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24話 海底捜索

前回からの続きでございます。

「ゆうじゃざま……」

「無理して喋らないで下さい。街は助かりました、安心して下さい。皆さんが体を張って頑張ったからですよ」

 障壁を張ったコトにより余裕のできたナルキスが、そう言いながらゴブ太から受け取った回復薬――ポーションをシボラに降りかける――飲めるような状態では無いのだ。

 それでもなお動こうとするシボラ。それに応えるように少し体をずらす。

「街が見たいんですか? 見て下さい、あなたがたが守った街です。もう大丈夫ですよ、だから安心して休んで下さい……」

 ようやく目を閉じたシボラの顔はまだ腫れあがっていたが、しっかりと笑みを浮かべていた。


「ナルキス様! こちらはだいたい終わりました」

「すまないイーシリン、こっちはまだ少し残ってる」

「見れば判ります、あとはお任せを。ナルキス様は皆さんに声をかけて元気づけてあげて下さい、勇者の声は皆さんを安心させられます」

「ありがとう……」

「何です? 急に」

「君はいつも僕をフォローしてくれる」

「そのための私ですから」

 そう言うとイーシリンは回復魔法を掛ける為に、怪我人たちへと向かって行った。


 入れ替わりに、ゴブ太がやってきた。

「あっちの人たちには回復薬をかけ終わりました、他に僕ができることありますか? もうする事が無いんで……その……」

「どうしたんだい? ゴブ太くん」

「僕はゴブリンですから、ゴブリンが街の中にいるのは……」

 そう、本来街の中には従魔は繭化しないと入れない規則だ。

「気にしすぎだよ、僕らはゴブ太くんを仲間として信頼しているし、街の人だってこんなに頑張ってるゴブ太くんを邪険にしたりしないさ。そうだな、万一突破してくる岩魚がいたら処理してくれ、頼むよ」

「信頼……はい! 解りました! 突破してくる岩魚がいたら処理します!」

 後方へ駆けていくゴブ太。


「まったく、ゴブリンとは思えないな……」

「そうですね、いっそパーティーに加わってほしいくらいです」

 いつの間にか、すぐそばにイーシリンが立っていた。

「彼はナミタローさんの従魔だよ」

「知ってます。いっそのこと僕らも従魔を育ててみますか?」

「どうだろう? あそこまで上手く育てられる自信は無いな」

「……ですね」


「――もし僕の師がナミタローさんだったら、どうなっていただろうね」

「さぁ? どうなっていたかは判りませんが、私は今のナルキス様が好きですよ」

「好き……なのか?」

「はい」

 二人の『好き』がそれぞれ違う意味なのを、二人が果たして認識しているかどうかは知らない。


 …………


 俺のあずかり知らぬところで男二人が微妙な雰囲気になっていたころ、俺は一つの考えを実行しようとしていた。

 海中の捜索だ。

 減りつつあるとはいえ、岩魚はまだ飛んでくる――俺はその原因が知りたかったのだ。

 もちろんそれだけで原因が解るとは限らないが、潜らねば何も始まらないだろう。


 てなワケで。


「ドラ吉ー、そのまま岩魚の処理頼む。俺は海の中潜るから――障壁無くても問題ないよな?」

「ぴゅいー」

「ほんじゃ行ってくる。そっちは頼むぞ、相棒」

「ぴゅーぴゅいー」

「わかったよ、岩魚は後で鍋にでもしてやるから」

 実はさっきからドラ吉のヤツは器用に岩魚の硬い頭だけをブレスで飛ばしている――もちろん食べるコトを前提としているからだ――なので……。


「手が空いたら内臓も処理しとけよ」

「びー」

「食べたいならそのくらいやれるようになっとけよ」

「ぴゅ……」

「今度こそ行ってくるぞー」

 ついでに他の鍋の具材でも探してくるか。


 …………


 海中に潜り、岩魚の群れを辿っていくと――またかよ……。


 そこにはこの世界にきてもう二度も遭遇した相手――そう、悪魔がいた。


 …………


 会話ができるのは知ってるので、水中で話せるように伝達魔法を使う。

「あー、あー、テス、テス――よし。なぁ悪魔さん、ひょっとしてこの岩魚けしかけたのはお前か?」

「ソうだ、オれが仕掛けた。スばらしいだろう、ソら飛ぶ岩魚だ――ケっ作だろう」

「で、やっぱりアレか? 目的はこの世界を混乱させる為なのか?」

「ソうだ。ソれが私のシめいだ、ワたしはその為にツくられた」

「誰に? って聞いても、答えてくれないんだろうなぁ……」

「ソれは言えない」


 だが俺の頭にはぼんやりと浮かび上がった名前があったので、試しに悪魔にぶつけてみた。

 悪魔の驚愕した表情で、正解は導かれた――まぢかよ……。


「さて、用事は終わったし消えてもらうか」

 おもむろに愛刀を構えた瞬間、周囲が暗黒に変わる。

「なんだ? 急に暗く――違う、スミか」

「ユうしゃではないオ前にヨうは無い、サらばだ」

「あ、待て」

 気付いた時には左足に絡みつく何者かがいた。

「こっちの世界はタコのほうかよ……」

 それは海の魔物としては定番の、クラーケンだった。


 クラーケンはファンタジー世界の中で、巨大イカもしくは巨大タコとして登場するが今回はタコ。

 なので……。

「よし、今日の昼飯は岩魚とタコの鍋で決まりだ」

 お昼のメニューが決定した瞬間であった。


 …………


 全長100mはあろうタコの処理を丁寧にしてから収納したせいで、若干の時間が掛かってしまった。

 既に悪魔はいない。

 気配で海底の砂の中に逃げたのは感知しているので、海底をしばらく捜索してみる……。


「逃げられたか……」

 悪魔は見つからなかった――失態だな。

 あそこでタコが出てこなければ――イヤ、出てきたタコが美味そうでなければ……。

 後悔しても遅いので、今後の課題としよう。


 それにしても、ずいぶんあっさり逃げやがったな――逃げると襲ってくるの条件の差は何なのだろう?

 勇者ではないお前に用は無い、とも言われたな……。

 そんなコトを考えながら、何気なく海底を眺めていたら光る物が――おや?


 指輪、見つけてしまった……。

 この指輪が漁師のリノーンさんの落とした結婚指輪であろう――わーい、俺って幸運(ラッキー)……。


 微妙に嬉しくないのは何故だろう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 海上に出ると、当然ながら空飛ぶ岩魚はもういなかった。

 まぁ、ドラ吉の仕事だしな――あの程度なら、時間的にそれこそ朝飯前ってトコだろう――朝飯は食いそびれたけど。

 で、その当のドラ吉はというと……。

 いた、ついでにゴブ太も。

 横には内臓を処理された岩魚が、これでもかとテンコ盛りになっていた。


「ドラ吉ー、お前本当に器用だなー」

「ぴゅい」

 ドラ吉の右前足――というか既に右手だな――には包丁が握られ、器用に内臓を処理している。

 もちろん魚卵と白子もきちんと分けられていた。すげーな。


「ドラ吉先輩、これも追加でーす」

 ゴブ太が、ドラ吉が墜としたと見られる頭の無い岩魚を大量に持ってきた。

「まだありますからね」

 再び撃墜された岩魚を拾いに行くゴブ太。

「ぴゅ」

 ゴブ太を一瞥もせずに短く返事をして、岩魚の処理を続けるドラ吉。すごい集中力だな。

 もうすっかり板前か職人さんみたいだよ。誰に似たんだか……。


 ところでドラ吉さんや、その包丁どこから持ってきた?


 …………


 ナルキスくんとイーシリンくんは、防波堤となっていたみんなの介抱がひと段落したらしく、紅茶を飲みながら(くつろ)いでいた。

「あー、いいなー。俺にも一杯欲しい」

「ナミタローさんもお疲れ様です、言っときますが(ぬる)いですよ」


「おっ、サンキュー……てか俺を誰だと思ってんのさ、便利屋ナミタロー様ですよ」

 ちょいちょいと俺たち三人のお茶の温度を上げる。熱くまではしない。

「――さすがナミタローさん、やりますね」

「いい仕事するでしょ」

「職人技です」

 などと二人と冗談交じりに話していたが……。


「ドラ吉くんのあれも、たぶんナミタローさんの影響ですね」

 などとナルキスくんがぷっこんできた。

「ナミタローさんが何か作ってる時にそっくりですからね、きっと育成の賜物(たまもの)です」

「まぢすか……」

「どうしたんですか? ナミタローさん」

「俺ってあんな感じ?」

「はい。僕が頂いた収納を作っていた時も、あんな感じでした」

「あ、そうなんだ……」

 ああなるように育成した覚えは、全く無いんだけどなー。

 ドラ吉のアレは、俺の影響なのか。まぁ、役に立つからいいんだけどさ。


 ちょっとだけ、解せぬ。


 …………


「ところで、原因は掴めたんですか?」

「あー、ナルキスくん。それがさー……」

「何かあったのですか?」

「イヤ、ちょっとさー。原因を取り逃がしちゃったんだよ……」

「取り逃がした? ナミタローさんが?」

「そんな事もあるんですね――で、原因は何だったんです?」


「悪魔だったよ。つーか俺、なんでこんなに悪魔に縁があるんだろう……」

「悪魔だって!」

「ナルキス様! 追いませんと!」

「だからもう逃げちゃったってば」

「逃げた? 襲われなかったんですか?」

「うん……」


「悪魔は聖なる武器じゃないとダメージを与えにくいですから、逃げるのは考えにくいのですが……」

「ナミタローさん、ひょっとして聖なる武器を持っていたりします?」

 あれ? 知らなかったっけ?

「イヤ、コレ一応、聖属性の武器なんですが」

 と、木箱に立てかけてあった神木刀タナカムラクンを指さした。


「これ、ただの木刀じゃなかったんですね……」

「私は、変な形の魔法の杖だと思ってました……」

「あ、イーシリンくん半分正解。コレ、魔法の杖としての機能もある木刀なんだよねー。いいでしょ」

「聖木刀で魔法の杖ですか、すごいですね……」

「へ? 違うよ。コレ神木刀」

「神木刀だって!」

「神の武器なんて……本当にあったんですか!?」

「僕は伝説とか物語にしか存在しない物だと思ってた……」

 俺はそこらに何本もあると思ってました。


「いったいどこで見つけたんですか?」

「やっぱり遺跡とか、古い神殿とかですか?」

「えっと、実は自作でございますが……」

「――自作……」

「――本当に常識が無い人ですよね、ナミタローさんは……」

「一応、むやみに作らないように気を付けております」

「そりゃそうですよ」

「こんな凄い物が世界に何本もあったら、間違いなく大騒ぎです」

 そっかー、木刀とはいえ『神』がつくもんなー。自重しといて良かった。


「ところで、そろそろ落ち着いたから昼飯にしない?」

 神木刀の件はこれでうやむやに……。

「そうですね、ご飯でも食べながら話の続きしましょうか」

 イーシリンくんは手強い……。

「で、何を食べさせてくれるんですか?」

 ナルキスくんは食べ物で釣られてくれる――てか、俺が作るの前提だよね。


「一応、鍋の予定」

「鍋、いいですね」

海王龍(リヴァイアサン)の鍋は美味しかったからなぁ」

 だが今回は、海王龍の鍋の予定ではないのだ。ん? 待てよ……。

「この際、街の人たちにも集まってもらって、鍋パーティーでもやらない?」

「それはいいですね!」

「こんな事件の後です、きっとみんな明るくなれますよ」


「メインの具材は、あそこに山ほどあるしね」

 ドラ吉のほうを指さす――ドラ吉の横には岩魚が山のように――イヤ、山盛り過ぎだろうよ!

 そこには既に高さ10mを超えた岩魚の山が出来ていた……。

 ドラ吉が撃墜した岩魚の処理はとうに終わっており、今は普通に陸に落ちた岩魚を処理している。なぜそこまでやってんだ、ドラ吉よ。


「本当に山ほどありますね」

「ドラ吉くんも熱心だね」

「俺はドラ吉が墜とした分だけやっとけって言ったんだけどなぁ……」

「楽しいのかな?」

「やってるうちに夢中になったんだろうねー」


「やっぱりナミタローさんの影響なんでしょうか」

「従魔ですからね」

「――なぁ……ホントに俺ってあんなん?」

「そうですよ」

「雰囲気がそっくりです」

 なんだかなー、今のドラ吉、師匠たちにそっくりなんだもんなー。

 というコトは、俺も師匠たちの影響を色濃く受けているという――なんか認めたくねー。


「さぁ、鍋パーティーの準備をしよう!」

 俺は現実から目を背けるコトにした。現実逃避はあっちの世界にいた頃から得意なのだ。


 …………


 街の人たちが空の鍋と、野菜なんかの具材を持ってやってきた。

 メインの具材は、ついさっきまで街の脅威だった岩魚だ。

 水魔法でお湯を張り、鍋に火魔法を掛ける――味付けは、それぞれの家庭に任せた。

 うちらの鍋には煮ダコも投入して、汁はちょっとだけ甘めにしてみた。


 鍋パーティーは大盛況となり、もはやパーティーというよりお祭りだ。

 もはや鍋とは関係ない食べ物も、ちらほら見受けられる。そろそろ肌寒い季節というのにみんな楽しそうだ。

 夜なら花火でも打ち上げたいくらいだ――今は在庫無いけど。


 ナルキスくんもイーシリンくんも、ドラ吉もゴブ太も、もちろん俺も、鍋に舌鼓を打って楽しんだ。

 特にドラ吉のヤツは、終始ドヤ顔だ。

 こんど試しに料理でもさせてやろうか……。


「うむ、いい日になったな」

「ぴゅい」

「やっぱり鍋は、大勢で食べるのが美味しいですね」

「みんないい顔をしてます」

「僕も皆さんと一緒で楽しいです」


 楽しい時間は過ぎるのが早い。

 そろそろ撤収しようか……という時間になって、一人の男が近寄ってきた。


「あの~……ところで私の依頼、どうなったでしょうか?」

 指輪の捜索を依頼していた、漁師のリノーンさんだ。

「あ、ちょっと待ってね。一応見つけたんだけど、これで良かった?」

「そ、それだ! ほんとに見つけてくれたのか! 本当に……ありがとう、ありがとう!」


「なんだ、ひょっとして指輪が見つかったのか?」

 シボラさんがリノーンさんの声を聞きつけてやってきた。

「そうなんだよ、この冒険者さんが見つけてくれたんだよ! すげぇよなぁ、こんな小さな指輪を海の中から見つけるなんてよ」


 そのリノーンさんの大声を聞いて、街の人たちが何人か集まってきた――厄介な案件を持って。

「俺も! 俺も指輪落としちまったんだ! もう十年前だけど、見つかるかな?」

「俺は釣り竿を……あれ逸品なんだよ、見つからないかなぁ」

「俺の剣、見つかるかな! 大枚はたいて買ったのに、船上で魔物と戦った時に落としちまったんだよ」

「わひの……わひの入れ歯……」


 そんな面倒くさい探し物なんぞやってられん、なので……。

「無理無理無理、今回はたまたま見つかっただけなんだから! 無理だから!」

「そう言わず、お願いします!」

「ちょっと探すだけでも!」

「一日探してもらって見つからなかったら、諦めるから!」

「わ、わひの……」


「悪い、無理だから」

 もう逃げちゃおう――転移の魔法でも使うかな。

「そんなワケで、さらばじゃ!」


 …………


 逃げた先は……というと、海の中だ。

 ふふふ――よもや連中も、目の前の海の中に逃げたとは思うまい――ふふふふふ。

 さーて、ついでに何か晩飯のおかずでも探して……と辺りを見回すと、なんか雑多なゴミみたいなのが集まっている場所があった。

 これはアレだ、海流でゴミの類が集まってきたんだな。たまたま引っかかる地形なんだろう。


 そう、たまたま――たまたまだよね? 見つけちゃったよ、たまたま……。

 指輪・釣り竿・剣・入れ歯……なんでたまたま見つけちゃうかなー。


 探す気の無い物をたまたま見つけちゃう俺の運というのも、さすがにどうかと思うよ……うん。

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