26話 遺跡での発見(後編)
で、俺たちはてきとーにショッピングモ…じゃなくて遺跡を進んでいた。
ここは…聞くまでもないな、ボロボロのプラモの箱が所狭しと積まれている。
「ここはおそらく小型ゴーレムのパーツ倉庫かと思われます」
なるほど、そういう解釈になるのね…久しぶりにプラモ組み立ててみたい気もするなー。
「コレたくさんあるからって、持って行っちゃ駄目だよね」
「当り前じゃないですか! 貴重な遺物ですよ!」
「だよねー」
仕方ない、諦めるか…でもどっかに落ちてたら、コッソリ拾ってお持ち帰りしようっと。
で、適当に通路歩いてたら陰になったトコに四角い箱状の物体が…さすが強運な俺。
不自然にならないように速度を落とし…よし、ここで一言。
「まさか天井に隠し扉があるとか無いよな」
「えっ」
「あるかもしれませんね」
皆の注意が上に向いた、今だ!
カサカサっと箱状の物体に近づき、ささっと拾…あれ? 取れないぞ…くっついてるのか?
色々動かそうとしてみた結果…ちょこっとだけ上に持ち上がった。ガコンという音とともに。
「おおっ!」
「ナミタローさん!」
やべ! 見つかった!
「すごいですよ! 本当に天井に入り口が!」
「いったいどうして? あれ? ナミタローさん、それは…」
それ? どれ?…あぁ、これか。
「なんかコレ持ち上げてみたら、扉が開いたみたい」
ちょっとだけ持ち上がった箱状物体を指さす。
「さすがナミタローさん」
「探索王の異名は伊達ではありませんね」
「探索王?」
待ておい、なんだその異名…いつの間にそんな…。
「ハシゴが下りてきました」
「入ってみましょう」
あれ? 探索王に関する説明とか無しなの? え…ちょっと…。
ハシゴを上ると、そこはロビーかエントランスか…なんかちょい広めの場所。
「こんな場所が…」
「あそこにあるのは、石碑でしょうか?」
端の壁際に石碑が薄ぼんやりと光っているように見える。
近づいてみると…また何かイヤな予感が…。
なんかさ…書かれてる文字がこっちの世界の文字じゃなく、日本語に見えるんだよね。
読みたくない気もするけど、自然と読んでしまうその懐かしい文字…その内容はこうだった。
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やぁ! ナミタローくん、異世界生活はどうだい?
ここにたどり着くという事は、けっこう楽しんでくれてるんだよね。
もうお判りかと思いますが、ここは遺跡です。
というかこっちの世界での冒険の為にいくつか遺跡っぽい物を用意したから。
良かったら愉しんでいって下さいねー。
ちなみにここは『オタク文化が遺跡として後の世界に残ったら』てなコンセプトで造ってまーす♪
造物主より
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「んなコト説明されんでも、見りゃ解るわ!」
「どうしたんです? いきなり」
「ま、まさかこの文字が読めるんですか!?」
いけね、つい大声でツッコんでしまった。
「い、イヤ、読めるというか、なんか伝わってきたというか…」
ヤバい…どう誤魔化そう…。
「何て伝わってきたんですか? どんな風に?」
イーシリンくんの追及がキツい。
「えーと…ここは遺跡ですよ、みたいな…」
嘘は言ってない。
「石碑が!…」
ナルキスくんの声で石碑の方を見ると、石碑が半透明になっていて…ついには消えてしまった。
「石碑が…どうして?」
たぶん俺が読み終わったら自動消滅する仕掛けだったんだろう…俺宛の私信だったからなー。
「そんな…大発見だったのに…」
「ま、まぁまぁイーシリンくん…そんなに気を落とさず…」
ガタガタ
その時、タイミング良く物音が…何か知らんがナイスだ、いざうやむやに!
「この扉だな…」
その扉は重厚な両開きの扉だった。
開けてみると…ん? この扉、作りからして防音かな?…そこは広々とした広間で、奥にステージがあった。
そしてそのステージの上には…。
「ホう、マた会ったな」
わーい、悪魔さんだー…。
また会ったってコトは、こないだ海中で会ったヤツか。
「悪魔だと!」
「そうか! では学生たちも!」
「ガく生? ソれはコれの事か?」
悪魔が言うと、ステージ右手から大きさが2.5mほどの四体のゴーレムが出てきた。
「これは…まさか!?」
「ナかなか良い実験材料ダったぞ、ニんげんの魔力と生命力でウごくゴーレムだ。オかげで出力が大きくアがったよ」
「実験材料だと!」
「なんてことを!」
なんてやり取りを放置して、俺は全然違うコトを考えていた。
扉からして防音の効いたこの部屋でわざと物音を立てる…こちらの気を引くためか?
俺からは逃げたんだから、用があるのは勇者さんだよね。
ふむ…ほんじゃ悪魔イベントの見物といきますか。
「サぁお前たち、ヤってしまえ…ハはは、ナかの人間はまだイきているぞ。サあ、ドうする?」
四体の…生きた人間の入ったゴーレムが、こちらに襲い掛かってきた。
しゃーない、俺も参戦するか…。
「オまえの相手はコっちだ」
ステージ左手から3mほどの大きさのゴーレムが現れた…見た目主役系ロボのヤツが。
う~ん…この程度ならゴブ太の訓練に丁度いいかな?
「ゴブ太~、これ倒してみろ」
「え、あ、はい!」
「ぴー?」
あれ? 自分の出番は? と、ドラ吉がこっち見るが…残念、俺たちは今のトコ見物だ。
勇者くんたちはどうなったかな? と見ると、ゴーレム内に囚われている学生に気を使いながら戦っているので手間取っているらしい。
死ななきゃ回復魔法で何とでもなるのに、優しくて堅物な勇者くんだよまったく…。
そろそろ参加するか。
「こっちは任せろ、ナルキスくんたちは悪魔へ!」
などと声を大きくして、ちょっと演出。
「解りました!」
「そちらはお願いします!」
「あいよー」
「ぴゅ?」
殺って良い? と、こっちを見るドラ吉…まだだよー。
とりあえずゴーレムを止めよう…人間の魔力と生命力で動くゴーレムだったな…。
まず魔力吸収のスキルで魔力を吸い取り、四体の魔力を枯渇させる。
そして今度は石化ブレスを使う…我ながら人間かどうか疑いたくなるスキルだよなー。
石化すれば仮死状態と同様に、生命力は停止したような状態になるから…。
はい、ゴーレムも停止~。
「出番だよ、ドラ吉。中の石化した人をなるべく傷つけずに、周りのゴーレム壊してくれ」
「びー」
「戦う方で出番やるとか言ってねーし」
「びゅー」
「じゃあ、見学だけでいいか?」
「ぴ」
しゃーねーな、とばかりにドラ吉が作業を始める。
まかせたぞー。
で、ゴブ太は…っと。
「ゴブゴブの~、螺旋突!」
はぁ……やっぱりその掛け声使うのか…。
相手ゴーレムはさっきの攻撃で左腕がちぎれている…隙が出来た左側に執拗に回り込むゴブ太。
素早いゴブ太に回転してもらちが明かないと悟ったゴーレムが、左に体当たりをぶちかます。
避けきれず食らうゴブ太…まだまだ甘いな。
「くう~…ゴブゴブの~、大回転!」
ゴブ太が自身を回転させて、体当たり状態から脱すべく自らはじけ飛ぶ。
自ら飛んだ分ゴブ太の方が体勢を整えるのが早く、ようやく勢いを止めたゴーレムに飛び掛かった。
「ゴブゴブの~、斬剣!」
ゴーレムの右腕が切り飛ばされる…これで丸腰も同然だ。
「ゴブゴブの~、大破壊!」
ここぞとばかりのゴブ太の大技をもらって、ゴーレムは体全体を破断させて沈黙した。
「よーし、やったー」
うんうん、よくやったぞ…その『ゴブゴブの~、』さえ無ければもっと良かったんだけどな。
まぁ、追い追いゆっくりと育てながら…。
「ゴブリン王に、僕はなる!」
ゴブ太がガッツポーズをしながら、高らかに宣言した。
……これはもうアレだな、さっさとゴブリン王まで育てちまおう…。
その頃、勇者たちは…。
「やぁ!」
「はっ!」
見事息の合ったコンビネーションで、悪魔を追い詰めていた。
最終的にイーシリンくんが足を止め、ナルキスくんが止めを刺して悪魔は倒された。
「よし! 勝利だ!」
「やりましたね!」
勝利し安堵する二人。
「おつかれー、ほいコーヒー」
紅茶の茶葉がほぼ切れていたので、ここはコーヒー。
「ありがとうございます。ところで生徒たちのほうは?」
ナルキスくんが休憩に入りながら聞いてきた。
「命に別状は無いよ、石化してるけど」
「石化…悪魔め、なんてひどい…」
すまぬ、そっちの犯人は俺です…でも言い出しにくいので、悪魔くんに罪を被ってもらおう。
「石化は俺の魔法で治せるから問題ないよ、あとはドラ吉の発掘待ち」
「そうですか…良かった」
そうだね、無罪で一般人の俺もそう思うよ。
「それにしても、やっぱ連携上手いよねー」
「まぁ、ずっと二人でやっているからね。でも本当はイーシリンが止めを刺せればいいんだけど…」
「私は聖属性の攻撃魔法が使えませんからね、悪魔は無理ですよ」
「そっか、イーシリンくんは回復がメインだからレベルが上がりにくいとか?」
「そうなんですよ。攻撃は僕がメインだから普段から僕ばかりレベルが上がってしまって…悪魔は経験値がすごく美味しいんで、本当はイーシリンに倒させたいんですけどね」
へえ…悪魔って経験値美味しいんだ…。
「ぴゅぴー」
「ん? 終わったか?」
ドラ吉の発掘作業が終わったようだ。
お気に入りのココアをカップに注ぎ、ドラ吉を労う。
「お疲れ」
「ぴゅいー」
さてここからは、おっちゃんのお仕事。
軽く魔法を掛けて四体の石像を元に戻すと、それらは四人の少年となった…全裸の。
あー、服着て無かったんだ…。
ナルキスくんの青い目が輝いているが、何も言うまい。
………
イーシリンくんの介抱で、四人が目を覚ました。
「起きたね、体に異常は無さそうかい? どこか違和感は?」
大丈夫そうだ。
「君たちは魔道学校の生徒で、名前はモルトンくん・ナボシくん・エーキンくん・モゲくんで合ってるかな?」
ナルキスくんの問いに四人が頷く。
「良かった、君たちを探しに来たんだ。消耗しているようだから、もう少し回復したら戻ろう…もう安心だよ」
「あ、悪い。消耗してるの俺のせいだわ…ゴーレム止めるのに魔力を枯渇させちゃった…」
こっちは自白しておこう。
「なるほどそれで…というかそんな事よく簡単にできますね。まだ未熟とはいえ、魔道学校の生徒ならかなりの魔力を持っているはずですよ?」
「へえー…そんなに優秀なんだ」
「優秀ですよ、そうだよね君たち」
ナルキスくんの笑顔の問いにちょっと戸惑いながら生徒たちが…。
「えっと…そう、モゲは凄く優秀ですよ」
「そうです、モゲは天才って言われてるんです」
「未来の大賢者って言われているんですよ」
言われてたモゲくんは、その可愛らしい顔を紅潮させている…こういうのを紅顔の美少年と言うのかね…。
「未来の大賢者…なるほど、将来有望そうですね」
おっ…イーシリンくんの仲間募集センサーが反応したぞ…。
「いえ…そんな…。あ、あの、もう元気になりましたから、そろそろ…」
モゲくんはシャイな男の子のようだ。
「無理はしない方がいい、念のためもう少し休んでからにしよう」
親切そうに言ってるが、股間の状態を悟られたくないから立ちたくないだけだよね。
ふむ…ナルキスくんの股間センサーも反応したか…。
これは勇者パーティーにモゲくんが新加入かな?…よし、ここはおぢさんが後押ししてあげよう。
「そういえばナルキスくんのパーティーって、魔導士いないよね。モゲくんなんか良いんじゃない?」
よし、たぶんさり気なく振れたぞ。
「いいかもしれませんね…どうですか? モゲくん、卒業したら私たちのパーティーに入ってみますか? ナルキス様はどう思います?」
「そうだね…彼が了承してくれるなら、是非とも一緒にパーティーを組みたいな」
よしよし、あとはモゲくん次第だ。まさか断りは…。
「ぼ、ぼくなんかに無理ですよ! 勇者様のパーティーなんて…無理無理絶対無理です!」
ありゃー…こういう性格なのか…。
「もったいないなー…俺から見ても才能ありそうな感じなのに…」
見た感じだけで、根拠は無いんだけどねー。
「ナミタローさんに才能があると言われるなんて、きみ凄いよ!」
「これはもう、是非ともパーティーに入ってもらわないと!」
なしてお前らが、そんなに反応するん?
「あの…その人はいったい…」
だよねモゲくん…それが正常な反応だと思うよ。
「あぁ…この人はナミタローさんと言って、知る人ぞ知る凄腕の魔導士で超一流の職人さんだよ」
「あと探索も超一流、君たちを探し当ててくれたのもこの人ですよ…探索王と言えば分かるかな?」
「探索王!」「この人が探索王…」「本物なんだ…」「この人があの…」
おい、てめーら…なんで探索王で分かるんだよ…てかその異名どこまで広まってるんだよ…。
あー、なんか久しぶりにドラ吉に頭ポンポンされてる俺がいる…。
「じゃあ、ぼくやってみます!」
なにがどうなってその考えに至ったのかは知らんが、やってみてくれモゲくん。
でもその、キラキラした尊敬のまなざしは止めてくれ…何が尊敬されてるのかさっぱり解らんし。
「卒業が待ち遠しいね、イーシリン」
「そうですね、ナルキス様」
どうやら勇者パーティーの三人目がこの遺跡で発見されたようだ…うむ、善きかな善きかな。
話はとんとん拍子に進む…モゲくんは春には卒業だそうだ。
果たして新たに三人となったパーティーは、どのような道をたどるのか…。
普通のパーティーか、ナルキスくんのハーレムか、はたまた禁断の三角形か…その行く末は…。
ぶっちゃけ気になるのだけれど、見届けたくも無いんだよね。
うん…間違って深入りしちゃう前に逃げるべ。
実際、遺跡なんてこんなもんですよね。




