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25話 遺跡での発見(前編)

話しが長くなってしまったので、前後編に分けることにしました。

 春が近くなり、こちらの世界に来てからじきに早一年…俺はまた一つ、おっさんの階段を(のぼ)ろうとしている。

 ま、成長もしてなけりゃ老けてもいないんだろうけどさ…。

 成長してるのは従魔くらいのものだ。


 ジュゥーー


「で、どんだけ採取できた?」

「なんとかこれだけ採れました」

 ゴブ太が差し出したカゴの中は、木の実やキノコなどで8割方埋まっている。

 テオキメントの郊外は、やはり王都だけあって魔物は少ないのだが緑は豊富だ…まだ春の前だからロクなもん無いけど。


 ジュワーー


「ドラ吉~、使えそうなの使っていいぞー」

「ぴゅいー」

 カゴをそのままドラ吉に差し出す…実はさっきから料理をしているのはドラ吉なのだ。

 なんで料理なんてやらせているかというと、やれそうだったからだ…。

 ……もちろん理由はそれだけでは無い…イヤ、ほんとだから。


 実を言うと俺は、ドラ吉やゴブ太をずっと従魔として縛っておくつもりは無い。

 ドラ吉にせよゴブ太にせよ、従魔を辞めて独立したいと言えば野生に返してやるつもりなのだ。

 その為に食料の調達や料理などを、最近はちょくちょくやらせている。


 ぶっちゃけドラ吉に関しては独り立ちしたとしても、全く心配はいらないだろう…最近、お金を稼いで使うコトを覚えたくらいだし…。

 外で狩りをして自ら解体した素材を街の中で身振り手振りで売っ払い、そのお金で買い食いをする。そんなコトを覚えやがったのだ…もうなんでもアリだな、こいつは。

 おかげで今では『お使いのできるミニドラ(ミニチュアドラゴンの略)』として街ではそこそこ有名になりつつある…こいつが路頭に迷う未来は、想像できんな…うむ。


 となると、後はゴブ太だ。

 食材の確保は、ようやく少しできるようになってきた。

 狩りのほうは強さ的には問題無いのだが、探したり追い込んで仕留めたりするのがまだまだ下手だ。

 採取のほうも食べられる物と食べられない物の区別が、まだ怪しいという具合だ。

 ゴプリンは成長が早いし仲間もその辺にゴロゴロいるので、いつ『嫁を貰って独立する』とか言い出すかも判らないから色々教えておきたいんだよなー。


「ぴゅいぴゅいー」

「お、出来たか。美味そうだな」

 今日のメインは、鶏肉とキノコと胡桃の炒め物らしい。

 全体的に茶色だけど、まぁ上出来だろう…男の料理なんてこんなモンだ。


主様(あるじさま)、どうぞ」

 ゴブ太が茶碗にご飯をよそって持ってきた…この辺はそつ無くこなすんだよなー。

「ほいじゃ、いただきまーす」

「ぴぴゅいー」

「いただきまーす」

 うむ、さすがドラ吉、味は美味だ。

 ゴブ太が作るとやたらと香辛料を使うんだよなー…ひょっとしてゴブリンの味覚では、アレが美味しいと感じるのだろうか?


「ドラ吉は腕上げたよなー、美味いわ」

「ぴゅー」

 こいつめ、ドヤ顔しやがって…。

 ん? いつも賑やかに食ってるゴブ太が、やけに大人しい……な!?

 なんかゴブ太が固まって泡吹いてるし…これはまさか!


 皿に盛られた料理を、もう一度じっくりと見直す…やっぱりか…。

「ドラ吉~、お前コレ毒キノコだぞ」

 ゴブ太の毒を魔法で消しながら、ドラ吉に料理の中に入っていたキノコを箸でつまんで見せた。

「びー」

「確かにコレ美味いけどもさ、俺たちと違ってゴブ太には毒効いちゃうんだから…」

「ぴゅ」

「コレは俺たちだけで食おう、せっかく美味いし。ゴブ太には昨日のシチューでも食わせておこう」

「ぴゅい」

 おっ、回復したかな?


「ぶはー、苦しかったです…」

「お前もそろそろ、自分が食べちゃいけないモノを覚えて採ってこような」

 そう、毒キノコは先ほどゴブ太が採ってきたヤツだ。

「でも、キノコは難しくて…」

「そういう時は無理して採らんでいいから、迷ったら止めとけ」

「はい…」

「ぴゅい」

 そうだと言わんばかりにドラ吉が相槌を打っているが…。

「お前も迷ったときは料理に使うの止めとけよ」

「ぴ」

 返事をしながら目を逸らしやがった…。


 ま、今すぐどうこうって話でもないし、気長に楽しみながら教えてくか…。


 ………


 カキン! コキン! ガシャ!

「とやー! ほえー! だりゃー!」

 昼飯も終わったので、今度はゴブ太の稽古の時間…剣・槍・斧と三体の訓練用武器ゴーレムが相手だ。

 完全に対応できているようだから、そろそろ弓も追加してやろうかと思っている。

 俺はと言えばその間、訓練をチラ見しながら作り物や読書をしている。

 ドラ吉はまた狩りにでも行った…と思う。


 もう青年期に差し掛かろうというゴブ太は、ゴブリン将軍ジェネラルで進化が止まっているが強くはなっていた。

 日々の鍛錬のおかげか、最近は色々な技を覚えてきているのである…。


 そう、覚えてきているのではあるが…技の名前をいちいち叫ぶクセがあるのだ。

 しかもその叫ぶクセというのが…。


「ゴブゴブの~、斬剣スラッシュ!」(剣ゴーレム破壊)

「ゴブゴブの~、螺旋突スクリュー!」(槍ゴーレム破壊)

「ゴブゴブの~、破斬クラッシュ!」(斧ゴーレム破壊)


 …とまぁ、こんな感じだ。

「なぁゴブ太、その『ゴブゴブの~』ってヤツなんとかならんのか?」

 こちらとしては某有名マンガを思い出してしまい、いつかどこかからクレームが来そうで何とも落ち着かないから直したいのであるが…。

「でも、このほうが技が決まるんですよー」

 そうなのだ。決まる確率も威力も、この『ゴブゴブの~』を叫んだ方が高くなるのである…困ったコトに。


「なるべくそれ、叫ばなくても出来るようになっておけよ。相手に予告してるようなモンだから、対応して防がれるぞ」

 もっともらしく聞こえる指導をして、修正してみようっと。

「はっ…そうか! 解りました、頑張ってみます!」

 うむ、素直で良い従魔だ…別に騙してるワケじゃないから、心は痛まないからね。


 ………


 街へ戻って、とりあえずいつもの宿屋…雲庵亭の一階の店でコーヒーを飲みながらまったり。

 ここのコーヒーは薄い割に香りが高いので、胃に優しくて気に入っている…まぁ今の自分の身体だと濃くても全然問題ないんだけど、あっちにいた頃の感覚でつい…ね。


 そういや紅茶の茶葉が切れかかってたから買ってこようかな…などと考えてたら、来客が来た。

「どうも、ナミタローさん」

「やっぱりこちらでしたか」

 ナルキスくんとイーシリンくん、勇者パーティーの二人だ。

「おー…今日はどした? 例の埋蔵金探しの話を蒸し返すのなら断るぞ」

 探し物が得意というような評判がなぜか立ってしまったので、これもなぜか旧王朝が残したと言われる埋蔵金探しを国の偉いさんから頼まれたのである…もちろん断ったけど。


「違いますよ。実は遺跡に行く依頼が来たので、ナミタローさんも一緒にどうかと思って」

「あぁ、そっちの話か…もちろん行くよ…あれ? でも何しに行くの? 遺跡って調査されつくしてるんじゃ無かったっけ?」

「それなんですけど実は、魔道学校の学生が演習に行ったきり帰ってこないんでその捜索なんですよ」

「あの遺跡は魔物も弱いし比較的安全に探索できますからね、学生の演習にはよく使われるんです」

 イーシリンくんが追加で情報をくれた…ふーん、学生の演習か~…。


 一瞬『学園編』という言葉が頭をよぎったが、おっさんのこの身ではさすがに無理があるよなー…イヤ、待てよ…まだ教師という道が…。

「何か気になる事でも?」

 アホな事を考えていた俺を、ナルキスくんが引き戻す。

「イヤ、大したコトじゃないから。それより急ごうか、生徒の子が心配だ」

 いいなー、クラスの友達と演習とか…。


「あ、そうだ…ドラ吉のヤツが帰ってきてないや…」

 こんな時に、どこで何をしてるやら…。

「あぁドラ吉くんなら、さっき大通でクレープ食べてましたよ」

「そうなんだ…じゃあすぐに拾っていこうか…」

 ついでにバナナクレープでも食べていこうか…最近稼いでるドラ吉のオゴリで。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 遺跡までは一晩かかった…ゴブ太は繭化したまま、俺とドラ吉は交代でお互いを運んで睡眠を取りながらの移動だ。

 途中で一度落とされたのは、クレープを奢らされた恨みとは思うまい。


 ………


「ここが遺跡…?」

「ぴゅ?」

 断崖絶壁に洞窟みたいな穴がひとつ…。

「遺跡に通じる通路です、ここを抜けると素敵なものが見られますよ」

「そんなに凄いの?」

「凄いというより面白いですね、とても興味深い遺跡です」

 つーか、さっきからナルキスくんが一番わくわくしてるように見える。


「早くいきましょうナルキス様、今回は学生の捜索に来たことを忘れないで下さい」

 イーシリンくんが俺たちのやり取りに半ば呆れ、半ば業を煮やしながら先を促してきた。

「そうだね、先を急ごう」

「ゴブ太も出しとくか」

 ゴブリンには洞窟が良く似合う。


 ………


 入り口は洞窟っぽかったのに、中に入ると通路だった。

 イヤ、ほんとに通路…床はちゃんと平らな床で、壁も天井も普通に平らな四角い通路…。

 地下街の通路みたいだな…などと考えていると…。


 イーシリンくんが、学者肌らしく色々と解説してくれる。

「この通路だけでも面白いでしょう? この辺なんてほら、一枚の平らな石みたいですけど実は岩じゃないみたいなんですよ。僕は細かい砂を固めた物だと考えてるんですけどね」

 うん、コンクリートだね…。

「この材質もさっぱり解らないんです、軽くて硬くて半透明でこんな風に滑らかな曲線…完全に未知の素材ですよ」

 たぶん硬質プラスチックだね…。


「通路を出たところには、もっと興味深い物がありますよ」

 ナルキスくんがわくわくした顔で教えてくれたけど…なんだろう、なんかもう嫌な予感しかしないぞ…。

 そして、通路を抜けた開けた場所に()()()は立っていた。


 なしてこんなモンが…。


 左には未知の新しい合金で作られたような、右には第二次大戦の終戦間際に作られたような、そして中央にはお台場に立っていそうな…全長20mほどの三体の像がそこにはそびえ立っていた…。


「凄いでしょう! 古くて動きませんけど、形状からしてこれらは戦闘用ゴーレムだと思うんですよ! 真ん中のゴーレムが持っているのは、きっと何らかの武器だと思いませんか!? あぁ…でも動力源が解らないんですよね、どうやったら動くようになるのか…」

 イーシリンくんが熱く語っているが…戦闘用は正解だけどもすまん、たぶんそれらはゴーレムじゃないと思うから動かない。あと真ん中のが持っているのはビームが出るヤツだ。


「イーシリン、そろそろ中に入らないか? 僕らは学生の捜索に来たはずだろう?」

 さっきのお返しとばかりにナルキスくんが先を促す。

「そ、そうでしたね。遺跡の話は後回しにして、早く捜索に行きましょう」


 ………


 建物の中に入ると…まぁ、なんて素敵なショッピングモールの遺跡…。

 しかも何で置いてあるのがマンガ・アニメ・ゲーム関連と思しき物ばかり…。

 イヤ、なんとなーくここが何なのか解った気はするんだけどさ。

「いろいろありますねー」

「ぴゅいー」

「ほら、ここの部屋を見て下さい! さっきの戦闘用ゴーレムの小型版が、こんなに…」

「ほんとだー」

 うん、たくさん並んでるね…フィギュアが…。

「こっちのは魔物タイプがメインで材質が違うんですよ!」

 それは怪獣のソフビ人形というヤツだね…。


 そして別の部屋に入ってはイーシリンくんが…。

「こっちは人型の小型ゴーレムがこんなにあるんです! しかも凄く精巧なんですよ!」

「すごいねー」

 それは美少女フィギュア…ん? 最近は男のキャラのもあるのか…最近? あれ? これ遺跡…。

 なぜかナルキスくんが男の子フィギュアに夢中になってるし…あ、これは正常か…なんか頭が混乱してきたな…。

「この人型にはおそらく武器を持たせるのでしょう。見て下さい、こっちのゴーレムには魔法の杖らしき物が装備されています」

「なるほどー」

 正解…それは魔法の杖というかステッキです。つーかそれは魔法少女というヤツです…。


 また別の部屋…。

「あれ? この部屋…」

 なんか雰囲気の違う…あ、ゴスロリ人形というんだっけか? この辺の知識はさっぱりだなー。

「これなんですよ、この調度品とかが良いんですよね」

「あー、これか」

 ナルキスくんが興味を持ったアンティークって、この類のモノだったか…。

 店内にはゴスロリ人形に合わせた家具や調度品が、セットで並べられている。

「ここのゴーレムは今一つ用途が解らないんですよね…」

 それは俺もわかんねー。


主様(あるじさま)、魔物出ませんねー」

「ぴゅい」

 ゴブ太とドラ吉には周囲の警戒をさせている…なんか興味無さそうだったんで。

「本当に出ないな…いくら学生でも、なんでこんな場所で帰れなくなるんだ?」

「たぶんどこかに閉じ込められたか何かしたんでしょう、知られてない部屋があったのかもしれません」

「んじゃ、宝さがしみたいなもんだね」

「だからナミタローさんに声を掛けたんですよ」

「それでかい!」


「という訳で、ここから先はナミタローさんにお任せします」

 …と言われてもねぇ…。

「とりあえず適当に奥に行こうか」

「そんなので見つかるんですか?」

「ええ、そんなので見つかっちゃうんですよ」

「ぴゅ」

 付き合いの長いドラ吉が、もう前足から進化したと言っても良いであろう腕を組んで頷いている。

「そ、そうなんですか…では、行きましょう」

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