーとか無いわー。

「さすがに面接で落とされるだろ」

「ぴゅい」


「あんた、暇ならこの依頼受けてくれないかね」

 いつの間にか隣にいたギルド職員のおばちゃんが、見ると一枚の依頼書を俺に押し付けようとしている。

「何の依頼さ」

 受け取ると了承と取られかねないので、一歩下がって依頼書を読む。


『らんぱちゃんがいなくなりました さがしてください らんぱちゃんはみにどらでおんなのこでぴんくです くびにきいろのりぼんしてます おれいは10ごるだです おねがいします』

 うん、読みにくいが理解はした。

「…この依頼をやれと?」

「あんたもミニドラ連れてるんだから、気持ちは解るだろ? 引き受けておやりよ」

「ぴゅいー」

 ドラ吉が頷いてやがるし。


「…と言われてもねー、10ゴルダってのはちょっと…ペット探しって結構大変なんだぞ」

「だからあんたに頼んでるんじゃないか…"探索王"さん」

「な、なんのことかなー」

「ネタは上がってるんだよ、噂じゃ"探索王"は木刀を引っ提げてミニドラを連れたおっさん冒険者とか…」

「俺以外にもそんな冒険者はいるよ」

 たぶん…木刀を引っ提げてる時点で、希少種だが…。


「へえ~そうかい…ついでに言うとあそこの奴はこの間テオスト王国から流れてきた冒険者でね、あんたの顔を知ってたよ…もう面通しも終わってんだ、観念しな」

「イヤ、犯罪者じゃねーんだから…」

「ポイントおまけしてやるから」

「もうCランクだからポイントとかいらねーし…てか、あんたがここのギルマスなのか?」

 そう、依頼達成時に受け取れるポイントの上乗せ変更は、ギルドマスターの権限なのだ。


 ニコニコと笑顔の小柄でがっしりとしたおばちゃん…ここのギルマスはドワーフだったか…。

 この世界のドワーフの女性は、最近のファンタジーで見かけるような合法ロリではない…もちろん女性だけど髭もじゃ系でもない。前述のとおり女性も普通に小柄でがっしりとしているという種族なのだ。


「ポイントいらねーから、借し一つ…覚えといてくれ」

「あいよ、じゃあ頼む」

 ピラリと一枚の依頼書が受け渡された…ま、ギルドに貸しを作っておいても損はないだろう…。

「あと探索王の件は広めないでくれ、面倒くさいから」


 ………


「ランパちゃんが可愛い女の子だといいな」

 興味ねーよと言わんばかりに、ぷいと横を向くドラ吉。

 冷やかされた小学生みたいな反応するな。


 ペット探しなんぞ子供の頃の猫探し以来なので、特にノウハウがあるワケでもない。

 なのでとりあえず聞き込みしてみたところ…どうやら街の外へ出て行ったらしい。

 依頼者の女の子…ミルタちゃんの言う事には、ランパちゃんをお隣に預けて船でおじいちゃんの住んでいる村へ出かけていた時に逃げだしたとの事だった。

 たぶんご主人様を追いかけたつもりで、街の外へ出てしまったのだろう。


「こっちから出て行ったということは、上流に向かった可能性が高いな」

「ぴゅい」

「そうなんですか?」

「勘だけどな」

 だが当たる勘なのだ…たぶん。


 上流に向かうと、ほどなく森になってしまった。

 なんか迷いそうなんで、川が見えそうな場所に移動してみると…おー、これはなかなかの眺め…。

 森が少し開けたところが小さく切り立った崖になっており、7~8mの高さから川を見下ろせた…両脇の豊かな緑の森と緩やかに流れる川、時折行き交う船と相まって一幅の絵のように収まっている。

 森の木々は広葉樹で占められているので、秋の紅葉はさぞや絶景だろう。


 景色が気に入ったので、ここで休憩。

 作り置きの厚焼き玉子サンドを、みんなで頬張る。

「やっぱ船ほしいよなー」

「ぴゅいー」

「僕も乗りたいですー」

 街を行き交う客船は従魔不可で、繭化しないと乗れなかった。街中と違ってドラ吉も例外ではない。


 どんな船がいいかなー…と川を眺めながら考えていたら、カサコソと何やら音がする。

 見ると茂みの中から、ミニドラがよたよたと歩いて…ん? ミニドラ?

 本来の目的を思い出してよく見ると、ピンクの身体に千切れてはいるが首に薄汚れた黄色いリボンも付けている。


 ランパちゃんを見つけた。

 見つけてしまった…。

 えーと…うん、そうだな…ランパちゃんは随分と消耗し、やつれている様だ。

 こんな姿を飼い主のミルタちゃんに見せると泣いてしまうかもしれない…。

 ここは二日か三日この場で介抱して、元気になってから会わせてあげよう! そうだ、それが良い!

 決してあまりに早い解決のせいで、探索王の称号がこれ以上広まって定着しないように画策してるワケじゃないから! ミルタちゃんを悲しませない為なんだからね!


 そうして自らを洗脳した俺は、ランパちゃんが元気になるまでの間の時間つぶしを考える…。

 まぁ、この流れだと船だよなー。

「船造るどー」

 ドラ吉とゴブ太に手伝いを命じる。

 どんな船造ろうかな…とりあえず見た目は普通の木造船で決まりだよね。

 あとは中身だ。

 やっぱ高速船にしたいよね…水中も行けるようにしとくか…そこまで気密性を高めるなら宇宙空間も…。


 ………


 - 三日後 -


「よし、こんなもんだろ」

「ぴゅい」

「疲れましたー」


 完成した船は外観こそ木造船に偽装してあるが、中身は希少な金属やら特殊素材やらで構成された、無駄に高性能な多機能汎用船だ。

 全長12m 全幅4mのその船体は重力魔法制御航法により、海上・海中はもちろん空中・宇宙、はては土魔法と複合することによって地中すら航行圏内とする。


 武装は主砲として95mm2連砲塔を前方甲板に縦列に2基配置、副砲として30mm2連砲塔を後部に1基・船体側面上部中央に左右各1基配置してある。

 他に対空・対小型用に直径10cmのドーム型全周囲魔光レーザーを24基、前方には全航行環境対応の弾頭切替可能な多目的魚形水雷が4基という、お前はいったい何と戦うのかとのツッコミが入りそうな無駄な充実ぶりとなっている。

 更に空間制圧用兵力として全長10cmほどでAIに制御された、重力制御移動式の機動戦闘ロボ型ゴーレムを100機搭載していた。


 防御には魔道式の魔法・物理障壁の他に電磁シールドまで装備されている。

 更に光学迷彩も含めた各種ステルス機能も充実しているので、そもそも存在を感知するのすらかなり困難を極めるようになっていた。

 速度は理論的には光速まで可能ではあるが、大気・海水その他の障害物を考慮すると大気圏内でそれ程の速度は現実には出せない。


 これらの装備は全て内蔵式であり、普段は船体に収納して偽装してある…これだけのモノを如何にして内蔵できたのかと言えば、次元収納の応用である。

 当然ながら内部空間も同様の仕様であり、船体の大きさよりも内部の空間のほうが確実に広いという他人はちょっと乗せられない構造になってしまっていた。

 ついでに説明すると船体の外には多くのカメラが搭載されており、船内から全周囲モニターで見ることができる…遊覧航行にも戦闘にも実に良い視界を有している仕様となっているのだ。


「やっぱり艦首に突貫用の衝角(ラム)か動力砲の穴を装備したほうが、良かったかなー」

「ぴゅ?」

「まだやるんですかー」

「もうやらないよ、性能的には十分だからね。あとは男のロマンの問題さ」

 さすがにやっちまった感が半端ないので、これ以上は止めておく。


「進水式は、やっぱやりたいよなー」

 すぐに乗り回したいところではあるが、すぐ目の前の川へ浮かべるには許可が必要なのだ。

「一旦仕舞うか」

「ぴゅー」

「仕舞っちゃうんですかー」

「川は許可がいるんだよ、それに人目も多いしな」

 海中や空中も試してみたいので、できれば人目の少ない場所で試運転をしたいのだ。

 なので船は一旦収納へ。


「ランパちゃんも元気になったし、昼飯食ったら街へ戻ろう」

「ぴゅい」

「何たべるんですかー」

「オークのカツ丼」

 手早く作ってお昼ご飯にする。

 栄養が偏らないようサラダも作って分ける…俺以外のサラダにはトマト入りで。

 ゴブ太が野生のトマト採取してきたんだけど、俺トマト嫌いなんだよね。


 景色を眺めながらのん気に昼飯をたべていたら…なんかガサガサと足音が…。

「おや、ここに先客とは珍しい事もあるもんだね」

 なんだか目つきの鋭い婆さんがやってきた…赤毛の女の子連れて。

「あたしらもここで食事をしたいんだが、構わないかい?」

「そりゃーもちろん…俺たちはメシが終わったら出立するから、ゆっくりして行ってよ。


「そりゃ良かった、あたしゃこの景色が好きでね…ネルシャ、あんたもちゃんと挨拶しなさい」

「こんにちはー」

 後ろに隠れるようにしていた女の子があいさつしてくれた…人見知りかな?

 にしても婆さんと孫がピクニックかー、いいねーほのぼのして。

 二人とも冒険者みたいな装備してるけど…街の外は危ないからそれもアリか。


「それじゃあ、広げさせてもらうかね…荷物持ち! 何やってんだい、早くしな!」

 他にもいたんだ…ガサガサと音がして…はて、どこかで見たような二人…。

「ふざけんな! こんな大荷物持ってそんな早く歩けるかよ!」

「つーか、てめぇも持ちやがれ! ババァ!」

 また会ったか下種二人組…縁があるとは思いたくねーな。


「早く広げな! 休憩だよ!」

 なんか婆さん人格替わってないか?


 ………


「また豆かよ…」

「肉食いてーなー」

 豆メインの食事に下種二人が不満そうだ。

「そんなに肉が食いたきゃ、その辺で狩って勝手に食いな」

「言ったなババァ、ならそうさせて貰うぜ」

「おう、豚狩りに行くぞ」

 下種二人は森へと狩りに行ってしまった。


「済まないね、馬鹿二人が騒がせてしまってさ」

「気にしなくていいよ」

 それよりも気になっていたコトがある…。

「その子が勇者なのか?」

「良く判ったね」

 婆さんの目つきがより鋭くなった。

「あの下種二人がパーティー募集の紙を引っぺがしたのを見てたんでな」

「なるほど、そういう事だったかい」

 そう言うと婆さんの目つきが少しだけ柔らかくなった。


「なぁ…何であの下種どもを、パーティーに入れたんだ?」

 荷物持ちだとしても、もっとマシなのが山ほどいるだろうに。

「あの子にクズって人種がどれだけ面倒で厄介かってのを、近くに置いて見せてやりたかったからね」

「それだけ?」

「勇者にはいろんなクズが山ほど寄ってくるから、今のうちにクズってのがどんな奴らか教えておきたいんだよ…身近で見た方が手っ取り早いだろう?」

「そりゃそうだがさ…変な影響受ける可能性もあるぞ」

「あの子は大丈夫だよ、心根はしっかりしてるからね」

「ふーん…」

 ぱくぱくとご飯を食べている、赤毛の子供勇者…あんな下種連中と旅をさせられるとは、君も苦労してるんだね。


「ネルシャ、好き嫌いしないでちゃんとトマトも食べなさい」

「だって…」

 俯くネルシャちゃん。


「仕方ないよなー、嫌いなもんは」

 俺もトマト嫌いだし…あ、婆さんに睨まれた。

「イヤイヤ、無理なものは本当に無理だから…俺なんか気付かないで食べて吐いたコトもあるし…」

 これは本当だ…トマトソースのピザまんを気付かず美味しく食べた後に、胃からトマトの生風味が登ってきてリバースした経験が実際にあるのだ…トマト嫌いな人は注意して欲しい。


「おじさんもトマト嫌いなの?」

「嫌いだぞ、子供の頃からずっとな」

「じゃあ仲間だね!」

 仲間になったようだ。


「ピーマンは?」

「ピーマンは美味しく食べられるぞ、子供の頃は嫌いだったけどな」

「じゃあ仲間じゃない…」

 仲間じゃなくなってしまったらしい。


「いい大人がトマト嫌いとか…情けないねぇ」

 婆さんに言われたけども、こればっかりはねー。

「生の風味が無理なんだよ…ケチャップとかは大丈夫なんだけどなー…」

「あたしもケチャップは大好きだよ!」

 ネルシャちゃんも同類だったようだ。


「じゃあ仲間だな」

「仲間だね!」


 こうして俺は、赤毛の女の子勇者の『トマト嫌い仲間』になったのであった。

今回の勇者は女の子です。

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