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15話 冒険者の実力

ようやく冒険者となります。

『おっさんデビュー』でございます。

 ブンレドの街へ来て2日目。

 昨日は一日、ブンレド海老漁で終わってしまった。


 今日は、そう、俺はついに冒険者ギルドデビューをする予定なのだ!

 そして初心者冒険者として、ベテランに絡まれてくるのだ!


 いざ! 冒険者ギルドへ!


 …………


 広いな……今まで入った中で、一番広い。

 天井も高い、ジャンプして届くか……あ、今なら余裕だな。


 キョロキョロとギルド内を見廻してると、ゴツいバイオレンス系の人が近づいてきた。

 コレはアレか? キタか?


「よう、おっさん見ない顔だな。冒険者ギルドに何か用か?」

身長は2m近いか……頭はモヒカンで、使い込まれた様子の毛皮防具を装備している。

「ええ、まぁ、新規に冒険者登録しようかと思いまして」

若くは無いけど新人冒険者の予定ですよー、絡むなら今ですよー。


「へえ、そうかい、新規にねぇ……おいおっさん、ちょっとこっちへ来な」

 こ、これはアレですか?……ギルド裏とかの、人気のない場所に連れていかれて……。


「新規登録なら、ここが受付だ! おっさん、解んねぇことがあったら何でもこの俺、カガンチに聞きな! おうサリーン、このおっさんのこと宜しくな! ガハハハ、俺いいことしてるよな、な、ギルマスにちゃんと言っておいてくれよ、サリーン頼むぞ!」


 受付カウンターに案内されてしまった……。

「えっと、いい人……ですね」

「まさか、問題ばかり起こしてギルドを除籍されそうなので、いい人キャンペーンをしているだけです」

「なーる、そういうコトか」

 テンプレさんがお仕事しないと思ったら、そんな理由か……。


「新規の冒険者登録ですね?」

 さっきサリーンと呼ばれていた黒ブチメガネの受付嬢が、受付してくれた。

 イヤ、受付嬢だから当たり前なのだが。


「はい、新規の冒険者登録です。実は薬士とかやってるんですが、自分で採取もするんで冒険者ギルドに登録してついでの依頼をこなせば小銭が稼げるなーと、今更気付いたというか思いつきましてね」

 あらかじめ考えておいた、適当な理由を口にする。

「そうでしたか、そういう方はたまにいらっしゃいますよ。一般の身分証はありますか?」


 ゴソゴソ


「はい、これです」

「ナミタロー・ヒラナカさんですか。では一時お預かりしますね、それではこちらの黒い部分に両手のひらを置いて下さい」

 おっ! これが噂の判別の魔道具か、犯罪歴とか魔物が化けてるかとか判るヤツ。

 ちなみにステータスとかは見られないらしい。


 待てよ? 犯罪歴? あ、やば……エチゴヤのトコで袋拾ったのって、アレって犯罪になるのでは……マズいぞ、どうしよう? 時間無いぞ、どうする、俺!

 そうだ、もう緊急事態だし何も考え付かないから『アレ』を使ってしまおう!

 本当は気が進まないけども、法則を無視した事象を、一日一回現象化できるスキル。


『奇跡!』


 …………


 どうかな?

「はい、終わりました。特に問題はありませんね」

 あぶねー……。


「ちょっと質問よろしいですか?」

「どうぞ」

「犯罪歴って、どの程度から判別されるものなんですか?……」


「そうですね……一般的に捜査・逮捕の対象になることは対象になりますけども、けっこう甘いですね。冒険者になるような人は腕自慢や力自慢が多いので、傷害事件程度では引っ掛かりません。スリや窃盗も引っ掛かりませんね、強盗でようやく引っ掛かるくらいです。甘いと思われるかもしれませんが、小さな子供のころに戦争難民になりやむなく……という方もおられますので、このような基準にせざるを得ないのです」


「そうなんですか」

「質問は他にも?」

「いえ、今のところは」

奇跡のスキル、使う必要無かったんじゃね?


「これで良しっと……どうぞ、あなたのギルドカードが出来上がりました。追加登録事項がありますので、質問にお答え下さい。まず登録職業ですね」

「職業ですか?」

「はい、主にパーティー編成や依頼への適正などを判断する時に必要ですね」

「うーん、パーティーを組む気は無いんだけど……薬士より魔道士のほうがこういう時はいいのかな?」

「複数登録も可能ですから、薬士と魔道士の両方にしますか?」

「じゃ、それで」


「職業登録完了……次は資格と実績ですね、こちらは自己申告でけっこうです」

「資格と実績って何のです?」

「そうですねー…………例えば何か強い魔物を倒したことがある、とか。何か案件を解決したことがある、とか。何かの資格を持っている、とか」

「資格って言われてもなぁ……」

「皆さん自称ですけどね。○○流の師範とか、有名な○○さんの弟子とか、神様に選ばれし、なんて人もいます。だから適当でも問題無いですよ」


「それだったら、俺はクジャの大森林に住んでる三賢者の弟子です」

「おぉー、なかなかのチョイスですね。でもそれだとすぐ嘘だとばれちゃうかもしれませんよ」

「えーと、ホントに弟子なんですが……」

「本当なんですか?」

「ええ、まぁ」


「証明できるものとか、あります?」

 言われてみると、特に証明できるようなモノは無い。

「特に無いですかね」

「そうですか。あ、別に証明できなくても問題ありませんから登録しますねー。三賢者の弟子……と」

 信じてはいないようだけど、まぁいいか。


 まだあるのかな?

「最後はその他の項目なのですが、これは任意に登録しておきたいこと、各地のギルドへ行った時に特別注意とか配慮をしてもらいたいことなどですね。従魔の登録もこちらにお願いします」

「だったら従魔の登録だけでいいです。こいつはドラ吉です、よろしくお願いしますね」

「ぴゅいー」

 左肩のドラ吉を紹介すると、愛想良く挨拶するドラ吉。


「可愛らしいミニチュアドラゴンですね……はい、登録終了しました。これであなたも本日より冒険者となります、規約や注意事項、システムなどはこちらの小冊子に書いてありますので、良く読んでおいて下さいね。そして、こちらがギルドプレートとなります、なるべく無くさないで下さいよ。再発行には場合によって1カ月程度かかる場合がありますし、金貨1枚の費用も掛かりますから」

 ギルドプレートは黒くて薄い金属製で、6cm×10cmほどの大きさだ……けっこう重いし大きいな。

「了解しました」


「ところで、今日は依頼を受けて行かれますか?」

「イヤ、これ読んでからにします。依頼はたぶん明日からかな?」

「わかりました、頑張って下さいね。ナミタローさん」

「ありがとう、のんびり頑張るよ」


 こうして俺は、無事に冒険者となったのであった。


 結局、絡まれなかったな……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 宿に戻って早速素敵な読書タイム、小冊子だが。

 面倒くさそうな規約と注意事項は斜め読みする、当たり前の事しか書いてないっぽいし。

 システムは……と、ふ~ん、ランクはポイント制なんだ。

 G~A、Sまでの8段階、冒険者に成りたての俺はGでお試し期間だ……あとはポイントを積み重ねれば自動で上がると。

 弱い魔物しか相手にしなくてもSにはなれるんだね。


 あと普段の行動でもポイントが変動するのか……素行が悪いとポイントがどんどん引かれていくんだなー。ギルドで最初に会ったヤツは、これでポイントを引かれたんだろうなー。

 ランクによる依頼の制限は無し、但し失敗するとポイントが成功時の2倍引かれる……と。

 ポイントがマイナスになるとギルド除籍、あと3カ月依頼をこなさないとポイントが自動的に引かれるのかー。


 あれ? 俺って今0ポイントだから、何かやらかしたらそれで終わり?


 まぁ、なんとかなるか。

 薬草の採取依頼なら、たいがい即納できるし。

 討伐依頼も、相手が見つかりさえすれば瞬殺だし。


 こうして見ると、冒険者ランクって強さというより信頼度を示してるんだな。

 冒険者ランクが高いヤツほど確実に依頼をこなす人物、というコトだ。

 ふむ、だいたい把握したな、あとは明日だ。


 今日は海老漁をして終わりにしようっと。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日、朝一は混みそうなので、11時ころに冒険者ギルドへ。

 まずは依頼の掲示板を眺める。

 ポーションに使うバンコ草が常設依頼になっている。

 常設依頼というのは、依頼の受注をしていなくても持ってくれば、いつでも依頼達成にしますよというモノだ。


 毒消し用のドシノン草の依頼は即納できる。

 お、オオミツバチの針の納入依頼がある、20本か、これも即納できるな。

 あとは……採取ついでに簡単な討伐依頼も受けておこうかなー、簡単なってのは居場所が特定できるって意味ね。

 毒熊(ポイズンベアー)の討伐依頼がある。巣は洞窟で、地図も支給してくれるらしい……コレにすっか。


 計3枚の依頼を持って受付に行こうとしたら……。

「おいおい、1度に3件かよ。そんなにこなせるのか? おっさん」

 若い冒険者がオラオラ寄ってきた……今頃テンプレさんがupを始めたかな?

「問題無いぞ、2件は即納できるからな」

 無視するのも可哀想なので、答えてやると……。


「けっ即納かよ……なんだぁ? 毒熊(ポイズンベアー)の討伐依頼? おっさんにできんのかよ?」

 俺の持った依頼書を見て聞いてくる、ちと態度がウザい。

「毒熊程度なら問題ないよ、もういいか?」


「あの、ナミタローさん? ナミタローさんは冒険者に成り立てですから今ポイント0なんですよ? 採取依頼でちょっとくらいポイントが増えても、毒熊クラスの討伐依頼に失敗すると即除籍ですよ? ちゃんと昨日の冊子読みました?」


 昨日受付してくれた黒ブチメガネのサリーンちゃんが、受付カウンターから心配してくれて声を掛けてくれた……ありがたいんだけどさー。

「ハァ? おっさん新人かよ!? それで毒熊討伐だぁ? 冒険者ナメてんじゃねぇぞゴルァ!」

「別にナメちゃいないよ。サリーンちゃんも心配ありがとね。毒熊程度ならホントに問題無いから」


「テメェ、サリーン『ちゃん』だと! 馴れ馴れしい口聞いてんじゃねぇよ! ジジイ!」

 あっちに声かけたのはヤブヘビだったか……おまえサリーンちゃん惚れてるな?……青春してるねー、ウザいけど。

「ぴゅー」

 ドラ吉もイラッとしてきたようだ。


「オイ、なんだよその目つきは、たかがペットのくせに生意気なんだよ! 人間様相手にやるってのかゴルァ!」

 ドラ吉をガシッと鷲掴みにする。

「ちょっとー、止めなよグボス」

 言ったのは、後ろの方に居た別のパーティーの女だ。


「びゅ?」

 ドラ吉がこっちを『殺っちまっていいすか、旦那?』という顔で見る。

 うん、ちょっと待てな。

 職員さんたちに、聞いてみるから。

 つか俺じゃなくてドラ吉かよー、おぢさんはつまんないぞー。


「あのー、こういう場合ってボコっちゃったら問題あります?」

 カウンターの奥に聞いてみる、若いのが騒いでるけど無視。

「ギルドは原則として、冒険者同士のイザコザには介入しません」

 奥からベテランと思しきエルフのおっさんが答えてくれる。


「ポイント引かれるとかも無いです?」

「犯罪にならない限りありません」

 へー、そうなんだ。だったら……。

「ありがとう、理解しました。そういうコトらしいから、ドラ吉」

「ぴゅ?」

「やっちまっていいぞ」


 ドゴォ!


 言うが早いか、グボスとかいう若いのが壁に蹴り飛ばされた。

「あぁ、ボコるのはいいけど、壁や物壊したり関係無い人に迷惑掛けたりとかは無いようになー」

「ぴゅい」

 と言ってる間にも、みるみるボコボコに……。

 仲間っぽいのが2人参戦してきたけど……やっぱりボコられてるな。


 あ、回復魔法掛けてる――ドラ吉のやつ回復魔法使えたのか、まぁ聖属性だしな――またボコり始めた。けっこう容赦ねーなドラ吉のやつ。

「ドラ吉ー、言い忘れたけど殺すなよー」

「ぴゅいー」

 ……見てないで、さっさと受付すっか。


「すいません、コレとコレは即納できます……あと常設依頼のバンコ草も即納で。毒熊のやつは……地図支給してくれるんでしたよね?」

「あ、はい、納品カウンターはあちらなので、素材はあちらに……えっと、地図はちょっとお待ちください」

 ちらちらと俺の後ろを見ながら、受付嬢が応対してくれる。

 さぞや後ろは凄惨なコトになってんだろーなー。


 構わず納品カウンターへ。

 バンコ草500g ドシノン草500g オオミツバチの針20本を納品。

「これでいいんですよね?」

「品質チェックしますので、もう少しお待ちください」


 …………


「お待たせしました」

 本当だよ、俺はいいけど後ろでボコられてる連中の身になってあげなよ。

「バンコ草とドノシン草は品質が特上でしたので20%上乗せ、オオミツバチの針も上品質でしたので10%上乗せされます。よって依頼報酬はバンコ草600G、ドノシン草840G、オオミツバチの針11000Gで、計12440ゴルダとなります。ポイントは加算含めて合計で19Pとなります」

 少し説明を省略したな? 後ろの惨劇見ながらだから、仕方無いか。


「それじゃ、納品はこれで。ところで、毒熊の巣の地……」

「こちらになります!」

 食い気味に地図を出してくれた。

 早いトコ後ろを何とかしろという意味ですね、わかります。

「ありがとう」


 礼を言って振り向くと……3人とも顔の原型がもう判らん、あと手足が全部変な方へ曲がってる。

「ドラ吉、もうその辺で勘弁してやれー……それと、そいつらちゃんと元に戻してやれよ」

「ぴゅい」

 仕方無いといった感じで、回復魔法を掛けるドラ吉。ふむ、ちゃんと元に戻ったな。


 顔覚えてないけど、たぶん戻ってる気がする……。

 ま、戻ってなきゃ戻ってないでいいか。

 俺も魔法を掛けとこう、血でたくさん汚れちゃってるし。

『キレイになれ』

 うむ、こんなもんだろ。


「それじゃ皆さん、お騒がせしましたー」

「ぴゅーい」


 これが俺たちの冒険者としての初仕事であった……。

 イヤ、仕事以外の要素が多いけど、そこは気にしないよーに。


 …………


 俺たちは今、東南の山で採取をしながら毒熊(ポイズンベアー)の巣を探している。

「お、ここにもあった」

「ぴゅ」

「それもあったのか、この山素材多いなー」

 とまぁ、素材集めがメインだけど。


「さてドラ吉くん、現在位置はどこかな?」

「ぴゅいー」


 ぱたぱたぱたっと上空へ飛ぶドラ吉。

 現在地を確認。

 ぱたぱたぱたっと帰ってきた。


「ぴ」

 地図を指さすドラ吉。

「なるほど、この辺か……巣までもうちょっとだな」

「ぴゅい」

「先に片付けちゃおうか」

「ぴゅいー」


 浮遊で飛びながら、巣へ。

 飛べると山ってとっても楽だよね……見つけた。たぶんアレかな? 洞窟が見えた。

 ひょいっとその前に降りる。


「ここだよなー」

「ぴゅい」

「こんちはー、いますかー、討伐にきたんですけどー」

「ぴゅぴゅいー」

 洞窟の中に声をかけてみる。

 けどーぴゅいー けどーぴゅいー けどー……。

 エコーばっかしで、返事が無い。


「お出かけ中かな?」

「ぴゅ?」

 ふむ、戻るまで待つしかないか。

「ぴーぴゅい」

「そうだな、洞窟の中でも探索すっか」


 主のいない巣を探索……これがホントの空き巣ってヤツだな。


 …………


「うわー、人骨があるよ……こっちは犬? 狼かな?」

 洞窟内を光球で照らしながら、あちこち調べて行く。

「あ、ここにも採掘ポイントが、鉱山とかではなさそうだけど……」

 試掘した跡かな? で、思ったより出なかったとかかな?

 ちなみに掘れたのは鉄鉱石だけ。


 人骨と遺品っぽいのは、街にでも持って帰ってあげたほうがいいのかな?

 などと考えていたら、外からグオグオ泣き声が聞こえてきた。

 洞窟の主が帰ってきたようだ。


 グウオォォォ!

 怒ってる……そりゃ普通そうだよね、俺たち空き巣だし。

 しかも家主を殺そうとしてるし、さらにソレを職業にしてんだから……立場としては連続強盗暗殺者になるのかな?


「見つかっちまったモンは仕方ねー、バラすぞドラ吉」

「ぴゅぴゅ」

 突然始まる見つかった強盗ごっこ……ドラ吉お前、ノリがいいな。


 ドラ吉がブレスの準備を始めたが……。

「ちょい待ち、たまには俺によこせ」

「びー」

「いいじゃん! 初めての討伐依頼くらい、こっちよこせよ」

「ぴー」

 渋々折れるドラ吉。


 さて、どうするかなー。

 初討伐記念に毛皮取っておこうかな? となると……。

 よし、方針は決まった。


 ちなみに俺は、さっきから毒熊の攻撃を避け続けている。

 マントと服が破れたらイヤなもので。


「ほいじゃ、やりますか」

 右腕の袖をまくる。

 グアァァァ

 吠える毒熊の口に右腕を突っ込む、喉奥から上に指を突き立てて極小の爆裂魔法を放つ。

 ゴボッ

 毒熊の口から大量の血が溢れて来るのを、水魔法で処理する。

 終わった。


 う~む……。


 毛皮を記念に取っておこうと思ったのだけど、なんかそんな気分じゃなくなっちゃったなー。

 ぶっちゃけ作業感がハンパ無い、なんというか……コレじゃない感てヤツ?

 あまりにあっけなくてさー。


「処理しちまうか」

 皮を剥いで……肉は自分たち用にしとこう。

 熊の胆とか、需要ってあるかな? 毒熊だけど。


「さて、もう少し採取してから帰るか……」

「ぴゅいー」

 それにしても……討伐というか駆除というか退治というか、あっさり終わったなー。

 討伐依頼があっても他にやりたい人がいるなら、今度から譲ってあげようっと。


 ………………


 ドラ吉はまだ狩りをしたいらしいので、一人で冒険者ギルドに戻ってきた。

 まずはカウンターで報告っと。

毒熊(ポイズンベアー)の討伐、終わりましたー」

「早いですね、即日ですか?」

「地図があったからね、討伐証の皮はそのまま納品するから」

「では、納品カウンターの方へ」

 納品完了~♪


「はい、これでナミタローさんもFランクです」

「そうなの?」

「はい、これで正式な冒険者ですよ。おめでとうございます」

「ありがとう……あ、そうだ、コレなんだけどここで換金できる?」

 すっかり忘れてたのは金貨。元銅貨だったヤツね。


「えっと……これは金貨ですか?」

「そうそう、元銅貨だったやつ。ホラ、つい最近銅を金に替える魔物が話題になったでしょ? ソレにやられた銅貨。ここで換金できないかなー?」

「あぁ! 遭遇したんですか? ギルドでは単純に金としての換金ならできますけど、コレクターが付けるような付加価値はここでは上乗せできませんよ?」

「だったらソレで良いんで換金して下さい……えーと、これで全部なんで」

 8枚の元銅貨の金貨をカウンターに並べ終わると……。


「おい! 思い出したぞてめぇ! 向こうの街道で会ったやつじゃねぇか、あん時は嘘ついてやがったのかよ! いい度胸してんじゃねぇか、この俺に嘘教えて只で済むと思うんじゃねぇぞ! ゴルァ!」

 あん時?……あ、こいつ銅装備で固めてたヤツか。


「装備変えたんだね、あの時は馬鹿丸出しの全身銅装備だったけど」

「面白れぇ、喧嘩売ってんのかてめぇ!」

「そういうワケでも無いよ、ただの本心」

「なんだゴラ、ぶち殺されてぇのかおっさん!」

 イヤ、無理だから。それよりも……。


「なぁところで、その鎧ってアダマンタイト?」

「だったら何だ? まさか鎧にビビったとかじゃねぇよな、おっさんよぉ!」

 そうか、アダマンタイトかー。


 アダマンタイトの鎧を素手で凹ましたら、ビビってこの面倒くさい状況終わってくれるかな?

 冒険者ギルドで絡まれる新人冒険者イベントとか、もうタイミングが遅すぎでいらないんだよねー。もう気分は一人前の冒険者だからさ。

 

 さて、この鎧の厚みを凹ますなら、力加減は……。


 よし、腹にワンパン入れちゃうぞー。


 ズボッ


 へ? ズボッて……え? 貫通しちゃった?

 なして? いくら手加減が下手とはいえ、貫通するほどの力は……あぁ! なんだよ! この鎧メッキじゃんよ!

 アダマンタイトでメッキした鉄の鎧とか……こんなんアリかよー。


 上半身がぐにゃりと倒れてくる……なんか場面としてはどんどん凄惨に……。

 冒険者ギルドでコレは、問題になっちゃうかなー、せっかくFランクに上がったばっかしなのに、このままでは降格か除籍になりかねん。

 どうしよう、これはさすがに……そうか! 回復しちゃえばいいじゃん!

 そうだよ、回復して誤魔化せばいいんだよ!


 よし、幸いやらかしたけども、動揺はまだ顔に出してない!

 これは予定通りな風で、誤魔化そう!

 まずは腕を抜いてっと。


 ズボッ


 服が血まみれだよ……まったく、メッキの鎧なんか着やがって……。

『回復』っと。

 さすが俺の魔法、すぐ治った。

 気付けばみんなこっち見てるなー。えーと、な、何か言った方がいいかな……。


「おい坊や、でかい口叩くんならもう少し実力を付けてからにしとけ。その鎧みたいなメッキじゃなく、本物の実力ってヤツをな」


 よし、決まったな……決まったよね? 自分で何言ってんだ俺? と思わないコトも無いけど……。

 なんかギャラリーが静かすぎて不安だわー。

 ……逃げるか。


 その前にやらかした痕跡を消して……

『キレイになれ』

 おっ、服についた血もキレイになった。

 そうだ、逃げる前に換金したお金受け取らないと……。


 カウンターでお金受け取って外へ。

 まだギャラリーが静かだなー……謝っておいたほうがいいかな?


「悪い、また騒がせた」

 さぁ、トンズラだー。


 …………


 そんなこんなで次の日から俺とドラ吉は、何故か冒険者たちから要注意人物として認識されるコトとなってしまっていたのであった。

 無害なおっさんとペットなのに……。


 げせぬ……。

リアルおっさんデビューしてますが、何か?

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